牢獄

感覚で書いたので、感覚で読めばよい。


口端に煙草を咥えてみたものの、それから何をする気も起こらなかった。
がらがら回る換気扇が、差し込む光を絶えず掻き回している。
どこからであろうか、車の走る音が遠くに聞こえた。
沈黙は息苦しい。私はひとまず煙草を口から離した。
既に黄昏時である。明かりを点けない私の下宿部屋は、焼けるような夕陽と焦げ付いたような陽影が対比を為している。網戸すら開けきった窓の前には、渦を巻いた蚊取り線香から煙が一筋、ふらりと靡くこともなく真っ直ぐに立ち昇っている。生温く淀んだ部屋の空気は、汗ばみ湿った私の体へ尚も纏わりついて、頗る不快である。
為すべきことは山とある。今を怠ける分だけ、後で泣くだろうと思うと、身体に熱がじわりと滲む。私はその感覚が、嫌いではない。ともすればその焦燥の内に、恍惚と浸ってしまうことも稀ではない。私は再び換気扇を見上げ、周り巡る明暗の輪舞を漠然と眺めた。
左様、やがて蚊取り線香が渦を巻いて燃え尽きる。日はとうに暮れ果てて、窓外の街灯が部屋を蒼白く冷ます。換気扇は闇に黒々と塗り潰され、最早がらがらと音しか聞こえない。私は後悔しようとしたが、出来なかった。悲しもうとしても、目頭はちっとも熱くならない。だから私は渋々、煙草を口に咥え直して火を灯した。薄暗がりを仄かに輝く橙色の火先から細くたなびく紫煙は、がらがらと闇へ吸い込まれていった。

牢獄

牢獄

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-25

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