その少女、愛想。

黒執事の二次創作です。お嬢様となってお楽しみください。2010年に思いつき、誕生日が近かったので誕生日に公開したお話。

今日もいつもの道程を歩く。

最近は地面からの太陽の照り返しが強い。

背中に感じる熱もあってちょっとくじけそう。

でも、それでも歩き続けるのは

そこにあなたがいるから。

もうすぐ扉、というところでキィ…と音がする。

それと同時に「おや」という声が降ってくる。

見上げなくてもわかる。

私は走りだし、向こうも私に駆け寄ってくる。

私は思いっきりあなたの胸に飛び込むの。

あなたの、私を包んでも余ってしまうほどの長い腕。

私に頬擦りする冷たい綺麗な肌。

そして、私に向ける笑顔。

全部、私だけの“特別”なの。




あなたはいつも私の手を握りながら、遠くにある何かを見つめる様にして、

「全く…みんなあなたのようでしたらよかったんですがね」

そう呟く。

私は何度も訴える。

手を握るのはくすぐったいわ。

でも、それ以上に。

悲しいの。

笑顔のあなたが悲しくて辛いの。

でも、それはあなたに伝わることはなくて、今まで時が流れてきた。




いつの日か、あなたに何日も会えない日があった。

あなたが申し訳なさそうに言ったことには、

「どうしてもやらねばならない仕事があったのですよ。」

ということだった。

でも、それを聴いたのはあなたがここに帰ってきてからのことで、

私は開かない扉の前で何日も待ち続けた。

私も悪魔ならよかったのに。

そうしたら、お腹が空くことなくあなたが帰ってきたら一番にあなたの胸に飛び込めるのに。

でも、空腹には抗えない。

私は前に見つけておいた場所からこっそり中へ入った。

そこは執務室だった。

キョロキョロする私に上から何か降ってきた。

な、何?

それは、風によって転がって落ちた万年筆だった。

それを元に戻そうと机に乗ると、

そこには丁寧に書かれたあなたの文字。

〇月□日 晴れ 今日私はお嬢様の執事になった。

そう書き出された、執務日誌だった。

どうやら、急いで出かけたらしく、

先程落ちてきた万年筆は日誌の上に置いてあったようだ。

もう、ちゃんと蓋ぐらいしなきゃ。

私が蓋をくわえた瞬間、入ってきた場所から風が通り抜け、ゆっくりと日誌が捲られていく。




お嬢様がよく泣いて手に負えない。




なぜお嬢様が私を選んだのかわからない。




お嬢様が私に微笑んでくれた。




お嬢様の笑顔が増えた気がする。




私が執事としてできることは何だろうか。




今以上に

お嬢様の笑顔のためにできることは

ないだろうか。




ねえ、セバスチャン?

あなたは私に

可愛らしい

いとおしい

とは言ってくれるけど。

好き

愛してる

とは言ってくれないの

自分で気付いてる?

あの執務日誌を読まなかったふりしてそのまま閉じた時から

私は気付いてしまった。

あなたは他のことには鋭いのに

自分のことには本当に疎いのね。

人間ではない悪魔のあなたが人間のお嬢様に向ける想いと

悪魔ではない猫の私が悪魔のあなたに向ける想いはきっと同じ。

きっといつかあなたの届かない心の声がお嬢様に届く日が来る。

だから。

せめてその日まで。




あなたの胸の中で

届かない声で

あなたを好きと言わせて。

その少女、愛想。

※ブログの内容を一部除きそのまま載せてます。

さて、あとがきです。

みなさん…ごめんね?

その少女、愛想。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-12-30

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted