ひとりぼっち

ひとりぼっち

「ねーきょんちゃんまた彼氏と別れたらしいよー」
「まっじで!?何人目だよ」
「知らね」
「あ、真理のネイル可愛い」
「そう?ありがと」
「どこでやったの?」
「おねぇにやってもらった」
「小指だけってとこが渋いよね」
「なんだよ渋いって」
「格好いいってことだよ」
「ま、なんでもいいけど」
「それよかさぁ!聞いてよ!鉄君この前怪我しちゃって!」
「なんで?」
「また喧嘩かよ」
「違うもん!バイクでこけて短パン履いてたから膝こう、ざーっと」
「やったの?」
「軽いけどね。結構たくさんかさぶたできてた」
「私のお父さんもさぁ、この前酔って帰ってきた時階段から落ちて」
「あはは。まじで?超うけんだけど、おっちゃん」
「でさ、そのまま朝まで倒れたまま寝ちゃって。
朝ママが起きてきた時超悲鳴あげてさ」
「そりゃそうだろ」
「救急車呼ぼうってなったんだけど止めた。
全力で止めた」
「それな」
「あ、今日塾だから私ここなんだ」
「え、そうなの?」
「私も彼氏とご飯食べてくるからここなんだよねー」
「お、気が合いますな」
「合わねぇよ」
「じゃ、咲、また明日ね!」
「ほーい!じゃぁね!」
「ばいばーい」
「ばいばーい!」

そう言うと咲と呼ばれていた少女はおもむろに学生鞄から音楽プレーヤーを出し、
耳にそれをセットする。
ふふっ。
さっきとは別人の顔をしてる。
1人だから当たり前なんだけど。
懐かしいなぁ。
私も、そうだった。
友達が私の降りる駅より3つ手前でみんな降りちゃうから
そこから帰るのがなんだが寂しくて、
他の子たちは今頃なにを話してるんだろう。
私の知らないことだったらやだな。
とかそんなこと思いながら帰ってたなぁ。
咲、って呼ぼうかな。
咲がスマートフォンを取り出して真剣な顔で
なにかを見てる。
何を見てるんだろ。
向かいのこの席からそれを伺い知ることは出来ないけど、
多分Vineでも見てるのかな。
咲はずっとじっとスマートフォンから目を離さない。
ふふっ。
可愛いなぁ。
私にもあんな時代があった。
物心ついた時からインターネットが側にあった世代。
彼らの思考がわからない時もよくあるが、
それは私が若い時に上からそう思われてただろうし。
今の子はとても恵まれている。
私たちの世代は、丁度過渡期。
高校の時ベルができて、
その内携帯ができて、
大学の時インターネットが普及して。
午後11時からは楽しかったな。
テレホーダイなんて言っても今の子どもたちは
ピンとこないだろうな。
今は今で楽しいけれど、
インターネットの無い時代も楽しかった。
調べたいことは図書館や人に聞いたり、
ゲームに夢中になったり。
インターネットの普及によって
人は、莫大な情報を瞬時に手に入れることが
できるようになった。
でもその「情報を見極める力」を
持たないが故に殺されてしまうこともある。
まぁこれは極論だけど。
咲がドアの前に移動する。
次の駅が咲の降りる駅なのだろう。
バイバイ。
咲ちゃん。
どうか色々なものを吸収して、
素敵な大人になってください。
咲の横顔をちらりと盗み見する。
精悍な顔立ちをしている。
ショートカットが、うん。
よく似合ってる。
ドアが開く。
努めてクールな表情で咲は駅の
プラットホームを改札口へと歩いていく。
バイバイ。
もう会うことはないだろうけど、
バイバイ。


ひとりぼっち

ひとりぼっち

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-26

CC BY-NC-ND
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