その執事、熱病。
黒執事の二次創作です。お嬢様となってお楽しみください。2010年のお正月に書いたお話。
それは年の暮れも迫った、寒い日のことでした。
「…はい?」
「だーかーら!今日は、私も年末☆大掃除のお手伝いをし…」
「やめてください、足手まといです。」
「もう!ひどいなぁ、セバスチャンは。私はただのお嬢様とは違うのよ?お役に立ってみせますって!あ、このバケツを持って脚立の上に上がって窓拭きをすればいいのね?任せてっ!」
「お嬢様!!」
「…へ?」
「お嬢様。」
「ごめんなさい。」
「まだ何も言ってません。」
「どうせ怒るんでしょう?わかってるわよ。」
「…はぁ…。言いましたよね?足手まといになると。」
「はい…。」
「しかも。」
まさにスローモーションのようでした。バランスを崩した脚立と同じように、バケツ、そしてお嬢様がひっくり返る様子は。
「…お嬢様はなんとか私が受けとめたものの、バケツは止められませんよ。おかげで私までびしょ濡れです。困りましたね。」
「だ、だからって!お姫様抱っこずっとしてなくても…!」
「おや、恥ずかしいのですか?」
「な…!?」
ふっ…お仕置き、成功ですね。
私はお嬢様がお風呂に入られてる間、自分の頭を軽く拭き、おかゆの準備にかかった。
コンコン。
「失礼します。」
「セバスチャ~ン…。なんだか、寒気がして…フラフラするの…」
「おや、バカは風邪ひかないっていう諺は迷信だったんですね。…とにかく、暖かくしないと。早くベッドに入りましょう。」
「は~い…。」
「はい、口を開けてください。」
「え?いいよ、大丈夫、自分で食べられるから!」
「いいから。早くしてください。ただでさえ、私の予定は狂ってるんですよ?」
「う…。わかり、ました…。あ、あーん。」
「ふっ、いい子ですね。」
「ごちそうさまでした…。」
「薬も飲んだことですし、あとはもうゆっくり休んでくださいね。」
「あの…セバスチャン。」
「何でしょう?」
「ちっちゃい頃みたいに、絵本を読んでほしいなー、なんて思うんだけど…ダメかな?」
「…それ、わかってやってるんですか?」
「え?」
紅潮した頬に、涙目の上目遣い。
「…まさか、ね。わかりました、今日は特別ですよ?」
「うんっ!」
お嬢様の本棚から古びた絵本を取り出す。あまり有名でない、というか無名の作家の絵本。ある国のお姫様が、身分の低い男と運命的に結ばれる、もはや典型的な話だ。
お嬢様が横になっている、ベッドの脇に腰掛ける。そして、表紙を捲り、読み始める。
「むかしむかし、あるところに国中のみんなに愛されるかわいらしいお姫様がいました。」
「ふふ、私このお話大好き。」
お姫様は別け隔てない性格だったので、深く傷ついた男を躊躇なく助けた。
「お姫様は、その男を見た瞬間、どの国の王子よりも魅力的に感じました。そう、お姫様は男に恋…おや。」
横には、熱のせいか、頬を紅く染めたお嬢様が無防備に寝息をたてているのだった。
「私も悪魔といえど…男なんですよ?」
苦笑を浮かべながらも、懐かしの絵本を捲っていく。男は身分の差に迷い、その間にお姫様は隣国の王子と結婚させられてしまう。そこから、男は思い立ち、お姫様を奪いに行き、無事ハッピーエンドという話だった。
お嬢様はこの話が大好きだと言う。
私は。
大嫌いですよ、このような話。
眠っているお嬢様の前髪をそっとかきあげる。
「私なら。」
「お姫様を決して離しません。」
「ましてや、結婚など。」
「その髪も。その瞳も、鼻も、口も、手も、足も。」
「触れられるのは私だけ。」
「誰にも触れさせはしませんよ。」
「無防備なあなたを守れるのは…」
「私だけでしょう?」
これからお嬢様にそのことをじっくりと、教え込んで差し上げます。
…ふっ。こんなことを考えるなんて。
私も風邪、なのでしょうか。
その執事、熱病。
※ブログの内容を一部除きそのまま載せてます。
それでは、間あいてしまいましたけど、自己満あとがき書いていきま~す!
今回のお話ほど、私の願望の詰まったものはないかもしれません。願望とは!
・セバスチャンの水も滴るいい男姿