なくしもの
俺の頭の中の容量は小指の爪くらい
記憶
どこに記して
覚えているんだろう
大事なことってなんだ
わすれちゃいけないことだ
頭の中にとどめておかなければいけないこと
頭の中の脳みその中に焼き付けて
あるいはどこかわからない心の中に染みこませて
身体に馴染ませなくちゃいけないことだ
忘れ物はなんだっけ
探していたんだっけ
もう見つけたあとだっけ
何をしていたんだっけ
何をしようとしていたんだっけ
無くしちゃったんだっけ
見つからなかったんだ
わすれてしまうことは悪いことじゃない
なんてことを誰かが言っていた
わすれられてしまうのもかなしいことじゃない
ってことも誰かが言っていた
覚えてる?って聞かないで
わすれるなんてだなんて
まだそんなことを根に持って
思い出にしがみついている
覚えていることは
正しいとは限らない
次第に曲がって歪んでそうしてできていく記憶は
いったいどこまでが妄想でどこまでが憶えたこと?
憶え続けていること
焼き付けられたこと
染みついたもの
馴染んだもの
たぶん
たぶん、きっと、たしか・・・
曖昧な俺は
曖昧な記憶で成り立ってる俺は立っているのもやっとで
小指でつつかれたら倒れてしまう
失くし
無くし泣くし
鳴くし・・・
暑い中みんな泣きすぎじゃないかな
ゆらゆら陽炎と熱い渦のなか
俺からいろんなものがなくなっていく
干からびる
なくしていってしまうむなしさと
妄想交じりの曖昧な記憶達とのやり取りの中で
俺以外の誰かの記憶
憶えてるって聞いた君とか
わすれるなんてって驚いた人とか
それいがいにもたくさん
憶えておきたいことばかりわすれていく
忘れていきたいことばかりおぼえていく
覚えようとじっと見つめていた文字たちに謝って
憶えようと繰り返していた音たちに謝って
考えなさいと偉そうに命令してしまっていた頭に謝って
俺が動き始めて手足の小指の先までに
いろんなものがめぐっていく
思い出した?
憶えてた?
忘れてた?
失くしてた?
今気づいた
わかった
記して憶えてください
そうだな、何にかこうか・・・
なくしもの