温もりから伝わる
ときめきメモリアルGS2の二次創作です。
お相手は佐伯瑛くん。ヒロインの名前は森田夏海とさせて頂きました。
名前変換はありませんが、気分は夢小説…なつもりのお話です。
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好きだけじゃ足りない。
でも、他に言葉が見つからなくて。
足りない分の何かを伝えるために、人はこんなにも温かく生まれてくるのかも知れない。
「瑛くーん!」
「ん?」
って掛けられた声に振りかえるより早く、突然背後から首を絞められる。
「えへへっ、やっと見つけた」
「なっ!バカ!苦しいって」
恐らく本人は抱き付いてるつもりなんだろうけど。
背後から首に回された手が、俺の首を絞めるんだ。
つーか、本気で首絞めてるとかなら、ただじゃおかないけど。
「えっ?なんで?」
「首絞めてるだろ?おまえ」
「締めてないよ?もう!会いたかったから抱き付いただけなのに…」
と声のトーンは下がるものの、一向に離れる気配は見当たらない。
いや、会いたかったのは俺だってそうなんだ。
一応一緒に帰れないかと夏海の事探してたし。
帰る順番がどうとかウルサイ女子達の事も、適当に誤魔化して一人で帰って来たんだ。
「はいはい、分かった。分かったから、とりあえず離れろ」
それでもこんな言い方しちゃうのも、俺が悪い訳じゃないんだ。
だってさ…さっきから当たってるんだよ、胸が。
誘ってる訳じゃ…ないよな?
「えーっ!なんで?」
いや、なんでって、だから胸が当たってるんだって。
気付けよ、バカ!
そんな俺の心の声なんて当然聞こえないおまえは、更にギュッとしがみつく。
そうして柔らかなその感触は俺の背中にしっかりと伝わるんだ。
あーっ、おまえ、ホント無防備過ぎだから。
おまえにその気がなくても、コレじゃ俺の理性が。
しかも、まだ学校の近くならもう少し理性的で居られるのに。
間もなく珊瑚礁に辿り着くと言うこの距離。
俺はこれに感謝すべきなのか?
それとも嘆くべきなのか?
「だから、重いんだよ」
「瑛くん、コーヒー飲みたい」
だから人の話を聞け!
降りろって言ってるのに、全く降りようとしない所か。
挙句俺に負ぶって帰れと言うかのように、しっかり背負われる体勢を整える夏海。
おまえさ、この体勢で帰宅して、俺が素直にそのままコーヒー淹れると思うのか?
確実にコーヒー淹れる前に、なんかするぞ?俺。
「あーっ、もう分かったよ」
分かったのはおまえが降りる気がないって事。
「わーい!やった。今日は暑いし、冷たいコーヒーがいいね」
だから、コーヒー淹れるとか言ってないし。
そうしてマイペースで無防備な娘を背負って、俺は珊瑚礁へと向かう。
小さくなる理性と大きくなる欲望、それら二つには気付かない振りで。
「ほら、いい加減降りろ?コーヒー淹れられないだろ?」
珊瑚礁についたものの。
未だ降りる気配を見せない夏海。
「ねぇ、瑛くん、お部屋まで」
「はぁ?おまえなぁ、珊瑚礁へのあの階段でどんだけ俺が苦労したと思ってんだよ?」
「………」
俺の言葉に無言の夏海。
けど、首にしっかりと回されてる手が、ギュッとなって。
降りないって意思表示だけはしっかりと伝わるから。
女心は難しい。
いや、それを言ったら男心もそうなのかも知れない。
俺にはおまえの心が時に難しいように。
おまえには俺の心が時に難しいんだろうな?
それでも面倒だからもういい…ってなる訳じゃなくて。
ちゃんと理解したいって思うんだ。
二人は別々の人間で。
高校で再会するまで違う環境で暮らして来たんだ。
必死に解り合おうとしないと、きっと見失うものばかりが増えると思うから。
分かりづらい女心も、それが夏海の気持ちだと思うと。
解りたいって思えてくるから不思議だ。
「じゃあ、部屋までだぞ?」
「わーい!瑛くん、大好き」
人の気も知らないで、のん気な娘はまた俺にギュッとしがみつく。
背中にそれでなくても当たってる胸の柔らかな感触が、またさっきより鮮明に伝わって。
そうして無駄に俺の体温ばかりが上昇する。
いつだってフェアじゃない。
こうして俺ばっかがあたふたしてる。
そうして部屋へと背負ったまま連れて来たものの。
やっぱりおまえは俺から離れない。
いや、嬉しくない訳じゃないんだ。
「おい、夏海」
嬉しくない訳じゃないけど。
男だから、どうしたってすぐ欲望は大きくなってしまって。
それでも解るんだ、おまえの事だから。
そう言うつもりじゃない事も、甘えたいんだって事も。
女心は難しい。
それでもおまえの心なら少しは解れる俺で居たいから。
求めてしまう事はきっと簡単で。
でも、それはいつでも出来る。
こんな風におまえがただ抱き付いて甘えたいなら。
そう言う時は出来る限り、それに付き合ってやりたいから。
「ったく、俺の優しさに感謝しろよ?おまえ、ちょっとこっち来い」
そうして離れようとしないおまえを背中から無理矢理おろすと。
今度はフロントに移動させて、抱きしめる。
「瑛…くん?」
「いや、こっちのが楽って言うか」
我慢の問題的にだけど。
「あっ、重かった?」
だから、カッコよく決めようとしてるのに、どうしてそんな余計な質問をするかな、おまえは!
「そう言う事じゃないよ」
「ん?じゃあ、何で?」
訊かなくても解れ、それくらい!
「だから…その…あれだろ?おまえ、こんな風に甘えてたいんだろ?」
「瑛たん、凄い!」
「バーカ!それくらい解るよ。…けどさ、俺も…その…男だから…」
「ん?」
「だから、その…夏海が背中にギュってすると、その…胸がさ…」
「あーっ!瑛くん、エッチ!」
あんな甘えてたおまえが、今度は抱きしめてる俺の腕から逃れようとする。
「逃がすか、バーカ!」
けどそう簡単に離してなんかやらないんだ。
「だって…」
「だから、解ってるよ。そう言うつもりじゃないんだろ?解ってるから、こうして抱きしめてんだろ?」
「瑛くん…大好き」
抱きあう二人の距離は近い。
その近さで難しい相手の気持ちが、触れ合うその体温と共にじんわりと体に沁みてくるように。
さっきまでより少しだけ、おまえの事を解ってやれてるような。
そんな気分になって来る。
「あーっ、もう!バーカ!」
そしてその近すぎる距離で顔をあげて見つめられて。
そうして好きだなんて言われたら。
何もしないで抱きしめてる予定だったのに、思わずキスしちゃうんだ。
「あっ…瑛くん」
「大丈夫だって。何もしない」
キスはしちゃったけど。
「しても…いいよ?」
なのに、おまえはこんな風に俺を容易く煽る。
「バーカ、挑発すんな!まぁ、それはもう少し後でな?」
「えっ?」
「今は…もうちょっとだけ、甘えてても許す」
何かがあっても、おまえってヤツはそれを言葉にしないから。
いつも一人で我慢してしまうから。
だから、こうしたちょっとした変化に俺が気付いてやりたいって思うんだ。
問いただす訳じゃなく。
言葉じゃなくて、こうして抱きしめ合うその体温で。
おまえの寂しい想いを少しでも理解して。
そうして俺からも何か届けられるといいのに。
抱きしめたり触れ合うと。
どうしても男は余計な衝動に襲われる事があるけど。
それと同時にヒドク安らいだ気持ちにもなるんだ。
こうして腕の中でおまえの温もりを感じてると。
何が伝わってるのかは解らない。
でも、きっとこうして互いの温もりが何かを伝えてくれてるハズだから。
「あのー、瑛くん」
「なんだよ?」
「一体これは…なんなんでしょうか?」
「はぁ?おまえがしていいっつったんだろ?」
「えっと…あはははは、そうだったかな?」
「とぼけても無駄!」
そうして数分後、おまえの期待に応えるべく形成逆転。
現在俺のベッドの上で組み敷かれてる夏海はと言えば、往生際が悪いのか、こんな風にとぼけるんだ。
「あーっ、じゃあ、ちょっと、ちょっとだけ待ってくれる?」
「ヤダね!もう散々待ったんだ」
帰り道、抱き付かれたあの瞬間から、どんだけ我慢したと思ってるんだ。
「でっ、でも、瑛くん、マスターが…ねぇ?」
これでどう?とでも言いたげな笑顔で言うおまえに。
俺も満面の笑顔で。
「そうだね?じゃあ、声気をつけようね?」
と嫌味な程優雅にそう返してやる。
「瑛くん…その笑顔怖い」
「俺を挑発した事を存分に後悔させてやる」
そう耳元に囁いて、そのまま口づける。
抱きしめ合う時に伝わる緩やかな温もりも。
こうして激しく求めてる時の高すぎる程の熱も。
言葉じゃ足りない、言葉に出来ない何かを沢山俺に教えてくれる。
それと同じだけ、俺もおまえに何かを伝えられたらいいのに。
そんな事を思いながら。
「好き」
小さくそう囁いて、またキスをする。
好きだけじゃ足りなくて、でも他の言葉も見当たらない。
「どれくらい?」
そう訊ねる夏海に。
「どれくらい好きかは、これからしっかり教えてやるよ」
ってイタズラに微笑んだ。
言葉じゃ足りない分の想いはきっと温もりが伝えてくれるから。
あぁ、そうか?
だから人はこんなにも温かく生まれてくるのかも知れない。
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温もりから伝わる
閲覧有難うございました。
また別なお話でもお目にかかれましたら幸いです。