Bleaze ①
ラグナロクオンラインのお話。
冒険者ギルドBleazeにまつわる話①
まだギルド出来てません。
Bleaze ①
暖かな春の陽気のプロンテラは、今日も良く晴れて心地のよい風が吹いていた。
明るい茶髪のソードマンはカプラの転送サービスの出口から出てくると、両腕をぐっと伸ばして大きく息を吸い込み、爽やかな気持ちで歩き出した。
何処へ行こう?取り敢えず足の向く方でいいかと、軽い足取りで街へ溶け込んでいく。
ソードマン・カルドは少々浮かれていた、今日からのカルドは昨日までと違い、思い悩むこともなく、これからは新しい出会いが待っており、新しい生活に入っていたからだった。
その浮かれた足取りは商人たちの出している露天を目移りしながらフラフラと街を進み、特に目的もないまま気が付けば中央を外れていた。
ありゃっと声に出した時には、雑踏はかなり後ろであり、一人で浮かれて歩いている事を自覚してカルドは苦笑した。
「まあいいよな今日くらい、このまま歩いていけば臨時広場に着くはずだし、せっかくだ、行ってみよう。」
知人に見られた訳でもないしと、照れ笑いをしながらも少年はまた歩き出す。
冒険者であればなじみの深い、一時的な狩り仲間を探す人間の集まる広場は南方向へ行けば着くはずだった。
とは言え、カルドは今回狩り仲間を探すつもりでそこへ向かうのではなく、だが手段の一つとして、臨時パーティはアリだと思っていた。
公平に経験値を分配できる、同じLv帯の冒険者には同世代が多く、話も合うし経験も似た様なものだから、結果誘いやすい。
偶然手に入った神秘の石でこれから作るギルドには、まだ加入する人間が決まっていないのだった。
浮かれたカルド少年の耳に、決して浮かれていない罵声が聞こえてきたのは臨時広場の裏手にあたる路地だった。
「だから、何か用があるのかって聞いてるんだ!返事くらいしろ!」
大声を出しているのはメガネをかけた黒髪の少年マジシャンだった。そしてその目の前には彼よりすこし小柄な金髪のシーフが立っている。ぱっと見眠たそうな目をした少年シーフは苛立った様子のマジシャンを見上げたまま「んー」と唸った。
「んー、で何かわかるかっ!」
どうやらあのマジシャンはシーフに声をかけられた(?)ようだが、会話が通じていないのだろう。シーフの反応はお世辞にもテキパキしておらず、マジシャンは気が短いのか何かの拍子に掴みかかりそうだった。
カルドは頬を描くと、小走りに近づいて言って二人に声をかけた。
「どうしたんだ?何かあったのか?」
「ああ!?次から次になんだ!?」
カルドは思わず間抜けなため息を付いていた。
普通に声を掛けたつもりだったが、すっかり苛立ったマジシャンには厄介事が増えた位にしか感じなかったようだった。
噛み付くように大声で言われ、カルドはどうしたものかと頭を描いた。
「なんだっていうか、何か揉めてるようだったから・・・。」
「なんでもないっ、くそ、用はないんだろ?俺は行くからな!」
ちょっとだけ、揉め事を解決したら勧誘しやすいという下心もあったけど。
そんなことを思っていたせいか、マジシャンはシーフを一瞥すると早足で歩き去ってしまった。向かう先は臨時広場ではなく、中央通りの方だった。
居た堪れない気持ちでシーフを振り返ると、眠たそうな黄色の目と視線がかち合った。
「シーフ・コレック。」
「へっ?」
自分を見上げる金髪のシーフは不意にそう言った。
「名前。」
「あ、ああ君の名前か、俺はカルドだ、ソードマン・カルド。」
自己紹介だったのかと、気づいたカルドは慌てて名を名乗る。
ぼーっとしているのか、ちゃんとしているのかわからないなと考えていると、シーフの口元がすこし笑っているのに気づいた。
「助かった。」
「ああいや、結局怒って行っちゃったし、俺何もしてない。」
シーフ、コレックの短い応答に、もしかしたらさっきのマジシャンは苛立っていたのかもしれない。手を横に振って、できれば助けたかったんだけどと零すと、コレックはにいっと口元を歪めて笑ったが、目は眠たそうなままだった。
笑っていた口元がつんと突き出されると。
「俺、話すの苦手。」
また短く言葉を紡ぐコレック、なるほど確かに「上手」ってことはない。
コレックはまた口元をほころばせた。
「カルドは助かる。」
「はは、そりゃ良かった。ところで結局何を揉めてたんだ?」
聞くと、コレックは「んー」と小さく唸った。
少々考えた後、ちらりと臨時広場の方を見て。
「臨時を聞きたかった。」
「臨時を・・・・・・誘いたかったのか?」
臨時を聞きたいっていうと、臨時の仲間を探していたってことだろうか。
聞き返すと、コレックは首を横に振った。
「臨時のやり方、何するか。」
「あー、臨時が何か知らなかったのか。」
なる程とカルドは頷いた、自分が見下ろすくらいには小さなこのシーフは、冒険者としてはまだ慣れていないのだろう。
カルドは臨時広場のある方を見ると、コレックに手を差し出した。
「来いよ、広場を見ながら説明してやるからさ。」
一瞬きょとんとした顔をしたが、コレックはまたにやりと笑うとカルドの手を取った。
臨時広場は今日もたくさんの冒険者で賑わっていた。
カルドと同年代の少年少女から、ずっと大人まで、職業も様々な人が集まり、これから行く狩りの仲間を探していた。
広場の端の木陰に腰掛けた二人は、まったりと臨時広場を観察していた。
「要するに、目当ての看板があるか探すか、自分で募集の看板を立てるかだな。」
「ほほう。」
一通り簡単な説明を終えると、コレックは納得したように頷いた。
シーフのジャケットの内側に手を突っ込んで取り出した冒険者章を見てから顔を上げ、臨時広場を改めて見るコレックは、すとんと肩を落とした。
「大分早いな。」
「ん?まだLvが低かったか?見せてみろよ。」
落胆した様子(?)のコレックの冒険者賞を覗き込むと、BASELvの欄に25と記載されていた。Lv25というと、まだポポリンでもイケるくらいじゃなかっただろうか。
自分たち一次職の臨時は転職追い込みが主なため、まず既に立ててある看板にはコレックの入れるパーティはないだろう。
「コレック、これならまだ暫くは一人で狩って上げたほうがいいぞ?
よかったら良さそうな狩り場を教えるよ、今どこで狩ってるんだ?」
「んー、ポポリン。」
冒険者章を返しながら言うと、コレックは緑色のぽよぽよの名を出した。
大体予想通りのモンスターを狩っていたのに頷いて、カルドは言った。
「そしたらもう少し経験値のいいところを教えてやるよ。
もしかしたらちょっときついかもしれないけど、なんとかなるだろ。」
「・・・・・・ほっ。」
ざしゅざしゅっと、火属性を持つ短剣の二連撃が決まった。
地に伏すウルフを見て頷くと、カルドは抱えていたウルフを指さした。
コレックはそれに答えて頷くと、キンドリングダガーを構え直して狼に襲いかかる。
ウルフ森と呼ばれる狩場は一次職の人気狩場だ。
ウルフは仲間の近くで戦うと、群がって襲って来る特性はあるものの、比較的狩りやすく倒したときに得られる経験値が高い。
冒険者アカデミーから派遣されているアインの助力も得られ、声をかければ冒険者仲間も出来やすいと初心者におすすめの狩場である。
先ほどコレック一人で挑んだところ、まだ殲滅力が低い様だったので、取り囲まれてしまったら辛いだろうと近づいてくるウルフをカルドが請け負うことにしたのだった。
ここに来てから聞いたところによると、コレックは冒険者アカデミーの仕事はあまりせず、狩りを主体にしているようだった。
冒険者アカデミーは初心者でも直ぐに力が得られるようにと経験値をもらえるクエストを仕事として出してくれているのだが、コレックはそれを疑問に思ったらしい。
『気に入らねー。』
と眉を寄せた表情は、多分そう言う事だとカルドは思った。
『力だけ、馬鹿みてー。』
間を挟みつつ続けられた言葉にカルドは思わずため息を付いた。
確かにアカデミーのクエストで手に入るのは「力だけ」だ。
クエストを通して知ることも勿論あるが、自分で調べる事や苦難に出くわすことはなかったように思えた。
この狩場に居るアインもそうだが、あそこは冒険者に対して過保護で、
それ故、新たに冒険者になった人間は、思慮が浅く騙されやすいのだと聞いていた。
「折角手に入れたレアアイテムをだまし取られるって話も聞いたなあ。」
「ばっかでー。」
ウルフに引っかかれた腕に赤ポーションを塗りながらカルドが言うと、コレックは抑揚のない声でそう言った。
一切の迷いがない声だった、コレックはぼーっとしているのに、容赦がない。
確かに騙される方は悪いかもしれないが、随分と厳しい意見だとカルドは思った。
「コレックは意外ときっついな、騙す人間がいるのが悪いとかは思わないのか?」
「騙すやつはいる、だから気をつける。」
キンドリングダガーの横薙ぎで倒されたウルフを見送ってカルドは問う。
どう見ても自分より年下の、幼さの残るシーフは亡骸の後から狼の牙を拾って言った。
相変わらず眠たそうな目をしたままのコレックに、カルドは足元に噛み付こうとしてるウルフを指さした。
「気をつけて足りないなら。」
ウルフを切りつけながらコレックは言った。
「お人好しを探す。」
「お人好し?」
続けて言ったコレックの言葉をそのまま聞き返すと、コレックは顔を上げてにやりと口元を歪ませた。
「『カルドは助かる』。」
「おう・・・・・・って、俺がお人好しって意味か。」
それさっきも言ってたなとのんびり聞いていたカルドだったが、気づいて言い返した。
お人好しねとカルドは思った、そう言われたこともあるが、取り立てて人がいい訳でもないと自分では思うのだ。
多分コレックが自分をそう言うのは、「ギルド入って」と言う下心をまだ伝えてないからなんだと、カルドは結論づけた。
「なら聞く。」
と、ウルフの攻撃を回避するコレック。
「礼に何が欲しい?」
にやりと笑うコレックに、カルドは苦笑いして頭を掻いた。
これは「いらない」と言うと確信して言っているのだろう。
うん、本当に俺にはなんの下心もないと思っているなと、案外警戒心のないシーフにちょっと笑ってしまったのだった。
「じゃあ、ギルドつくるところだから、メンバーになってくれよ。」
「・・・・・・うん?」
笑顔で手を差し出しながら言った俺の顔を見て、コレックはきょとんとして固まった。
ど正面からウルフの攻撃が腹に決まるまで固まってしまったコレックを、カルドは慌ててプロボックで助けることになった。
「そんな下心が。」
「あはははは、コレックも騙されてたな、いや俺がさっさと言い出さなかったのが悪いんだけど。」
腹と精神に大ダメージを貰ってしまったコレックは一度狩りを中断すると言った。
いや、精神の方が大ダメージかどうかは表情の薄い所為でわからないのだが。
「なんのギルドを作る。」
「んっ?まあ大した方針はないよ。」
木陰に腰を下ろして休憩をする間、武器を布で拭っていたコレックは聞いた。
カルドが取り出して見せていた神秘の宝石はエンペリウムと言う。
眉唾物の話だが、世界の運命を変えられる者の前に出るとか言う石で、冒険者たちはこの石の元にギルドを作り上げる事ができる。
「でも作るのか。」
「折角手に入ったからな、新しく仲間を集めて、目標も一緒に探そうと思って。」
短く問いかけるコレックに、カルドは笑って答えた。
目的もなしにギルドを作ると聞けば、大抵の人間はくだらないと言うだろう。
それこそこのエンペリウム、売ればそこそこの金になるのだ、中身のないギルドを作るよりも売ってしまったほうがいいだろうと言う人間もいる。
「でもこう・・・・・・、なんていうか、手助けしあえるギルドがいいな。
折角仲間になるんだから、だんまりのまま過ごすのもアレだし。」
「さすがお人好し。」
頬を掻きながら言うカルドを横目に見ながら、にやりと口元を歪めてコレックが言う。
その皮肉を聞いてバツが悪そうに、カルドは髪を掻いた。
「実はさ、ちょっと前までギルドに入ってたんだけど、そこの人たち皆俺よりLvも歳も上で・・・子供扱いっていうか過保護だったんだよな、いい人たちだったんだけど。」
少しだけ眉を寄せてカルドは言う。
「なんか一方的に助けられてるって言うのってさ、ありがたいけとこう、ストレスなんだよなー、だから・・・・・・お互い何か言い合えるギルドがいいなーと思って。」
「贅沢な悩みだ。」
恥ずかしそうに言うカルド、実際過保護に扱われていた事は、カルドにとっては恥ずかしい事だった。永遠に一人として認めてもらえないような錯覚に陥るほど。
ダガーを持っていない左の手のひらを空に向けて、コレックが呟いた。
「言うけど、今過保護。」
「えあっ、俺がコレックにってことか?」
コレックの指摘に、カルドは思わずエンペリウムを膝に落として驚愕した。
カルドとしてはちょっと手助けしたつもりだったのだが、狩場を教えてMOBをすこし引き受けただけで過保護なのだろうか。
無言で頷くコレックに、カルドは肩を落とした。
「フツー、狩場教えて終わる。」
「それは・・・・・・、下心があったってことで。」
「フツー、広場で出す。」
それは狩場を教えた時点でってことか?と、カルドは思ったが、確認して頷かれるのもショックな気がするのでやめておいた。
「ま、まあ・・・・・・その、それで下心の方なんだけど、
どうだ?ギルド、入ってみないか?」
気恥ずかしさに頭を掻きながらカルドは言った。
このシーフなら可も不可も一言でバッサリだろう、聞いたらきっと直ぐに結果は出る。
「ふむ。」
と思ったら前置きがあった。
そう言えば尋ねられていたマジシャンが苛立っていたのはこれが原因だったか。
一度キンドリングダガーに目を落としてから、コレックはカルドを見た。
「よかろう。」
Bleaze ①
すごい途中で切ってしまいました。
失礼ながら次がかなりいきなり始まると思います。
「お人好し」カルドさんと「口下手」コレックさん。
まだまだ駆け出し冒険者の出会いでした。