悪意の顔
この頃、気分がいい。今まで頭の中に渦巻いていた、怒りとか恨みといった負の感情がなくなってスッキリした気分だ。 この変化はいつからだろうか? そうだ、あれは一カ月前に先輩に会った時からだ。
性格が悪くて嫌われ者だった先輩が、急に優しくて前向きになって仲良くなり、性格がよくなる秘密があるから教えてやるよと言うから会いに行ったんだった。その先輩のお腹には奇妙な痣があって、これが悪い感情を吸い取ってくれるらしい。この痣に触れば俺にも同じ痣ができるから触ってみろよと言うから、ばかばかしいけどなんとなく触ってみたんだ。
もしやと思いシャツをめくって見ると、なんてこった、俺のお腹にも変な痣ができている。しかも、よく見ると顔の様にも見えるじゃないか。
最近先輩の姿を見ていない事に気付いた俺は、急いで先輩の家に行ってドアを開けた。いた、先輩はたしかにいた、しかしその目は虚ろで涎を垂らしている。しかし何よりも驚いたのは異常にお腹が膨れていることだ。
「先輩! 大丈夫ですか? いったいこの痣はなんなんですか?」
「先輩だと? ……ばかめ! 先輩とやらは死んだ」
俺の問いかけに何者かが答えた。その地獄の底から響いてくるような声は先輩のお腹から聞こえてくる。俺は恐る恐る先輩に近づき、震える手で先輩のシャツをめくった。
「ほう……お前も仲間だな」
先輩のお腹には浅黒い顔がくっきりと浮き上がっていた。そいつは俺を見てにんまりと笑うのだった。そしてその顔はおもむろに移動を始めた。お腹から胸、そして首を経て先輩の顔に移動したのだ。そして先輩のお腹に、うっすらと本来の先輩の顔が痣のように浮かび上がってきた。
「悪意こそ我が糧なり。お前もこうなりたくなければせいぜい他者に触れてもらうことだ。それで猶予期間が延びるでな」
哄笑する浅黒い顔に恐れおののいた俺は一目散に逃げ出した。それから先輩がどうなったのかは分からないが、俺は友人に会う度にお腹の痣を触らすのだった。
悪意の顔