おねえちゃんのまほう 1
くるみちゃんは公園のごみ箱でお人形と会います
おねえちゃんのまほう
夕日が、ベンチを、オレンジ色にぬりかえています。
お友だちも、次々さよならして、くるみも、おねえちゃんと二人っきりになりました。
「帰ろうか」おねえちゃんは、くるみの手を引きました。
くるみは公園のごみ箱の横で、立ち止まりました。
何かがキラリと光ったのです。
それは、小さな光るバッチを付けたお人形でした。
汚れていて、足も片方ありません。
くるみが拾い上げてみると、丸い二つの目が、くるみをじっと見つめています。
「かわいいね」
横からおねえちゃんがのぞいて言いました。
「うん!かわいい!」
「さ、置いて。帰るよ」
「…持って帰っちゃダメ?」
「また、ママにしかられるよ」
おねえちゃんは、スタスタ歩いて行きます。
くるみは、ちょっと考えてから、お人形をTシャツにかくして、おねえちゃんの後を追いました。
ママは台所にいました。
Tシャツに手を突っ込んで、忍び足で台所の前を行く、くるみ。
ママが気付かないはずはありません。
「くるみ、かくしてるものを見せなさい」
「いや!」
ママは、かまわずくるみの手を引っ張り出しました。
「また、ごみを拾ってきたのね。ごみ箱をあさるのは止めなさいって、いつも言ってるでしょ!」
「ごみ箱じゃないもん、ごみ箱の横だもん」
「それをごみと言うのよ! なんなのこれ? 汚いし、足がもげてるじゃないの。よこしなさい!」
「いやよ、ママ、捨てるでしょ?」
「あたりまえじゃないの。ごみを拾うなんて、恥ずかしい事よ!お人形が欲しいなら買ってあげるから、それをよこしなさいって!」
ママはくるみの手からお人形を取ろうとします。
「やだ!やだ!」
汚い人形をめぐって、ママとくるみの格闘がはじまります。
エプロンに取りすがって、泣きわめく、くるみを、どうにか振り払ったママが、玄関へ向かうと、おねえちゃんが壁にもたれて立っていました。
おねえちゃんはママに何か言いました。
二人はしばらく、真剣に見つめ合っていました。
すると、どうしたのでしょう。ママは、おねえちゃんに人形を渡したのです。
「くるみ、おいで」
おねえちゃんは、くるみを部屋へ連れて行くと、宝箱を出してきました。
くるみは、急いで涙をぬぐいました。
だって、おねえちゃんの宝箱にはきれいな物がたくさん入ってるのです。
貝殻やガラス玉や、白くてつるつるした木の枝、そしてたくさんのきれいな石ころ!
くるみは目をキラキラさせながらのぞき込みました。
「どうしてママは、おねえちゃんが石ころを拾ってきても怒らないのかな? どうしてくるみが何か拾ってきたら怒るの?」
「くるみが拾ってくるのはごみだもの」
「石ころはごみじゃないの?」
「石ころは、神様が長い時間をかけてこしらえて、長い時間をかけて拾ってもらうのを待ってるんだよ」
「このお人形さんだって、長い事私を待っていたかも知れないじゃん…」
「そうだね…さてと、これがいいかな?」
おねえちゃんは細くて短い棒を取り出すと、
「足を付けてあげようね」
と言って、お人形の短い足に包帯で巻きつけました。
一本足だったお人形はちゃんと二本足になりました。
くるみはうれしくてなりません。
「すごい!ありがとう!…でも…おねえちゃん、どうやってお人形をママから取り返したの? どんなまほうをつかったの?」
おねえちゃんはにこにこしながら、くるみを見ました
「ママは、くるみの足が無くなったら捨てるの? って聞いただけ…」
夕ご飯の後、みんなでテレビを見ている時、ママは部屋のすみで何かしていました。
そして、おやすみの時、くるみのベッドへ来て優しく言いました。
「くるみは、神様からのたいせつな預かりものだから、絶対捨てたりしないからね…これをお人形に着せてあげなさい」
それは、くるみとおそろいの布で作ったパジャマでした。
「ママ…」
「なに?」
「ママは、くるみがママの子になるのを長い事待っていたの?」
「…そりゃあ、めちゃくちゃ長く待ってたよ」
「ふ~ん…ママ…拾ってくれてありがとう」
おねえちゃんのまほう 1