月と海とが寄り添うように
ときめきメモリアルGS2の二次創作です。
お相手は佐伯瑛くん。ヒロインの名前は森田夏海とさせて頂きました。
名前変換はありませんが、気分は夢小説…なつもりのお話です。
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眩しすぎる太陽の光で。
昼はその姿を捉える事の難しい月。
それでも確かにそこにある。
それは誰かを大切に想う、そんな想いと良く似ている。
「えっ?針谷くんと?」
「うん、そうなの。なんかアクセサリーとか選んでて。凄い楽しそうだったよ」
「そうなんだ」
「なんか、森田さんって、いつも佐伯くんと仲いい癖に。良く分かんない人だよね?」
不意に耳に届く夏海への非難の言葉。
こう言う瞬間が一番つらい。
その言葉を目の前の女子に言わせてるのは多分俺で。
夏海はコイツの言うようないい加減な女じゃない。
みんなに発表出来ないだけで、俺たちはちゃんと付き合ってるんだ。
好きだから気付くと目で追ってて。
好きだから一緒に居たくて。
少しでも話がしたくて、見かけると声を掛ける。
そんな俺の態度に取り巻きの女子達が気付かない訳がない。
だからいつからか、夏海はこう言う要らない意地悪を言われるようになったんだ。
そうして自分の女への非難の言葉に内心ムカついてる癖に。
何も言い返せない自分の不甲斐なさに、更にイライラしてくる始末。
親切を装って、夏海の悪口を俺に吹きこみに来た女子の話はこうだった。
この前の週末、夏海がアクセサリーショップで針谷と一緒に(その女子の勝手な基準によると)楽しげに、アクセサリーを選んで居た。
だから、恐らく夏海は俺にはいい顔してる癖に。
針谷と付き合ってるんじゃないかと。
そう言う内容だった。
いや、ハッキリとは言えないけど。
夏海は俺の女だぞ?
他のヤツ、よりによって針谷と付き合ってる訳がない。
あんなボンヤリなヤツが二股とか、そんな器用な事出来る訳がない。
いや、そんな事されて堪るか!
信じて居ても、心はもろい。
こんなくだらない一言でも俺の心をかき乱すには充分だった。
「あの…ゴメン!急ぐから、またね。じゃあ」
気になりだしたら居ても立っても居られない。
今すぐ夏海を見つけて、真相を確かめないと。
ザワザワする心が俺を急かす。
帰りに女子達に囲まれてるうちに、アイツが帰るのが見えたんだ。
だから一刻も早く、その後ろ姿を捉えようと。
しっかり前を見つめつつ走る。
頼むよ、違うって言ってくれ!
祈るような気持ちで夏海の家まで走ったものの。
結局その後ろ姿を捉える事は叶わないまま。
未だザワザワする心を抱えて家へと向かうその足取りはヒドク重い。
どんなに女子達に囲まれてても。
どんなに女子達から人気があっても。
アレはホントの俺じゃない。
だから、不安なんだ。
こんな俺をおまえは想ってくれてるのかって。
「遅いよ、瑛くん」
「ゴメン、ちょっと寄りみ………はぁ?何でおまえがここに?」
部屋のドアを開けるなり、さも当たり前って感じに遅いって言われて。
条件反射で不覚にも謝って気付いたんだ。
あんなに探してた夏海が俺のベッドに腰掛けてる事に。
「へへっ、一緒に帰れなかったから、待ってたんだよ?」
「俺だって、探してたんだ」
「そうなの?」
「そうだよ!」
驚いて最初こそは大人しかった俺だけど。
段々状況が分かって来たからか、その声は不機嫌さを増した。
「それで遅かったんだ?」
「あぁ。なぁ、夏海。おまえさ、俺に隠してる事ないか?」
単刀直入に“針谷と付き合ってるのか?”とは訊けなくて。
こんな遠回りな言い方したのに。
「えっ?かっ、隠し事?なっ…ない…です、全然」
と分かりやす過ぎる返答にリアクションに困ってしまう。
忙しなく目を泳がせて、変な敬語になってるし。
おまえ、隠し事下手過ぎだから、ソレ。
ツッコミたくても心が痛い。
隠し事をするって事は、そこに俺に知られたくない何かが存在して居るって事だから。
「ふーん、だったらいいけど、別に」
文句を言うには確かな事は何もない。
ただ隠し事をしてるらしいって事だけ。
心の中は不満と不安で一杯なのに。
それを吐き出す術がない。
なんて伝えたらいいのか判らないんだ。
それでも面白くない俺は、スクールバックを部屋に置いて。
そのままコーヒーでも淹れて来ようと、その事を夏海に一言も告げづにクルリと背を向けると。
「わーっ、瑛くん、ごめんなさい!私、やっぱりこう言うのダメだよ」
「はぁ?」
いきなり背後から抱き付かれて、全く意味が理解出来ない。
こう言うのって、どう言うのなのか、まずそこからして理解出来ない。
「だから、隠してる事」
「はぁ…やっぱ、なんか隠してるのか?」
「ごめんなさい」
「針谷か?」
「黙ってた方がいいって言うから」
つーか、マジで針谷と?
なら、何で今俺に抱き付いてるんだ?
あれか?針谷とはほんの出来心で、俺が好きだから許してくれとか。
そう言う展開狙ってんのか?
「で、どうしたいんだよ?」
針谷と俺、どっちをとる気なんだよ、おまえ。
「どうって…少し早いけどいいかな?」
「はぁ?」
「えっ?」
「バカ!明らかに話噛み合ってないだろ?」
「そうなの?」
「いや、どっからどう見ても噛み合ってないだろ?今の」
少し早いけどいいかな?って、なにがなんだかサッパリ分からない。
「えっと…」
俺の言葉に少し考えるようにそう言った夏海は、そのまま俺から離れて、スクールバッグから何かを取り出した。
「これ」
「なっ、なんだよ、それ」
訊くまでもなくプレゼント。
そう、間もなく夏休みを控えた今。
俺の誕生日か間近に迫って居たんだ。
あぁ、バカだ。
夏海の想いを疑うなんて。
俺はどうかしてたんだ。
弱い自分が、今日の女子のあの一言に惑わされた。
信じてない訳じゃないのに。
ただ、怖かったから。
こんな俺は本当におまえに愛されて居るんだろうかって。
「ちょっと早いけど、プレゼント。おめでとう…は当日言わせてね」
だなんてニッコリ笑って手渡した箱。
「これ…」
「本当はね、瑛くんと一緒にサーフショップとかで、カッコいいアクセサリー選ぶのもいいかなって思ったんだけど。一人で考えて渡した方が驚いて貰えるかなって思って」
その一言で、全部が繋がった。
思い返してみたら、最近やたらと針谷が俺に付き纏って。
色々とアクセサリーの話をしてたんだ。
オレ様はこんなアクセが好きなんだ…とかなんとか。
そして、佐伯の好みはどんなだ?…って。
確かに色々質問もされたんだ。
それもこれも、夏海のこの想いに繋がっていたなんて。
「バカ」
ありがとうとか素直に言えなくて。
大好きだって言葉も出て来なくて。
喜びとか愛情とか、感動とか…そしてそこにまだ残ってる僅かな不安も。
色んなものがない交ぜになって。
溢れる想いに急かされるみたいに、強くおまえを抱きしめた。
そうして、傾いたオレンジの日差しが差し込む窓辺のベッドに、俺達は口づけながらその影を重ねた。
「ねぇ、瑛くん」
「ん?」
「月、綺麗だね?海、見て」
遅くなったからって、一人で平気だと言う夏海を半ば無理矢理送ってやる帰り道。
バイトの後に送ってやる時も、おまえは良く海を気にして居たっけ。
「あっ、海に映ってるのか?」
「うん、なんかね、コレ見ると月が海に寄り添ってるみたいに思えるんだ」
そう言って嬉しそうに、繋いでる俺の手をぎゅっと握る夏海。
一見遠く離れてるかのような月と海。
けど、知らずにこうして夜は寄り添い合ってるのかも知れない。
「まぁ、そう言われれば」
なるほどって思ってる癖に、素っ気ない言い方しか出来ない俺は、ホント素直じゃない。
「昼間も月見える事あるよね?」
「あぁ、こんなにハッキリと見える訳じゃないけど、なんか白っぽく見えるよな?」
「ふふっ、じゃあ、きっと気付いてないだけで、昼間も寄り添ってるんだね?みんなに隠れてこっそりと」
そう言った夏海は繋いだその手を離したかと思ったら。
今度はその腕に甘えるみたいに絡みついてくる。
「なっ、なんだよ?」
「ちょっと寄り添ってみたくなったの」
笑いながらそう言った。
そうして月と海みたいに寄り添いながら、二人で歩く帰り道。
首にはさっき貰ったばかりのペンダントが小さく楽しげに揺れていた。
俺達は月と海に良く似てるかも知れない。
昼間は学校があるから、こんな風に堂々と寄り添い合う事が出来なくて。
それでも傍に居たいから。
みんなに隠れてそっと寄り添い合う。
そうして迎えた翌日。
廊下を歩いていると、西本や小野田と一緒に歩く夏海を捉えた。
すれ違う直前に、イタズラに微笑んだ夏海は、すれ違いざま僅かにその手で俺の手に振れた。
―ドクン。
たったそれだけの事で胸が高鳴って。
自分でもバカみたいだって思うけど。
寝不足で疲れてるのなんて、吹っ飛んでくみたいに。
やる気とか元気とか、そんな力が湧いて来ちゃうんだ。
でも、おまえに言ったら絶対調子に乗るから。
教えてやらないけど。
触れた手はまるで昼間の月と海のように。
誰にも知れないように、それでも寄り添いたい二人の想いの形。
見えなくて分かりづらくても月が昼もそこにあるように。
時に見つけられなくて不安になる事もあるかも知れないけど。
いつだって変わる事なく月は海に寄り添うように。
俺達の想いも寄り添っているハズだから。
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月と海とが寄り添うように
閲覧有難うございました。
また別な作品でもお目にかかれましたら幸いです。