絶対彼氏

絶対彼氏

今の私の日常の全ては、
藍田海を中心に廻っている。
いや、もう日常が海といってもいい。
のせるマスカラひとつとっても
いつも海のことを考えながら私は
それをする。
「馬鹿でれって言うんだよそういうの」
幼なじみの莉々華とめろんがハンバーガーを
食べながら呆れて私を見てくる。
「いいじゃん別に。誰にも迷惑かけてないもん」
「わーわーうちらには掛けてるやんなぁ」
「黙れえせ関西人」
「ええやん。好きなんやもん」
めろんが流ちょうに関西弁を話す。
「私かて好きやからええやん」
「お前のは病気だ」
通路で挟んだ隣の席で鷹野洋佑が
ポテトをぐるぐるとこちらに指しながら言う。
宮下スカイ、黒川みのり、笹野ありすも一緒だ。
「違うよ洋ちゃん、るんちゃんは恋の病気なんだよぉ」
おっとりとした声でありすが洋佑を諭す。
「ありすちゃんこいつの肩もたんでええで。
ほんっとるん、お前その病気なんとかしろ」
「やだ」
「お金がいくつあっても足りないよ?
うちらまだ17なんだしさ。親の金でホスト行くのはやめなって」
「はぁ?違うし。海は違うし」
「何が違うんだよ」
「海ホストやめたよ?」
「はぁ?」
皆が一斉に私を見てくる。
なんなんだよ。
「は?てかは?お前なんでそれを早く言わねぇんだよ」
「お前に言う必要はない」
「私たちには言いなよ、るん」
「だって辞めたの昨日だし」
「まっじか」
「ほんとですーるんのために仕事変えて真面目に働くって」
「かっこええなぁ」
「その手のひらの返し方・・・ひどいぽん!」
「ぽん禁止してるだろ。お前シェイク買って来い」
「えーやだよ」
「洋佑には従いな。切れるから」
「はいでちー」
「いってらでちー」
「でちー」
そう言ってるんは狭い通路を抜けて階段を降りていく。
6人はお互い見つめ合う。
「つーかなに?るんが惚れてんじゃねぇの?
海くんなの?」
「マツエクだネイルだダイエットだ化粧だって
必死にやってたけどなんか・・・るん綺麗になった?」
「なにはともあれるんが幸せならそれでいいよ俺は」
「りすもそう思うー」
「でったよお2人さん。いちゃらぶは向こうでやってね」
「やってねぇよ」
「るんは元彼に色々やられてるけど、海君いるなら
大丈夫だな」
「今度こそ幸せになってもらいたいよ」
「そうだなっ!」
「誰だよてめ」
「うるさいぞ!菊池めろん!」
「フルネームで呼ぶな」
「でも元彼はるんも悪いよ。あの子惚れるとその人一色の
世界に入っちゃうから。絶対君主ならぬ
絶対彼氏だね」
「あ、俺それで思い出した。世界史やばいんだった。
帰るわ」
「じゃあうちらも帰る?」
「るんどうすんの」
「シェイクなら歩きながら飲めるし」
「じゃあテスト勉強終了な」
「全然進まんかったわぁ」
「ほんまやなぁ」
そう言って男女の制服姿の集団が
それぞれの防寒着に身を包み、
ファーストフード店をだらだらとあとにする。



絶対彼氏

絶対彼氏

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-20

CC BY-NC-ND
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