蒼い青春 七話 「嫉妬」

蒼い青春 七話 「嫉妬」

◆登場人物
・長澤博子☞この物語の主人公。 白血病に犯されながらも、いくつもの障害を乗り越えていく。
・河内剛☞博子の恋人で、若手の刑事。 博子とともに障害に立ち向かう。
・園田康雄☞剛の先輩警部補。 通称『横須賀のハリー・キャラハン』
・長澤五郎☞博子の父親。 優しく、そして威厳のある55歳。
・野村たか子☞博子の母親。 まだ博子の秘密を握っている。
◆七話の登場人物
・藤倉美紗樹☞剛の元カノ。 博子に嫉妬していて、彼女と別れるよう剛に迫る。
・川島潤☞園田の同志。 大柄で器の大きい刑事。

前篇

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「実は遺留品の中に、こんなものがあったんだ。」 白手袋の川島の手に握られていたのは、小さな茶封筒だった。 「横須賀署宛て? 訳がわからんな。 何か入ってたのか?」 園田がそれを取って首をかしげる。 「それが、空だったんだよ。 しかも見てみろよ、一度糊付けした跡があるだろ。 こいつは何かを横須賀署に送ろうとしてたんだが、誰かが抜き取った。」 「それが動機かもしれないな。 なんだか、推理小説読んでいるみたいだな。 ハハハ。」 園田と川島が笑いあっている頃、傍らの剛には、田沼が封筒に何を入れていたか、察しがついていた。 彼は振り込みを拒んだ剛への報復として、あの写真を送ろうとしていたに違いないのだ。 しかし、仮にそれが動機だとしてもいったい誰が彼を殺し、写真を奪っていったのだろうか? 剛は署に戻ってからもそのことばかり考えていた。 そんな彼の前へ、コーヒーを持った園田が座る。 「まあ、飲めよ。」 「酒を勧めるときのいい方じゃないっすか。」 剛が笑ってコーヒーを受け取る。 「それよりお前、何か心配ごとでもあるのか?」 コーヒーをすすりながら、ふと園田が尋ねる。 「えっ? そんなことないですよ。」と剛。 「そうか。」と園田の納得した様子を見て、剛は胸の中で一息ついたのであった。
「どうなんだ、娘の進行具合は?」 ここは五郎に旧友、灰谷靖の研究室。 灰谷を信用する五郎は、極秘に博子の病気の進行具合を調べてもらうことにしていたのだ。 「今のところは、投与した薬のおかげでよくはなってきているが、悪化するのも時間の問題だ。 まあ、そうはいってもまだ初期段階だ。 治療次第で運さえよければ・・・」 そんな友人の言葉を遮るように、五郎が言った。 「運、なんだろ? 最後は運次第なんだな・・・」 その時、靖の中で何かがはじけた。 「バカ言ってんじゃねえ。 運でもなんでも、今はそいつに賭けるしかないんだよ。 運だって何だって、そいつを信じるしかないんだよ。 そうしないと、娘さん助けらんねえだろ?」 薄暗い研究室に、沈黙の嵐が訪れる。 「すまん、ちと言いすぎたな。」 うつむき加減で、靖が謝る。 「いいんだ、確かにお前の言う通りだ。 運でも神でも、なんでも今は信じることが大切なんだな。」 そう言って五郎も大きくうなずいた。
翌日、剛は人気の少ない浜辺に居た。 遠くの波の音を聞き、剛は一人また考えごとに更けていた。 封筒に写真が入っていなかったことは幸いなことだったが、問題は写真を奪い取った人物がどんな人物かと言うことだ。 殺人と言う多大なリスクを犯してまで写真を入手すると言うことは、それなりの目的があるはずだ。 その目的があの田沼と同じであれば、剛の悪夢は蘇ることになる。 と、その時、誰かが剛の肩を叩いた。 剛が驚いて振り返ると、彼の後ろに同じ歳くらいの女が立っている。 「剛さん、久しぶりね。」 女は笑ってそう言うと、剛の横に座った。 「今更何のようなんだ、美紗樹。 また金か?」 剛がうんざりしたように言う。 「金? 私剛さんに金貸してくれなんて言った覚えないわよ。」女、藤倉美紗樹が言う。 「バカ言え、俺と別れた後に俺の前に来れば、いつも金の話じゃないか。」 この女、剛の元カノだったのだ。 「そんなことじゃないわ。 それより剛さん、今彼女いるでしょ?」 「なんだ、また恋愛占いかなんかかい?」 「お遊びな話じゃないわ。 ここ一週間、色々調べて分かった事なの。 それでね、その彼女と、別れて欲しいの。」 美紗樹の声に、剛がハッと真面目な顔になる。 「何? 別れろって?」 「そっ、あの娘と別れて、私ともう一度やり直してほしいの。 一からね。」 この美紗樹の言葉に、剛の忍耐袋の緒が切れた。 「バカ言うなっ。 彼女と別れて君と縁りを戻せって? どんなに頼まれても無理だね、そんなこと。 分かったら、もう俺の前には姿を現わさないでくれ。」 そう言って腕にすがりつく美紗樹を乱暴に引き離すと、剛は一人でさっさとどこかへ消えてしまった。

後篇

後篇

翌朝早く、剛はタクシーに乗って昨日の浜の灯台にむかっていた。 ついさっき、剛の携帯に博子から電話があったのだ。 「もしもし、博子ちゃんかい?」 剛が笑って尋ねたのに対し、彼女の返事はそうではなかった。 「剛さん、実は○○浜の灯台まで来てほしいの。」 電話の声がやけに震えていたことに不審感を覚えた剛は、早々とタクシーを捕まえたのである。 灯台に着いて、その古びた階段を登りつめた剛は、勢いよく扉を開けたが、そこは誰もいない、ガランとしたただの部屋だった。 と、その時剛は床に落ちている一枚の紙切れを拾い上げた。 そこには「下を見ろ」と言う文字が規則正しく並んでいるばかりで、他には何もない。 剛はとっさに窓の下を見て、あっと叫び声を上げると、ポケットから出した拳銃を片手に、あの古びた階段を勢いよく降りた。 階段を降りた所に居たのは、博子だった。 階段に背を向け、うつむくように立っている。 しかし剛の前に居るのは、博子だけではなかった。 博子を挟んで反対側に、水中銃を構えた美紗樹が居たのだ。 「君、ちょっと落ちつけよ。 そんな物騒な者は降ろして。」 剛は警戒しながら声を掛けたが、相手はもうヒステリー状態だ。 「何よ今さら。 あなたにその気がないなら、その娘と二人で地獄に落ちればいいんだわ。」 美紗樹はそう叫んで引き金に指を掛ける。 少しでも下手なことをすれば、彼女は引き金を引くだろう。 「お、落ち着いて、話し合おう。」 この剛の言葉が癪に障ったのか、美紗樹は狂ったような声で、「殺してやるっ。」と叫ぶと引き金の指にぐっと力が入った。
全てがスローモーションだった。 博子がきゃっと耳を押さえしゃがんだのも、剛の握った拳銃の引き金が引かれたのも、そして心臓を撃ち抜かれた美紗樹が後ろにぶっ飛ぶのも。 全てが一瞬の内に行われ、嫉妬心が生んだ悪魔は哀れに死んでいったのだ。
その夜、長澤家ではあの日のように、小さな電球が点いた部屋で、五郎とたか子が向かい合って、互いに真剣な顔で睨みあっていた。 「あなた、明日がなんの日だか、分かる?」 たか子がぼそっと呟く。 「ああ、あの男がシャバに・・・」         つづく

蒼い青春 七話 「嫉妬」

蒼い青春 七話 「嫉妬」

脅迫者・ヒットラーこと田沼志郎の死体から目黒署宛ての封筒は見つかったが、例の写真が出て来なかった事を不思議に思う剛の前に、突如元カノの藤倉美紗樹が現れる。 彼女はここ一週間、剛を付け回し博子との関係を掴んでいたのだ。 博子と別れ、自分とやり直そうと哀願する美紗樹を、剛は一蹴してしまう。 数日後、博子からかかってきた電話の彼女の声に異変を感じた剛は、指定された場所に向かう。 そこで彼が見たものは、博子と剛を葬ろうとする美紗樹の姿だった・・・ 次なる刺客は剛の元カノ? 新たな展開を見せる七話、嫉妬の果てに異常者になった女を前に、剛の決断とは・・・

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • アクション
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-08-05

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  1. 前篇
  2. 後篇