悲しい恋

勿忘草

悲しい恋のお話ばかりです。
勿忘草は、悲しい恋のお話しか書けない歪んだやつです。(甘いのはまた別のページだよ!)

手に掴んだよ、でも失くした

 いつも、そう。
ずっと前から欲しかった玩具、両親に頼み込んでやっと買ってもらったのに何か月後にはもう僕の手元からは「消えていた」。
アレだけ必死にバイトして貯めたお金で買った好きなアーティストのグッズだって、気が付けばまた僕の中から「消えていた」。
僕が望んで、望んで望み焦がれて、欲しくて欲しくてたまらない物がようやく手に入ると、いつの間にか「消えていた」。
悔しくないのか、とか、つらくはないの?なんて人は聞くけど、僕はそれでも今まで一度も悔しいと思った事は無いし、つらいと思ってこともない。きっとこれから先も無いだろう。

逆に、僕からしてみれば欲しかったモノを手に入れてずっと手元に置いておくなんてことが、信じられない。

―――ずっと欲しかったモノが傍にある。
それだけで僕からしてみれば心臓がバクバクなわけで。触れてみる手はいつも震える。手汗はひどい、いつもより体温は高く、息も荒い。
そんな状態で毎日過ごすなんて、考えられない。
もしゴミや汚れが付いてしまえば?傷が入ってしまえば?形が崩れてしまえば?…いつか、消えて失ってしまうとすれば?
その時、僕は正気でいれるだろうか?

そう考えると、ぼくは胸を張って「NO!」と答えよう。
大切なモノが、消えてしまう苦しみは形有る物いつかは体験しなければいけない事、でも僕はそんなの、無理だ。
だから僕は、大切なモノがいつか消える前に自分から消していく。

これは恋愛にも言えるようで、あまり僕は彼女とは長続きしない。
いや、こういえば語弊が出てしまう。長続きしないのではなく、「させない」のである。
いつか来る別れの前に僕自身で終わらせてしまう。そうすると、必然的に、長続きはしない。
僕はそれでもいいと思っている。

そして僕は、まあ外見は良い方だと思う。おかげで今まで彼女がいなかったことはないし、付き合った彼女もすべて向こうから告白してきた。好きかどうかなんて、別にどうでもよかった、ただ、なんとなく付き合って、なんとなく別れが来る前にサヨウナラ。
こんな僕で、自分で言うのもアレだが、人を好きなるということができるのだろうか。
人を好きになり、その人をずっと大切にできるのだろうか。


そんな心配も杞憂に終わった、初めて生まれて初めて、人を好きになった。
僕よりも小さく細い体は、守ってあげないと、とおもわせるし、ふんわりと笑う顔を、いつまでも眺めておきたいと思った。
彼女がつらいと涙するときには、他の誰でもない、僕がその涙を拭いてまた笑わせてあげたいとも思った。
そんな彼女と出会ってから、すぐにアタックを始めた。
幸いなことに、彼女も恋愛面は鋭いらしく、すぐ自分に向けられた好意に気付いてくれた。(その度に赤面する彼女もまた可愛い)
あれよあれよと事は進み、彼女と結ばれることになった。本当にうれしくて、嬉しくて、僕は何度も彼女にキスを送った。


生まれて初めて、心の底から大切な人が出来た。

そして、今は2年目の記念日で。ここまで長続きしたのは彼女が初めてで、自分で感心してしまった。
愛は人を変えるというのは、本当だったらしい。
今は、愛する彼女が蕩けるような笑みでケーキを食べている姿を目に焼き付けている。そとはもうすぐ雨が降りそうだ。

「拓真さん、外そんなに気になります?」
不思議そうな表情を浮かべ、同じように外を見る彼女に口角が上がる。
「いや、雨が降りそうだなあーと」
「予報では晴れって言ってたんですけどね…せっかくのお出かけなのに」
残念です、そう言って目を伏せて笑う彼女を僕は笑みを浮かべながら眺める。
カラン、と僕のアイスコーヒーが音を立て溶けはじめた。

「僕は、雨が好きだよ」
全部洗い流してくれるからね、そういってアイスコーヒーを飲みこむ。
氷が溶け始めていて、少しぬるい液体が喉を通って全身にしみ込んでいく、ゆっくり、ゆっくり、

「雨は…苦手です、なんだか気分が滅入るし、不吉なことが起こりそう」
きゅっと眉間にしわを寄せ、唸るように呟く。
そんな彼女を視界の端に写す、「例えば、僕と別れるとか?」

ぽつ、ぽつ、窓ガラスに小さな水滴が流れる。
―――降ってきなあ。そんなことを考えながら、端に写る彼女を横目で見れば、引き攣ったような顔で僕を見ていた。

冗談でしょう?なんて最悪な冗談を。
そう彼女の双眸が語る、それにまた、ふと笑みを零す。
遠くの方でかすかにカランカラン、と氷の山が崩れ落ちる音が聞こえた。

「もう、別れようか」
その一言を言った僕は、彼女の瞳にはどう見えていたのだろう。
それが、この世で最も醜くて卑怯で最低なやつであることを、願った。
―――窓の外では、先ほどとは全く違う激しい雨が降っている。ばちんばちんと窓が唸る。

「どうして…。あの、え?」
未だ理解できていない彼女は、僕の大好きな大きな目をぱちぱちと何度も瞬きをして、必死に頭を回す。
でもきっと彼女には分からない、どうしていきなり別れを切り出されたのか、僕が何を想っているのか。

泣きそうになる彼女を見据えて、もう一度ゆっくり噛みしめるように彼女の中にしみ込むようにして、呟く。

「もう、別れよう。今までありがとう、幸せになれよ」


―――別れを切り出しといて、幸せとはなんだ。
そ自分を嘲笑いながら、席を立つ。彼女が何か言おうとしているが、口をパクパクさせている、その姿を横目にすたすたと迷いもなく歩く。せめて、君の前では最後まで凛とした僕を見て欲しくて。

チリーン、と可愛らしい音とともに聞こえてきた激しい雨の音に、詰めていた息を吐く。
長く長く、体の中が空っぽになるように。
今まで感じていた、彼女のぬくもりも優しさも声も笑顔も、全て「消えるように」


―嫌われたと思ったかな、飽きられたと思ったかな、今日は一日泣くのかな。彼女のことだ、しばらくの間は泣いて眠るのだろう。
朝になれば平気な振りをして、みんなに笑うのだろう。
そこまで考えて、なんだかたまらなく可笑しくなった。別れを切り出した張本人が、一番離れたくないと思っているなんて、面白くて仕方ない。

激しい雨の中、ゆっくり歩きだす。雨が体を打ち付け、少し痛い。
足も、腕も、頭も、背中も、痛い、痛い、でも、一番痛くて苦しくてたまらないのは、

「心が、…ッ一番…、痛いっ…!」
どんなに、大切なモノが出来ても、その度に別れを繰り返しても、その度僕は胸を痛め、心を痛めるのだ。
なんど体験したって、慣れる事は無くて、痛みは増すばかりで。


幸せだった、楽しかった、嬉しかった、恥ずかしかった、心地よかった、どんな言葉をかりても彼女との日々は言い表せなくて、そんな日々を重ねるたびに、僕の中は苦しみであふれていく。
永遠なんてないんだと、ずっとなんてないんだと、否定をするしかできない僕が、犯した過ちは、自分自身を苦しめるだけでなく、彼女まで苦しめてしまった。

ごめんね、ありがとう、さようなら、幸せになってね。

いつか、君を心の底から愛し、守ってくれ永遠を誓う人が現れる時まで、僕は君を想うよ、

土砂降りの雨の中、頬に流れた滴はしょっぱくて胸を締め付けられた。
どんよりした街の中傘を差さない僕を怪訝そうな顔で通り過ぎていく人の中に埋もれながら、そっと息を吐く。

「ごめんね、ありがとう、幸せになってね、さようなら」
雨音と道行く人の喧騒の中ではあまりに小さくて頼りない僕の言葉は、誰にも知られる事は無くストン、と地面に落ちていく。
僕が、こんな奴じゃなければ、なんてことは言わない。けど、もっとしっかり自分を信じて認めてあげればな、
伏せていた目線を、上げていく。下はもう見ない。

遠くで子供の笑い声とともに、「雨が止んだ!」と聞こえた。

鉛色のそらから、ゆっくりと太陽が覗き込む。

もし僕が自分を信じて今も君のそばに居れたら、いや、今の僕でも君にこう言ってこの空を見ていたはずだと、考えながら口に出す。
それはあまりに最低で最悪で、どうしようもない言葉。
もしこの呟くが聞こえていたのなら、いつもの甘い笑顔で笑ってほしい。ずっと、ずっと、永遠に。

「大好きでした、愛しています。だから、さようなら」

僕が望んで、望んで望み焦がれた大切な人との日々は、僕の元から「消えていきました」。

―――手に掴んだよ、でも失くした

悲しい恋

悲しい恋

叶わない恋だったり、死ネタだったり、どこかで間違えちゃうお話だったり

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-08-08

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