僕の世界は(仮)
僕はおかしいですか?それならあなたもおかしいです。
プロローグ
まわるまわる地球はまわる。
まわるまわる僕の世界はまわる。
僕はよく考える。
人は死んだらどこに行くのだろうと。
僕はよく考える。
僕は死んだらどこに行くのだろうと。
息を吸って吐いて
瞼を開いて閉じて
あと何回繰り返すのだろうか
あと何回心臓は動くのだろうか
僕はひたすら考えるんだ。
この広い世界の端っこで
この広い僕の世界の真ん中で
友
僕の名前は滝口信之助
いい名前でしょ
名前なんかどうでもいいんだけどね
私立光永高校3年生
受験生です。
何も決めてないけどやりたいことは山ほどある。
お友達はいないけど、一人で十分楽しい。
寂しくなることなんて随分感じたことない。
寂しいなんて感情はとっくの昔に捨てたから。
だってもったいないでしょう。
考え方を変えればもっと明るく楽しいことが待ってるのに
僕は今日も学校へ行きます。
馬鹿でかいヘッドフォンでロックンロールを聴きながら
自転車に跨り、最寄り駅へと向かう。
駐輪所に自転車を停めて、いつものおじさんに挨拶をする。
リズム良く階段を上って定期を改札へとかざして駅のホームへ下りる。
いつもの電車がやってきて空いてる席に座る。
いつもと変わらない朝
学校までは2時間かかる
地元からは少し離れた学校
知り合いは誰一人いない
母が言う
「信之助は新しい学校でやり直すのよ」
なにをやり直すのか僕にはわからない
いじめられてたわけでもない
きっと浮いていたんだろう
僕はおかしい子だから
別に自覚しているわけでもない
僕は普通に生きているだけだから
学校の最寄り駅に近づく
僕は宇宙柄のリュックを背負って立ち上がる。
両隣の香水臭いお姉さんから離れると
今度はサラリーマンのおじさん達の加齢臭が鼻に付く。
いつものことだから気にしない
軽く鼻を啜ってドアの前に立つ。
駅が見えてきた。
僕の住んでいるところよりは田舎だけど僕は好きかも
ひょいっと電車を下りたなら
キョロキョロと左右を見回して
階段に一番近い方向へと足を進める。
再びリズムよく階段を駆け上がれば
同じ制服の人たちが僕を前から後ろから追い抜いていく
僕は立ち止まって目を閉じ深呼吸をする
後ろでは僕が邪魔なのか舌打ちをして追い抜いていく人がいる
僕はそれでも気にしない。
目を開いてよしっ、と再び歩き出す。
定期をかざして改札を抜ける。
同じ制服の人達や違う制服の人たちはがやがやと楽しそうに喋りながら僕の隣を過ぎていく
僕も自分のペースで人を追い抜く
スーツを着たサラリーマンが急いで走っていく
僕は自分のペースで歩いていく。
階段を下りたならスクールバスのバス停へと向かう。
バス停には先生達が生徒を指導している。
「おはよーございます。」
僕はヘッドフォンをずらして首にかけて先生にペコリと頭をさげて挨拶をした。
「はい、おはよう。ってお前髪の毛それじゃ入れないぞ」
がしっと髪の毛を掴まれる。
マッシュルームカットに整えた金髪の髪の毛を痛いくらいに掴まれた。
「せんせー痛いよ」
「染め直せっていってるだろ」
何度目だろうか。
入学してからずっとか
金色に染め直すことはあっても
黒には染め直したことがない。
僕は黒が嫌いだから、黒はコワイ
僕は金が好きだから、金はステキ
「いやです」
にーっと歯を見せて笑う
先生は呆れて僕を離す。
その隙に急いでバスへと乗り込んだ。
再びヘッドフォンをつける
乗り込むのが遅くなったから今日は座れなかった。
出入り口に立って寄りかかる
学校までの道のり
見慣れた景色
僕は音楽に合わせて体を揺らす
ふと横を見ればスカートの長い女子生徒と目が合う
その子は僕の目をみつめてて、僕は笑いかけた。
彼女は顔を赤らめて目をそらす
僕はそれをみてまた笑った
再び外へと顔を向ければもう学校の校門
バス停にバスが停まって出口が開く
僕は一番に飛び出した
入り口につながる長い坂を少し早歩きで上る
入り口の前にはやっぱり先生がいて
さっきと同じやり取りをする
これもいつもと変わらない光景
やっとのことで校内へと入れば
教室へと向かう
ロッカーの鍵を開けて
ローファーと上履きを履き替える。
ガラっと扉を開ければみんなの視線が僕に集まる
「おはよーっ」
ヘッドフォンをはずしてにこーっと笑って見せた。
するとみんなは苦笑いで「おはよう」と答える。
これもいつもと変わらない光景
机の隣に荷物を置いてベランダへと飛び出した。
手元にはお菓子とカメラが入った巾着袋
6月のいい天気
僕はベランダの手摺りに寄りかかり空を見上げた。
カメラを取り出してカシャリと一枚空をおさめる。
「滝口くん、先生きたよ?」
後ろから声がして振り向けば同じクラスの女子生徒がいた。
「ほんと?今戻る」
巾着袋を持って急いで中に入る。
みんなで挨拶をして自席につけば先生が話し始める。
そこからは机に伏せて眠っていたからわからない。
僕は夢をみた。
友達がいた。
笑ってた。泣いていた。
恋をした。失恋をした。
「・・・ぐち・・・滝口」
体を揺すられ起こされる。
ばっと体を起こせば同じクラスの男子生徒
「あ、おはよぉ・・・」
寝ぼけ眼で目を擦り欠伸をする
「おはようじゃねえよ。もう終わったぞ」
僕の隣の席へと腰掛けて彼は僕の顔を覗き込む
「え?あぁ次はなに?」
やっと思考をまわらせて次の授業は何かと彼に聞く。
「次は帰るの」
はぁと呆れて溜め息をついた彼は僕のリュックを持って渡してきた。
「もう帰るの?僕そんなに寝てた?」
渡されたリュックに今日一度も使っていない筆箱をつめて
教科書をロッカーにしまおうと立ち上がる。
「俺、入れてくるよ。番号は?」
彼は僕の腕から教科書を奪う
「ありがと。えっと、1245。あ、ねえ!名前は?」
僕はすんなり彼にロッカー番号を教えた。
代わりに僕は名前を尋ねた。
彼は「辻本康広」といって教室を出て行った。
ふと窓の外をみつめる
外はいい感じの夕暮れ
こんな時間まで僕は寝てたのか。
カメラを持ってベランダへでる。
僕は夢中でシャッターをきった。
「おい、なにしてんの?」
後ろから声がして振り向く
彼が不思議そうな顔で僕をみつめてた。
「写真、撮ってたの」
ラスト一枚写真を撮って教室へと戻る。
よく考えればこんな時間まで僕のことを待っていてくれたこの人って。
「あっそ。あ、早く帰れよ?」
彼は荷物を持ってすぐに教室をでてしまった。
僕は急いで追いかけた。
ロッカーで再び出会い靴を履き替える。
「ねえ、一緒に帰ろうよ」
僕は初めて人を誘った。
いつもと違う帰り
「え?」
彼は驚く。
僕は笑う。
「僕と帰ろう?」
僕より少し背の高い彼を見上げて首を傾げる。
彼は驚きながらも頷いてくれた。
僕に初めての友達ができました。
.
恋
ある日の朝
いつものように登校して教室に入る。
「おはよーっ」
みんなはいつもと同じように苦笑いをする。
「おはよう。信之助」
いつもと違う光景
僕には友達ができたから。
康広が僕の席に来てくれた。
はじめの内はみんなざわついてた。
友達がいないはずの僕に友達ができたから。
「おはよー、康広!」
僕はリュックを置いて中から棒付きキャンディーを取り出した。
「どっちがいい?」
ピーチ味とサイダー味
「信之助はどっちがいいんだよ」
康広は優しい。
僕は嬉しくてサイダー味のキャンディーを引っ込めて
ピーチ味を康広に渡す。
「だと思った」
くすっと笑われた。
康広はビニールを剥いてキャンディーを口に含む。
僕も同じように口に含んだ。
剥いたゴミを康広は捨ててくれる。
「一限目は移動教室なんだから早く支度しろよ」
キャンディーの棒をクルクルと回してたら康広が自分の荷物を持って待っていた。
「あぁ、ごめん。今準備する!」
僕は立ち上がり筆箱を持って廊下にあるロッカーへ向かう。
荷物を取り出せばしっかりと鍵を閉めて先に歩き出した康広を追いかけた。
再びキャンディーの棒を回しながら歩いていれば前からきた女の子にぶつかってしまった。
「きゃっ」
小さな悲鳴が聞こえて慌てて下を向けば転んでいるその子。
「あっ、ごめんね。大丈夫?」
僕は荷物を康広に預けてしゃがみ込む。
女の子は慌てて落ちた教科書を拾っている。
運悪くクリアファイルから落ちたプリントが散らばってしまっていた。
僕はそれを一枚一枚拾い上げて綺麗に叩く。
「はい、これ。ごめんね?」
僕は女の子に拾ったプリントを渡す。
「あ、だ、大丈夫です。あの、あ、すいません。」
ばっと立ち上がった彼女の顔は真っ赤ですごい汗をかいていた。
僕は心配になって立ち上がりおでこに右手を触れた。
熱はない。けどドンドン赤くなる。汗もでてきた。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です!」
僕の手を振り払う彼女
唇を噛み締め、教科書を抱きしめて顔を真っ赤にする彼女を不覚にもかわいいと思った。
初めて人をかわいいと思った。
「そ、そう?ならよかった」
僕がいつもの笑顔でいうと彼女は頭を下げて足早に反対方向へ行ってしまった。
僕は康広から荷物を受け取り目的の教室へと足を進めた。
僕の世界は(仮)