その執事、希求。
黒執事の二次創作です。お嬢様となってお楽しみください。2010年のクリスマスに書いたお話。
休日の今日、お嬢様はお茶会を催される。
小規模、というご要望で人数はお嬢様と客人の…
「セバスちゃーん!!お招きあ・り・が・と・ん♪」
「いえ、私がご招待したわけではなく、お嬢様がご招待しただけのことですので、そこに私の意思は一切ございません。」
「あぁん、セバスちゃんのイケズ~!」
「セバスチャン、紅茶とお菓子のおかわり、頼んでいいかな?」
「畏まりました。」
そう。
話が合うのか、最近お二人で逢うことができてきた。
急ぎ足で、しかし、品を保ったままキッチンへ向かう。
素早く準備をし、お茶会の席に戻るとあの紅髪の姿が見えなくなっていた。
代わりにそこにいたのは、スヤスヤと寝息をたてるお嬢様。
帰ったのか…。
冷えますよ、とそっと声をかけながら傍らに置いていたブランケットをお嬢様にかけ、抱えて部屋に向かおうとしたところ、
テーブルに1枚の紙を見つけた。
お嬢様を左腕に抱えたまま、右手でその紙を取った時、
「セバスチャン…?」
というかすれ声が聞こえた。
「おや、お目覚めですか、お嬢様?グレル様はとっくに…」
「好き」
「…は?」
そう言ったお嬢様は、私の首に腕を回し、抱きついてきた。
何が…起こってるんです?
そう思いつつ、なぜか右手の紙が気になり、視線を落とす。
その紙にはこう書かれていた。
『セバスちゃんへ★
最近手に入れた、惚れ薬をウィルに使おうと思ったんだけど
試しにお嬢ちゃんに使ってみたから★
ちなみに、目を覚まして1番最初に視界に入った相手を好きになるらしいから、
今頃セバスちゃんにメロメロだったりして(^_-)★
効果のほど、教えてねん♪
あなたのグレルより★』
それが、12月22日のことだった。
それから。
ずっとお嬢様は、何度仕事をなさい、離れなさい、さもなくばお仕置きですよ?
と申し上げても、
「いや。セバスチャンが好きだから一瞬でも離れてたくない。」
の一点張り。
仕事になりません。
他の使用人たちも驚いた様子で遠巻きに観てますが、手を出せる状況でもなく。
…はぁ、困りましたね。
私は途方に暮れていた。
そうして迎えた24日。
クリスマスムード一色の街をデートしたいというお嬢様に強引に連れられてきた。
はぁ、いつまでこの日々は続くのだろうか。
人が溢れかえる街をぼんやりとそんなことを考えながら歩いていた。
嬉しくない…わけではない。
むしろ喜ぶことかもしれない。
そう思っていると、袖を引っ張る力が急に消えた。
「お嬢…様…?」
先ほどまで左側にいたお嬢様の姿が忽然と消えていた。
急いで辺りを見回すが、人が多いせいもあって、探すどころか身動きも取れない。
「セバスチャン…助けて!!」
それは、私が教えた“おねだりの仕方”。
契約の印に引き寄せられるように狭い路地へ。
「お前…惚れ薬飲んだんだってなぁ…?
アレイストチェンバーの闇オークションでも、なかなか出てこない代物でなぁ…。
お前を…人体実験に使わせてもらうっ!!」
レンガを振り上げられ、もうダメかと諦めた瞬間、硬いものを受けとめる鈍い音が響いた。
「…あなたですね?
お話は女王陛下から聴いてますよ?
なんせうちの主人がここ数日、仕事をしてくれませんでしたので、私がせざるを得ませんでしたから。
…この方で間違いありませんよね?…グレルさん。」
「あら、私が仕向けたってよくわかったわね、セバスちゃん。」
「少し考えればわかることですよ。
なぜあなたが突然、惚れ薬なんて言いだしたのか…。
今ロンドンでは惚れ薬の製品化のための、科学的根拠が求められてますから、そのための人体実験…そして“始末”なのでしょう?」
「ええ、そう。特に女性の被験者が求められてたってわけ。
アタシが直接おとりになってもよかったんだけど、どうしてもウィルに止められたからお嬢ちゃんを利用させてもらったわ。」
「さすが。普段のナリはそれでも…」
「これでも死神DEATH★」
「…さて。私の左腕の骨を粉砕してくださった科学者さん?
…茶番はここまでです。」
すかさず、グレルが自らのデスサイズで魂を狩り取る。
よほど怖かったのだろう、お嬢様は気を失い、倒れていた。
お嬢様をなんとか右腕で抱え、振り向く。
「さて、グレルさん。
どんなお仕置きをご所望ですか?」
「あぁん、ちょっと待ってよ!今回は交換条件だったんだからぁ!」
「交換条件?」
屋敷に戻り、お嬢様をベットに横たえる。
時間は25日を迎えようとしていた。
私は目覚めるのをただ待っていた。
ここ3日間、考えていたことがある。
お嬢様が私に好意を抱いている。
それは嬉しくない…わけではない。
むしろ喜ぶことかもしれない。
ただ。
…いつからこんなに欲張りになってしまったんだろうか。
その時。
うっすらとお嬢様の瞼が開くのを感じた。
「お嬢様!!」
視線は彷徨い、ようやく私を捉えた。
『交換条件っていうのはね、惚れ薬を飲んでおとりになってもらう代わりに』
「セバスチャン…」
「ご無事で…よかった…」
手を思わず握ると、力なく握り返してくれた。
『惚れ薬の効能を3日間のものにすること。』
「お嬢様…?」
『その3日間でたくさん好きって言って』
「セバスチャン…」
『効果が切れた後に1度だけでも』
「好き…だよ…。」
『好きって言いたいんだって。
まぁ、セバスちゃんには黙っててくれって言われたから、これはアタシ達だけのヒミツね★』
この3日間、ずっと思ってた。
人工的に作られた100回の好きよりも
1回の本物の好きが欲しい、と。
「…もう十分、わかりましたから。
今夜はゆっくりお休みくださいませ。
サンタさんが寝てない子にはプレゼントをくれませんよ?」
プレゼントをもらったのは、自分の方かもしれない。
悪魔で執事、なんですけどね…。
その執事、希求。
※ブログの内容を一部除きそのまま載せてます。
はい、あとがきです。
ここ最近ずっと、書くことをためらってたんです。
怖いというか。
でも、純粋に書きたい気持ちもあって。
だから、どうしようかと思ったんですが、
もう書きたいんだからしょうがない!って思って書いたんですが、
お友達にコメント頂くまで本当に怖かったみたいで、頂けたら思わず泣いてしまいました