サンタとの約束

 短編小説2作目です。
サンタ見習い・美冬の初仕事の話しです。
よろしくお願いします。

 今日は聖夜。
 子どもがサンタからのプレゼントを”わくわく”、”どきどき”して待つ日。
 雪がちらつき始める。
 空から雪と一緒に滑空してくる人々がいる。
 人々は思い思いの通りにばらける。
 1人が空中で停止する。
 トナカイの顔がプリントされたスノボに乗る。
 茶の瞳、茶の髪をポニーテールに。やる気の表情。
 帽子、上着、ミニスカ、手袋、ブーツ、紅白の衣装に身を包む少女。
 地図を右手に持ち、凝視する。
 私は美冬。職業、サンタ・・・・・・見習い。
 今日は初仕事の日。今日をクリアできれば、晴れてサンタとなれる勝負の日。
 地図を四つ折りに畳み、上着の内ポケットにしまう。
 右足に力を入れると、再び滑空し始め、1件目の家へと向かう。

 昔のサンタは煙突から入ったそうだが、今、そんな家はほぼない。
 人に見つからないように周囲に溶け込み、静かに移動する。
 窓の目の前で停止する。
 人がいない事を確認し、符を窓に貼り付ける。
 符を貼った場から直径50センチの円形状の波紋が現れる。
 手で窓を触ろうとすると、手が通り抜ける。
 この要領で、室内に入り込む。スノボは室内の壁に立て掛ける。
 子どもが寝ている事を確認。室内の配置を確認。
 そして、プレゼントを手元に具現化する。
 靴下の中にプレゼントを入れる。靴下がない場合は子どもの近くにそっと置く。
 スノボを持ち、窓から外へ通り抜け、符をはずし、その場を離れる。
 無事、任務完了。
 迅速、且つ、正確に遂行する。
 2件目、3件目、4、5、・・・、9件目完了。
 初めてでこの優秀さはすごいと自画自賛し、最後も楽勝だと考える。
 気合いの独り言が漏れる。
 「よしっ!次でラスト!余裕ね!」

 最後の配布場所は、マンション最上階の一室。
 スノボで滑空しながら、上昇する。
 目的の場所で停止。窓に符を貼り付け、身体を室内に滑り込ませる。
 ベットに目を向けると、顔は見えないが、布団のふくらみで、”寝ているだろう”と確認。
 右足を踏み出した瞬間、おもちゃ箱に足を取られ、転ける。
 真下の確認を怠った結果―――。
 「ゲフン!」
 ドスン
 大きな音を立てる。受け身をする余裕がなかったので、顔面強打。
 床とダイレクトキスする羽目に。
 痛みに涙ぐむが、まだ仕事は終わっていない。
 床から離れ、顔を上げると、子どもと目が合う。
 まぬけの声が出る。
 「へっ?!」
 サンタのタブー「子どもに見つかる事」を破った瞬間である。
 先程の音で起きたと思われる。
 美冬はパニックに陥る。
 子どもがベットの上から怪しい者を見る目で話しかける。
 「あんた、だれ」
 美冬はターゲット情報が書かれた紙を広げ、名前を確認し、答える。
 「颯太くん、私は怪しい者じゃないよ!」
 冷や汗だらだら。颯太の冷静なツッコミ炸裂。
 「なんで、おれの名前知ってるんだよ。不法侵入の上に変質者か」
 最もな問いに焦る。
 「い、い、いやいやいやいや、私、サンタだし!変質者じゃないから!それに、私は”美冬”っていう名前があるんだから!」
 から~、から~、から~、響く空間でもないのに、エコーがかかった気がした。
 美冬も颯太も口を開かないので静まり返る。
 シ―――ン
 沈黙が重い。颯太が、口を開く。
 「馬鹿じゃねぇの、あんた。サンタなんかいる訳ねぇじゃん。ああいうのは、親が変装してんだよ。やっぱ、変質者か。親呼ぶか」
 言葉の矢がグサグサ刺さる。だけど、1つだけ否定されたくない事がある。
 「ま、ま、ま、待って!本当だって!証拠ならあるから!」
 半目で凝視する颯太。
 サンタの力-子どもの願いを具現化する力。
 直立し、右手を伸ばした瞬間、ドアのノック音が聞こえ、颯太の母親らしき人物が現れる。
 美冬は瞬時に壁と一体化する。
 母親らしき人物が訝しみつつ、問う。
 「颯太、何か音が聞こえたのだけれど」
 颯太は美冬の事を言おうとしたが、どこにもいない。
 室内をくまなく確認するがいない。
 目を見開く。ゆっくりと目を閉じ、開ける。
 「お母さん、何もないよ」
 「そう」
 安堵した表情を浮かべ、母親は帰って行った。
 壁との一体化を解き、夜が明ける。
 再び、パニックに陥る。
 「任務は未完了」、「子どもには見つかる」、最悪の状態だ。
 項垂れる。
 颯太は提案を出す。あまりにも不憫だったので。
 「プレゼント、おれが成長したら、渡しに来い。それで、今夜の出来事は忘れてやる」
 満面の笑顔を浮かべて。
 「うん!必ず」
 美冬は、スノボを取り、窓から外へ。空へと消える。


                                                                                                                                                                                           
 あれから8年。俺は15歳になった。
 7歳の時、サンタのコスプレをした少女・美冬が部屋に不法侵入し、サンタと言い張ったり、プレゼントを渡すと言ったりと、奇妙な出来事が起きた。
 俺に見つかってパニックに陥った美冬に”成長したら、プレゼントを渡しに来い”と約束したのだが、未だに来ない。
 忘れてるんじゃないだろうか。
 こんな事を考えてる自分に腹立たしさを覚える。
 まるで、自分が待ち侘びてるみたいじゃないか。
 多分、こんな考えが浮かぶのは、今日が聖夜だからだろう。
 そう思いつつ、家路へと急ぐ。 

 周囲が寝静まった深夜。
 まだ俺は起きていた。美冬が来る事を信じて。
 すると、窓を叩く音がする。待ち侘びた音。
 トントン
 大人っぽくなった美冬が満面の笑みを浮かべて。
 窓を開ける。第一声がこれだ。
 「プレゼント届けに来たよ!私と友達になろう!」
 照れ隠しの苦笑いをしながら。
 「しょうがねぇな」


 俺がサンタに願った事―――――「友達が欲しい」。

サンタとの約束

 読んで頂き有り難うございました。
如何だったでしょうか。
サンタネタです。12月なのできり時期はずれではないかと。

サンタとの約束

聖夜。サンタ見習いの美冬は初仕事に赴く。順調に仕事をこなし、ラスト1件となる。しかし、思いがけない事態に。美冬はどのように立ち向かうのか。そして、プレゼントは子どもに届くのか。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-12-31

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