その執事、鮮紅。

黒執事の二次創作です。お嬢様となってお楽しみください。2011年のヴァレンタインに書いたお話。

去年は失敗だった。

作っているところを渡す本人に見つかり、その上…

「甘過ぎ、ですね。」

とまで言われる始末。

そりゃあ、悪魔のセバスチャンにとってみれば、

チョコレートなんて、砂糖の塊にしか過ぎないのかもしれないけどっ!!

それに、作るとなったらセバスチャンの方が絶対美味しく作っちゃうし…。

でも…

渡したいな…。




2月14日。

「セバスチャン!!」

「なんですか、騒々しい。」

「あのね…これ、受け取ってください!!」

私は綺麗に包装された箱を差し出した。

セバスチャンの顔が、見れない。

ふっと、手から重みが消えると、

「…これは?」

と声が頭に降り注いだ。

「あ、あのね、去年セバスチャンが甘過ぎって言ってたから、ビターチョコを選んだの!

それに私が作るよりもマシかなぁと思って買ったんだ。」

そう言うと、一瞬だけどこか淋しそうな表情を浮かべながらも、セバスチャンの手が私に伸びてきた。

ゆっくりと髪を撫でられる。

「…ありがとうございます。」

一気に頬が熱を持ったのを感じた。

「お嬢様?私を見てください…」

そのどこか甘みを含んだ声に反応してセバスチャンを見つめると

「いきますよ?One,Two…Three!」

その瞬間、セバスチャンの手には一輪の花が現れた。

「うわぁー!すごいっ!!」

「お嬢様の執事たるもの、これぐらいできなくてどうします?ふふっ。

お嬢様は和風のヴァレンタインがお好みのようですが、

そもそも、欧州では男性から女性へ花を贈る日でもあるんですよ。」

「そうだよね!でも、私この花初めて観た…。なんていう花なの?」

「お嬢様、香りを嗅いでみてくださいませ。」

「ん…?あ、チョコレート!」

「はい。そちらは、チョコレートコスモスと言います。ヴァレンタインにぴったりかと。

とはいえ、本来はこの時期には手に入れるのが困難な品種。

寒さに弱い花でございますので、よろしければ後程プリザーブドフラワーにして差し上げましょう。」

「わーい!ありがとう!」

私はこのブラウンルージュの花を持って自分の部屋に向かった。

しばらくは香りを楽しもっと!

そうして、一輪挿しに挿して机に飾った。

…セバスチャンが私にプレゼントしてくれたんだ。

そう思うだけで、目の前の花がなんともいとおしくなってくる。

初めて観たけど、図鑑にも載ってるかな?

そう思い、書斎へと向かった。

ええっと、植物図鑑…あ、あった!

チョコレートコスモスは、っと…あ、これだ。

やっぱり綺麗な花だな…。

花の説明に目を走らせていると、ある部分に目が止まってしまった。

え…?

そこにはこう書かれていた。




花言葉:恋の終わり




どういう、こと…?

以前セバスチャンは言ってた。

「紳士から淑女に花を贈る場合は花言葉に想いを込めている場合があります。

淑女たるもの、花言葉も覚えておかないと。」

そう教えてくれたセバスチャンがチョコレートコスモスの花言葉を知らないはずがない。

…ダメ、ってことなの…?

「お嬢様?」

はっとして振り向くと、扉のところで紅茶とお菓子を手に持ったセバスチャンが立っていた。

そのままセバスチャンはこちらに向かってくる。

「仕事部屋に伺ったところ、お姿が見えませんでしたので、こちらかと。

紅茶でもいかが…」

「来ないで!!」

セバスチャンの足が止まる。

もう、限界だった。

あのチョコも迷惑だったの?

あの髪を優しく髪を撫でてくれた手も、あの笑顔も全部。

…私の“執事”だから、くれたものだったの…?

「ごめん…なんでも、ないから。ちょっと1人にさせてくれないかな。」

セバスチャンの顔を見るのが怖かった。

顔を見たら責めて、傷付ける言葉しか出てこないような気がした。

顔をそらし、俯いたまま言うのが精一杯だった。

コツ。

その音に気付いた時にはその音はもう間近に迫っていて、

次の瞬間思い切り強く抱き締められ、それと同時にトレーの食器と本が落ちる音が響いた。

しばらく、静寂が響く。

そして、絞り出すような声が耳のすぐそばで聞こえた。

「そんな顔して…1人になんか、できるわけないじゃないですか…」

その声から普段のセバスチャンの飄々としたものを感じられなくて。

気が付けば、頬をつたわる冷たいものをセバスチャンが拭ってくれていた。

そっと目を覗き込まれ、

「何があったか…話してくださいますね?」

正直、チョコレートよりも甘いその微笑みはずるいと思った。

「花言葉…」

「え?」

「…恋の終わり、って書いてたから。」

「それで泣いていた、と?」

こんなの、好きって言ってるようなものじゃない…。

恥ずかしくて、ただ頷くことしかできなかった。

「ふふっ。お嬢様は本当に無知、ですね。」

「な…!?」

おもいっきりセバスチャンを睨む。

「チョコレートコスモスにはもう一つの花言葉、移り変わらぬ気持ち、という意味があります。

それに、チョコレートコスモスはブラウンルージュ…というより、どちらかと言うと黒い花なんですが、

キバナコスモスと呼ばれるごく一般的なコスモスと交配することができるんです。

逆に言うと、キバナコスモスはチョコレートコスモスとしか交配できない。

そして、キバナコスモスの花言葉は野生美…どこかの誰かさんのようですね?」

「…私を見ながら言わないでくれる?」

「そして、チョコレートコスモスとキバナコスモスを交配して出来たのが、

ストロベリーチョコレート。」

「ストロベリーチョコレート?」

「はい。黒いチョコレートコスモスと黄色いキバナコスモス、ストロベリーチョコレートは鮮やかな紅色なんですよ。

しかし、ストロベリーチョコレートは最近できた品種のようで、花言葉はわかりませんでした。

さて。」

そう言って、より一層セバスチャンが顔を近付けてくる。

「っ…!?」



「私達のようなストロベリーチョコレート、どんな花言葉になるんでしょうね?」

その執事、鮮紅。

※ブログの内容を一部除きそのまま載せてます。

さてさて。あとがきです。

お嬢様の手を煩わせてしまったようで申し訳ありません(>_<)

その執事、鮮紅。

  • 小説
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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-12-30

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