リュックサック

リュックサック

外国人観光客の背負っているリュックサックって、
なんであんなに大きいんだろう。
男女問わず身体の3分の1ほどあるものを、
みんな楽々と背負ってるよな。
午後3時過ぎ。
蝉の五月蠅い京都駅のロータリーのベンチに座って
諸田香奈は考える。
一体なにが入ってるんだろう・・・。
目の前を外国人観光客の集団が通り過ぎていく。
背には皆同じようなリュックサック。
なんでボストンバッグじゃないんだろう・・・
タバコをふかしながら香奈は考える。
背の高い金髪の綺麗な女に見とれながら
その女のリュックサックの中身を想像する。
多分関空から入ってはるかに乗ってきたコースだから
自分の国からあのまま来たんだよね。
だとしたら着替えと化粧道具は絶対入ってる。
あとデジカメも。
タバコを吸う人ならタバコとライターも入ってるし
日本製のものは油断ならんって
コンドームも入ってるかもしれない・・・
蝉の声が五月蠅い。
額から汗が噴き出すのを感じながらそれでも
しつこく香奈は考える。
あ、お財布は絶対いるよね。
あとは・・・
2本目のタバコに火を点ける。
隣に座っている老婆が怪訝そうな顔で香奈を見つめるが
香奈は一向に気にしない。
京都だけに滞在するのかなぁ。
私だったら奈良にも行くし
大阪にも行く。
東京も行きたいし・・・
香奈は視線を正面から地面へとスライドさせる。
人の足がせわしなく歩いている。
音楽を聴いているので彼らがなにを話しているのかまでは
聞こえてこない。
たとえ聞こえたとしても、そこから得た情報だけで
その人を判断することはできないしなぁ・・・
ぼんやりと歩く人の足を見ながら香奈はそう考える。
リュックサックと、同じだ。
外見だけみてもその人の持つ本音だったり、
心の闇だったりは、
見えてはこない。
さっき自分が人のリュックサックに思いを馳せていたのと
同じように、誰かから見たら私もそんな風に思われているのかもしれない。
頭が悪そうな?
バカそうな?
男と遊んでいそうな?
カラコンの怖そうな?
私に付く枕詞はなんだろう。
タバコをサンダルのヒールの部分で踏みつぶす。
誰も私の本当の心は知らないし、
私も他人の本当の心はわからない。
心はリュックサックと同じで、
ちゃんと閉めておけば漏れることはない。
その時その時、
会う人会う人で
色々な心をジッパーを開けて見せる。
それでいい。
「まもなく75系統のバスがまいります」
アナウンスが響き渡る。
持っていたスマートフォンを鞄に入れ、
香奈はゆっくりとジッパーを閉める。



リュックサック

リュックサック

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-28

CC BY-NC-ND
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