ねこ駅長奮闘記
某駅のねこ駅長をモチーフにほのぼのと。
ほのぼのねこ駅長のある日の事件簿
吾輩は猫である。名前はねこ駅長。そう呼ばれている。和歌山電鐵貴志川線の貴志駅の売店でぼんやりしていた吾輩が、ある日何故か駅長に任命された。仕事は、主にお客様に撫でられたり、写真を撮られたりそんなもので、駅長とは名ばかりのいわゆる癒し系マスコットだったりする。ゴロゴロしてるだけで、給与というか餌をいただけりのは助かるが、なかなか毎日ニコニコしているのもストレスが貯まるものだ。
そうなると、若気の至りか売店のおばちゃんの目をかいくぐり夜の街に繰り出し、いっちょ弾けたくもなるのである。南口からちゃっちゃーっと行くと『工房レトロ貴志川ギャラリー』があった、時間も深いし閉まってしまってるけど、ここのお店は猫グッズをたくさん扱っていて、なんともありがたい。店員さんもいい人だ。夜の散歩はなかなか心地よい。ただ、この街には散歩するほどの場所というか目的地がない……。
たまには出向かない方にでも行ってみようかと、商店街を抜け田園地帯に向かう。空を見上げると朧月。綺麗だけれど少し怖い。そこまで深くもない藪に入っていくと、物音が聞こえた。動きを止め聴力だけに集中する。
「や、どうしてこんなこと……」
若い女の子の声のようだ。さらに集中。
「べつに意味ないよ。ここにはだれも居ないし」
抑揚のない男の声。これは何とかしなければ! でも、タダの三毛猫の吾輩には何も出来ない。出来ない。出来ないのか? いや出来る! 出来るぞ! だって俺はねこ駅長なのだから!
とりあえず、最低限音を立てずに男と女の子の見える場所へ走る。草の間から二人の様子が見えた。女の子は制服を着ている高校生のようだ、床に座らせられて縛られている。長い髪が何だか切ない。その傍らで、簡易用の椅子に座りこみ湯をヤカンで沸かしている男。こいつが悪だ。野生、いや半野生の感が反応した。
「最後のティーパーティーといこう。君の好きなディンブラを淹れるよ」
ぐつぐつと煮えたヤカンにティーパックを二つ淹れる。距離は8メートル、走ればいけない距離じゃない。ただのお茶会にしてはオカシイ。うん。オカシイ。
男はティーカップに、グツグツ煮えたお茶を注ぐ。そして、お茶
を彼女の身体にかけようと詰め寄る。
吾輩は走る。甘やかされた太った体躯で。吾輩は飛ぶ。ティーカッ
プ向かって。ティーカップが舞う。
「あついいいいいいいいいい」男のうめき声がこだまする。
「ねこ駅長!」
縛られた少女はそう叫んだ。
『ね・こ・え・き・ちょ・う』うめいてる男を横目に彼女ニャーと安心しろの挨拶。
「私この男の人に無理矢理つれこられてお茶会をしようって言われて、なのになんか縛られて。大きな声で叫んだんだけど、この公園広いから外に聞こえないみたいで。この男の人もジワジワおどかしてくるし、そしたら急にガスコンロでお湯沸し出して。私殺されるんだなって思って。そしたらねこ駅長がぁ~わああああああああああああああああああん」
鼓膜がやぶれんばかりの声で泣いた彼女の声に気づいてか警官がやってきた。あれこれ話を聞いている、男は捕らえられている。あ~思い出した。あの子は朝7時38分の娘だ。
男には前科があった。以前にも女性に熱湯をかけて火傷させていたらしい。吾輩は一旦、保健所に連れていかれかけたが、すぐにねこ駅長と分かってもらい無罪放免。女の子を助けたということで、表彰までされた。世の中なにがあるのかわからない。
吾輩は猫である。名前はねこ駅長。日がな一日、退屈な仕事だがひとつだけ楽しみが出来た。7時38分の娘と朝のキスをすることである。いやはや、お恥ずかしいニャン。
ねこ駅長奮闘記
まああ、まったり収まったかと。