アルト

それは突然に・・・

「好きだ。俺と付き合って欲しい・・・」
突然、耳元で言われた。
ありきたりなセリフだが、ぼくの頭の中は真っ白になる。
「えっ・・・」という声にならない音しか、口から出てこなかった。
「ダメかな?」
タケルが追い打ちをかけてくる。
男にこんなことを言われたのも初めてだ。そのうえ、今の2人の状況も生まれて生涯、体験したこともないし、想像すらしていなかった。

ぼくたちは、お互い裸になって、ベッドの上で抱き合っていた。
男同士で、である。

タケルとはもともと同じ大学に通っていて、割と仲の良いメンバーの一人だった。授業も同じものが多く、大学の中でも外でもほぼいつも一緒に過ごしていた。
大学二年生の夏、タケルが突然大学に来なくなった。他にもこの時期に来なくなる人は多いが、タケルは今まで授業をサボることなどなかった。この日はタケルと二人でガストに行って夕飯を食べる約束をしていた。
風邪でもひいたのかな……と思いつつ、LINEでチャットを飛ばす。

3限と4限は西洋文学史の授業だったので、僕は他の友だちと授業を受けた。
授業中に何回LINEを開いてみても、既読にならない。
結局、授業が終わった後も既読にはならなかった。

他の友だちは授業に行ってしまったので、僕だけ残ってしまった。
今日はもう帰ろうと思い、自転車乗り場についた時にタケルからLINEが飛んできた。

「ごめん。家にちょっと来てほしい」

タケルからこんな弱音を聞いたのは初めてだった。
僕はわかったとだけ送って、タケルの家に向かった。


タケルの家につき、ドアを開けたところまでは鮮明に覚えている。
ドアを開け、中にはいり、靴を脱ぐと、いきなりタケルが抱きついてきた。
それはもう状況がよくわからなかった。
ただ、タケルは泣いていた。
あんなに強がりなタケルが、泣いていたのだ。
僕は自然とタケルをそっと抱き返していた。

アルト

アルト

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2014-08-05

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