sword of Loyalty

栞屋

邂逅のプリンセス

身体が言うことをきかない。
ただひたすらに熱い。走らせていた馬もとうとうその足を止めた。
「あと、少し・・・少し、だから・・・お願い、走って」
その場から動こうとしない。仕方ない、ここからは歩かないと・・・
顔を上げると小屋がみえた。
馬、借りられるかもしれない・・・
重い足を引きずる。いつまでも止まない雨が身体を冷やしていく。表面は震えるように寒く、身体の中が熱い。
小屋に近づくと話し声が聞こえる。
力の出ない拳でノックしようとするが足がもつれ、倒れるままドアを開いた。
「馬を・・・馬を貸してください・・・」
意識が持たない。視界が歪む。
そこで私の意識は途絶えた。


ドンッという大きな音と共にドアが開かれた。
力なく倒れている女性。
「馬を・・・馬を貸してください・・・」
それだけを言うと、眠るように意識が途絶える。
「大丈夫ですか!?」
声を掛けるが反応がない。額に手が触れる。
すごい熱だ。
「サーシャ、手を貸してくれ。すごい熱だ、部屋に運ぼう」
奥の厨房に立つ少女に声をかけた。
「え、わかった。手伝う」
「マスター、奥の部屋借りるよ」
カウンターから覗き込むマスターにそう言い、少女を抱える。
「うわ、びしょ濡れじゃないか!この雨の中を走ってきたのか?」
服から雫が滴り落ちる。
「サーシャ、服も用意してくれ。ずぶ濡れだ」
部屋に少女を運び、サーシャにあとを任せる。
カウンターの方に戻るとマスターが話しかけてきた。
「さっきのお嬢さん、どこかで見たと思ったがあれはビリア王国のお嬢様だね。しかし馬を探していたみたいだが、なにか急ぎの用事でもあるのかね?」
マスターの話を信用するなら確かにおかしな話だ。一国の姫が一人で土砂降りの夜道を走ってきたのだから。
ましてやここはビリアとアルハシュタットを結ぶ道からだいぶ外れた森の奥の小屋だ。
「あれが姫様なのか。しかし、どうも気になるね。馬が必要、か」
マスターがグラスを棚に戻しながら答える。
「姫様は眠ってるんだろ?目覚めてから話をいけばいいさ。どうせアラン、お前のことだ手伝うつもりだろう?」
「当たり前さ。オヤジにもそう言われてきた。それに、困ってる人を放ってはおけないんだ」
マスターがグラスにお茶を注いでくれる。普段は何も感じないが、今日のお茶だけは少し苦く感じるのだった。

問題と協力

朝。小鳥のさえずりで目が覚める。
部屋を出て階段を下り、マスターに挨拶する。
「マスター、姫様は?」
「起きてきて第一声がそれかい。まだ眠ってるよ」
少々呆れられたようだ。
「おはよう、アラン」
カウンターの奥、厨房の方から声が聞こえた。
「おう、おはようサーシャ」
厨房からサーシャが現れ、テーブルに朝食を並べる。
「はい、どうぞ」
「ああ、ありがと」
椅子に座って、皿に盛られたパンとサラダを食べ始める。
「うん、今日もうまい。さすがサーシャだな」
素直に感想を言うとサーシャがはにかむ。
補足しておくとサーシャはこの店(?)のマスターの娘だ。
妻は何年か前に亡くなったらしい。
「こんな森の奥にある店なんかに顔出すのは俺ぐらいじゃないか?」
マスターが反論してくる。
「そんなことはない、これでも隠れた名店と有名なんだよここは」
奥でサーシャが笑っている。
「名店だなんて。自然が近いと新鮮な食材が入るだけなのに」
その時だった。背後のドアが開く音がする。
お嬢様の登場だ。
「あの、ここは?それに私なんで・・・?」
服が変わってる事に疑問を抱いてるようだ。
「昨日土砂降りの中を走ってきたんだ。すごいねつだったみたいだけど?」
ハッとしたような顔をして慌て出す姫様。
「そうだ私、急いでアルハシュタットに行かないと・・・」
そこでマスターがグラスを差し出す。
「なにか力になれるとは限りませんが、少し話してはくれませんか?急いだって状況がよくなるわけではないんじゃないでしょうかね?」
こういう時は年配のマスターだ。落ち着いていて、冷静に案を出してくれる。
「・・・それもそうですね。すいません焦ってしまって。私、ミリアっていいます」
そこで一口、グラスのお茶を飲んで続きを話し始める。
「私はビリア王国の人間なんです」
「えと、姫様でしょう?」
率直に聞いてみる。
「ええと、はいそうですが」
歯切れが悪い言い方だ。
「あの、皆さん・・・その、敬語じゃなくて普通に話してください。そういうの苦手で・・・」
そうは言うが姫様が一番敬語である。
「そうか、じゃあ俺はアラン。一応この店の手伝いとかをやってるんだ。よろしく」
あたり触りのない自己紹介をしておく。
「私はこの店でマスターをしている、プソンです。どうぞよろしく」
最後に厨房から出てきているサーシャが挨拶する。
「どうもプソンの娘で、アランの幼馴染のサーシャです」
サーシャと姫・・・じゃなくてミリアは握手を交わした。
「えと、それじゃじゅんに説明していきます」
長い説明だったので割愛。
要点だけまとめると
若くして王になったミリアの兄がアルハシュタットに挨拶に行っている。
それをチャンスと王政逆転を狙う連中が牙をむき出したというわだ。
「それを知らせようと一人でアルハシュタットへ?」
マスターが質問していく。
「はい、城では誰がどちらの人間なのかわからないほどに混乱していますから」
「でもここはアルハシュタットへの道から結構はずれていますが?」
「はい、急ぎだったので今は使われなくなった遺跡を通って近道しようとしていました」
遺跡か。たしかにこの先に小さな遺跡があるが、最近はよくない噂を聞く。
「それなら俺も行きましょう。最近は遺跡に主が住み着いたという噂もありますから」
姫様が一人で相手にできるとは思えない。主と言われるほどなのだ、それなりの実力があるんだろう。
「え、でも悪いですよ。これは城の問題ですから」
「姫、じゃなくてミリアを一人で行かせるなんて危険ですから」
考え込むミリアにマスターも声を掛ける。
「うちのアランはそれなりに剣も使えます。どうですか姫、国の人間なら頼って生きていくことの大切さを知ってるんじゃありませんか?」
これがとどめだったようだ。
「そうですか・・・それじゃあお言葉に甘えさせていただきます」
「よし、準備してすぐに出よう、急がないと向こうに着く前に日が暮れちまう」

遺跡と主

生ぬるい空気が部屋を満たす。
気温は外より1、2度は高いだろう。
部屋の構造と通路を確認するように、ゆっくりと進んでいく。
不意に背後から殺気を感じた。
「ミリア!!」
叫んだのと同時にミリアが横に飛んだ。
小さな衝撃がその体をかすめる。
腰に吊るした剣を一気に抜き放ち、走り出す。
衝撃の反動で対応できずにいるモンスターめがけて、直線上に加速する。
横目でミリアが立ち上がるのを確認し、モンスターへ一気に剣を振り下ろした。
ブシュッという嫌な感触とたしかな手応えを感じ、更に力を加え傷口をえぐる。
「グシャァァァァァァ!!」
奇妙な絶叫と共にモンスターが倒れ込んだ。
念のために急所をめがけて剣を刺す。
「ふぅ・・・大丈夫かミリア?」
一国の姫を呼び捨てにするのは気が引けるのだが、ミリアがそれを譲らない。
なんでも助けてもらう上に敬語を使われるのは嫌なんだとか。
「はい、全然大丈夫です」
姫様がこんなに戦い慣れてるとは思わなかった。
同じような戦闘をここに来るまでにもこなしているが、少なくとも回避と防御はそれなりにできているはずだ。
「確かもう少しで向こうに抜けられるはずなんだけど・・・」
「そうですね・・・!!」
急に体がバランスを保てなくなる。
これは・・・地震!!
老朽した遺跡は足元が崩れる。
しまった・・・
「ミリア!!」
急いで体勢を立て直そうとするが、足が瓦礫に飲まれていく。
クソッ・・・
そのまま地下へと崩れ落ちていった。

◆   ◆

上にかぶさる瓦礫をどける。
なんとか瓦礫の山から脱出する。
「・・・ミリア?」
辺りを見回すがミリアの姿は見えなかった。
急いで探すか。彼女の回避と防御は評価できるが心配だ。
しかし、どっちに行けば・・・
「グオオオオォォォォォォォォ」
地鳴りのような声が辺りに響きわたる。
まさか・・・
噂になっていた主か?
反対方向に・・・・・・
鋭い殺気が背中を刺した。
そして――
「グオオオオォォォォォォォォ」
さっきより一際大きい地鳴りが背後で聞こえた。
「・・・嘘だろ、こんな時に・・・」
しかも、なんてサイズだ。
道は塞がれている。
やるしかないのか?
できるのか?俺に・・・

殺意の太刀

目の前にそびえるのは全長8mにも迫ろうかという巨大な猪だった。
嫌な汗が額を滑り落ちていく。
大きな威嚇の咆哮と共にこちらを睨みつけていた。
(これが遺跡の主・・・?俺なんかじゃ相手にならないだろ!?)
アランの心中を察することもなく大猪はゆっくりと距離を詰めてくる。
一歩下がろうとしたとき、右腕が触れたのは自分の腰に吊るされた一本の刀だった。
ここで下がっても後ろには数mしか隙間がない。
(力を貸してくれよ、親父!!)
腰から刀を鞘ごと左手で抜き取り大猪目掛けて一直線に走る。
タイミングを合わせて刀を鞘から抜きそのまま下段で切りつける。
刀の初歩技<抜刀>━━━━
反応に遅れた大猪は防御や回避することなく大きくダメージを受けた。
確かな手応えと共に刀を振り上げる。
(これで・・・)━━━━
「嘘だろ・・・」
全く痛がるどころか頭に血の昇った大猪はそのまま体当たりを狙ってきた。
ここまで元気に動けることに動揺しあアランが次は反応に遅れるのだった。
鋭い衝撃と共に壁に激突する。受身を取らなかったためか体のあらゆる箇所が麻痺していた。

sword of Loyalty

sword of Loyalty

土砂降りのなかを走ってきた姫と出会った少年・アラン。 その出会いが彼の人生を変えるとは、、誰も思わなかった― ボーイ・ミーツ・プリンセスなファンタジー系ノベルです。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • アクション
  • 青年向け
更新日
登録日
2014-08-09

Copyrighted
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  1. 邂逅のプリンセス
  2. 問題と協力
  3. 遺跡と主
  4. 殺意の太刀