その執事、契約。

黒執事の二次創作です。お嬢様となってお楽しみください。お友達への誕生日プレゼントとして書いたお話。

それは夏の始まりを告げる日のことだった。

「うわー!!メイリンさん、観てください!

金魚すくいですよ!僕初めてみました!」

「こっちには綿菓子ですだよ!!いい匂いがするですだ~。」

「俺はここらへんで射的でもすっかな!

景品すべて奪いつくすぜ!」

「ふふっ。みんな楽しそうだね。」

「ええ。」

お囃子が鳴る中。

今日は少し早い夏祭りの日なのです。

個人的には人ごみは苦手なのですが

「祭りに行けないんだったら仕事しない!」

とお嬢様が仰るので、仕方なく。

…明日を覚悟しておいてもらわねば。

ふと、行き交う人を観てみると、ちらほらと浴衣を着ている人が目に入る。

場違い、ですね。

お嬢様と自分の服装を見て改めてそう思う。

お嬢様の普段着はいいにしろ、自分の燕尾服が気になる。

いや。

そもそも、このような場所に私がいること自体最近は疑問に思えてくる。

「あれ?みんながいない。」

考え込んでいるところを、お嬢様の声で意識を現実に引き戻される。

「…あぁ。やはりみなさんとはぐれましたか。

まぁ、あの人達ですし、暴れなければ人様の迷惑にはならないでしょうから、大丈夫ですよ。

それに、ここに入る前にはぐれた場合の待ち合わせ場所も決めてることですし、心配はいりませんよ。

…ん?」

何かに袖を引っ張られる。

腕を見つめると、袖を引っ張る手と赤い髪。

「おや、メイリンそこにい…!?」

「は~いセバスちゃん、お久しぶり♪

こんなところで逢えるなんてやっぱりアタシ達

う・ん・め・いなのかしらー?」

「あ、グレルさんお久しぶりです!」

「何よ!お嬢ちゃんもいるわけー?

これからはアタシとセバスちゃんの愛の時間なんだからね!邪魔しないでちょうだい!」

「お嬢様、こんな赤い厄介なモノほっといて行きますよ。」

「アアン!セバスちゃんのイ・ケ・ズ☆

でもそんなところが堪らないDEATH★

それより!セバスちゃん見て!!今日のために特注した

アタシのアタシによるアタシのための赤浴衣2010バージョンDEATH★」

「長いですね。」

「このミニでスリットが入ってるのがセクシーでしょう?

あぁ!これでイケメンが寄ってきたらどうしましょう!

もちろんセバスちゃんが

『私は、あくまで彼女のツレですから。』

って守ってくれるのよね!!キャー!!」

「お嬢様何が食べたいですか?」

「…と。そろそろ本題。

…人気のない場所に行きましょう、セバスちゃん。」

「…は?」

一瞬のことだった。私の体が宙に浮き、連れ去られる。

さすが、男なだけあるな。…って、それどころではない!

「お嬢様!すぐに戻りますので、そこを動かないでください!」

「わかったー!いってらっしゃーい!」

…なんというか緊張感が感じられないのが残念である。




私が解放されたのは、古い神社の境内で、

さっきまで鳴っていたお囃子が遠くに聞こえるほど、祭り会場から少し離れたところにあった。

もちろん、人などいるはずもない。

いるのは悪魔と死神のみ。

「…何の用ですか?あまりにおいたが過ぎますよ?」

“神社”だからだろうか。

人間ではない、そんな自分の感覚が研ぎ澄まされる気がした。

「いやだ、セバスちゃん。

その冷酷な瞳もステキだけど…」

一瞬のうちに距離を詰められる。

目の前にはいつもとは違う死神の顔があった。

「あのお嬢ちゃんをどうするつもり?」

「…仰ってる意味がよくわかりませんが」

「セバスちゃん、あなた最近平和ボケしてるようだから教えてアゲル。」




「アナタ、悪魔なのよ。」

鋭い目で射ぬかれる。

まるで、私自身観てみぬふりをしてきた事実まで見抜いてるような。

私の周りをゆっくりと歩きながら死神は続ける。

「最近のアナタを観てるとねぇ、イライラするの。

セバスちゃんとあのお嬢ちゃんが馴れ合ってるの。

…嫉妬?

いいえ。それよりももっと深く、アタシという存在として嫌悪感が湧くの。

そもそも。

アナタ達、悪魔の存在目的は何?

…人の魂を喰らうことでしょ。」

続きを聴くのが恐ろしくなり、睨み付ける。

「ふふっ。

でもね。

どうしたってアナタは悪魔なのよ。

人の魂を喰わない悪魔なんて聴いたことないわ。

今は空腹が平気でもそのうち」




「お嬢ちゃんを喰らうことになるわよ。」

わかってた。

本当はずっとわかってた。

いや、感じていた、と言う方が正しいのかもしれない。

だから、思いっきりお嬢様に触れられなかった。

壊してしまうのが、怖くて。

いつか、私もお嬢様を自分のために欲してしまうのだろうか

優しくしたいと思う気持ちも無くなってしまうのだろうか

あの笑顔を

悪魔の自分が奪ってしまうのだろうか。

「…まぁ、立ち聞きとはお行儀がいいものじゃないわよ?」

「…え?」

遠慮がちな足音が聞こえてくる。

まさか。

「ご、ごめんなさい!

あまりに帰りが遅いから探しに来たら…その、たまたま…」

聴かれてしまった。

…お嬢様に。

「まぁいいわ。

セバスちゃん、一つだけ教えておいてアゲル。

あんまり油断してると

魂じゃなくてもお嬢ちゃん奪われるわよ?」

「…は…?」

あまり回らない頭で、やっと出た言葉だった。

お嬢様に近付き、肩を抱いて、死神はこう言った。

「アタシ…お嬢ちゃんの為だったら

男に戻ってもいいかな、って思うのよね♪」

「な…!?」

そう言うと同時に2人の姿が消える。

境内の裏の方でかすかにお嬢様の声が聞こえる。

「セバスチャン…!」

「お嬢様!!」

助けなければ

そう思いながらも、先ほどの死神のセリフを反芻する。

…どうすればいい!

どうすればいい!!

助けなければと思う気持ちと

喰ってしまうかもしれないと思う気持ち

そんな時。

お嬢様と出会った頃の記憶がふっと蘇る。

「けいやく?なにそれ?」

「そうですね…ゆびきりのようなものですね。」

「ふーん…じゃあ!けいやく!」

「ふふっ、何ですか?」

「わたしがしぬまでずっといっしょにいてね、せばすちゃん!

うそついたら、はりせんぼんのーます、ゆびきった!」

「はいはい、わかりましたよ、契約ですね?」

そうだ。

私は悪魔。

お嬢様との契約に縛られる。

悪魔ならば、最後の最後まで契約に縛られてみせよう。

お嬢様の最期を見届けるその日まで

どんなに空腹が訪れても

お嬢様を護りぬく。

それが契約という、お嬢様との、

絆だから。

「お嬢様!!」




それからどれぐらい走り回っただろう。

自分の姿など気にしない、

ただお嬢様のことだけ考えて走り続けた。

あの赤い後ろ姿を見つけるまで。

「お嬢様を返しなさいっ!!」

肩を掴んだ相手はこちらを振り向きもせずこう言った。

「来たのね、セバスちゃん。

でももう遅いわよ。だって…」

くっ…!ダメだったのか…?

「こんなに可愛くなっちゃったんだもーん!」

「え?」

赤い死神と一緒にいたのは鮮やかな色合いの浴衣に身を包んだお嬢様だった。

「セバスチャン、どうかな…?」

「すごく…似合ってます…。

じゃなくて!!どうして」

「あのねぇ、セバスちゃんどっきりよ、どっきり。

お嬢ちゃんに可愛い浴衣を着せて、セバスちゃんをドキドキさせちゃおうっていうどっきり。

お嬢ちゃんが勝手に動くから予定が狂っちゃったけど。

はい、着替え部隊カモン!」

「はい、セバスチャンさん、着替えますよ~」

突然フィニとバルドが現れ、連れ去られ着替えさせられること数分。

私も、浴衣姿になっていた。

「…お嬢ちゃんも見惚れてることだし、あとは若いお二人で!」

「ありがとう、グレルさん!

セバスチャン、行こ…」

跪き、お嬢様の手の甲に唇を寄せる。

「え!?」

「お嬢様。

今日改めて、あなたの執事としてあなたに仕えることを誓います。」

あなたを傷つけるのが怖いのなら

自分で護ればいい。

ずっとずっと、護ると誓うから。

今はこの気持ちを大事にしたい。




愛しています、お嬢様。

その執事、契約。

※ブログの内容を一部除きそのまま載せてます。

いつもは思い付いて、その日のうちに1時間ぐらいで書いてたんですが、

今回はじっくり考えて、日を改めて携帯で2時間半ぐらいずっと書いてました。

マジマジドマジにいつ終わんの、これ?ってぼんぬじゃないですけど打ちながら思いました(笑)

それだけ、文章量が多くなってるんですが、

多すぎるな、とか思いませんでした?大丈夫でした?

その執事、契約。

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更新日
登録日
2011-12-30

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