リサイクル勇者3

村での毒騒ぎの犯人を突き止めるため、龍馬とル―シィは再び洞窟へ。その間に村ではまた事件が…。

トテトテトテトテ……。
 誰かが歩く音が聞こえる。
 ガラッ
 扉を開けた。ル―シィかな。
 ドグゥ
「うげぇっ」
「いつまで寝てるですか。早く起きるです。爽やかに起こしに来たです」
「ね…寝てる人の鳩尾に…蹴りを入れるのは爽やかなのか………」
 最悪の目覚めであった。
 異世界二日目。
 今日は村で騒ぎを起こした魔物の調査へ行く予定だ。
 ていうかケリをつけたい。早く魔王討伐に行かねば。
 外では「チチチチチチ……」と鳥が囀っている。窓からは朝日が差し込み、澄んだ風が吹き込んでくる。外では農作業に勤しむ村人や、子供たちがいる。
「ほら、さっさと顔を洗ってくるがいいです。朝ごはんも準備OKですよ」
 
 
 メディルスの外へ出て裏にある小川で顔を洗う。ヒンヤリと冷えた水が気持ちいい。
 貰ったタオルで顔を拭き、ググッと背伸び。シャキッとしますな。
 店に戻るとリビングでは朝食ができていた。
メニューはトーストと何かの果実のジャム、スープ、種類は分からないが多数の野菜のサラダである。
異世界の食べ物は分からないが美味しい。。
「で、いつ出発です?」
「一応飯食って準備したらすぐに行こうかなぁと思ってくるけど」
「それ、私もついて行くです」
「店番とかはいいの?」
「足りない薬草があったので採りに行きたいのです。店番は村の方に任せるです」
「分かった…………ごちそうさん。ちょっと二階で準備しとくわ」
 食器を置き、階段を上って二階へ向かう。
 部屋に行くと窓に小鳥が止まってピーピー鳴いていた。
 平和だなぁ。
 まぁ準備といっても持ち物が何もない。
 さて、と。僕は窓から外を見ながら作戦を立てる
 洞窟へ行ったらまず知能が高い魔物を見つける。その魔物をぶちのめして親玉のいるところを吐かせればいいだろう。
 完璧な作戦だ!
『どこぞのマフィアみたいだね』
 うるさい神様のご登場だ。
 流れる川を見ながら尋ねる。
「なんか用かよ。僕今忙しいんだけど」
『いや、暇だし』
「神の仕事しろよ」
 こんのニートがぁ。
『まぁ僕の役目は無さそうだし。ばいちゃー』
 もう出てくるな。何しに来たんだ。
 ガラッ
「まだですか。こっちは準備万端です」
 ル―シィが来た。どうやら待っていたらしい。
「分かった。出発しようか」



 そしてまた洞窟。
 今回はちゃんとたいまつを持ってきている。魔法で明かりをつけてもいいけど結構疲れる。もし狙いの魔物が強かったら勝てなくなっちゃうかもしれないからな。
 前みたいに蜘蛛の化け物は出てこない。
 コソコソと何匹か見かけるが、僕等を見るとササッと隠れる。
「見ろよル―シィ。前ので逆らうと怖いって蜘蛛共が理解したみたいだぞ」
「蜘蛛ごときに勝ってそんな嬉しいですか」
「……………」
 …虚しい。
 洞窟の奥へ進む途中でル―シィはチョコチョコと薬草やら木の実やら拾っていた。ちゃんと仕事はする真面目な奴だな。
 真面目、か。
 ……僕も、真面目に生きてたはずなんだけどな。いつから人生狂ってたんだろう。ル―シィみたいに前向きに、熱心に生きてたはずなのに。僕とル―シィは何が違うんだろう。何がおかしいんだろう…………。
『そんな真剣に悩まない方がいいよ』
「………出やがったな」
『一応考えてることは分かるからね』
 とことんプライバシーのない状態になってんな。
『それで、龍馬。君はそんなことを考えてる暇があるのかい?』
 そんなこと? そんなことだと?これは僕の人生のことだぞ。自殺する前にとことん悩んだことだぞ。それを『そんなこと』って…………!
『それは前に君のいた世界のことだろう』
 ミルは溜め息をついて言った。
『ここは君のいた世界とは違う。いわば第二の人生だよ。二回目の人生に前回のことをズルズル引きずってどうするの。そんなに気になることなら、答えはこの世界で見つけてごらん』
 この世界でって言っても……。
『ちゃんと言ったからね? 答えが分からないなら、この世界で見つければいい』
 そう言うとミルの声は聞こえなくなった。
 ………あの神様はおせっかいすぎる。
「どうかしたですか?」
 ハッとし、前を見るとル―シィが僕の顔を覗き込んでいた。
「なにか……、とても怖い顔してるです」
「そんな顔…していたか?」
「それと一緒に、悲しい顔もしてるですよ」
 ル―シィは心から心配しているような表情だった。このドSのル―シィがここまで心配するのだから結構な顔をしていたんだろう。
「大丈夫。大丈夫だ」
「………そうですか。でもそんな真剣に悩むことなら相談するです」
 おぉ…。なんかル―シィってこんなに優しかったのか。僕、ちょっと涙出そうだよ……。
「そんな辛気臭い顔されたらこき使うコッチが嫌な気分になるですから」
 前言撤回。
 いつも通りにSでした。
 そんなことを話していると、大広間のような場所に出た。
 こういうところは何回か通り過ぎたが、一つ違うところがあった。
 壁に大きなドアが取り付けられていた。
「ル―シィ、この扉って魔物のか?」
「ここ最近工事を行ってないですからそうですね」
 二人でドアに耳を当て、中の様子を窺うと、中は結構騒がしかった。しかも、中から聞こえる声はどう聞いても人間ではない。野太く、不快な声だ。
 ル―シィも中の声を聞く。
「これは……ゴブリンです」
 ゴブリンねぇ…。ゲームでもよく出てくるやつだな。
「じゃあこの中のゴブリンぶちのめして情報聞くかな」
「大丈夫です? 集団で来る魔物ですが」
「吹っ飛ばすから大丈夫」
「……爆破とか嫌ですよ」
「大丈夫だよ。下がってて」
 さすがにまた爆破をしたりしない。ていうか『火』を使わない。
 僕は一呼吸置き、思いっきりドアを蹴破った。
 中ではテーブルやら色々家具が置かれ、例えるならカジノみたいだった。そこに緑色の皮膚に、とがった耳と鼻、ボロボロの服を着た魔物がたくさんいた。約三十匹ぐらいか。
「ウ、ウ?」「ナン、ダ」「ニンゲン」「ウグゥ」
 なんかキモい。こりゃちゃっちゃと片をつけるか。
 武器を持ち、こっちへ向かってくるゴブリンに向け、手のひらを向ける。
「『ヴィントシュトース』ッ」
 すると目の前まで来ていたゴブリン共が後ろへ吹っ飛んだ。あるゴブリンは宙を舞い、あるゴブリンはテーブルと共に飛んでいく。
 今回使ったのは『突風』という意味だ。それに従ってゴブリンはみんな飛んでいき、一網打尽となった。ゴブリン達は気を失っている
 近くではまだ意識のある奴がいたので叩き起こす。
「おい、答えろ。昨日村に毒仕込んだ奴知らんか」
「………ソレハ我々ノ『ボス』ガシタコトダ」
「はぁ?」
「デモココマデ来タノモ作戦ノ内ダ。今頃村ガ楽シミダ……」
 その瞬間、嫌な予感がした。
 村が楽しみ? 村では何が起きてるんだ?
「ル―シィ! 村へ急いで戻るぞ!」
「え、あはいです」
 ダッシュで僕とル―シィは村へ急いだ。



 村へ戻ると一目散に村人が来た。
「ル―シィちゃん、大変よ! 村にゴブリンが…」
「分かってるです。どこに行ったですか」
すると村人は言いにくそうに。
「それが…メディルス……」
 ル―シィの顔色が変わった。一気に真っ青となった。
えr そのままル―シィは走りだした。
「おいル―シィ!」
 
 メディルスはそこには無かった。正確に言うとメディルスは破壊されていた。
 看板はへし折られ、入口が崩れていて見当たらない。所々から火が上がり、ボヤにもなっている。ここだけ大地震があったかのようだ。
「…………誰が…誰がこんなことを…」
 ル―シィはその場に膝をつき、茫然とした。目には涙が浮かんでいる。
 こうなった原因は一つしか考えられない。
「ソレヲヤッタノハ俺ダァ!」
 メディルスの残骸の陰から大きなゴブリンが現れた。三メートルは超え、体もガッシリしている。これがボスか。
「簡単二崩レタゼ~。コノボロハ。ヘッヘッヘ」
 ニヤニヤと笑うボスゴブリン。
「あなたは…あなたは……」
 ル―シィはワナワナと震えながら叫んだ。
「何でこんなことしたですか!コイツを殺すのに関係ないじゃないですか」
「ハァ? 知ラネェヨ。魔王様二殺セッテ言ワレタカラナ。ココニ勇者ガ泊マッテルト聞イタカラ、トリアエズ。毒モトリアエズ」
「とりあえず……ですか?」
「アァ」
「う…うぅ……うわああああああああああああ」
 ル―シィはその場に泣き崩れた。いつもみたいな強い少女の姿は無い。あるのは長年の夢を、壊された少女だ。
「ソンナコトヨリオ前。勇者ダナ? オ前ヲブッ殺」
「そんなこと?」
 僕は静かに返した。
「そんなことだと?」
「ウルセーヨ! ソレガ何ダヨ」
「テメ―は……一人の夢をぶち
壊したんだぞ!?」
「知ラン。俺ニハ関係ナイネ!」
 僕はその言葉を聞いた瞬間、
 キレた。
「コイツは夢に熱心でなぁ。楽しいって! 笑顔で頑張ってたんだぞ」
「知ルカボケ! ンナコトヨリオ前ヲダナ…」
「こんな僕のことなんかどうでもいいんだよ! こんな惨めな糞っタレのことなんてなぁ」
 ここまでキレたのもいつぶりだろう。
 だがここで怒らなきゃ男じゃない。人間として終わっている。
「僕なんて受験失敗したぐらいでなぁ、自殺したぐらいの屑なんだよ。僕は真っ直ぐなコイツをスゲーと思った。尊敬した!」
 正直な気持ちを叫ぶ。
 洞窟で考えたことは間違っていた。僕は挫折したんだ。ル―シィとは違い、負けたんだ。
「それをお前は、ぶっ壊したんだ!」
「ギャーギャーウッセェ! サッサトオ前ヲブチ殺シテヤルァ」
「お前は、僕を本気で怒らせた!」
 ボスゴブリンはその丸太のような手を振り上げ、向かってくる。走るだけで地響きが鳴る。
 僕は手のひらを向け、
「『ゲプンクテット』」
 ゴボッ
 ゴブリンの顔が水の球に包まれた。今の意味は『水玉』だ。
「ゴボッ、ナンダ…」
 中で溺れかけている。
 だがこんなのじゃ怒りは収まらねぇ!
「お前の償いのために残酷な死を送ろう」
 息ができず、苦しんでいるゴブリンにさらなる追い打ち。
「『プラッツェン』(破裂)
 ゴブリンの両腕が吹き飛んだ。そこから鮮血が迸る。
「アアアアアアアアアアアアアアア」
「『プラッツェン』」
 ゴパァン
 次は両足。
「『プラッツェン』」
 ドパッ
 腹に穴を開ける。内臓が飛び出て気持ち悪い。
「ゴゴ…ガ」
 もはやゴブリンは虫の息だ。
「とどめだッ! 地獄の底まで吹き飛びな!」
「ヤメ…」

 アオス・ブルフ

 ゴッパァァァ……!
 ゴブリンの体から溶岩が噴き出し、焼けて消えた。
 チリも残らずに。

 ル―シィはしばらく寝込んだ。
 僕等は村人の家でやっかいになり、何日か過ごした。

 

 そしてある朝。
 僕は誰にも言わず、村を出た。
 
 一人、僕は道を歩く。
「何勝手に村出てるですか」
「ル―シィ!?」
 いつのまに!?
「何も言わずに出発するですか」
「いや、スピードワゴンもクールに去るから」
「んなこと聞いてないです。まだお礼も何もしてないです」
「お礼?」
 お礼と言っても……メディルスを守れなかったのに。
「いいです、メディルスは。そうなる運命だったのです。運命は逆らえないのです」
 なんか悟ったようなこと言い始めた。
「お礼というのはゴブリンを血祭りにしたお礼です」
「いや、あれは個人的に腹が立っただけで……。しかも弱かったし」
「それが嬉しかったんです」
 まぁそういうなら、お礼貰っちゃおうかな。
「リョウマは旅人です」
「うん」
「旅には怪我が付き物です」
「まぁそうだろうね」
「なので私がついて行ってあげるです。あなたの怪我は私が治してあげるです」
「マジで?」
「マジです。さぁ、決まったんなら早く行きますよ。旅は道連れ世は情けです」
 タタ―と行ってしまうル―シィ。僕はそのあとを追いかける。
 そういえば名前、呼んでくれたな。

リサイクル勇者3

今回で村での話はおしまいです。
次回からやっと冒険に出ます。
是非お読みください。

リサイクル勇者3

村での毒騒ぎの犯人を突き止めるため、二人は洞窟へ。 そこにいたゴブリンにとんでもないことを聞く。 その時、村ではまたある事件が…。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • アクション
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-24

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