散文
夜明けまえ
目の前からにげる
めのまえのものから
にげて たどり着いた
わたしを一番きずつけて
悲しみしか思い出せない風景
石垣は 風化を思わせる垢に覆われ
ちいさかった木々は 見上げるほどの大木に成長していた
造成された風景はサイズ違いの ミニチュアに見えたけれど
山や 田んぼは当時のままの姿だった
あの頃の私が あちこちに歩いていた
あの娘と一緒に 笑いながら
もう誰もあの頃の姿ではなく
私も もうあの頃の私ではなく
お父さんは 死んでしまった
苦しかったけれど
あの頃はすべてが悲しかったけれど
一生懸命自分のいのちと向き合いながら
ひたむきに生きていた
だれにも わかってはもらえなかったけれど
あなたは本当にひたむきに生きているのだと
あなたは そのまま生きていていいのだと
会って教えてあげたかった
きっと いまの私も
老婆になった私の目から映る姿は
ひたむきに生きているのだろう
今はわからなくても
きっとすべてがわかるときが来る
だから泣きながら すすめばいいんだ
泣きながら
心の海
あのとき
確かに君は 此処にいた
僕だけに見せる笑顔で
記憶という海
心という孤島
散文