障子

 冬のある夜にふとんで寝ていると
 ギシ…ギシ…ギシ…と
 廊下を歩く音が聞こえてきた。
 障子を見るとトボトボと障子越しに歩く影が見えた。
 その後キィとトイレのドアが開く音が聞こえてきた。
 トイレの近くに自分の部屋があるせいかいつもかすかに起きてしまう。
 また寝入りはじめて少し経った頃廊下を歩く音が聞こえてきた。
 そしてキィとトイレのドアが開く音が聞こえた。
 その後2回トイレのドアの音が聞こえた。

 翌朝、朝食を食べながら
「昨日ずいぶんトイレに行っていたね」と言うと、
「なに言ってんの。昨日1回しか行ってないわよ」と言われた。
「え! 」
 てっきり母親がトイレに行っていたと思っていたので驚いた。
 3年前に親父が死んでからこの家には母親と自分しか住んでいないのに・・
「もう8時よ! 遅刻するわよ! 」
 と言われすぐ制服に着替え学校に向かった。

 学校を終え自宅に帰るとまだ母親は帰っていないようだ。
 障子に映る影のことを考えた。
 母親にしては身長が高かったような。
 この家には幽霊でもいるのだろうか。
 なにか見落としてるような気がするがわからなかった。
 そうこうしてるうちに母親が帰って来た。
 う~んと唸っていると
「智明! ごはんよー」
 と呼ぶ声が聞こえた。
 はーいと言いながらリビングに行く途中に
 左に母親の部屋があることに気づいた。
 あ!!!!
 そういえばなぜ障子に母親の影がうつるんだ。
 母親の部屋からトイレに行く場合
 自分の部屋のふすま側を通ってトイレに行くはずだ。
 障子の方からも行けるが遠回りだ。
 体の指先からゾワ…と鳥肌が立つのを感じた。

 夕食を食べお風呂に入りふとんに入った。
 昨日の不気味なことがあったので寝つけるか不安だったが、
 ふとんに入るとあっさり寝れた。
 夜中にまた
 ギシ…ギシ…ギシ…
 と歩く音がする。
 薄目を開け障子の方を見ると
 トボトボと影が動いていた。
 やっぱり身長は母親より少し高いような気がした。
 障子をあけ正体をみてやろうと起き上ろうとした時
 枕もとの目覚まし時計がガシャ!と倒れた。
 ヤバイ!!!
 影が動きを止めこちらを見てるような気がした。
 慌ててふとんの中に体を押し込める。
 心臓がドクンドクンと脈打つ。
 はやくどっか行ってくれと祈っていると
 また廊下をギシ…ギシ…と歩く音が聞こえた。

 そしてその現象は1週間ぐらい続いた。
 もうその頃にはあまり気にならないようになっていた。

 その夜ぐっすり寝ているとまた
 ギシ…ギシ…ギシ…
 と音がする。
 またいつもの奴か。
 かすかな意識で察知すると
 今度はスッーと音がする。
 え…障子を開けた。
 トス…トス…と近づいてくる。
 手に冷汗がどんどんあふれ出てくる。
 目を開くべきかこのまま去るのを待つか。
 ゴク…と唾をのみ覚悟を決める。
 パッと目を開けるといつもの木目の天井があるだけだった。
 はぁーと息をついて起き上がると障子が半分ほど開いていた。

 緊張したせいか尿意を催した。
 トイレにむかって用を足す。
 ドアをあけて廊下の奥に黒いモノがササッと動いた。
 足音をたてないよう歩きながら廊下の奥の角を見ると
 親父の部屋が開いていた。
 音を立てないようソッーと覗くといつもの親父の部屋だった。
 電気をつけて中に入る。
 なんだったんだと思いながら床に座る。
 目の前の本棚の上でほこりがつもっている。
 周りを見渡すと
 仏壇も位牌もほこりだらけだった。
 変なことばかり起こり目が覚めてる。
 ついでに台所からふきんを取ってきて部屋中掃除した。

 その後からは障子にうつる影を見なくなった。
 どうやら親父は俺に掃除をしろと頼みにきたのかもしれない。

障子

障子

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-27

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