流星群~賢者の石~
【注意】母視点になったり娘視点になったりして読みにくいです!
ふくろう便
「ホグワーツの入学許可おめでとう、スピカ!」
ホグズミード村の小さな家に、大人の女性の嬉しそうな声が響いた。
今朝届いた封筒――封蝋には校章が刻まれている――を娘に手渡す。
「嗚呼、夢のようだわ。…いいえ、当然よね。あの人と私の娘なのだから」
彼女――ミラクはストレートの黒髪を肩甲骨の下まで伸ばし、サファイアブルーの瞳をしていた。
「お母さんってば…。今まで散々、あたしがホグワーツに入学すること前提で人生計画してたくせに」
スピカと呼ばれた娘も黒髪で、赤い大きなリボンがよく似合う。そこから伸びるツインテールがふわふわと胸元で踊っている。
目は父親譲りの冬空のような上品な灰色だ。
「でも、やっぱりこうして実際に我が家にこの手紙が届くと不思議な気分なのよ…」
「ねぇ、これ、ふくろう便で返事しなきゃいけないみたいだけど?」
ミラクは娘の手元を覗き込むと、副校長マクゴナガルのサインを感慨深そうに撫でた。
「そうだったわね。――アステラス、返事を書くからホグワーツへ届けてくれる?」
アステラスと呼ばれたベンガルワシミミズクは、鳥籠の中で首を傾げた。
「…私が持って行ってもいいけれど…少しでも早く、と思って。それに、こういうことは形式を守らないとね」
ミラクはホグワーツの卒業生であり現教授なのである。
保護者としてサインした手紙をくわえて、アステラスは窓から飛び立った。
「ねぇ、この二枚目に書いてある――」
「あー、揃える物のリストね」
「制服と、教科書と、杖と…」
すっかり夢中になっている幼い娘を微笑ましく見つめる。
「ホグズミード村で買えるものもあるけれど、杖はオリバンダーの店がいいわね。ロンドンのダイアゴン横丁で買い揃えましょう」
「いつ買いに行くの?」
「ふふ、そうねぇ…すぐにでもって言いたいけれど、私は仕事に行かないと」
そっか、と肩を落とすスピカ。
「じゃあ、ちょっとだけ一人で見に行ってもいい?」
「ダメよ。遠いし、一人で外に出るのは危ないわ」
「何が危ないの?他の子達は外で遊んでるのに、いつもあたしは…村の中でも見張られてる気がするのは気のせい?」
「…貴女は大事な一人娘なの。いつも誰かが助けてくれるとでも思ってるの?」
スピカがムッとして見上げる。
「何?もしかして…先生の娘だからいじめられる、とか心配してる?」
「…そのままの意味だったのだけれど」
「それともお父さんが犯罪者だから?」
「シリウスは犯罪者じゃない」
シリウス・ブラックの名前を魔法界で知らない者はいないだろう。ただし、アズカバンに投獄されている殺人鬼、という認識で。
反射的にきつい言い方をした母に、娘も負けじと言い返す。
「でも、みんなそう思ってるんだから!」
「私達は信じるのよ、何を言われても関係ないの。ダンブルドア校長だって信じてくださっているわ…本当に偉大な方よ」
「…信じてるけど…知らないんだもん」
「…ごめんなさい。…とにかく、有名な両親を持つ魔法使いは――他にもたくさんいるけれど――貴女も魔法界では注目されているのよ」
「見ただけでそれがわかればの話でしょ。ハリー・ポッターの額の傷みたいな目印はないんだし、ましてや魔法史の本に載ってるわけでもないし」
「そうじゃなくても、子供が一人でいたら悪い魔法使いに攫われるわよ。…じゃあ、そろそろホグワーツに戻るわね」
静かに頷く娘を見て、少し胸が痛んだ。
「いつも留守番ありがとう。退屈な生活も、もう少しの辛抱だから」
「…うん。遅刻するよ」
「わかってる。まぁ、もし遅れてもどうにかなるわよ」
「“スネイプ先生”に嫌味言われるんでしょ?」
「…それ、他言無用よ?というか入学したら忘れなさいね」
そう言い残して、ミラクは慌ただしく学校へ向かった。
ホグズミード村からはホグワーツ城が見える距離である。
(あの子がホグワーツに入学すれば、二人で移り住むつもりだけれど…)
スピカ・ブラックが入学するとなると、不安要素は他にもある。
*
「先生、ちょっと良いかの?」
「はい…?」
ある日の朝食のあと、ダンブルドア校長に声をかけられた。
校長室に続く螺旋階段を上がりながら、心当たりを数える。
「…お呼びでしょうか?」
「スピカが入学すると聞いてのう。おめでとう」
「あー、ええ!はい、ありがとうございます。その…娘がお世話になります」
うむ、と頷くダンブルドアの表情は少し困ったように見えた。
「…困らせてしまっているんですね、私達親子のことで」
「君は悪くない。無論、スピカもじゃ」
「そうですね。悪いのはシリウスですものね」
思ってもいないことを口にするのは慣れてしまった。
「そんなことは言っておらん。じゃが…スピカのためを思うなら、ブラック姓を名乗るのはどうかと思ってのう」
「…私の旧姓を名乗ったところで、いずれわかることです。これは結婚するときにも決めたことですが」
そもそもブラック家の家系図から抹消されているのだから、シリウスがミラクの姓を名乗るという選択肢。
当時は考えたこともあるが、今回は話が違う。夫は生きていて離婚もしていないのに、別姓にする気はない。
「むしろ、シリウスの罪を認めることになる気がして…。ただ、あの子は父親のことを覚えていませんし、“人殺しの娘”だからといじめられるようなことは、なければいいと…思いますけれど」
「珍しく動揺しておるようじゃな」
「すみません。入学後は私情をはさむつもりは…」
いや、とダンブルドアがミラクの言葉を遮る。
「普段通り、母親として接して良いと思っておる。君は娘だけを贔屓したりはしない。そうじゃろう?」
「ですが…」
「スピカはきっとつらい思いをするじゃろう。そんなとき、君という支えが必要なのじゃ」
「周りはますます不満に思いますわ。今でさえ、私のことを良く思わない人が多いというのに…」
「特別扱いしているつもりはないんじゃよ」
そう言って、ダンブルドアは優しく目を細めた。
「…私は、マグル界にでも行ってひっそりと暮らすべきだったのです」
「はて、その必要がどこにあろうか?隠れ住むにはもったいない人材じゃ。スピカだけでなく、生徒達もブラック先生を必要としておる」
「…お世辞でも嬉しいです。――それで、ハリーの方はどうですか?」
「やはり手こずったようじゃが、ハグリットからふくろう便が届いた。もう大丈夫そうじゃ」
そうですか、と安堵の表情を浮かべてみせる。
「…今は何も知らんハリーが、魔法界の様々なことを知ってしまうと、もしかすると君を…」
「私を憎むかもしれない。他の魔法使いと同じように、きっと私の話を聞いてくれないでしょうね。…でも私は、友人の息子を見守りたいと思っています。あの子の後見人であるシリウスの代わりに」
「君もまた、つらい思いをするのう」
「もう慣れましたわ。それに、私は信じているから平気なんです」
「わしも信じておるとも。シリウスは勇敢で賢く、そして友や愛する者を大切にする男じゃ」
ダンブルドアの記憶力にはいつも感心する。
「ええ。シリウスは、“友を裏切るくらいなら死んだ方がマシだ”と言ったことがありました。そういう人です」
「秘密の守人はシリウスではなかったという証拠さえあれば、わしも堂々と守ることができるのじゃが…」
「身内の証言など信用できない、というのは…当然ですわ。真犯人でも捕まれば、話は別ですが…」
「真の秘密の守人はわからずじまいじゃ…。そのせいで君達の友情にまでもヒビが入ってしまった」
ミラクは言葉が見つからず、曖昧に微笑んだ。
「立場上、わしは君達の力になってやれん。こんなにも肩書きを邪魔だと思うことはないが…身軽になってしまえば、ただの老いぼれの意見など何の力も持たん。こんなわしを許しておくれ」
「貴方が謝ることなど…!私はとても感謝しています。こんな、私達家族のことで校長を悩ませてしまうことが申し訳なく…」
「構わんよ。頭を使わんとボケてしまうかもしれん」
「…ありがとうございます」
ダンブルドアのお茶目さに少し心が軽くなった。
「――今後のことですが、スピカの入学・入寮に合わせて、私も城に移り住みたいと考えています」
「手続きが多くて大変じゃろうな」
「面倒な手続きすらも楽しく思えるものですね」
「左様。しかし、今は夏休みで授業はないじゃろう?君にも夏休みをあげるとしよう」
「よろしいんですか?」
「ハリーは明日、ハグリッドと共にダイアゴン横丁に行くそうじゃよ。――君の私室は、天文台の塔に用意させよう」
「…本当にありがとうございます。よろしくお願いします」
ダイアゴン横丁
「――さて、お金はこれでいいわね」
小鬼が運営するグリンゴッツ魔法銀行イギリス支店の711番金庫からお金を持ち出し、ミラクとスピカはダイアゴン横丁に繰り出した。
「グリンゴッツって…トロッコ以外の道を作るべきでしょ…」
「あら、酔ったの?アトラクションみたいで喜ぶかと思ったのに」
「はぁ?煙突飛行ネットは楽しかったけどさ…」
「情けないわね…。ほら、貴女が楽しみにしていた制服を買いましょう。ね?」
マダム・マルキンの洋装店に入ると、ずんぐりした魔女が笑いかけてくれた。
「いらっしゃい」
「こんにちは。娘がホグワーツに入学するの。制服を一式よろしくね」
「じゃあ、奥で採寸しましょうね。もう一人お若い方が、もうすぐ終わるところよ」
「あぁ、安全手袋はドラゴンの革でお願いね。――スピカ、教科書を買ってくるから、早く終わってもお母さんが戻るまで待っててね」
「…はぁい」
一緒に行く、と言いかけたスピカだったが、指定された教科書を買うだけならつまらなさそうだ、と思い直して母を見送った。
「やぁ。僕の父上も、隣で教科書を買ってるよ」
踏み台に立たされたブロンドの髪の男の子が、気取った挨拶をしてきた。
「…貴方もホグワーツの新入生?」
隣の踏み台に立ちながら、当たり障りのない質問をしてみた。
「そうさ。僕はスリザリンに決まってるから、緑で揃えてくれてもいいって言ってるんだけどね。家族みんなスリザリンだったから」
「それを言うならあたしはグリフィンドールだと思うけど…まだわかんないじゃん」
(両親はグリフィンドールだったけど、お母さんの両親はレイブンクローだし、ブラック家は代々スリザリンだし…もしかしたら…)
バサッと長いローブを着せられ、ピン留めが始まった。
「そうかい?ハッフルパフじゃなければいいね」
「ハッフルパフになったら、自分の優しさを誇れるかもね。…ま、寮がどこになろうと、やることは変わんないけど」
「君はマグルの家系じゃなさそうだけど…家族の姓は?僕はマルフォイ」
入学前から嫌な感じの相手――マルフォイに、よりによって家系のことを聞かれるとは。
「……ブラックだけど?」
「へぇ?純血主義の家系じゃないか。お仲間かい。嬉しいね」
「残念だけど、仲間ではないかもね。あたし自身は半純血だし、純血主義でもないから」
少年は何か言いかけたが、終わりましたよ、という魔女のおかげで中断された。
「…ふんっ。ホグワーツでまた会おう」
「…たぶんね」
嫌味っぽく返すと、マルフォイのニヤニヤとした笑いは消えた。
「ドラコ…終わったかね?行くぞ」
貴族然としたブロンドの男性――父親だろうか――が呼びに来てくれて助かった、とスピカは思った。
スピカの採寸が終わった頃に、教科書八冊入りの袋を持ったミラクが現れた。
「お待たせ。…心配しなくても、軽くなる魔法をかけているわ」
「まだ何も言ってないけど」
少しイライラしたようなスピカを連れて洋装店を出た。
「ねぇ、マルフォイ家って本で見かけたんだけど…確か“聖28一族”だよね」
「そうよ、よくできました。マルフォイに会ったの?」
「マルフォイ家の男の子に“仲間”って言われた。違うって断言したけど…まずかった?」
「平気よ。貴女のお父さんは家系図から抹消されているし、私の家系は混血だから貴女も混血だしね」
ミラクの両親は二人とも、マグル出身の魔法使いなのだ。
「じゃあいいや。すっごい嫌な感じだったよ」
「さっき書店で父親のルシウスに会ったわ。彼はホグワーツの理事でもあるけれど…なんというか、育った環境って大事よね」
「理事の息子だからあんなに偉そうなわけ?」
ミラクは買い揃えるもののリストを広げた。
「そんなこと言わないの。――大鍋は錫製の標準二型だったわよね…。薬瓶はガラスまたはクリスタル…どっちにする?」
「え?じゃあ、クリスタル」
スピカには違いがわからなかったが、ミラクは続きを確認した。
「望遠鏡は、もちろん上等なものを買ってあげるから」
「それはお母さんの科目で使うからでしょ…」
「文句ある?コンパクトに折り畳める方がいいでしょう?」
「文句はないけど…じゃあ杖も上等なやつがいい」
「杖は…杖自身が持ち手を選ぶのよ」
ミラクは約束通り上等な望遠鏡を買った。
それから臭くて不気味な薬問屋でクリスタル製の薬瓶を買い、鍋屋で指定通りの大鍋も買った。
秤は魔法薬学で材料を計るものらしく、――スネイプ先生を意識したのか――迷った末に上等なものを買い与えた。
「ふぅ…あとは杖だけね」
「えっ!ふくろうは?」
「アステラスがいるじゃない」
「アステラスはお母さんのふくろうでしょ!」
ふくろうに憧れていたスピカは、頬を膨らませて抗議した。
「二羽もいらないわよ。…じゃあ、ニーズルを買ってあげるわ。それでいい?」
「…ニーズルって猫でしょ?役に立つの?」
「それはどうかしら?さぁ、見に行きましょう」
魔法動物ペットショップに入ると、色とりどりの猫やらヒキガエルが並んでいた。
「なんでカエル?こんなにいっぱいいたらちょっと気持ち悪い…」
「ヒキガエルが流行った時代もあったのよ…。ほら、この子なんてどう?可愛いわよ」
細身で真っ黒な猫がシャーッと牙を見せた。
「お母さんって黒い動物が好きなんだね…。で、何ができるの?」
ミラクがガラスケースに貼られた説明文を読む。
「とても賢いって書いてあるわね。――待って、黒い動物が好きなわけではないわよ」
「ふぅん…。こっちは?チーター?」
黄褐色に黒い斑点模様の子猫を指差した。
「サーバルキャット、ね。…一般的な猫の倍以上大きくなるみたい」
「かっこいい!触ってもいいかなぁ?」
楽しそうなスピカの声を聞きつけ、優しそうな男性がガラスケースからヒョイと出してくれた。
「いいですとも。――サーバルキャットは四肢がすらりと長く、耳が大きくなりますぞ。逞しく、美しく、それに子供の頃から飼い慣らせばよく懐くでしょうな」
「爪とか牙とか…大丈夫なんでしょうね?毒を持っているとか…」
母の心配をよそに、スピカは腕の中の動物をふわふわと撫でた。
「ええ、危険なことは何もありませんぞ。マグル界では放し飼い禁止になっておるが…」
「あたし、この子がいい!」
「…本当に?うーん…わかったわ。いざとなれば私が魔法をかけて小さな猫にするから」
「あたしも練習する!…この子が大きくなるまでに」
それにしても、とミラクはケースに貼られた金額を一瞥した。
「桁が…間違ってないかしら?私のふくろうの倍以上だわ」
「貴重な種類だもんで…。だが、今売れ残ると手に負えんようになるなぁ…」
少しして、母娘はペットショップから出てきた。
猫用キャリーバッグの中で、サーバルキャット――シャウラと名付けた――はぐっすり眠っている。
「寝てばっかりだけど…具合悪いのかな?」
「寝る子は育つって言うでしょ?疲れてるのよ」
結局、売れ残ることを危惧した店主に、三割ほど値引きしてもらった。
「さて、今度こそ杖だけね」
「うん」
オリバンダーの店に入ると、スピカは天井近くまで整然と積み重ねられた細長い箱の山を見上げた。
「わぁ…」
「あら、ハグリッド。ようやく会えたわ」
隣で母が誰かに声をかけたため、先客に目をやる。
「先生!学校は…」
「娘の入学準備でお休みをいただいたのよ」
ハグリッドというのは大男だった。顔をモジャモジャと覆っているのは髪なのか髭なのかわからない。
「おぉ!先生の娘かい?え?こりゃ可愛い魔女だ!」
「はじめまして、スピカです」
「俺はルビウス・ハグリッド。ホグワーツの鍵と領地を守る番人だ」
自己紹介をしている横で、ミラクが息を呑む気配が伝わってきた。
「ハリー、よね?」
店の中央に目を向けると、杖を購入したらしい少年がこちらを見ていた。
くしゃくしゃの黒髪で丸眼鏡をかけている。
「え…はい。そうです」
ミラクは戸惑う少年に歩み寄って抱きしめた。
「大きくなったわね…。でもすぐにわかったわ。ジェームズにそっくりなんですもの。でも、目はリリーに似てるのね」
「…お母さん、知ってる子?」
「私のお友達の息子よ。元気そうで本当に良かった…。今日、誕生日よね?おめでとう、ハリー。プレゼントよ」
ハリーを解放し、ラッピングされた袋を手渡した。
「わぁ、ありがとう!」
「どういたしまして。私はホグワーツで天文学を教えているミラク・ブラックよ。この子は娘のスピカ」
「えっ、あ、よろしく」
「よろしく。僕はハリー・ポッター」
「ハリー・ポッターって…つまり…?!」
名前を聞いて固まった娘を見て、ミラクはしまったと思った。
「スピカ、大丈夫よ。詳しいことは…帰ってから説明するわ。――さぁ、杖を買いましょうね」
「おっと。ハリー、そろそろ帰らんと…電車に遅れっちまう」
察したハグリッドがハリーを急かす。
ミラクは心の中で誰にともなく謝った。
「じゃあハリー、ホグワーツで会いましょうね」
「はい」
オリバンダーの店を出ていくハリーとハグリッドを見送り、不安げに見上げてくるスピカの頭をポンポンと撫でた。
「日が暮れる前に…。ほら、荷物はお母さんが持っておくから」
シャウラが眠るバッグをミラクが受け取ると、店の奥から老人が顔を出した。
「いらっしゃいませ。おや?君はミラク・ミラージュじゃないか!確か…楓の木に一角獣のたてがみ、25センチ。あの杖は変身術に向いておった」
「どうも。今の姓はブラックだけれどね…。娘がホグワーツに入学するの」
「どれどれ…杖腕はどっちかね?」
「右…です」
オリバンダーはスピカの肩から指先、手首から肘などを測った。
「じゃあ右腕をこう、伸ばして。…ふーむ、楽しみじゃ。まず、桜に不死鳥の羽根。21センチで頑丈な杖じゃ」
「スピカ、軽く振ってみて」
スピカは躊躇いがちに杖を小さく振った。
「これは違う…。次は、栗とドラゴンの心臓の琴線。18センチで振りやすい」
オリバンダーは違う杖を持たせたが、すぐにヒョイと取り上げて箱の山を見渡した。
スピカが不安そうに母を見上げる。
「貴女にぴったりの杖を探しているのよ」
「さて…黒檀に、ケルピーの毛。これは珍しいが…。長さは23センチ、よくしなる」
渡された杖を握ると、力が湧くような不思議な感覚がした。
恐る恐る床に向けてシュッと振り下ろすと、初めて杖先から無数の小さな雷が発生した。
「素晴らしい!これが最適のようじゃな」
「さすがは私とシリウスの娘だわ!」
嬉しさのあまりスピカの頬にキスを落とすと、嫌そうに肩を押し返された。
「落ち着いてよ、あたし何もしてないし…」
「落ち着いてるわよ。貴女が魔女になるのを実感して感激しているだけ。――あぁ、ごめんなさい。7ガリオンね」
細長い箱を受け取り、代金を支払った。
スピカも少なからず興奮し、家に着くまでハリー・ポッターのことを忘れていた。
ホグズミード村の自宅に戻り、教科書や鍋などをスピカの部屋に運び込んだ。
「疲れたー…」
「でも楽しかったでしょう?」
サーバルキャットのシャウラをバッグから出してやると、家中をうろうろと嗅ぎ回った。
「ハリー達に会えて良かったわ。今日買い物に行くことは校長から聞いていたけれど」
「あっ!そのハリーのことだけど…」
帰ってから説明する、という約束を思い出した。
「あー、ごめんなさい。私の説明不足だったわね…驚いたでしょう?」
「あたしの知らない何かがあるの?」
「というよりも、貴女は知りすぎているのよ。…関係者なのだから仕方ないけれど」
スピカをリビングのソファに座らせたが、彼女はますます混乱していた。
「ハリー・ポッターの両親が殺されたのは、シリウス・ブラックが裏切ったから…って、みんなは思ってるんじゃないの?だからハリーはあたし達を憎んでるんだと思って…」
「そこまで詳しいのは魔法大臣を始めとする一部の人だけよ。多くの人は…ハリーのご両親はヴォルデモートに殺された。そしてシリウスは…たった一つの呪文で13人を殺した殺人鬼、という認識だわ」
「じゃあ…ハリーと喋っても大丈夫なの?」
ミラクは思わず笑みがこぼれた。
「だから大丈夫って言ったでしょう?ハリー本人は――これから私達を憎むかもしれないけれど――でも今は、何も知らないのよ」
「…何も?」
「ハリーは親戚のマグルに育てられたの。だから魔法界の定説どころか、自分やご両親が魔法使いであることさえ知らなかったのよ…」
スピカはショックで言葉が出てこなかった。
「それに、大臣や魔法省の人達も…ハリーには教えない方がいいと思っているから。父親の親友が裏切った、なんて言ったら傷つくでしょうからね」
「…そうだね。でも、あたし…本当のことを言っちゃいそう…」
「貴方のご両親を裏切ったのは自分の父親だと言われているけれど、父親は無実なの…って?」
俯くように頷く娘の肩を抱く。
「わざわざ言う必要もないでしょう。今のハリーにそんな話をしても混乱するでしょうし…証拠もないし」
「…でもお母さん、悔しそうな顔してる」
「…すごく悔しい。きっと今頃シリウスはもう…別人よ。こんなことなら…もっと私…」
母がスッと立ち上がる瞬間、頬を伝う涙を見た。
「…でも生きてるんだよね?お父さん…会えないんだ…」
「私は何度も面会申請を出して、全て却下されたわ。…ダンブルドアも、魔法省との関係性があるから、公には協力できないの」
組分け帽子
それから一ヶ月はあっという間だった。
スピカは、写真でしか見たことがない父のことで頭がいっぱいになると、教科書を読むかシャウラの世話をした。
教科書はどれも興味深かった。家にある本を読んでいたおかげで、少し理解できたことが嬉しかった。
母が教鞭をとっている天文学はもちろんのこと、話を聞く限り厳しそうな“スネイプ先生”が教える魔法薬学も重点的に予習した。
しかし本音では、早く杖を使って戦えるようになりたいと思っていた。
シャウラはというと、2週間ほどで母娘に慣れていた。小さく切った生肉を手渡しで食べ、おもちゃで呼べば走ってくる。
こうやって心配材料が減る一方で、スピカは学校生活を想像しては緊張した。
それはミラクとて同じだった。
天文台の塔に私室を設けたことで、理由を尋ねる先生もいれば、敢えてその話題に触れない先生もいた。
無論、聞かれれば娘のことを話したし、それ以外に深い意味はないと声を大にして言いたかった。
セブルスが執拗に嫌味を言えば、他のことを考えてクールにやり過ごした。
新学期の授業の準備もしなければ、と備品の確認をしていると、不意に人の気配を感じた。
「こんにちは。引っ越しは終わったかね?」
「ダンブルドア先生…。ええ、おかげさまで」
穏やかに微笑む校長は、ミラクに勧められるまま部屋に入り、無邪気に窓の外を見上げた。
「城で一番高いこの塔は、やはり眺めが良い。授業以外立入禁止というのがもったいないくらいじゃ」
「…空を眺めに来られたわけではないでしょう?」
「君とシリウスは学生の頃、よくジェームズの透明マントを借りて、天文台から夜空を見ておったのう」
ミラクはドキッとした。それはダンブルドアが自分達の校則違反――夜中に寮を抜け出し、立入禁止の塔を上ったこと――を知っていたからではなく、心を覗かれたように感じたからだった。
「教師になってからも、よく一人で星を眺めておる。そして今の君こそ、空を見上げて心のゆとりを持つべきじゃ」
「…お気遣いありがとうございます。ですが、私はそんなに――ケンタウルス並みに、星を見てばかりではありませんわ。もっと身近なところを…見ているつもりですけれど」
「身近なものを大切にするあまり、周りが見えなくなっていき、依存してしまっては元も子もない」
娘のことを指しているのだと直感した。
「自分で物事を考えないような――他力本願な大人になってほしくなければ、君のその豊富な知識を“与えすぎない”ことじゃ」
忙しいはずの偉大な魔法使いが、個人の問題にアドバイスをするため、わざわざ私室を訪ねてくれたことに恐縮した。
ダンブルドアの言葉を反芻し、その日はゆっくり星空を眺めた。
大犬座がくっきり見える夜だった。
日曜日、この日は授業がないため、自宅でスピカの荷造りを手伝った。
「みんなはホグワーツ特急で来るんでしょ?」
スピカはトランクに着替えを詰め込みながら、一年生の教科書をめくっている母を見上げた。
「そうよ。そこからみんなは、汽車の中に荷物を置いたままにして、ボートで移動するの。だから貴女はハグリッドと一緒に、プラットホームで待ったらいいわ。荷物は私が寮に届けておくから」
「うん。ありがと」
スピカ、と名前を呼んで向き合う。ダンブルドアの優しさを無駄にしてはいけない。
「――私は今までうるさく言ってきたけれど…先入観をなくして、自分の思うまま、色々なことに挑戦してみなさい。そして何事も前向きに…楽しむこと。いいわね?」
ミラクが杖を振ると、教科書も着替えも、その他の学用品も、自らトランクに飛び込んで収納された。
翌日、スピカは制服に着替え、全身鏡の前でくるくる回って確認していた。
「最高に可愛いわよ、スピカ」
「ねぇ、この制服ちょっと地味じゃない?」
「魔女が目立ってどうするの?…さぁ、髪をしてあげるわね」
「待って!これは練習したから」
そう言ってスピカは、杖を取り出して頭にかざした。すると、ふわふわの癖っ毛が頭の上のほうで二つに結われ、赤いリボンがスルスルと蝶結びになった。
「…驚いた。入学前から無言呪文?貴女は天才だわ…!――でも、左が少し低いわね」
「あっれぇ?上手くできたと思ったのにー」
ミラクはスピカをホグズミード駅まで送り届け、トランクを抱えて一人でホグワーツ城に向かった。
スピカは、ハグリッドと共にホグワーツ特急の到着を待っている。
「…えっと…ハグリッド先生…は、何を教えてるの?」
「ハグリッドって呼んでおくれ。俺は先生なんて偉いもんじゃない。…魔法も、その…使っちゃならんことになっとる」
「ふぅん…?じゃあ、ハグリッド」
ハグリッドの態度が気になったが、深くは聞かなかった。
「お母さんって、学校ではどんな感じ?」
「クールで、ミステリアスって感じだな。美人なのにあんまり笑わねぇ。授業態度が悪い生徒には容赦なく減点するらしいが…マクゴナガル先生と違って、校則違反やら悪戯やらには比較的寛容でな」
「お母さんがミステリアス…?」
首を傾げるスピカに、ハグリッドがこそっと耳打ちする。
「実年齢より10は若く見えるが…魔法で若く見せとるっちゅう話は本当なのか?え?」
「うん。変身術の応用だっていつも言ってるよ。本当は茶髪だし、もっとオバサンだもん」
「変身術が得意なのは知っとったが…。――おっと、汽車が着くぞ」
その頃、ミラクは大広間に到着した。
スピカの荷物は、組分けが発表されたら寮に運ばれるはずだ。
「やぁ、ミラク」
空中に浮かぶ蝋燭が、ダンブルドアの銀色の髪をキラキラと輝かせていた。
「娘を駅に送ってきたので、遅くなってしまいました」
「構わんよ。先生方、準備の最終確認を」
ダンブルドアは上座の長テーブル中央、大きな金色の椅子に腰かけた。
目の前に組分け帽子を置き、新入生の歓迎会を心待ちにしているようだ。
「ブラック。ハリー・ポッターにはもう会ったかね?」
話しかけてきたのがスネイプだというのは声でわかった。ミラクは振り向かずに答える。
「ええ、会ったわよ。ジェームズそっくりだからすぐにわかると思うけれど。…目だけはリリーに似ていたわね」
「ふん…君の娘と、どちらがマシか…。我輩の期待を超えてほしいものだが」
「そもそも期待なんてしていないでしょう、セブルス」
静かに言い争う二人に、副校長のマクゴナガルがわざとらしく咳払いをした。
「もうまもなく生徒達が着くはずです」
「これは失礼」
猫撫で声がまた腹立たしい。
スネイプは校長の方に歩いて行ったが、一部始終を見ていたクィレル教授は未だに怯えていた。――否、この人は普段からビクビクしているのだった。
「私は一年生を迎える準備をしてまいります」
呆れたようなマクゴナガルが大広間を出ていくと、たちまち生徒達が流れ込んできた。
ミラクは急いで、天井の星空に綻びがないことを確認した。それから各寮の長テーブルを――。
「やぁ、ミラク!」
声をかけてきたのは、ウィーズリー家の双子の一人だった。
「先生、でしょう?フレッド」
「ひどいなぁ、ジョージだよ」
「またそうやって人をからかって…ひどいのはどっちかしらね?」
「あれ?騙されなかったな」
双子のもう一人も現れ、二人は楽しそうに肩を組んだ。
「やぁ。先生は今日も麗しいね」
「ああ、そうさ。娘がいるとは思えないね」
「どんな子なのか楽しみだ」
ミラクは杖をひと振りして、天井に美しいオーロラを作り出した。
「ヒュー!最高だね!」
「私の娘は、組分けのときにわかるわよ。ほら、いいから座りなさい」
「グリフィンドールの諸君、整列して入って!早く席に着くように!」
グリフィンドールの男子の監督生であるパーシーが声を張り上げる。彼もウィーズリー家である。
ミラクは生徒達の波をかき分けて、上座の長テーブルに座った。
全ての在校生が着席すると、空っぽの皿やゴブレットが現れた。
「新学期おめでとう!さて、早速じゃが、新入生の組分けを始めようかの」
大広間の大きな扉が開き、マクゴナガルの引率で新入生達が入ってきた。
先生も生徒も注目し、大きな拍手で迎えた。
もの珍しそうにキョロキョロしている子や、緊張のあまり顔を引き攣らせた子…。
毎年見ている光景だが、そこに自分の子供がいるというのは不思議な気分だった。
スピカは緊張をほぐそうとしているのか、近くの女の子と少し言葉を交わしている。
マクゴナガルは戸惑う一年生の前にスツールを置き、その上に組分け帽子を置いた。
「これから私が名前を読み上げます。呼ばれたら前に出て、椅子に座ってください」
丸めていた羊皮紙を開き、一人目の名前を呼んだ。
「アボット、ハンナ!」
金髪の少女が慌てて椅子に座ると、マクゴナガルが組分け帽子を頭に乗せた。
「――ハッフルパフ!」
帽子が叫び、ハッフルパフのテーブルが歓声を上げた。
ハンナがハッフルパフのテーブルに向かい、二人目が呼ばれる。
「ボーンズ、スーザン!」
「ハッフルパフ!」
自分がそろそろ呼ばれるのを察知して、小さく深呼吸するスピカが見えた。
「ブート、テリー!」
「レイブンクロー!」
レイブンクローは握手で迎えていた。マクゴナガルが大きく息を吸った。
「ブラック、スピカ!」
スピカは組分け帽子を真っ直ぐ見据えて進み出た。
生徒だけでなく教師陣も、顔を見ようと首を伸ばしている。
帽子は頭に触れてすぐ「ブラック家の子かね」と言った。
「でもっ!あたしの両親はグリフィンドールだし、お母さんの両親はレイブンクローだし…」
焦ったスピカは祈るように呟いた。
先入観をなくすように言われたばかりで、“スリザリンは嫌”とは言えなかった。
「ふーむ…賢く、才能もある。しかし、レイブンクローというよりは…グリフィンドール!!」
スピカは小走りでグリフィンドールのテーブルに向かった。双子のウィーズリーが、口笛を吹いて盛り上げてくれた。
スリザリンではなかったこと、そしてグリフィンドールがとても歓迎してくれたことに、ミラクは内心ホッとした。
マルフォイの息子は、さすがというか、やはりというか、帽子が触れる前に「スリザリン!」と響き渡った。
初々しいながらも将来が楽しみな魔法使いが大勢いる中、個人的に気になるのはもう一人…。
「ポッター、ハリー!」
大広間はシーンとなった。ハリーが前に出ると、みんなはスピカのときより興味津々だった。
「…難しい。非常に難しい…」
頭に乗せられるなり、組分け帽子は唸った。
「さて、どこに入れたものかな?」
「スリザリンはダメ、スリザリンはダメ」
ハリーが小さく呟くのが聞こえてきた。スリザリンについて、ハグリッドが何か吹き込んだのだろうか。
「君がそう確信しているなら…むしろ、グリフィンドール!!」
ハリーは割れんばかりの歓声に迎えられ、ふらふらとグリフィンドールの席に座った。
双子のウィーズリーが「ポッターをとった!」と騒いでいる。
かの有名な“生き残った男の子”と同じ寮になれたことは、とても誇らしいようだ。――恐らく本人はよくわかっていないが。
隣でハグリッドが親指を立てている。視線の先のハリーも笑顔を返していた。
そこでふと、スピカと目が合った。
安心させるためにニッコリ笑いかけると、他の生徒が驚いたように見ている。
(私、そんなに普段笑っていないかしら…)
一年生全員の組分けが終わった。マクゴナガルは羊皮紙を丸め、帽子とスツールを片付けた。
挨拶のためにダンブルドアが立ち上がると、皆が自然と聞く姿勢になった。
「おめでとう!ホグワーツの新入生、おめでとう!歓迎会を始める前に、二言、三言、言わせていただきたい」
ダンブルドアは各寮の長テーブルを順に見た。
「では、いきますぞ。そーれ!わっしょい!こらしょい!どっこらしょい!以上!」
一年生以外は笑いながら拍手をした。
校長がスッと手をかざすと、一瞬でたくさんの食べ物が出現した。
賑やかな宴会が始まった。
「いやぁ、良かった!やっぱりハリーにはグリフィンドールが似合うと思っとった!」
ハグリッドは嬉しそうに乾杯をして、ポークチョップにかぶりついた。
ミラクは曖昧な相槌をうって、ローストビーフとグリルポテトを自分の皿によそった。
「ポッターもブラックもスリザリンに選ばれず、我輩は非常に残念だったがね」
スネイプが、クィレルの向こうから話しかけてきた。
「組分け帽子が決めたことよ」
「セ、セブルス…た、楽しい宴会のせ、席で、言い争うのは…」
クィレルはどもりながらも、勇気を振り絞ってスネイプを諫めた。
「言い争ってなどいない。懐かしき学友の遺伝子に感心しているのだ」
「ええ、そうね。あと、いつまでも過去を引きずる子供みたいな教授にもね」
皿の上がデザートに変わるまで、四人は無言で料理に手を伸ばした。
隣の大男は、華やかなトライフルを食べようとしている。
「ハグリッド…。健康のために、食べる量とお酒の量を、少しずつ減らしたらどうかしら?――クィレル先生、そこのアップルパイを取っていただけます?」
「も、も、もちろん」
礼を言って受け取る。クィレル越しに感じた視線は無視して。
とうとうデザートも消えてしまい、ダンブルドアが立ち上がった。
「新学期を迎えるにあたり、いくつかお知らせがある。まず、一年生に注意しておくが、構内にある森には入ってはならんぞ。これは上級生にも…何人かの生徒達に注意しておこう」
双子のウィーズリーが顔を見合わせた。
「管理人のフィルチからは、授業の合間に廊下で魔法を使わないように、という注意があったのう。そして、今学期は二週目にクィディッチの予選がある。寮のチームに参加したい人は、フーチ先生に連絡するように」
最後に、と強調して注意を引きつける。
「とても痛い死に方をしたくなければ、今年いっぱいは四階右側の廊下に入ってはならない。――では、校歌を歌おう!各自、自分の好きなメロディーで」
ダンブルドアは杖を指揮棒のように振るった。
一番遅いリズムで歌っていた双子のウィーズリーが歌い終わると、ダンブルドアは満足気に杖を収めた。
「さて、諸君、就寝時間じゃ。監督生よ、一年生を寮へ案内するように。解散!」
スピカはハリーと少し言葉を交わしながら、監督生であるパーシーに続いて大広間をあとにした。
(なんだか…シリウスとジェームズのようだわ)
二人が良い友人を作れるよう、ミラクは心の中で祈っていた。
魔法薬の先生
翌朝、スピカは談話室に下りてすぐにハリーを発見した。
「おはよう、ハリー」
「スピカ!おはよう」
挨拶の流れで、ハリーの隣の赤毛の男の子と目が合った。
「おはよう。僕はロン。よろしくね」
三人は話しながら朝食に向かうことにした。
「ロンってウィーズリー家でしょ?聖28一族の」
「えっ?あぁ、うん…そうだけど?」
「でもマルフォイとは全然違うから安心した。…あっ、スピカ・ブラックよ。よろしく」
「ブラックってことは、君だって“そう”でしょ?それに、なんていうか…グリフィンドールで大丈夫なの?」
ロンが言わんとしていることを察して、スピカは笑ってしまった。
「あたしは混血よ。大丈夫どころか、スリザリンにならなくて良かった…」
「スピカのお母さんって天文学の先生なんだよ」
ハリーの言葉にロンは目を見開いた。
「じゃあ君が、フレッドとジョージが言ってた美人教授の娘なの?」
「美人教授…かどうかはわからないけどね」
「綺麗な人だったよ。クールな感じの」
「お母さんったら、もっと笑ったらいいのに」
ふと周りに目をやると、何やらこちらを指差したり囁き声が付きまとっている。
「…あたしのこと話してるの?」
「スピカとハリー、両方じゃない?」
落ち着きのある女性の声が背後から近づいてきた。
「あっ…」
言いかけて口を噤んだスピカを見て、察したミラクが微笑む。
「お母さん、でいいわよ。どうせわかることだし、ダンブルドアにも許可は得ているわ」
「うわー、こんなに綺麗なお母さんっているの?フレッドとジョージが言ってた通りだ!」
「あら、ありがとう。あの双子のおかげでホグワーツは賑やかなのよ。今年はパーシーが監督生だし、良い家族ね」
ロンの顔は赤く染まっていった。
「ブラック先生!この間は、あの…誕生日プレゼント、ありがとうございました」
「どうしたの?改まって」
興奮気味のハリーを落ち着かせようと、頭をポンポン撫でてやる。
「僕、驚いて…嬉しかったんです」
「えっと…ハニーデュークスのお菓子?あぁ、貴方にとっては何もかもが新鮮よね。あれはホグズミード村で買えるけれど、3年生になるまで生徒は行けなくて…」
「そっちじゃなくて――もちろん、それも嬉しかったけど――母さんの…ユリの花の…」
ああ、とミラクは理解した。
「同封したメモの通りよ。あれはリリーが結婚式で使った髪飾りで、私が貰ったものだけれど…貴方に贈りたかったの」
流星群~賢者の石~
※サーバルキャットは値段だけが問題ではなく、申請など手続きが大変で、飼育は容易ではありませんのであしからず…