トーチ棒

トーチ棒

「るるちゃんちゃんと用意できたぁ?」
1階からママの声がする。
「できたぁ!」
元気よく返事をする。
パジャマにするTシャツに短パン。
枕はこれじゃないと眠れないからUFOキャッチャーで取ったみみぃちゃんの枕。
お菓子、携帯、みっこが持ってこいと言っていたトランプ。
水着もちゃんと用意した。
バスタオル、タオル、歯ブラシ、化粧落とし、
メイク道具。
「はりきってんな、お前」
「うっさい話かけんな」
「みみぃも持っていくのかよ。入らねぇだろ」
「みみぃは持っていくもん!これじゃないと眠れないもん!」
「寝ないくせに」
「寝るもん!」
「お前そこどかして、ゲームしたい」
「えーやだぁ。下でやってよ」
「コードとかめんどくせぇんだよ。ほら、どかせ」
「ぶー」
「あーらあらあら派手に散らかしちゃってるわね」
ノックもせずにママが入ってくる。
「ママノック!」
「あーごめんごめん。るるちゃん学校からもらった紙見せて」
「えーいいよぉ」
「あなたはぼんやりしてるからママが最終確認しまーす」
「はーい」
「パジャマ・・・はこれにするの?冷えるかもしれないからパーカー持って行きなさい」
「大丈夫だよー」
「だめ、昨日ママ買ってあげたパーカーにしなさい」
「はーい」
「お菓子・・・こんなにいる?いくらまでだか書いてないわね。
まぁいいでしょ。水着、バスタオル、タオル、洗面用具・・・
るるちゃんお化粧はこっそりやってるんだから今回はそのままで行きなさいよ」
「えーやだよぉ」
「まだ小6なんだから今からお化粧やってるとママみたいにシミがすごいことになるよ?」
「それもやだぁ」
「ふふっ。とにかくこれは没収ね」
「母さん、こいつみみぃ持ってくって」
「ばっ言わないでよ!」
「ふふっ。これじゃないと眠れないんだもん。そこはお母さん大目に見るわ」
「わぁい!」
「洗面用具とあとこれ、ん?トーチ棒?」
「キャンプファイヤーの時これに火つけるんだよ!」
「え、作るの?木なんてこんな暗かったら採りに行けないよ!
るるちゃんなんで早く言わなかったの!」
「見えてなかったんだもん・・・」
「拓人の時はキャンプ自体がなかったからなぁ・・・
どうしよう。あ、作り方あるじゃない。タオルを針金で巻くのね。
ふむふむ。よし!あのほうきの柄に巻き付けよう!」
「ちゃんとできる?」
「ママに任せなさい!ぞうきんにするタオル置いてあるから
それでなんとかしとくよ」
「わぁい!」
「ほんとうるせぇ女共だな。ゲームしたいから早く片づけろよ」
「るるちゃん、下いこっか」
「はーい」
「・・・ママぁ、タオル切ってこれでいいの?」
ほうきの先にはぺらぺらのタオルが一枚心細そうに巻かれている。
「これでいいのよ。さ、もう寝なさい」
「はぁぃ。明日、8時にまっこちゃん来るから早く起こしてね?」
「はいはい、7時ね。わかったわかった」
て言ってたのに・・・・ママのバカ。
バカバカバカ!
前を歩く友人のトーチ棒を見ながらるるは
悲しい気持ちになる。
みんなのトーチ棒にはタオルが、厚手のタオルが一枚、
ぐるぐると頼もしそうに巻かれている。
ぺらぺらじゃないじゃん!
ママの大馬鹿!
バカバカバカバカ!!!!
トーチ棒の先を鞄の中に入れて見えないように学校までの距離をとぼとぼ歩く。
どうしよう。
こんなのでキャンプファイヤーできないよ・・・
涙がでそうになる。
自分でなんとかしようにもできない。
こんなぺらぺらのタオルの切れ端一枚のトーチ棒なんてるるだけだ・・・
悲しい気持ちになる。
学校に着くとみんなそれぞれのグループに分かれてわいわいやっていた。
みんなのトーチ棒を盗み見る。
・・・やっぱり。
やっぱりみんなタオル一枚を使ってちゃんとぐるぐる巻きにしてる。
バカ!
もう一度ママに心で叫んでみる。
あ・・・
そうだ。
野村に頼んでみよう。
野村というのはここの学校の若い用務員さんだ。
用務員室にこっそりトーチ棒を連れて入る。
「のむさーん」
声を掛けてみる。
「はーい」
少し間延びしたような声で中から声がする。
「はいはい、お、どうしたの?」
「のむさん、これ・・・」
るるは恥ずかしげにトーチ棒を野村に差し出す。
「あはは。これはちょっとあれだね」
その発言にるるはその場から立ち去りたくなる。
「なんとか・・・なる?」
「タオルがあればなんとかなるけどなぁ」
「じゃあこれ使って!」
るるは気に入りのみみぃのピンクのタオルを野村に差し出す。
「こんな可愛いタオル使っていいのかい?」
「いいから早く作って!」
「はいはい」
そう言って野村は用具箱の中から針金ワイヤーを取り出す。
「これ・・・は親御さんに作ってもらったの?」
「うん。うちお兄ちゃんはキャンプしたことなくって。
ママがこれでいいっていうから持ってきた」
「なるほど」
野村が器用に針金ワイヤーを巻き付けていく。
「よし、はい、できたよ」
「わぁい!」
るるははしゃぎながらお礼を言い、用務員室を出て行く。
あれくらいの子どもだと、みんなと同じじゃないとだめだもんな。
野村はそんなことを思いながら用具箱を片づける。
みんなと同じが嫌だと言ってああいう格好をしているけど、
結局みんなと同じじゃないと不安になる。
それはまぁ、子どもにも言えるし大人でもそういう人はたくさんいるもんなぁ。
「用務員の野村さん職員室加藤までおねがいします」
校内放送が入る。
今日のキャンプファイヤーの最終確認といったところだろう。
「よいしょっと」
野村が立ち上がり用務員室をゆっくりと出て行く。



トーチ棒

トーチ棒

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-28

CC BY-NC-ND
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CC BY-NC-ND