みあちゃんの石ころ 2

みあちゃんの石ころ 2

命の石ころ

命の石ころ

 日曜日の教会。
 みあちゃんにはここでしか会えないお友達がいます。
 車いすのおばあちゃんといすを押してるおばさんです。
 おばあちゃんと、おばさんは親子で、二人っきりの家族でした。
 おばさんは、いつも疲れたような顔をしていました。
「なにか、悲しい事でもあるの?」
 ある時、みあちゃんが聞いてみると、
「おばあちゃんが、天国へ行っちゃったら、さみしいわ・・・一日でも長く生きててほしいの。
でも、この頃は呼んでも答えてくれないし、目を開けて私を見てもくれないの。
ねえ、みあちゃん、長生きの石があったらいいわね・・・」
「長生きの石・・・」
 みあちゃんの目がキラリと光りました。
「わたし、見つける! 長生きの石、絶対、絶対見つける! 約束するよ!
ねえ、おばあちゃん!」
 みあちゃんがおばあちゃんと指切りしようとすると、おばあちゃんは、みあちゃんの手をギュッと握りました。
 それはそれは強い力で、みあちゃんの手が痛いほどでした。
 帰り道、みあちゃんは口をぐっと閉じて、手を握りしめて、空を見上げました。
 雲のすき間から、虹のような光が地上にまっすぐ伸びています。
 みあちゃんはその光を吸い込むように深呼吸しました。
「みあは、長生きの石を見つける・・・」
 みあちゃん、生まれて初めての大決心でした。

 ところが、石はなかなか見つかりませんでした。保育園の石は小さすぎて、おばあちゃんの 手では、石なのか、豆なのか、ボタンなのかわからないでしょう。
 また、教会の石はゴツゴツしていて、あの強い力で握ったら、手のひらにけがをしてしまいそうです。
 そんな時、パパが河原へ連れて行ってくれました。パパのお友達の家族とバーベキューをしたのです。
 そして、とうとう見つけたのです!
 それは、おばあちゃんの白髪と同じ色で、肌触りは優しくて、丸くて、おばあちゃんの細いしわしわの手のひらにすっぽり収まる大きさでした。
 みあちゃんは、その石ころを耳にあててみました。ひんやり冷たくて優しい音がしました。
 目を閉じると、おばあちゃんとおばさんの笑顔がはっきり見えます。
「これだ!」

 待ちきれなかった日曜日になりました。
 みあちゃんは、朝早くから二人を待っていました。
 次々と教会に入って行く人の中に、とうとうおばさんを見つけたみあちゃんは、駆け寄って言いました。
「おばさん! あったよ!見つけたよ! ほら、長生きの石だよ!おばあちゃんは?」
「みあちゃん・・・」
 おばさんは、みあちゃんの手の中の石を黙って見ていましたが、やがて、消え入りそうな小さな声で言いました。
「ごめんね。おばあちゃんね、死んじゃった・・・」
「死んじゃったの?」
「せっかく、石を探してくれたのに・・・ほんとにごめんね」
 この石をおばあちゃんの手で握ってほしかった・・・
 みあちゃんは、力強く握ったおばあちゃんの手の感触を覚えています。
 あの時の、約束!つないだ手の約束!
「もっと早く見つければ良かったんだ!」
 みあちゃんは叫ぶように言いました。
 
 それを、聞きつけた神父さんが二人のところにやってきました。
「おばあちゃんはね、神様から天国の石をもらったんです」
「じゃあ、もう、この石はいらないんだ、いらなくなっちゃったんだね!」
 みあちゃんは、石を強く握りしめて胸に押し当てました。
 何も言わず、いつまでもそうして立っていました。
 すると、みあちゃんの目から、涙がポロポロあふれてきて、地面にぽたりぽたりと落ちて行きました。
「天国の石も、みあちゃんの石と同じくらいきれいな石ですよ」
 神父さんも、涙をこらえるように言いました。
「みあちゃんの石は、おばさんにあげてください。
おばさんは、ひとりぽっちになって、とてもさみしいといっています。
みあちゃんの石があれば、おばあちゃんがまだそばにいるように思えるかもしれませんよ」
 ようやく、みあちゃんが顔を上ると、おばさんも顔をくちゃくちゃにして泣いていました。
 みあちゃんは、黙って石をおばさんに渡しました。
 おばさんも黙って受け取り、みあちゃんがやっていたように胸に押し当てました。
 すると、みあちゃんの体温が石を通しておばさんの胸を温め、やがて、それが体中に広がり、おばさんの悲しみがうすれていくのでした。
「ありがとう、ありがとう、ありがとう」
 おばさんはそう言って、みあちゃんを強く抱きしめました。

みあちゃんの石ころ 2

みあちゃんの石ころ 2

余命みじかいおばあちゃんのために、みあちゃんは長生きの石を見つける決心をします

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-27

CC BY-ND
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