悪魔の旋律

2006年に部活動で書いた物語をリメイク。
血の描写などがありますが、過激ではありません。
警戒して青年向きにしておりますが、ほぼ全年齢対象です。

役所:能力診断

3人の子供がそろって区役所を訪れた。
「こんにちは。魔法認定課へようこそ。本日は能力診断でよろしいでしょうか」
役員の女性が3人に視線を合わせ、笑顔で迎えいれた。

この世界では5歳以上になると役所の魔法認定課に行き、能力診断を受けることが義務付けられている。
手続きはシンプルであり、役所に備え付けられている能力診断の水晶玉に手を触れるだけ。
魔法認定課の役員が水晶玉に浮かび上がる文字と数値を読解し、登録する。

まず初めに触れたのは3人の中で唯一の女の子だった。その瞳は期待と不安、好奇心で輝いていた。
水晶玉に浮かび上がった文字と数値は『At2』『De3』『Ai5』。
「アタッカー数値2、ディフェンダー数値2、エイダ―数値6。あなたはエイダ―向きの素質ね」
この世界に存在する魔法の能力は全部で4種類。
攻撃型魔法を得意とするアタッカー(At)、
守備型魔法を得意とするディフェンダー(De)、
補助型魔法を得意とするエイダ―(Ai)、
そして、治癒型魔法のキュアー(Cu)である。

少女は喜びの笑みを見せ、次に子供に交代した。
2番手は薄茶髪の少年。
無邪気に笑う顔はまるで花が咲いたようだ。
薄茶髪の少年が水晶玉に手をのせると『At9』『De』の文字と数値が浮かび上がった。
「あれ?俺、足して十にならないぞ」
水晶玉に現れる数値は一般的に合計が十になるように浮かび上がる。
数値の大小は能力の割合を表し、文字の大小は最大能力値予想を表すからだ。
役員の女性は動揺することなく、少年の頭を撫でた。
「あなたの素質はほぼアタッカーなの。ディフェンダーもすこーしあるみたいなんだけど…この文字の大きさだと使うのは難しいかもね」
薄茶髪の少年が水晶玉を覗くと、『At』の文字ばかりが水晶玉に広がり、『De』の文字は今にも消え失せてしまいそうだ。
少女のように能力が3方向に分かれている場合、3つの能力を同時に使うことも可能になる。
少年には『Ai』の文字が浮かび上がらなかったため、エイダ―の魔法を使うことは一生できない。
「でもこれだけ大きなアタッカーの文字はなかなか見ないわ。将来は大物ね」
役員の女性の言葉に薄茶髪の少年は満足そうに頷いた。

最後は黒髪の少年。
全体的に短い髪だが、両耳の前だけはあごのラインまで伸びている。
黒味の少年が水晶玉に触れると、そこには『Cu』の文字が浮かび上がった。
その文字は水晶玉いっぱいに広がっていた。
「あなたはキュアー。大きな文字…きっとすごいキュアーになるわ」
キュアーは他の能力と異なり、一般的に他の能力と共存することはない。
キュアーの能力を持つ者は一生キュアーのまま。

3人はそれぞれの結果に満足し、水晶玉から離れた。役所の女性は3人の前にペンと書類を出した。
「では最後に質問です。魔法の能力を消し去り、拒否者を選択することもできますが、どうしますか?」
人口の31%がアタッカー、攻撃型魔法使い。
29%がディフェンダー、守備型魔法使い。
20%がエイダー、補助型魔法使い。
約5%がキュアー、治療型魔法使い。
そして、15%が拒否者。
魔法能力の素質がありながらそれを持つことを拒んだ者。
「特にキュアーの君だけど…拒否者の選択もありだと思うわ」
キュアーの能力は独立し、他の力を一切持てない上、能力の大小は変動しない。
他の能力は努力次第で割合も精度もあげることができる。
また『治療型』という事で、妙な使命感を周囲から与えられる。
生まれたときに決まった数値をいかに開花させられるか。
キュアーは希少価値が高いが、未来への疲労感から拒否者になる者も少なくない。
役員の女性もキュアーの能力があったが、身に余る能力だと判断し、拒否者となった。

黒髪の少年は首を横に振った。
「俺はいい。キュアーになりたい。…二人は?」
黒髪の少年に促され、二人も首を横に振った。
「俺はすげぇアタッカーになるよ!」
「じゃあ、私は二人を支えるエイダ―になるね。あなたの代わりにディフェンダーの力も強くしようかな」
3人は将来の自分たちを思い描きながら、書類にサインをした。
「はい。これで3人の能力診断は完了です。立派な魔法使いになって下さいね」

洞窟:遭遇

能力診断から8年後、3人は十四歳となった。
「ほら、足元に気をつけろ」
3人は湖の近くを歩いていた。
先頭を歩くのは黒髪の少年、尊(ミコト)。
相変わらず両耳の前だけ伸びている髪型、視力が落ちたため眼鏡をかけるようになった。
能力診断からすぐにキュアーとしての素質を開花させ、小さな傷なら治せる治癒魔法を身に着けた。
勉学のために町医者のもとに通っている。
今日は3人で町医者から頼まれた薬草を取りに来た。

「わあ。湖きれい。晴れてよかったね」
後ろに続くのは、エイダ―と診断された少女、流季(ルキ)。
能力診断から1年ほどで魔法の能力が開花した。
主にエイダ―の力を伸ばそうとしている。
エイダ―は想像力が豊かになると魔法の力が伸びることが証明されているので、流季は空想家になりつつある。

「うん、そうだね。流季が喜んでくれて嬉しいよ」
流季の隣で薄茶髪の少年が満開の笑みを浮かべた。
少年は咲弥(ショウヤ)。
数か月に魔法の能力が開花した。
アタッカーは魔力が高まると攻撃の幅が広がるため、魔法特訓の日々を送っている。

流季と咲弥の楽しげな雰囲気に尊はため息をついた。
「今日は薬草を取りに行くのが目的だ。ピクニックじゃないぞ」
「はーい。尊センセ」
「しめあげるぞ、咲弥」
キュアーは精神力が高いほど治癒の精度がよくなる。
キュアーの力を伸ばそうと様々な努力をする尊は咲弥よりも大人びた性格になりつつあった。

湖のそばやその周りで3人は目的の薬草を探した。
普段この湖のそばに人が訪れることはない。
住んでいる町から離れているのも一つの理由だが、特殊な薬草以外にメリットがないということが大きな理由である。
尊が持ってきた袋が満たされる頃、雨が降り始めた。
「わ。雨だ。どうしようか」
咲弥が尊に聞くと、尊は空を見上げた。
雲の流れは速く、遠くの方では青空が見えた。
「夕立だな。すぐやむからその辺の木で雨宿りするか。…どうせ遊びたいんだろ」
尊には流季と咲弥がただ薬草を取りについてきたわけではないことを見抜いていた。
「みて。あそこに洞窟があるよ」
流季が指さした方には、暗い洞窟があった。
湖とは数メートルしか離れていないため、3人はすぐさま洞窟に向かった。

洞窟の中は天井が高く、奥が深かった。
雨雲に隠された日差しは洞窟の奥までは届かない。
洞窟の中は外よりも涼しく、奥からは時折水が滴る音が聞こえてきた。
風が雨を洞窟に運ぶので、3人は洞窟の奥に進んだ。
洞窟の奥は予想よりも寒く、雨に濡れた3人は身を震わせた。
「よっと」
咲弥が右手を軽く振ると、右手に火の玉が現れた。
しかし火の玉は小さく、灯りとしても温まるにしても心もとない。
流季が咲弥のそばで両手を組み、目を閉じると、火の玉は大きくなった。
流季のエイダ―の力が咲弥のアタッカーの力を補助した。
咲弥と流季が魔法の合作に喜んでいると、尊が真剣な顔つきで洞窟の奥を見据えた。
二人をかばうように尊は一歩奥に足を進めた。
「こんにちは。僕も仲間にいれてくれるかい?」
洞窟の奥から現れたのは、黒いマントを羽織った青年だった。
3人よりもいくつか年上であろう。
青年は微笑み、流季と咲弥は青年を受け入れようと口を開きかけた。
しかし、尊だけが首を横に振った。
「あんた…、何者だ」
尊は青年を強い瞳で睨みつけた。
青年はその笑みを崩しもせず、小さく首を横に振った。
「おや、警戒されたかな…。僕も雨宿りしていただけだよ」
「違う。あんた、奥で何してたんだよ」
尊の攻撃的な態度に流季は尊の腕を掴んだ。
「尊、初対面の人に失礼だよ。仲良くしなくちゃって先生も」
流季の言葉を遮るように尊が両手を広げた。

「流季! 咲弥! 外に走れ! 早くっ!」

突然声を荒げた尊に一瞬二人は戸惑ったものの、すぐさまその言葉の通りに洞窟の外へ向かって走った。
しかし、外に出ることはできなかった。
入り口を見えない何かが塞いでいたのだ。
ガラスのような壁に咲弥は両手をついた。
「ふふふ」
青年の低く不気味な笑い声が洞窟に響く。
「逃がさないよ。珍しくココに人が来たんだ」
咲弥は攻撃魔法でガラスの壁を壊そうとしたが、傷一つつかない。
二人を追ってきた尊も洞窟の入り口に追い込まれた。
青年はゆっくりと歩き、尊と咲弥が流季を守るように青年と対峙する。
「あんた、奥で何をしていたんだ」
何度目かの質問を再び尊は繰り返した。
青年は呆れたように、けれどどこか嬉しそうな顔をしていた。
「どうしても気になるみたいだね、キュアー」
青年の口角が上がる。細めた瞳に笑みはない。
「どうしてアイツ、尊がキュアーだって…」
「…あんたから嫌な感じがするんだ。答えろ」
尊の言葉に青年はさらに口角を釣り上げた。
黒いマントの中に手を入れ、懐からソレを取りだし、3人に見せつけた。
「なるほど…。別に変なことはしてないよ。食事をしていたんだ」
それは、人間の腕だった。
すぐさま尊は流季の顔を手で覆ったが、すでにそれは視界に入っていた。
断面から血が滴り落ちる。
まだ新鮮そうな人間の腕。
青年は側面からかじりつくと、音を立てながら食事を楽しんでいた。
流季は耳をふさいでその場にしゃがみ込み、咲弥はひたすらに壁を攻撃しつづけ、尊は青年の様子を目をそらすことなく見ていた。
しばらくして骨だけが残り、青年はそれを投げ捨てた。軽い音で骨が転がっていく。
口の周りを赤く染めた青年が微笑んで3人を見た。

「いやあ、やっぱり男の肉は美味しくないね」

その言葉の意味を尊と咲弥はすぐに理解し、すぐに一歩前に出た。
流季を守るために。
青年は満足そうに頷いた後、咲弥を上から下まで眺めた。
「へえ。君はアタッカーか。まだ弱いね」
「うるせえ! 俺は最近能力が目覚めたんだよ!」
咲弥が歯を食いしばり、自分の持てる限りの魔力を右手に集めた。
青年は相変わらず笑っている。
「うんうん。そうかそうか。それはよかった。君は将来大物になりそうだ。今のうちに殺せるのは都合がいいな。ご飯もセットだし」
咲弥が攻撃の拳をあげたとき、青年が一度右足で地面を踏んだ。
すると、咲弥の足元に剣が出現した。
見た目は何の変哲もない刃とグリップのついた剣。
「特に魔法もかかっていないな」
尊はそういうと剣を拾い上げ、咲弥に手渡した。
「それで僕を一度でも傷つけられたら見逃してあげるよ」
青年は両手を広げ、楽しげに笑みを浮かべた。
「さあ、おいで。アタッカー」
余裕。まるでそう顔に書いてあるようだ
。挑発された咲弥は顔を赤くし、歯をかみしめた。
すると、尊が咲弥の背中を強めに叩いた。
「いてぇよ! なにすんだ!」
「冷静になれ。相手は手練れの魔法使いのようだ。うまくやれ」
尊の言葉に咲弥は言葉を詰まらせた後、長く息を吐いた。
空気に血の匂いが混じる。
思わず吐きそうになるのを堪えると、咲弥は右手にためていた魔力を剣に通わせた。剣に火花が散る。
「いいセンスだ。おいで、遊んであげるよ」
咲弥が青年に斬りかかる。青年は笑みを浮かべたまま動こうとしない。
しかし、振り下ろした剣は青年に届かなかった。
見えない防御璧が青年の前にあり、剣と防御璧が擦れ、激しい音を立てる。
途端、咲弥の右横腹を魔法でできた大きな拳が殴り、咲弥は壁に打ち付けられた。
「咲弥!」
尊は壁にもたれかかり動かない咲弥のもとへ駆け寄った。
神経を集中させ、両手を咲弥にかざす。暖かな光が咲弥を包み、傷を癒した。
一瞬気絶していた咲弥もすぐに意識を取り戻した。
「ありがとう、尊」
「こんなときまで笑うな。あいつディフェンダーかと思ったらアタッカーの能力も強いみたいだ…」
「剣も生み出したし…エイダ―もあんのかな」
咲弥は尊に支えられながら立ち上がった。まだ尊の力では大きな傷を完治させることはできない。
「うーん。やっぱりキュアーがいると面倒だな」
青年は両手を組んで何度か頷き、学習したようなそぶりを見せた。
そしてすぐに咲弥と尊の視界から消えた。
二人が周りを見回すと、尊の足が宙に浮いた。
尊の背後を取った青年が尊の頭を掴んで持ち上げたからだ。
抵抗しようと尊が青年の腕を掴んだ瞬間、バチッと音がした。
「ア、―――――――――――――――――ッ!」
尊の言葉にならない悲鳴が洞窟に響いた。
感電し、意識を失った尊を青年は洞窟の入り口に向かって投げ捨てた。
咲弥はすぐさま尊に駆け寄った。
流季も慌てて尊に近寄り、脈をとる。命の音がした。
流季は涙をこぼして安堵の息を吐いた。
「てめぇ……」
咲弥は音がするほど歯をかみしめた。
怒りに同調するように咲弥からコントロールしきれない魔力が湧き出していた。
洞窟の壁が崩れ始めた。先ほどまで傷一つつかなかった入り口のガラス壁にヒビが入る。
崩れた壁の一部が青年の頬をかすめた。血が流れる。
「お」
青年は頬を手で拭い、血を確かめた。そして満足そうに笑う。
「素晴らしいね、君も。逢うのがもっと遅ければもっと楽しめたのに」
青年は頬に手を当て、その傷を治した。

咲弥が身構えると、流季が咲弥の背中に触れた。
温かく柔らかな熱が咲弥の体に広がっていった。
波が引くように暴走していた咲弥の魔力が落ち着きを取り戻した。
「だめだよ。洞窟壊しちゃ」
「流季…ありがとう」
咲弥は両手を頬を叩き、気合を入れなおした。
尊も流季も守らなくてはいけない、その気持ちとは裏腹に咲弥の両足が地面についた。
「あれ…?」
身体の自由がきかない。
肩が熱く、体の中で自身の魔力が暴れているのを咲弥は感じた。
視界の端で流季が一歩前に出た。
なんとか顔をあげて見えた表情は困った表情で笑っていた。
(危険だから下がってろ…)
そう言いたいのに声が出ない。
行動が制限されているのは明らかだった。
流季の足首を意識が戻った尊が体を引きずり掴んだ。
その目は咲弥から見ても「行くな」と訴えているのがわかった。
流季は小さく首を横に振った。

「ごめんね。尊、咲弥」

その瞬間、咲弥は背中から熱がはじけ飛ぶ感覚に襲われた。
羽音、真っ白な翼が視界に入る。
咲弥の意思とは関係なく、身体は尊を抱き上げ、ヒビの入ったガラス壁をたたき割った。
そして、純白の翼は洞窟の外へと二人を運んで行った。
焦ったのは尊の方だった。
「おい…咲弥…何やってんだ…」
「お、俺もわかんねぇよ…! 体が勝手に…っ!!」
洞窟に残った流季の笑顔が見えた。
彼女の体が青年の氷の刃に貫かれるところを。

「るきいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!」

悲しく空しく咲弥の叫び声が湖に広がった。

町:6つ目のタイプ

流季の魔法は咲弥の魔力を抑えると共に純白の羽を咲弥に生やした。
これはエイダ―の力。
だが、咲弥の行動を支配したのは流季の中で活動するアタッカーの力。
普段エイダーとしてしか活動しないので、尊も咲弥も流季に
アタッカーの力が眠っているのを忘れていたのだった。
彼女は身を呈して、親友達を助けたのだ。
二人は彼女を特別視していた。少なくとも親友以上の女の子として。

純白の翼は二人を尊が通う町医者のもとに届けた。
町医者が出迎えると、二人は憔悴しきっていた。
互いに目を合わせず黙り込み、雨に濡れた体は小さく見えた。
「尊も咲弥くんも中に入るんだ。話はそれから聞く」
咲弥の背中から翼が消え、咲弥は尊を抱えて家の中に入った。

尊は意識があったが、体の自由がきかないためソファーに寝かされた。
町医者は二人に着替えとタオルを出した。
咲弥は自分で着替えができたが、尊は町医者が着替えさせた。
町医者はキュアーであるが、能力が低いため尊を完全に回復させることができない。
今は尊自身の力で回復する他ない。
咲弥が町医者に洞窟であったことをすべては話すと、町医者は顔色を変えた。
「お前ら、とんでもないやつに出会ったな」
「…とんでもない奴…」
町医者は尊を髪を撫でた。目だけが動く。
「ああ。人口のほんのわずか…数値にすると0.01%ぐらいか。完璧型魔法使いがいる」
「完璧…」
咲弥はハッとした。
黒マントの青年との戦いを思い出した。
防御璧はディフェンダー、殴ってきた大きな手はアタッカー、剣の生成はエイダ―、そして
「あいつ、落ちてきた壁のかけらでできた傷を治してた」
一瞬であったが、自身の傷を治したのはキュアーの力。
「キュアーは他のタイプの魔法を一切使うことが出来ない。けれど完璧型魔法使い…ディマリシャーは違う」
アタッカー、ディフェンダー、エイダ―、キュアー、全ての魔法を使うことが出来る完璧型魔法使い。

町医者は咲弥の肩にかかったタオルを取ると、咲弥の髪をタオルで拭く。
「さて、咲弥くん。各魔法使いが何を磨くことで魔法の精度や能力があがるか答えなさい」
「え」
戸惑った咲弥だが、指折り数えながら答えた。
「アタッカーは魔力、ディフェンダーは体力、エイダ―は想像力で、キュアーは精神力」
「正解。じゃあディマリシャ-はなんだと思う?」
町医者は大方咲弥の髪を拭き終わると、タオルを洗濯籠に投げ入れた。
咲弥は腕を組んで首を傾げる。
「それら全部?」
「たぶんそれもあるだろう。正直なところまだ研究が進んでいなくてわかっていない」
もともと数が少なく、人前に現れることもないディマリシャ-。
「ただ仮説として『逸脱さ』というのがある」
町医者の言葉に咲弥はさらに首を傾げた。
咲弥はあまり勉強が得意ではないため、難しい言葉を使われると理解が出来ない。
「なるほど。つまり」
補足をつけようとしたのは尊だった。
ゆっくりとその体を起こし、ソファーに座る。
自身の体を抱くように腕を組む。治癒魔法を自分に向け、回復する。
「人の肉と食べる…という行為をしていたあいつは激しく逸脱している。強いディマリシャ-ですね」
「そうだ。そもそもディマリシャ-自体よくわからない。後天的魔法使いとも言われているし」
尊と町医者が難しいことを話し始めようとしたことを咲弥は感じとり、遮るように机をたたいた。
その瞳は怒りと闘志に満ち溢れていた。
「俺はゆるさねぇぞ! あんなやつ…っ!!」
咲弥は歯を食いしばり、ギリッと音を立てる。
悔しさと悲しさで手が震えた。
尊は小さくため息をつくと、咲弥の手に手を重ねた。
「ああ。放置するわけにはいかない。だが、今のままの俺たちでは返り討ちに合う」
咲弥は尊の手を力強く握り返した。
「強くなろう! 絶対に…リベンジだ!」

洞窟:決戦

それから二人はたった1年半で自身の魔法使いとしての能力を最大限に開花させた。
咲弥は世界に名を轟かせ、『天才最強アタッカー』と呼ばれるようになった。
尊は神の領域に達していると称賛され、『ゴッドキュアー』と呼ばれるようになった。
互いに支え合い、励まし合い、二人で上り詰めたそれぞれの頂。
この1年半、町医者が役所に連絡を取り、湖での捜索と黒マントの青年討伐を依頼したが、青年が見つかることはなかった。

尊と咲弥は意を決して、湖のそばの洞窟に来ていた。
リベンジである。
肌寒い洞窟、滑らないように慎重に奥へ進んでいく。
「どう、尊…いる?」
「…いるな。だけどまた奥の方だ」
尊は指を口にあて、考え込んだ。
役所の魔法使いが1年半の間見つけられなかった。
もしかしたら見つけられないかもしれないと尊は予想していた。
けれど確かに感じる気配。
「…罠か」
「尊…」
咲弥が尊の服の裾を掴んだ。
その手は震えており、顔も若干青い。
尊は荒っぽく咲弥の手を握りしめた。
「ったく。世界最強が聞いて呆れる」
「ご、ごめん…ちょっと思い出してさ…」
戦いに負けたこと、大切な友達を守れなかったこと、全てをこの洞窟は鮮明によみがえらせる。
尊は咲弥の頭を髪型が乱れるほどに撫でた。
「無理もない。だが、そのトラウマを断ち切るために来たんだ」
咲弥は大きく頷き、尊の手を握った。
二人はゆっくりと奥に進んだ。

洞窟の中をしばらく進んでいくと、尊は足を止めた。
つられて咲弥も足をとめ、思わず鼻をつまむ。
強烈な血の匂いがたちこめていた。
「あれ? 君らはこの前の…」
岩の陰から声の主、黒マントの青年が顔を出した。
食事をしていたのか、顔は血で濡れていた。
今すぐにでも殴りかかりたい衝動を咲弥は堪えた、
青年は楽しそうな顔立ちで二人に近寄った。
まるで友達が遊びに来て嬉しそうにする子供のような表情で。
「あれれ?」
青年は二人を上から下まで見ると、首を傾げた。
「君ら、この前と感じ変わってない? 魔法も強くなったね」
楽しげに笑う青年と対照的に咲弥は青年をにらみつけた。
「1年半経ってるんだ、あの日から」
「あー、そんなに経つんだ。つい先日だと思ったんだけどな」
青年は黒マントで口元を拭い、二人に向き直った。
「で、なんか用?」
笑顔と共に尊と咲弥を襲う青年の魔力の圧迫。
1年半前にはわからなかった青年の強さ。
だが、尊も咲弥も怯むことはない。
咲弥は大きく深呼吸した。
冷たい空気と生臭い匂いの混ざる中、澄んだ空気だけを考えた。
「俺らはお前を倒す!」
咲弥の叫びが洞窟に響く。
青年は不気味に口角をあげ、両手を広げた。
あの時と同じように。
「おいで。遊んであげるよ」

咲弥が前にでて、尊が後ろに下がる。
二人の魔法を生かしたフォーメーションとして考えてきた作戦。
尊が右手を振り上げて、ぐるぐると手首を回した。
すると、さっきまで生臭かった洞窟内が、綺麗になっていった。
空気を浄化することも治癒魔法の応用としてできるようになった。
咲弥が両手を交叉させると、呼応するように洞窟の壁から無数の槍が突出し、青年を襲う。
「おー」
防御璧で守られた青年は関心するように槍をみていた。
槍と共に防御璧が崩れる音が響く。
「強くなったね、アタッカー」
「うるせぇ!」
咲弥が地面に掌を叩きつけると、青年を拘束するように木の蔓がまとわりついた。
拘束したのを見計らい、咲弥は魔法のエネルギー弾を何十発も青年に撃ちこんだ。
砂埃が立ち込める。
砂埃が晴れ、その場には木の蔓の残骸が残っているだけで、青年の姿はなかった。
咲弥が見回していると、ふいに背中に痛みを感じ、前に倒れ込んだ。
「咲弥」
尊は咲弥に近寄り、背を向けたまま手だけを伸ばして治癒をした。
咲弥は立ち上がり、尊と背中合わせになる。
「あいつ闇の中に溶け込んだな。ディフェンダーは厄介だ…」
「どうする? 見えなきゃ攻撃できないよ」
尊は少し見回すと、咲弥の耳元に顔を近づけた。
「お前から見て左斜め8時の方角にエネルギー弾」
咲弥は言われるままにエネルギー弾を撃った。
エネルギー弾が当たったのか黒マントの青年は腕をさすりながら姿を現した。
「すげえ! 見えてたの!? さすが神!」
「気配を辿っただけだ。くるぞ」
青年は満足げな顔を浮かべ2人に拍手した。
「いやあ、凄いよ。成長したねえ、キュアーもアタッターも…。でも2対1じゃフェアじゃないよねえ」
そう言って青年が手を叩くと、岩陰から人が1人現れた。
その姿に尊と咲弥は目を見開いた。
逢いたくて、けれどもう二度と逢えないと思った相手。
「流季…」
咲弥が思わず声を漏らした。

洞窟:再会

流季の姿は一年半前と同じだった。
腰まで伸びる長い色素の薄い髪、透き通るような肌、薄水色のワンピース。
ただその瞳に生気はなく、まるで人形のようだ。
そして、首に収まった束縛を示す黒い首輪。
「僕の食料はね、何でも命令を聞く奴隷に出来るんだ。この子もそうだよ。魂ごと僕の言いなりさ」
青年は流季を抱き寄せ、その頬に舌を這わせた。
「いやね、食べるときはまず肉体と魂を断ち切るんだ。それからじゃないとね」
流季は嫌がるでもなく、ただ焦点が定まらないまま遠くを見ている。
「幻術の一種だろ!ディフェンダーが逃走用に使うのをみたことあるぞ!」
「バカ。あれは本物の流季だ。傷つけるなよ」
咲弥の歯ぎしりの音が響く。
青年は口角をあげ、流季の背中を押して前に出させた。
流季は小さく首を横に振ったが、その両手を器をつくるように前にだし、手の中で小さな花が一輪咲いた。
「いいこだ。さあ、僕を楽しませてね」
青年がその花に触れると、花の薄い赤色は黒ずんでいった。
流季の手を離れ、瞬く間に成長し、高さは洞窟の天井まで届いた。
花弁には牙をもち、今にも襲い掛からんと歯を鳴らしている。
大きな人食い植物の完成だった。
植物は針のような蔓を伸ばし、咲弥を襲ってきた。
「くそっ」
咲弥は右手の周りに魔力をため、エネルギーの歯を形成し、蔓を切り落とした。
「いああああああああああああああああああああっ!!!」
流季の叫び声。
左腕を押えてよろめいている。
青年は口角を上げ歪んだ笑顔を見せると、流季を抱き寄せ傷を癒した。
流季をしっかりと立たせる。
「あー、言い忘れてたね。彼女の魔法を攻撃すると彼女が痛むよ。困るなあ、僕の食材を傷つけられると」
「だったらこうすりゃいいだろ!」
咲弥は壁を蹴るように走り、植物の間をすり抜けると青年の前に立った。
青年は目を見開いて驚きの表情を見せた。
「もらった!」
咲弥が右手を振り下ろそうとすると、青年をかばうように流季が間に入った。
咲弥は思わず手をとめ、流季に傷がつくことはなかった。
植物の蔓が咲弥の腹部に絡みつき、壁に叩きつけるように咲弥を青年と流季から引きはがした。
尊が咲弥に駆け寄り、傷を治す。
「くそっ! これじゃ手がだせねぇ!」
「うーん。今回は精神的に責めてくるな、あいつ。俺らの弱点を理解したうえでこの上ない効果的な戦法だ」
「感心してる場合か! どうする?」
憤る咲弥とは対照的に尊は小さくため息をはいた。
尊が一歩前に出た。
「咲弥、お前少しはディフェンダーの力あるんだよな」
「え?あ、ああ。修行中に出会った…前に話したっけ? ケントュスってやつに教えてもらったから簡単なのなら」
咲弥はアタッカーの素質が全面にでているが、ディフェンダーの力は備わっている。
修行中にディフェンダーとして力のある魔法使いと出会い、簡単なものならば扱えるようになっていた。
「じゃあ、頼んだ」
尊はそういうと、植物ごしに青年と対峙した。
尊は洞窟を見回す。
「あんた、今までここでどれだけ人を殺してきた?」
「あー……覚えてないけど、いっぱあい」
青年は舌なめずりし、恍惚の表情を浮かべている。
「ああ、はやく君らを食べてデザートにこの娘も食べたいよ。不思議と食べると力も強くなるし、また僕は成長できるのかな」
青年はそういうと流季の背中を押して、戦うように命じた。
尊はゆっくりと大きく息を吐く。
すると、彼の黒髪が光だし、長く伸びた部分が広がる。
足元には光り輝く大きな魔法陣が出現した。
異変を感じた植物が蔓を伸ばして尊に狙いを定めるが、咲弥の防御璧が尊を守る。
魔法陣は洞窟の壁、天井を覆うように広がり、全体を囲みこむと、はじけて消えた。
しかし、何も起こらない。
尊は無表情のまま、咲弥の後ろに下がった。
咲弥は何度も瞬きし、首を傾げた。
青年は声高々に笑い声を響かせた。
「何もしないのかい、キュアー。拍子抜けだねえ」
「あとは暴れろ、咲弥」
尊の指示に咲弥は首を横に振った。
「おい、暴れろったって…向こうには流季が…っ!」
「じゃあ、流季がこっちに来ればいい」
「だから流季は黒マント野郎の奴隷で…奴隷…っ!」
尊は右手を流季の方に向かって差し出した。
「おいで、流季」
尊が手招きした。青年は鼻で笑う。
しかし、青年の視界の端で流季が尊と咲弥の方へ走りだした。
その瞬間、黒い首輪が音をたてて崩れ落ちた。
「尊!咲弥!」
尊は走ってきた流季を抱きとめた。
青年は驚きの表情を見せ、壁を殴りつけた。
「僕の人形だぞ! なぜっ!」
「あんた、俺が今なんて呼ばれてるか知らないだろ」
尊は腕の中で小さく震える流季の頭を優しく撫でた。
「ゴット・キュアーだ。呪いも精神操作も捕縛魔法も…生命の死以外すべて『異常状態』とみなして治せるんだよ」
青年の体から複数の光が飛び出し、尊の周りに集まった。
今まで青年の体内で捕縛されていた魂が尊の治癒魔法で解放された。
咲弥には満面の笑みを見せ、植物に向かい、一刀両断した。
「次はお前だ!黒マント野郎!」
「ちっ!」
咲弥と黒マントの青年、二人の攻撃魔法がぶつかり合い、火花を散らす。
尊は流季と複数の魂をつれて、洞窟の外へ避難した。

洞窟:決着

咲弥と青年の力はほぼ互角。
アタッカーとしては咲弥の方が上である。
決着がつくのが早いか、洞窟が崩れるのが早いか…。
「見違えたね、アタッカー。やはりあの時に殺しておくべきだった」
「あの時のことがなきゃこんなに強くならなかったよ。天才最強アタッカーなんかにな」
「そうか…。少し育てすぎたね」
青年が指を鳴らすと、地面から魔力で作られた黒い大蛇が出現した。
咲弥の体を締め上げる。
「ぐっ」
「アタッカーの力だけで負けるならエイダ―の力で補助すればいい。それに僕はディマリシャ-だ」
咲弥の体をさらに締め上げながら、青年は自身の体の傷を癒した。
咲弥は自身の体を帯電させ、大蛇を感電させようとした。
しかし、力が足りない。
すでに疲れが見え始めた咲弥とほぼ完治した青年。
「さあ、逝け」
大きな悲鳴が響いた。
大きな音を立てて、焦げた大蛇が崩れ落ちたのだ。
洞窟の入り口には尊と流季が立っていた。
「エイダ―とキュアーならこっちにもいる」
咲弥は着地し、尊と流季のそばに駆け寄った。
尊は咲弥の頭を荒っぽくつかみ、完治させた。
「流季、尊、わるいな」
「いいよ、平気。さあ、倒しちゃって! 加勢するよ」
咲弥は流季の補助により電力を上げられた。
大蛇を感電させ、倒すことができた。
流季が咲弥の背中に触れた。
あの時の同じように暖かな魔力が体に広がっていく。
羽音を立てて純白の翼が咲弥の背中に生える。
「大丈夫。今度は自由に動くよ。アタッカーの力もあげておいた」
「ありがとう、流季」
力を使いすぎたのか流季はよろめき、尊が体を支えた。
青年は下唇をかみしめた。
「さすがに分が悪いかな…」
再び闇の中に溶け込み、姿をくらませた。
咲弥は周りを見回したが、見つけられない。
尊のように繊細に気配をたどることもできない。
「バカ、集中しろ。考えろ」
尊の言葉にハッとした咲弥は身体を回転させた。
回転したことで抜けた羽が舞い、空気中を漂う。
「爆ぜろ!!」
咲弥の言葉と共に舞い散る羽が爆発した。
そのうちのいくつかが命中したのだろう、青年は姿を現した。
その隙を突くかのように咲弥は青年の顔を殴りつけた。
よろめいた青年を押し倒し、のど元にエネルギーで作った刃を突きつけた。
「終わりだ、黒マント野郎」
息を切らした青年は脱力し、手のひらを額に当てると小さく声を上げて笑った。
その表情はどこか諦めたように見えた。
「好きにしなよ」
大の字に寝そべり、青年は目を閉じた。

咲弥は尊に視線を送り、尊は頷くとゆっくりと近づいた。
「ふん。そう簡単に殺すか。お前には役所に送る。牢獄が待っているはずだ」
「甘いなあ、君。人の作った牢獄なんてすぐ逃げ出すよ?」
「俺も手伝ってお前レベルの牢獄を作った。…悪いが、向こうではお前は研究対象となるだろうな。他の処置はとれなかった」
ディマリシャ-は希少な魔法使い。
その力の元や能力などすべてが明らかにはなっていない。
今日、ここに来る前に尊は役所に寄ってきた。
自分たちがこれからすること、ディマリシャ-と戦うこと。
役所は「殺生はいけません、捕獲してください」と尊に言った。
「役所の言い方は気に入らなかったが、見張りもつけられてしまったしな」
洞窟の入り口を見ると、町医者が立っていた。
青年は声を上げて笑った。その目じりには涙がたまっていた。
「ほんと、甘いね、キュアー」
尊はポケットから一枚の紙を取り出した。
転移魔法が命令された紙、それを黒マントの青年に張り付けた。
咲弥が青年から離れると、青年はその場から消え去った。
牢獄に転送されたのだ。

こうして、咲弥と尊の戦いは終わった。

湖:これからのこと

「ね、本当に駄目なの?」
解放された数多の魂と共に咲弥と流季は湖で休憩を取っていた。
傷も治してもらい、元気いっぱいの咲弥は流季の手を掴み、駄々をこねていた。
「うん。死んじゃったわけだし、天国へいかないと」
「やだあああ! せっかく流季にまた会えたのにやだあああ!」
「駄々こねないの! 生き返ったりできないんだから!」
「こんなに触れられてるのに流季が死んでるわけないだろう!!」
聞き分けのない子供のように咲弥は駄々をこねた。
流季は困り果て、他の魂に視線を送ったが、首を横に振られた。
流季は自身の身に起こっていることを理解していた。
黒マントの青年は食す前に肉体と魂を分離させた。
「今は黒マントの人の魔法の影響で一時的に肉体と魂がつながってるけど、それももう…あと1分も持たない」
今周囲にいる魂たちと同じように体から切り離される。
咲弥も流季の言わんとすることはわかっていた。
「おい、咲弥。ちょっとこっちにこい」
洞窟から出てきた尊が咲弥を呼んだ。
「いやだ! 今は流季といたい!」
「いいから来い。お前ならどうにかできるから」
引きずるように尊が咲弥を連れて行こうとしたので、流季は魂たちを引き連れて天に上ろうとした。
「おい。お前ら、ちょっと待て。そう急ぐな。見せたいものがある」
尊の言葉に魂たちは足を止めた。
「お前らの中には助かるやつもいるかもしれないぞ」
そういって尊は咲弥をつれて洞窟の中に入って行った。

しばらくして、咲弥と尊が出てきた。
凍った大量の死体を抱えて。
死体を見るや否や魂たちは駆け寄った。
「やはりか」
青年は保存用に死体を凍らせておいたようだ。
食べるときになったら解凍する。
魂たちは嬉しそうに自身の体にすり寄った。
ここいる全員分の体が無事にあったようだ。
食べられる際は魂ごと食べられてしまうらしい。
けれど流季は浮かない表情を見せ、首を横に振る。
「でも尊…体があっても私たちは生き返れない…体と魂が切れてしまっているもの」
苦しそうに流季が言うと、咲弥は満面の笑みを見せて立てた人差し指を振った。
悪戯をたくらむ子供のような表情で尊を見る。
尊は柔らかな表情で咲弥の頭を撫でた。
「俺がなんて呼ばれているか知ってるか?」
尊が得意げに言うと、咲弥は傷つけないように体の解凍を始めた。
尊が両手をかざすと、足元に魔法陣が現れた。
暖かな光、柔らかな風を起こし、尊の黒髪がゆらゆらと揺れる。
湖に反射した光がまるで尊に後光を指すように輝いた。
魂たちも輝くように姿を消し、ピクリとその体を動かした。
「俺たち生き返ったぞ!!」
一人が叫び声をあげると、呼応するように湧き上がる歓声と共に尊の魔法陣が消えた。
「まあ厳密には死んでたわけじゃないしな。いろんな状態異常が重なっただけだから」
尊と咲弥に礼をのべると、体を取り戻した人たちは町医者に連れられそれぞれの帰るべき場所へと帰って行った。
湖には尊、咲弥、流季の3人だけ。

「じゃあ、俺らも帰ろうか」
咲弥が体を伸ばしたあと、歩き出した。
「ああ、帰るぞ」
それに続いて尊も歩き出す。
二人は立ち止まり、歩き出さないもう一人の親友を見る。
「……私も帰っていいの?」
咲弥と尊は顔を見合わせた後、咲弥は満面の笑みをみせ、尊は微笑んだ。
「当たり前だろ」
「流季は俺らの大切な親友なんだからな」
流季は涙を零しながら笑顔で二人の手を握った。






「一年半の努力でそれぞれの頂に辿り着いた天才アタッカーとゴッドキュアーは見事大切なものを取り戻しましたとさ、めでたしめでたし」

??:世界の管理者

金髪の男は一枚の鏡に映ったその様子を見ていた。
「洞窟に響くのはもう悪魔の旋律じゃないってことか」
部屋中には無数の鏡が設置されている。
咲弥たちが映っていた鏡には『魔法世界』と名札が添えられていた。
別の鏡には『東洋の島国』『殺伐とした科学世界』『剣と魔法の世界』など別の名が下がっている。
金髪の男は椅子に腰かけ、口をとがらせた。
「ディマリシャ-か…ちょっとあの世界にはバランスがわりぃよな…」
男はそういうと立ち上がり、『魔法世界』の鏡に手を突っ込んだ。
「ちょっと調整にいくかな」
そういって、男は鏡の中に身を落としていった。

悪魔の旋律

ご覧いただきありがとうございました。
2006年3月ぐらいに書き上げた物語をリメイクした作品です。
もともとはチャプター7までしかなく「悪魔の旋律 僕らの哀傷歌」というタイトルでした。
話の基本はそのままに構成や表現を少し変えました。
何かと魔法関係の説明が多い作品です。
お楽しみいただけたなら幸いです。
ありがとうございました。

2014年8月10日 公開

悪魔の旋律

魔法世界において人は6つのタイプに分類される。 攻撃のアタッカー、防御のディフェンダー、補助のエイダ―、治癒のキュアー、魔法を拒んだ拒否者。そして…。 友達のために強くなっていく二人の天才少年のお話。【完結済】

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 青年向け
更新日
登録日
2014-08-09

CC BY
原著作者の表示の条件で、作品の改変や二次創作などの自由な利用を許可します。

CC BY
  1. 役所:能力診断
  2. 洞窟:遭遇
  3. 町:6つ目のタイプ
  4. 洞窟:決戦
  5. 洞窟:再会
  6. 洞窟:決着
  7. 湖:これからのこと
  8. ??:世界の管理者