あの窓を開けたら
窓を開けた。
暗闇、アルタイル、向かいの窓、縦長に伸びる自分の影。
僕はそっと息を吸い、吐く。
大きく息を、吸う。
ひっそりと、深海魚が海の底で死ぬようにひっそりと、息を吐く。
静かに流れる時間、私と窓の裏側で照らされ動き出す人々の時間。排気ガスの匂い。
あの日からどれだけの時間が経ったのだろうか、どれだけの時間が経ち、どれだけの命が失われ、どれだけ僕と君との距離が離れて行ったのだろうか。
静かに生まれて静かに死ぬ、幾度もの朝と夜を経験し、この宇宙を構成している原子の歯車の一つ。
今日も酸素を吸い、二酸化炭素を吐き出す。
ボロボロのスニーカー、汚れたアルミサッシ、枯れた排水溝。
朝が来た。僕はうるさく鳴く目覚まし時計を左の手のひらで止め、起き上がる。
今日もまた歯車の一つとして、いづれ死にゆく者たちの中の一人として、今日も朝を迎える。
手短に作ったトーストと目玉焼きと少しのカットされたパインを貪り、私は一息つく。
今は僕が君の裏側、朝を動かす一員となり、また夜を待つ。排気ガスと濡れた草の匂い。
あの窓を開けたら