手の平の地球

手の平の地球

彼が湯飲みにコーラを注ぐ。
しゅわしゅわと湯飲みの中が一瞬騒がしくなり
すぐに静かになる。
午前1時。
「先に寝てていいって言ったのに」
「だって私もさっき帰ったとこだもん」
「かわいいな、まなみーは」
「可愛くないよ、別に。ドン君の方が可愛いよ、
なによこの駄菓子の山」
少し呆れた顔をしながら真奈美はドンを見つめる。
「だって・・・好きなんだもん」
「アフリカにはないもんね」
「ブルキナファソだもん」
「はいはい。で、これはなんなのさ」
そう言って真奈美は丸い球体を指さす。
「衝撃買いです」
「衝動買いね」
「それです」
「なんで敬語なんだよ」
「まなみー、怒ってる?」
「別に。ドンちゃんのお金だから好きに使っていいけどさ、
別にプラネタリウムなんていらないっしょ」
「いるもん・・・」
「いつ見るんだよ」
「今だもん・・・」
「じゃあ見せてよ」
腹立たしげに真奈美が煙草の火を点ける。
「わぁい!ちょっと待っててね。
確かここをこうして、うーん、違う。
なんなんだんしょ。
ここかなぁ。
うーん。
違うのかぁ。
これはどうだい?
・・・ちがいまーす!
まなみー!ヘルプミィ!」
「うるさいよ。もう、かしてみ。
日本語の説明書なんて読めないんだから。
ん?
これどうなってんのよ、これどこにセット・・・
ああ、ここか。
はいはいはい。
それで、ここね。
あ、違うや。ここか。
できた。
点けるよ?」
「ちょっと待って!写メとるから!」
「若者かよ」
「違うもん!でも撮りたいんだもん!」
「あっそ。早く撮ってよね」
「まなみーこっちに笑顔ください!
そう!笑って笑って!
はい!
もう1枚!
はい!
見上げてー!
はい!
ナイスショット!
はい、いいですよぉ。
いいですねぇ」
「もういいから」
そう言って静かに真奈美が電源を入れ部屋の電気を落とす。
「わぁ、綺麗でーす!
綺麗でーす!
とても綺麗でーす!」
「・・・ほんとだね」
「あれ地球だね、ドンちゃん」
「そうだね」
「私たちが住んでる星だよ」
「そうですね」
「こうやってみたら、ドンちゃんの国も私の国も一緒だね」
「?」
「ほら、手の平くらいしか距離がない」
「ほんとだね」
そう言ってドンは真奈美に微笑みかける。
真奈美は静かにドンに近付き
ドンの唇をそっと塞ぐ。



手の平の地球

手の平の地球

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-25

CC BY-NC-ND
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