注射器と拳銃
あなたが一つ一つ重たい荷物を拾い上げるように命を救うなら、私は呼吸するかのように人を傷つけ、命を奪うの........
約束
少女はただ前を向いていた。足下にはもう道など無くただ長い髪が風に吹かれなびいていた。
振り返ると少年が立っていた。彼の顔は青ざめ、震えた手は銃を握っている。
振り返った少女は「約束でしょ?」と言った。とても覚悟に満ちた瞳だった。「あぁ・・・そうだな。」誰かが少年の銃を握った手に触れた。
「撃つのよ」誰かが言った。きっとその誰かは今まで救われなかったものたちだろう。
「さぁ」誰かがさらに促した時には少年は少女に向けて撃っていた。だか弾は少女を掠っただけだった。少年はうつむき、撃てないよと愚痴を吐くように呟いた。
少女が返事をしないので顔を上げ目を見開いた。
そこに少女はいなかった。
飛び降りたのだと悟ったのは下を見てからだった。
呼吸
私が、初めて人を殺したのは7歳の時だった。
初めて、殺したのは当時の組長「稲賀」という人物だ。
稲賀は人とは言い難いくらい残虐な人物だった、組でも恐れられてきた人物である。
殺したとき、稲賀の喉からは血が噴き出ていたけれど絵の具の色にしか見えなかったし、感じなかった。
私に裏切られた稲賀は、私をすばらしい暗殺者そうアサシンになると毎日毎日飽きずに期待していた。
その期待は当時の私にとって悪いものではなかった。
子供を信頼しきった顔で、期待してるからなと言っていた稲賀が大好きだった。
だけど、ある日の稲賀は私の逆鱗に触れた。
「ごめんな、夕凪。 お前の母ちゃんは死んでもらわなくちゃいけなかったんだよ」
この一言で、私はその時まで好意を寄せていた稲賀に殺意を覚えた。
それからもその殺意に気づかない無能なな組長は「お前の父ちゃんはすばらしい人だったぞ。おっと、時間がねえや。またな」
馬鹿だなあ、今からお前は私に殺されるのに。
父は、有名な名医。 それは、全くの嘘で医療ミスを装い依頼された人物を殺してきた。
稲賀の言う通り、殺人のプロの父を持つ私が何を考えているかわからない小娘を信用しきった無能な組長を殺せないわけがなかった。
予想どうりにあっさり稲賀は死んだ。
『お前の母ちゃんはな........』手にまだ、喉を切った時の感触を覚えていながら稲賀の言葉を思い出した。
母は、気づけばそこにいなかった。 仕事、そう人を殺すことに失敗し組の内部にまで至る痛恨のミスをした。
だから、組に殺された、存在自体なかったように揉み消され、かき消され、今まで散々人を殺し、組に貢献してきた汚れた手も、もうこの世にない。
「組長、あの時から私に裏切られてたんだよ?」
足元に転がった稲賀の遺体というより死骸に近いものに言い放った。
稲賀の部下が、「組長、どうされましたか?」と言いながらドアをノックし「入りますよ」と言ってドアを開けた。
私はとっさに隠れようとしたが何もない稲賀の部屋に隠れ場所などなかった。
入ってきた部下は母を殺した斎藤という人物だった。
稲賀の死体を見るなり、驚きもせず「お前がやったのか?夕凪」と私に声をかけてきた。
「だったら殺す?」死んだ稲賀に、そして斎藤に問いかけた。
「殺さねえよ、生きて償え。 お前の母親みたいにな。」と言い放って急に叫んだ。
「くっ、組長が死んでる!!!!」と叫んだ。
廊下から足音がバタバタとする。 斎藤は自分の部屋に戻れと、私を部屋から追い出した。
自分の部屋に戻って、私は「ママ....」とつぶやいて気を失った。
注射器と拳銃