振り返る

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振り返るのが強さ、振り返らないのは意地を張ってるだけの弱さ・・・。

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 「行ってきます~」通学の朝、小学生の僕はそう言いながら家の玄関を飛び出した。
僕は学校に出かけるときに必ずすることがある。それは、途中で一度振り返って見送ってくれる母さんに手を振ることだ。
僕はいつもそんな当たり前のことが嬉しかったんだ。おそらく、母さんが僕を見守ってくれているそんな感じがどこか心を落ち着かせてくれるからだと思う。
中学生になってからもそんな僕の習慣は変わらなかった。いつも学校に出かけるときには見送ってくれる母さんに途中で一度振り返って手を振っていた。
しかし、高校三年生のとき、言わば進路に悩みだすときに僕は母さんと進路のことで喧嘩をしてしまった。しばらく、母さんとの険悪な仲が続いてその間は学校に出かけるとき、僕は途中で振り返って手を振ることをしなかった。そのまま振り返らずに下を向きながら学校へと向かっていった。
そんな日々が続いているとき、僕はまたいつものように学校へと出かけた。以前なら振り返って母さんに手を振っていた距離に差し掛かるとふと僕は路地のカーブミラーに目をやった。
そこには僕のことを見送ってくれている母さんの姿があり、それを見た途端に僕は以前に感じていた。見守ってもらっているという安心感とそれと同時に母さんへの感謝の気持ちが一気に胸に込み上げてきた。たまらず僕は振り返って手を振ろうと思ったがこんな今にも泣き出しそうな顔、母さんには見せたくなかった。だから僕は母さんに背中を向けたまま右手をあげて心の中で「行ってきます」と呟いた。
 僕は何をやっていたのだろう。何の意地を張っていたのだろう。どんなに仲が悪いことがあっても家族なのに・・・。そのことがあってから僕は学校へ行くときは途中で振り返って母さんに手を振ることをまた始めた。

今まで振り返らなかった僕は弱かった。だけど、これからはどんなに喧嘩してもこれだけは欠かさない、そんなことを心に思い僕は今日も母さんに振り返って手を振る・・・。

 
 

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-29

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