若々しく。(こたつにて)

一階堂 洋


 あたしはおばあちゃんと二人で暮らしている。おばあちゃんといっても、肉体の年齢はたぶんそんなに変わらないと思う。お父さんとお母さんは一応生きているけれど、別居中だ。危ないらしい。お酒が悪いらしい。あたしはすごく嫌だけど、おばあちゃんと一緒に暮らせるのはとても嬉しい。中学生にして、おばあちゃんとの生活の楽しさを知ったあたし、賢い。

「おばあちゃん! ”正直な障子”ってどうかな!?」
「いいんじゃないの? でも昨日の”卑猥なハワイ”の方が好きだねぇ」
 おばあちゃんの歳はよく知らない。聞いても、なんか気が付くとごまかされてしまう。あたしたちはこたつ――なんと、掘りごたつ――に足を突っ込んで、二人でテレビを見ながら話している。あたしもおばあちゃんも小柄だし、掘りごたつは横に長いから、隣り合わせに座っている。テレビは消音にしてある。アフレコするのだ。
「『ちょ、これほんまやばいっすわ、めちゃ、もう、なんていうかすごいっすわ、マジですよ!』」
 あたしは有名スイーツ店のパフェ――あたしたちの設定上では五丁目の中山さんの作った『ミトロゲルのパーシチョ』――を食べる芸人の口の動きに合わせてそんなことを言う。
「『抽象度の高い議論か!』」
 おばあちゃんのツッコミは今日もキレキレだ。だって、おばあちゃんは若いから。あたしは中学生にしてもう平均したら四十歳くらい。おばあちゃんは平均したらたぶん五十歳くらい。平均したらね。なんで平均って言葉をやたら使うって? 頭が良さそうに見えるからにきまっている。平均してね。

「おばあちゃん、結局、おばあちゃんの生まれたのって何年?」
「何年、何年、難燃性の布」
「なるほど……深いね……」
 こういう風に、いつもごまかされてしまう。私はこたつの上においてあるクエン酸槽からみかんをあげて、希重曹液につけた。おばあちゃんが「補充しないとお前の目薬全部クエン酸に変えてやる」と呟いたので、これまたこたつの上においてあったみかんの皮を剥いてクエン酸槽につけた。まるでネズミを水につけた時、口から空気の泡を吐くみたいにみかんもぽつぽつ泡を吐きながら沈んでいった。

「あ、この生放送面白そう」
 紺色をした制服のスカートをこたつの中で脱ぎながらあたしは言って、テレビを見る。白髪混じりの頭頂部が少しうすい男性と、真っ黒なスポーツ刈りの青年が路地を歩くという、ただそれだけのテレビだが、セリフの箇所が多くて好きなのだ。スカートを脱ぎ終わった。こたつの中は暑いのだ。温度を低くしろ? 君が入る時だけ、サウナの温度を二十九度に設定してあげよう。
「さぁて、私はこの黒髪の子をやるかねぇ」「じゃ、あたしは白髪さんね」
 と言った瞬間、黒髪の子がうっかり路地に生えていた草を踏んでしまって、すぐに画面はブラックアウトした。残念。あたしは大きくため息をついて、なんでだろねー、とぼやいた。おばあちゃんは、「もったいないねぇ、めんこいぼっちゃんだったのに」と言った。

「あの人達って有名な親子芸人だったよねー」
「うん、おとうさんの方が先に消えるとは意外だったねぇ」
「それにしてもあの二人は似てないよ、もっと何とかならなかったのかなぁ」
「そうかねぇ、私にしてみりゃ、みんなそれぞれ引き継いでいるもんさ」
 ふーん、とあたしは呟いて、パンツを脱いだ。とりあえず困ったら脱げ、学校の先生がよく言っていた。よくあたしたちを困らせる先生で、たいていいつもデジカメを持っていた変な先生だった。変すぎて警察と仲良くなりすぎてしまったらしい。変だね。
 それにしても、面白い話。あたしも、おばあちゃんも、よくよく考えればどっちもお父さんとかお母さんの部分があるのだ。なんだかすごく感動する。テレビはブラックアウトから復帰して、『草木も生きています。大切にしましょう』と言うテロップを流すだけになってしまって、すごくつまらない。

 あたしは暇すぎておばあちゃんに訊いてみた。
「ねー、おばあちゃんって何パーセントおかあさんなの?」
「七十くらいかねぇ」
「あたしって何パーセントおとうさんなの?」
「六十くらいかねぇ」
 ふーん、とあたしは言って、みかんを食べた。すごく美味しかった。あたしは肝臓がアルコール性の病気なので、なんかあんまり塩っぽいものを食べられないから、こういう酸っぱいものを美味しいを思わないといけない。おばあちゃんも昔は肝臓とか色々悪くしちゃったみたいだけど、お母さんがいたから大丈夫だった。お母さん、凄い。だって今でも病院のベッドでお父さんと一緒にぺちゃんこになったお腹を並べてケーブルでぐるぐるにされても我慢しているんだもの。あたしはまた訊いた。
「おとうさんとおかあさんは生きているの?」
「植物も生きているんやねぇ」

若々しく。(こたつにて)

若々しく。(こたつにて)

おばあちゃんと話すけれどなんかちょっと様子がおかしいなぁという話。

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-08-09

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