ゲーム

理不尽な始まり

いつものように義孝(よしたか)は大学へと向かっていた。片道約2時間。電車を使って1時間かけ、さらに自転車で1時間。木々が生い茂る自然豊かな山の中の大学へと向かっていた。
(はあ…相変わらず…遠い……)
義孝(よしたか)はそんなことを思いながら自転車を走らす。
太陽がギラギラと輝き、その生命力を嫌という程味あわされる午前9時、15分前。遅刻ギリギリの時間だった。
駅前は通勤通学の人々で鬱蒼としていたが、50分自転車を走らすだけで車も人も、数が激減する。寧ろ、人が通りかかる方が珍しいといっても過言ではない。
鳥と虫とが行き交い自然を味わえる。
(あと、少し……)
50mほどの坂を登り切ればようやく、大学に到着だ。
日が照り返すアスファルトを睨みつけながら義孝よしたかはゆっくり、ゆっくりと坂を登る。
大学はさほど広くない。3階建てのプレハブのような建物。大学と言えるのかも微妙なラインだが、教授がいて、生徒がいる。それだけで、勉強は出来る。テストもある。単位だって、大学卒業という資格ももらえる。落ちこぼれていようが、建物が酷かろうが、何も関係なかった。
義孝(よしたか)が教室に入るとそこには、8人くらいの生徒が座っていた。これもいつも通りだ。蒸し暑い教室に一台の扇風機。風がきてもひょろひょろと生暖かいものが頬を撫でるだけ。
(こんなクソ暑くて授業なんて…)
そう思いながらも早2年。考えても無駄なことなのだ。

ガララララ
ドサッ
教授だ。汗をダラダラとかき、気だるそうな表情を浮かべている。いつも通りだ。
鞄は、すこし、大荷物のようだ。何か授業で使うものなのだろうか。
「…、今日の授業は」
カカッカ、カーッカ、
授業のテーマを板書していく。

『死』
教室が静寂に包まれる。
理解出来ないわけではない。しかし、生徒達はそのテーマが何を意味するのか、それがわからなかった。
「みなさん、死についてしっかり考えたことはありますか?」
教授が虚ろな目をしながら生徒達に問いかける。
「死とは人生で一度きり。味わったら全て終わりです。そもそも、味わうなんてものではないかもしれませんね。おそらく、眠るものと大差ないでしょう。まあ、焼死だったり溺死だったり、苦しんで死ぬ、という場合もありますが」
教授の口から淡々と発せられるその言葉たちは何も感情が込められていないように聞こえる。教室が凍りついている。
「それなのに、今の若者は口々に『死にたい』だの、『生きてるの辛い』だの、くだらないことを口々にしちゃうから驚きますね。あなた達はどうですか?こんな山奥の大学に、夢や希望を持って来ていますか?死にたいと思ったことはありませんか?」
突然核心に迫るようなことを言われた。
(何が楽しくてこんなとこまで足を運ぶかよ)
ボソッと口する生徒。義孝よしたかも似たようなことを考えていた。希望なんてなかった。あるのは、苦痛だけだった。
「死にたいなんて思う人は、みんな死んでしまえばいいと思うんですよね。でも、なぜ生きているかわかりますか?中途半端なんですよ。本当の死に直面していない。アフリカの子供達を知っていますか?彼らはどんなに苦しくても、死にたいなんて言う子はいないですよ。いたとしても、数少ない。それは、なぜか。彼らは生きるのに必死なんですよ。もう、明日はないかもしれない。だから、今日を精一杯生きている」

ふあぁー…
「そうですか。私の話はそんなに、眠くなりますか。そうですね。こんな理屈はもうやめましょう」
欠伸をする生徒を見て、教授の目が変わる。表情は死んだままだ。
黒板に文字を書き足す。
『死(ゲーム)』
「これは、文字通りゲームです。そして、死です。死の勉強は、体験するのが一番ですからね。これから、殺し合いのゲームをしてもらいます」
教室がざわつく。会話もしたこともない生徒だが、隣の人と顔を見合わせ何かボソボソと口にする。
「ノルマは一人。一人殺したものは合格です。そのまま、生きる権利を与えましょう。それ以外は死ぬだ「そんなの許されない!」
突然生徒の一人が立ち上がる。少しやせ細った、眼鏡をかけた勤勉そうな男学生だ。
「人の命をなんだと思ってるんだ!」
「……あなたは、なんだと思いますか?」
「お、、重くて、そんなに軽々しいものじゃない、と!」
「そうですか。私とは少し価値観が違いますね」
教授は淡々と続けていく。
「たしかに、軽いものではない。しかし、なくてもいい命もあると思いますが?」
「そ、そんな、の、横暴だ!」
ガタッと席を立ち、その学生は教室から出ようとする。
「授業を欠席するつもりですか?それは何を意味するか分かっていますか?」
「し、しし知るか、そんなこと!」
扉に手をかけ、開けようとしたその時、
パァァッン
キーンとくる短い音が耳を突き抜ける。その一瞬は驚き、目を瞑ってしまったが、開けた時驚愕の映像がそこにあった。
教授は銃を手に、出て行こうとした学生は後頭部から血を吹き出しながら倒れている。
「きゃーーーっ!!!」「うわぁあぁっ!」
「欠席とは、死と同等です。生き残って、出席を確保しましょう。単位をあげても、構いませんよ」
「それでは、始めましょう。今回の授業、死(ゲーム)を」
生存者9人 死者欠席 1人 出席者0人

ゲーム

ゲーム

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 青年向け
更新日
登録日
2014-08-05

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted