込めた想いが多すぎて
うたの☆プリンスさまっ♪の二次創作です。
お相手は来栖翔くん。ヒロインの名前は下野奏(しものかなで)とさせて頂きました。
名前変換はありませんが、気分だけでも夢小説として読んで頂けたらと思います。
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『好き』
たったその一言なのに、な。
短すぎるその言葉に込めたい想いが多すぎて。
まだ不器用な俺には、それが上手に出来無いから。
ありったけの想いを歌に込める。
だからしっかり俺様の歌を聴け。
お前に、お前の為だけに歌ってやるから。
「しょーちゃぁぁぁぁぁんっ!」
「だーっ!だから追っかけてくんな!」
「だって、翔ちゃん、ぎゅってさせてくれないから」
「俺を殺す気か、お前は!」
学校ではなるべくコイツに会わねぇように気をつけてんのに。
廊下で偶然那月に遭遇。
朝から散々俺が窒息する程、ぎゅってしてる癖に。
まだ足りないとばかりに突進してくるんだ。
まるでイノシシじゃねぇか、この勢いは。
そう簡単に捕まって堪るかって。
幸い廊下には沢山の生徒が居るのを利用して、その間をぬうように逃げ出した。
「わっ!バカ、奏、どけ!」
「わーっ、しょ…翔く…」
奏が『翔くん』って名前を呼び終える前に、俺の唇がお前のそれを塞いだ。
そう、那月から逃げる事に必死で、奏とぶつかってしまったんだ、唇が。
そして勢い余ってそのまま押し倒す。
「翔ちゃん、こんな所で女の子押し倒したりして」
もう、悪い子ですね…って続ける那月だったけど。
それどころじゃねぇだろ?
お前、この状況分かってんのか?
俺は今、よりによって公衆の面前で好きな女とファーストキスしちまったって言うのに。
「てめぇがそれを言うか?誰のせいでこうなってると思ってんだよ!」
那月に怒鳴り返しつつ。
「悪ぃ、大丈夫か?」
ってキスの事はこの際なかった事にしようと。
出来る限り冷静に奏へと手を差し伸べた。
「あっ…あっあの……その…私…」
俺様に合わせろ!…って目で必死に合図を送るのに。
何をどう考えたのか、見つめる俺のその視線にどんどん頬を赤らめるんだ。
お前、それマズくないか?
なんか事故っぽくキスしちゃったから、何事もなかったように当事者の俺達が振る舞えば、きっと誰も気付かないんだぜ?
なのに、何でそんなあからさまに動揺してんだよ?
いや、俺だって動揺するけどよ。
複雑なんだよ。
好きな女だし、ラッキーってのもあるし。
好きな女だからこそ、もっとこう…雰囲気のある思い出に残るようなキスが良かったとか。
色々と考えねぇ訳じゃない。
でも、今はマズイだろ?
そもそもうちの学校は恋愛禁止なんだぞ?
二人して退学になったら、シャレになんねーぞ。
「あーっ、奏!お前、これどっか運ぶんじゃなかったのか?」
これ以上コイツに余計な事言わせて堪るかって。
奏が撒き散らしたプリントを拾ってやる。
「あっ、そうでした!すみません、ご迷惑お掛けして」
いや、ご迷惑おかけしてんのは、お前じゃなくて那月だから。
寧ろ、それに巻き込んじまった、こっちが迷惑掛けてるんだし。
「家来の仕事を手伝ってやるのも、王子の役目だ。気にすんな」
って、困った顔をしたお前の頭にポンと手を乗せてやる。
弟の薫が落ち込んだ時、こうして励ましてやるのが癖になってて。
なんだかお前がそんな顔見せる度に、こうして慰める事も癖になりつつある。
それくらい、俺達一緒に居るんだな?
なのに、言えない。
たった一言が。
『恋愛禁止』って校則があるから言わない。
そう自分で自分に言い訳してるけど。
ホントは解ってるんだ。
それは単なる言い訳で、ホントはそうじゃないんだって。
ただ臆病なだけ。
そうして胸に手を当てる。
いつもより僅かに速いペースで音を立てるそれは、さっきのキスのせいかも知れない。
つーか、好きって言う前にキスしちゃうって。
順番確実に間違ってんじゃん。
「むむむ…おかしいデスネー」
そんな時、この状況では一番聞きたくない声が耳に届く。
やべぇ、来た。
どうすりゃいいんだよ?
「Mr.クルス、Miss.下野」
わっ、バレてる。
ぜってぇ、バレてる。
大勢の生徒が行き交う休み時間の廊下。
なのに、ピンポイントで俺達の名前を呼ぶオッサン…うちの学園長のシャイニング早乙女。
CIA並の監視能力があるとしか思えないくらい絶妙なタイミングで。
生徒がいい雰囲気になるとどこからともなく現れる。
ガラスを割って窓から飛んで来る事だって、ここじゃ日常茶飯事だ。
「なっ…なんだよ?」
マズイ、若干動揺してんじゃねぇか、俺様とした事が。
「今この辺りでヒジョーにラブいエアーを感じたんデスケド。お二人は何か知りマセンカー?」
うわっ、マジで監視されてるって。
どこで見てんだよ、このオヤジ。
ある意味那月より質が悪ぃぞ。
「えっと…俺達、これ届けに行かねぇと!ちょっと急ぐんで、じゃあ」
行くぞ、奏…って、お前の手を取って。
もう片方の手でしっかりとプリントを抱えて駆け出した。
逃げ切れるなんて思ってねぇけど。
オッサンに見つかるくらい、ラブいエアー(良く意味が分かんねーけど)を出してるっつー事は。
俺はそれ程にお前の事が好きなのかもしんねぇ。
そう気付いたら、今言わねぇとって。
なんだか気持ちが焦り出したんだ。
順番は逆になっちまったけど。
今からでも遅くねぇよな?
『好き』
たったその一言なのに、な。
口にしようと思うと、どんなセリフよりも難しいんだ。
たった一言、なのにそこに籠る想いは計り知れない。
「あれ?翔くん、職員室はこっちじゃ…」
「うるさい!いいから俺様の歌を聴け」
「えっ?あっ、はい!」
闇雲に走った俺は、突然思い立ったように立ち止まり。
挙句心配して声を掛けたお前にヒドく勝手な事を口走って。
でも、そんなの全く気にならないのか、ぺこりと頭を下げた奏が、優しい眼差しで俺を見つめる。
なぁ、まだうまく伝えらんねぇから。
『好き』って言葉はあまりに短いから。
そこに全部を込められる程、俺はまだ大人じゃないから。
素直に言えない想いは、この歌詞に込めたんだ。
だから『好き』の言葉の代わりに歌を歌うから。
お前の為だけに歌を歌うから。
お前は黙って俺様の歌を聴け。
そしてちゃんと受け止めろよ?
今はまだちゃんと言えねぇけど。
いつか言葉で伝えるから。
それまでちゃんと俺の傍に居ろ。
他のヤツなんて見ないで、俺だけ見てろ。
俺もずっとお前の事だけ、見ててやるからな、奏。
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込めた想いが多すぎて
閲覧有難うございました。
また別な作品でもお目にかかれましたら幸いです。