空蝉~虚脱の恋~

 うつせみ……それは、私の経験した魂の虚脱の恋だった。
 七月も半ばは青い空に蝉の鳴き声が響き渡り、緑の木々が揺れる木漏れ日には空蝉(うつせみ)……、蝉の抜け殻がからりと転がっていた。
 汗を流しながら私はそれを見つけ、息を切らしてはしばらくは見つめていた。どこまでも続く広い芝に覆われた丘は親子連れが多く、ペットを連れた主婦も歩いていた。踏まれるのでは可愛そうに思い端へ寄せ、低木の陰、草木のなかに紛れた。魂が少しでも安らぐように。
 私自身は青空に溶け込みたいぐらいに自分の心情は無心だった。
 だんだんと恋をする感覚など忘れていくのだ。恋の記憶だけを引き連れて歩くには一人は寂しい。それでも恐い。恋愛は恐い。
 蝉はあんなに精一杯の愛を叫び、そして全てを成し遂げ空蝉へとなっていくというのに、私は愛に臆病だ。蛍が愛を囁く様に、ツバメが愛情を確かめて共に空を滑るように、素直に表現する素晴らしさを。
 今まではしっかり愛せないなら何度でも愛を繰り返せばいいと思っていたからなのかもしれない。安易な関係だったりしたわけではない。けれど自らが離れていった異性との愛情。

空蝉~虚脱の恋~

空蝉~虚脱の恋~

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-28

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