イス取りゲーム

 代々木にある専門学校に通うため、千葉で一人暮らしを始めてもう3か月になる。
初めのうちは学校に行ってバイトをして家に帰るだけでクタクタになっていたが今では少し余裕がある。
余裕が出てくると趣味でも見つけようとなり、趣味と言えるかどうかわからないが楽しみが見つかった。
満員電車である。満員電車と言ったら痴漢が趣味といってるみたいだが違う。
僕がハマったのは満員電車の中で如何に座るかというものである。


 朝の7時42分、銀色の車体に黄色の線が入った電車がホームに到着する。
他の乗客がどこかぼんやりとした顔の中、僕は戦場に向かう兵士のように緊張した顔つきで乗り込む。
座席の前にポジションを取りたいところだが、電車の中はすし詰め状態のため、ドアを少し過ぎた場所で立ち止まる。

 ドアが閉まり電車が走り出す。つり革につかまり辺りを見渡す。知った顔がいないか探す。後ろに190cm近くある大男がいることに気がつく。
こいつの名前は強面(こわもて)マッスル。その体格もさることながら全身が筋肉の鎧を着ているといっても過言ではない。
乗客をその顔で脅しその体格で座席に飛び込んでくる、フィジカルモンスターだ。奴と座席を争わない方が身のためだ。

 次第に次の駅が近づいてくる。このゲームで一番重要な場面だ。駅に着いた時の行動で座れるかどうか左右される。
西船橋~西船橋~ 車掌のアナウンスと同時にドアが開く。乗客が降りる。電車内に余分な空間ができる。強面マッスルがどっちに進むか判断し、反対の座席にすり寄る。
ドアが閉まる。ふぅ~とため息をつく。座席の前の人に挟まれる形だ。1駅でここまで来れたのは大きい。

 後は前の人が降りるのを待つだけだ。そこからが誤算だった。前の人が降りる頃には4駅が過ぎていた。
まぁ次の駅は秋葉原だから、たぶん座れるだろう。
アーチ状の橋を渡り終え気を引き締める。秋葉原が僕の通学路で一番座れる場所なのだ。

 秋葉原~秋葉原~、と車掌のアナウンスが聞こえてくる。ドアが開き乗客が一斉に降りる。前のサラリーマンは降りる気配はない。
だが隣の若いOLが立ち上がる。ラッキーと思い、座ろうとするとババアが空中でヒップアタックの姿勢を取っている。
急いで身を引くと座席にドスーンと衝撃が伝わる。周りの乗客が迷惑そうな目で見る。ババアは気にしない様子でガラケーをいじりだす。

 周りを見渡すともう空席は残っていなかった。
クソッ…俺としたことが周りに貪欲なババアがいることを見落としているなんて…。
こいつの名前は貪欲なババア。近くに空席ができるとヒップアタックで取りに来る。ちなみに彼女の間合いは半径3メートルだ。

 ここから先は死のロードだ。秋葉原を過ぎて座れたことは過去にない。
ここからは大胆に動いてでも座席を確保したいところだ。電車の中で一番席が動く場所がある。真ん中だ。
なぜかというと人が集まっているので席が動きやすいからだ。
だから僕はいつも真ん中に向かうようにしているが、その日は様子が違った。

 真ん中がやけに空いている。いつもなら座席の間に人の列が3列はあるはずなのに……
近づいてみると理由がわかった。酸っぱいにおいが辺りに漂っている。においをたどるとやっぱりあいつがいる。ワキガの白シャツだ。
真っ白なシャツのわきにベットリと、汗の染みがついている。ワキガの縄張りはいつもひどいことになっている。
周りの客はうつろな目で電車に揺られ、駅に着くと頬を膨らませながら電車を降りて行く姿をよく見かける。
こいつの縄張りは駄目だ。すぐ他の車両に移った。

 電車は代々木にもうすぐで着く。
はぁ~今日は駄目だったかなどと思っていると目の前の40代らしきサラリーマンが立つ。
目的の駅で降りられるとはついていない。
まぁ明日はきっと座れるさと思いながら専門学校に向かうのだった。

イス取りゲーム

この物語はフィクションです。
危険な着席行為はおやめください。

イス取りゲーム

電車の中での座席を巡る攻防戦 読者がツッコミになった気分でお読みください

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-08-02

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