地唄三昧/浮草の夢(創作曲集 )


【十六夜の月】


浮く水に 

手向けし菊の遠のきて

障子に揺れる一人影

煙管冷たく川岸の

夜を鳴き通す秋の虫


空に懸かりし

月も一人と諦めて

好みの端唄の一節を

弾いて流して大川に

あばよと投げる簪の

川面にゆれる十六夜の月


(2019/11/02) 



【 千代の舟影 】

葦の葉蔭に入る船の

水面に揺るる富士の峰

流れの千代に浮きし島の

振り向く影を恋しとや


春は川面に花の色

散りて紅葉の秋の月

艪を漕ぐ袖に降りしきる

影に遠退く春の雪

儚き夢のその花の色

(2017/12/15)


【 裏地の花 】

せんなき言の葉引き留めて

切れし糸をば針の山 

ゆく差し下駄の鼻緒をば

色をさらしてその弾きの手を


指さし堅き肩衣の

契りの糸のたよりなさ

それを哀れと噛みしめて

羽織の袖の その裏地の花を


(2017/11/010)



【 組曲 四季の移ろい 】

一、 春 の 陽 に 


微かに残りし炭の火に 翳す手指の冷たさよ

待ち焦がれたる春の陽の 小川の水の輝きに

いざ渡らんと彼の人と 手を取り合いし温もりも

今では儚き遠い夢


気まぐれな 芽吹き柳に吹く風を

慣れたこなしで打ち遣れば

運命もわすれ 水ぬるむ浮世の春に

この身をば 任せて浮かれて ほろ酔いの

粋な文句の三味の音に 小判の雨降る笛太鼓

朧の宵の 夢花見


明けて送りし大門の 振り向く影に心失せ

想いもかけぬ迷い撥 昇り詰めたる黒塗りの

花緒も重き足回し 秘める思いを胸底に

閉ざしたはずの浮世花 何を今頃 琴更に


灰に滲みし涙をば 火箸で隠して小春日の

開けし障子のその向こう 輝く春の陽 燦々と

遠き昔に変わらねど あの日と少しも変わらねど



二、 浮世花


浮世の辛さに耐えかねて

蒸せる夏夜の川風に 

吹かれて煽ぐ団扇をば

止めて涙の通り雨


響く蛙の鳴く声に 過ぎし昔を偲ぶれば

つれなき人の面影も 灯りて儚き蛍火の

夜空の星と消えゆきて


やる瀬無き心の憂さを三弦の 

夏は蛍の爪弾きに 遠き夜空の稲光

既に白むや短か夜の 明けて開くは浮世花

通う揚羽の仇情け 受けて流すや今日もまた

桶の湯水か日々の縁 来るわ郭の日々の縁


三、 紅 楓


燃え尽きし 色紅にその身をば 

秋の夕日に翻し 水面に落ちる

連れなき紅葉の はかなさよ

枝に残せし未練を絶ちて


末までもと 供に誓いし仲なれど

逢うは別れの始めとか 人の世は

長き一夜の 袖を枕に聴く虫の声

時移れば 熱き情けにも吹く秋の風


重ねし逢瀬の夢覚めて 送る裳裾の露草に

濡れて哀しや化粧花 せめて散りたや今生の

情けの色のその裏表 見せて楓の舞扇


四、雪の舞うが如く


天空の 遥か彼方に生まれしは

落ちるが運命めの一滴

冷たき夜風に晒されて 身は知らぬ間に白拍子

舞うは望まぬ乱囃子 右往左往と操られ

落ちゆく先さえままならず 気付けば最後の一鼓


落ち受けたるは一輪の 梅の香浅き 束の間の

春の光の燦々と 振り向き煽ぐや明けの空

生まれし雲は幻の 夢か誠か 溶ける身も

一夜契りし花よりも 先に降りたるかいもなく

何時しか土にと 消えにけり 

何時しか土にと 消えにけり


 

地唄三昧/浮草の夢(創作曲集 )

地唄三昧/浮草の夢(創作曲集 )

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-19

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