崖の上の空想神 雨翔編
私の地元をメインに書いています。多少文の間違えなどがあると思いますが、最後まで読んでいただけたら幸いです。
東の崖の上の森
それは14年目の夏のことでした。
舞(まい)「そっかぁ、私も悪かったよ。」
小波(こなみ)「うん。でも、もういいの。」
舞「どうして?」
小波「あと1日学校へ行けば、夏休みだからね。」
舞「確かにね。1年…早いね…。」
小波「ええ、」
小波と舞は中学3年の前期の三者面談の結果について話していた。
すると小波に強い風が吹く。
小波「…うっ…。強い…」
舞「何が?」
小波「い、いますごい強い風が吹いたじゃない!」
舞「風?風なんて吹いてないわよ。汗でビショビショよ。」
小波「そ、そう…」
舞「まぁ、いいわ。私の家こっちの方だから。明日ね、ばいばい」
小波「うん。明日ね。ばいばい」
舞と別れたあと、小波にまた風が吹く。
小波「…なんだろう…とても強いけど、気持ちいい風だわ」
小波は目を瞑り、力をぬく。
すると今度はもっと強い風に吹かれる。
小波「わぁ!ちょっとまって!」
驚く小波に、風は崖の方へと小波を押す。
小波「…私を誘っているの…?」
小波は風に体に任せた。だが、崖の前になるとピタリと風はやんだ。
小波「…東の崖じゃないの…!階段登って行くと鳥居があるって確か…。」
車が走る音は静まり、小波の耳には海の音と木漏れ日の間から通る風の音だけ。
小波「明日、また舞ちゃんを連れてきて一緒に登ってみよ。」
そう言い、小波は後ろを振り返り家に帰って行った。
夜になり、布団の上で天井を見つめ帰りのことを思い出す。
小波「あの風は、なぜ私だけに吹いたんだろ…」
不思議な体験をした小波は夜も寝れず、朝がきてしまった。
小波「ちっとも眠くない…。何か変だな。でも、今日行ったら夏休みだし…。頑張ろう」
小波はリビングへと降りて行き、弟と兄に話しかけた。
小波「おはよ」
景介(けいすけ:兄)「おはよ、…なんか今日お前顔が爽やかな感じだな…」
良守(よしもり:弟)「おはよ、お姉ちゃん」
小波「顔が…爽やか?どういうこと?」
景介「いや、何かいつもと違うんだけど…どこが違うのかわからねぇや」
小波「そ、そう。」
ふと、昨日の風のことを小波は思い出す。
小波「景介、東の崖の階段なんだけどさ…、登ったことある?」
景介「東の崖?お前、東の崖に階段なんてねぇよ。」
小波「あ、あるじゃない!小さい時から、見てきたじゃない!」
景介「ねぇって!まず崖に階段なんか危ねえじゃないかよ!」
小波「だって、鳥居だって…」
良守「お姉ちゃん、崖に階段はないよ。俺いつも通ってるけど、階段はない。だけど、崖の上の森の隙間から赤い棒のような物は見える。だけど、階段はない。」
小波「そんな…でも、じゃあ、誰があの鳥居作ったっていうの?」
景介「そんなの、大昔の人だろ?…今日見に行ってみようぜ帰り。」
小波「う、うん…」
東の崖の話をした3人は、崖の上に鳥居らしきものがあるのは分かっていた。
景介「じゃあ、俺バス行っちまうから行くからな。家帰っても俺が居なかったら家で待ってろよ。」
良守・小波「うん。」
景介がそういったあと、小波と良守も学校の支度をして家を出た。
「忘れ物はない?」と、母が言った。
良守「ないよ。行ってきます。」
「小波ちゃんは?ない?」母は小波にも尋ねた。
小波「うん。じゃあね、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。2人とも学校に忘れ物ないように。」
小波は不思議な気持ちで外を歩いていた。昨日の風のこと。東の崖のこと。そして母の言葉に。
母の「忘れ物はない?」「忘れ物、ないように。」という言葉がここではない世界でも尋ねられたような気がした小波。
トボトボと歩いていると、舞の声がした。
舞「こなちゃーん!おはよー!」
元気そうな表情で舞が電信柱に寄りかかり手を振る。
舞の元気な声に小波もニッコリと笑う。
小波「おはよう、舞ちゃん!」
2人はいつも通り歩きながら学校へと向かった。
小波「ねぇ、舞ちゃん?」
小波は東の崖のことを舞に話す。
舞「なに?どうしたの?」
小波「今日、放課後暇でしょ?東の崖、一緒に行かない?」
舞「暇だけど…。どうして東の崖なの?」
小波「なんとなくかな…?一緒に階段登ろうよ。お兄ちゃんと弟に言っても、階段はないっていうのよ」
笑ながら小波は言った。
舞「階段…?階段なんてあったっけ?」
舞は不思議そうな顔で言う。
小波「もう、舞ちゃんまで!まぁいい、放課後見に行こう!」
舞「うん!」
2人は放課後に見に行く約束をした。東の崖の上へと行くことを。
貴方だけに見せてあげる。
先生「1.2時間目はHR。3時間目は英語。4時間目は社会A。5時間目は全校講話だ」
舞と小波のクラスの担任が言った。
小波の後ろの席の舞は小波に話かけた。
舞「1.2時間目ってなんだろうね。」
小波「何するんだろうね。」
すると舞の隣の席の男子、岡田が手をあげた。
先生「なんだ、岡田。」
岡田「HRは何をするんですか?」
先生「ああ、HRの1時間目は学年集会で2時間目は前期の反省のプリント記入と、提出物、各教科の夏の課題を配るんだ。」
「えー!」とクラスの人たちは呆れた顔で言った。
先生「いいか、お前ら。受験があるんだぞ?頑張ってくれ。さぁ、SHRは終わるよ。体育館シューズを持って体育館に移動だ。」
先生は言った。
クラスの皆は宿題の話をしながら体育館へと向かった。
舞「宿題か〜。やりたくないなー」
小波「私もやりたくないなー。学校なんて行ってやってる側なんだから大学まで義務教育にしてほしいくらいだよ。」
舞「確かにね。でも、義務は義務でイヤだけだけどね」
小波と舞も夏の課題の話をして体育館へと行った。
講話が終わると3学年一同口を揃えて「お尻痛い!」や「話しが長い」と言いながら、5組、4組、3組、2組、1組の順で体育館を退場をしていった。
舞「ほんっと、1組はいつも1番初めに来て、1番最後まで他のクラスが退場するも待ってやってんのに先生たち褒め言葉の一つもないの。」
小波「そうだよね。でも、それが基本なのかもしれないしね。まぁでも、成長はしたとは思ってほしいな」
小波は、はにかみながら言った。
それから何時間も経ち、5時間目の全校講話になった。
舞「また、初めに行って座って黙ってないといけないのか。椅子がいいな」
小波「私も20分もするとお尻が痛くなっちゃう」
また体育館へとブツブツ言いながら歩いてあった。
体育館で生徒会の話を聞いたあと、全校講話になり最後の方の話へとなっていった。
先生「全体指導の松坂先生の話になります。松坂先生どうぞ。」
松坂先生「明日から夏休みですが、いくつかお話をしたいことがあります。」
松坂先生の話になるころには皆は暑さでヘトヘト。口を開けてボーッとしている生徒が居たり、寝ている生徒も居た。
松坂先生「皆さんに気をつけて欲しいのは、水の事故と山や崖などで遊ぶことです。」
崖のことで、疲れきっていた小波は顔をあげた。
松坂先生「先生がまだ小さいとき、いや、先生が先生のおじちゃんの、またそのおじいちゃんから聞いたお話をお話をします。」
舞「こりゃぁ、話が長くなりそうね。」
小波「そうね。」
小さな声で舞は言った。
先生「昔東の崖に階段があったらしいです。だけど、何らかの事故があって階段の部分を壊して登れなくしたらしいです。その事故が山へと遊びに行った、きみたいと同じぐらいの年代の女の子とお兄さんが鳥居をくぐったら帰れなくなってしまったっていう話を聞きました。警察は誘拐と捜査をしたらしんですが、女の子が持っていた傘だけが発見されて把手のところに「忘れ物にご注意を。」と描いてあったんですって。その時代の人たちは神隠しだの色々信じてる時代だったらしくてね、その事件から何年もが経ったときに市が、もうそんなことがないようにと崖の階段を壊したんだって。だから皆も気をつけて。っていう話ではなくて、崖は落ちたりしたら危ないから絶対に遊ぶな。っていう話です。それと東の崖には神様が祀っています。悪さしないでください。それと水の話です、夏になると毎年水の事故があるので、くれぐれも注意してください。以上です。」
この話を聞いた小波は目を閉じた。
「何処かで私が体験したような」と心の中で言った。
全体が号令し、学年ごとに各教室に帰って行くのに小波はボーッとし東の崖のことを考えていた。
いつまでも座っている小波に舞が言った。
舞「おーい、ボーッとして!ほら、行くよ」
小波「あ、ごめんなさい。最近本当にボーッとしちゃってて」
体育館を出て教室に戻ると、すぐに帰りのHRが始まった。
先生「今日は掃除ないそうです。先生たちもこの後会議だから早く終わらせます。あと、忘れ物すんなよ。もし忘れたら夏休み中持って帰ってもらうからな。」
先生は手短に話した後、すぐに号令をかけ職員室に戻って行った。
舞「帰ろう」
舞は大荷物を持ちながら言った。
小波「す、すごい大荷物ね」
舞「計画通り持って帰ってたんだけど、これじゃあ計画倒れだね。それに今日は、こなちゃんと東の崖に行くしね。」
小波「少し持つよ。私が荷物少ないから」
舞「ありがとう」
大荷物を持った舞と小波。エアコンが効いた涼しい部屋の中で少し話あと、学校をでていった。
小波「それにしても、暑いね」
舞「いや、もう体操着が汗でビチョビチョだわ…」
小波「…東の崖…やめる?」
舞「ううん!行くよ。木漏れ日とか見たいし」
小波「じゃあ、行こうか」
東の崖の方へと向かって行った小波と舞。
小波「そういえば松坂先生、東の崖のこと言ってたね」
舞「言ってた言ってた。」
小波「私、舞ちゃんだけに言うけどさ…」
舞「なに?」
小波「私、どこかであの体験をしたような気がするんだよね」
舞「どういうこと?」
小波「うまくは言えないの。だけど、昔ここの階段を登った村みたいなところで住んでいた…ような気がして」
舞「でも、その階段は私たちが生まれる、もっと前に壊されちゃったんでしょう?」
小波「そ、そうだよね。そんなはずないしね」
舞「小波ちゃんって不思議だよ」
小波「それ、褒めてるのか分からない」
舞「どっちでもないかな」
舞は笑ながら言った。
そうしてこんな話をしていると東の崖に辿りついた。
舞「ほら、階段ないでしょ?」
小波「え?あるじゃない。ここが一段目で、ここが二段目!」
舞「ないよ!ないって!よく見てよ小波ちゃん!」
小波「ずっと上へと続いてるじゃん」
舞「ねぇ…もしかしてそれ…小波ちゃんだけに見えてるんじゃないの…?」
小波「私…だけ…?」
舞「不思議な性格なのに不思議な力持ってんのね、こなちゃん…」
小波「舞ちゃんにはどう見えるの…?」
舞「崖崩れじゃないけど、階段はない。じゃあこなちゃんはどう見えるの?」
小波「少し横も長い階段で真ん中に木出てきた手すりがあって…」
舞「そんな綺麗に見えんの?!」
驚く舞。そして自分の不思議な力にびっくりする小波。
小波「登るのはやめようよ、」
小波は少し不安そうに笑ながら言った。
舞「う、うん…。こなちゃんすごいね」
小波「家まで荷物持って行くよ。」
舞「うん、ありがとう。」
舞には分からない上へと上へと続く階段を見ることができる小波。
舞は東の崖のことを忘れ、別の話をするが小波には聞こえない。
小波の耳を通っていけるのは今は風と森と海の音だけ。
舞「あ!またボーッとしてる。おーい!こなちゃーん!」
小波は前をずーっと見つめている。
舞「ねぇって!」
小波「…え?なに?」
小波は舞を見た。
舞「なにはないでしょうに、なには!私家こっちだよ!」
小波「ごめんごめん、何か東の崖のこと考えちゃって」
舞「…ねぇ、こなちゃん…。心配になっちゃうよ…」
小波「本当にごめん。でも私だけに見てたことが不思議すぎて…」
小波は寂しそうな顔で言った。
舞「こ、こなちゃん!明日から夏休みだよ!そんなことすぐに忘れちゃうって!しかも見えるの…、こなちゃんだけじゃないかもしれないよ!ね?ね?」
小波「ありがとう。そうだよね、」
舞は小波を気遣うように言った。
舞「もう、今日はここまででいいよ。私持てるから。」
小波「でも、すごい重たいし…」
舞「こなちゃん、ゆっくり休んで。私の家すぐだし。」
小波「ごめんね、ありがとう。」
舞「また、今度いろいろお話聞かせてね。お大事に!」
舞は笑ながら言った。
小波「うん。今度また遊びに誘って」
小波は、本がたくさん入っているハンドバッグを舞に渡した。
舞「重!うん、誘うよ。じゃあね。」
小波「頑張って!じゃあね。」
手を振りながら遠ざかってゆく舞に小波もその場で止まり手を振った。
小波は舞の「ゆっくり休んで。」という言葉にたいして不満を持った。
「…疲れてないのに…。本当に見えるのに…」と小波は小さな声で言った。
小波「まぁ、いいか…。景介たちもう帰ったのかな」
そういい、後ろを向き歩いた。するとまた昨日と同じように風が小波に吹いた。
だが、小波は黙って風を無視するように歩いた。
風は家の近くへと行くたびに弱くなっていき、最後は何もないようにピタリと止まる。
小波「ただいま。」
小波が玄関を開け言った。
「おかえり。」と母の声がリビングから聞こえてきた。そのまま小波は靴を脱ぎリビングに寄らないまま自分の部屋へと上がって行った。
カバンを机の横に起き、飛び込むようにベッドに寝っ転がった。
小波「暑い…。私、汗臭いな…」
天井を見つめ、ふと何かを思い出す。
小波「そういえば、私傘をどこにやったけな。晴れてる日にはないのに、雨が降ってるときになると見つかるんだよなー。」
すると母が小波の部屋のドアを開け「シャワー浴びれば?」と言った。
小波は「うん」といい、ベットから起き上がりタンスから下着と服を取り出し、部屋から出て行った。
「うわぁ、もう夏休みだ」と言い、前期の疲れをため息と一緒に出す。
小波「…私、多分昔登ったような気がするけどな…」服を脱ぎながら小さな声で言った。
シャワーのハンドルを捻り体に当てる
小波「冷たい。」
冷たいシャワーを浴びながら目を閉じる。すると小波の閉じたまぶたに小さい頃の自分が映った。
小波はずっと目を閉じたまま小さいころの自分を見ていた。
幼いおてんば娘
「傘がない。傘がないよ〜。」と探す小波に、懐かしい顔の女が現れ「はい、どうぞ。」と小波に傘を渡した。
小波「ありがとう。真っ白で綺麗なお姉さんだね!お姉さんお名前はなんていうの?」
小波は聞いた。
「お姉さんと言われるような外見ではありますが、私ずっと貴方のお父さん、おじいさん、そのまたおじいさんってご先祖を見てきたのよ。名前は教えられないけれど、大昔貴方はもともと、ここに産まれてここで育ち、貴方がちょうど14歳になるときに私が水と雨を操る神にしたのですが、ここの世界はつまらないと境界の階段をおりてしまいます。すると貴方は何年も渡って生まれ変わり、人間の世界で育つのです。それが、今の貴方です。」
小波「じゃあ、私は雨の神様だったの?」
「はい。私も神です。」女は答えた。
小波「でも、私また東の崖の階段を登ってきたわ?生まれ変わらなかったよ?」
女は小波に言った「貴方が14歳になり、もし階段を登ってまたここに戻ってきたとします。実は貴方が登ってきた階段は貴方だけにしか見れないようにしています。私も意地悪なことはしません。ですから14歳になったら、また戻ってきてください。私から風で誘います。」
小波「うん!約束!」
「それと、」女は、ふと気づいたように言った。
「行きの階段はありますが、帰るときの階段はありません。ですから、よく考えてきてください。」
そういい、女は森の奥へ奥へと消えて行った。
小波は傘を持ちながら鳥居を見つめる。
小波「わたし、神様だったのかー!」無邪気な笑顔で笑い、階段を降りて行った。
シャワーを浴びていた小波はゆっくり目を開ける。
小波「…あの女の人…神様だったのか…。私も神様だったのか。」
水でヨボヨボになった指でシャンプーを取り頭をガシガシ洗い、体も隅々まで洗った。
風呂から上がると、疲れが一気に取れたようにひょろっとする小波。体を拭きながら、女が言っていたことを考える。
14歳、押して誘うような風、東の崖の階段…。今の自分と比べ合わせる。
小波「さっき見ていたのは、ただの自分の空想かもしれないじゃない!登って行ってみなきゃ分からないじゃない!」着替えながら自分に反発をする。
小波「まぁ、いいか。景介たちとも見に行くし」
着替えた小波に緩い夏の風が吹く。
小波はその風に「分かったわよ。」と言い、リビングの方へと向かった。
「あら、出たの。景介と良守なら今帰ってきて、着替えてるわよ。」と言う。
母が大きめのコップに氷とコーラを入れ、小波に渡し話しかける。
「東の崖、行くんですってね。」母が言い、コーラを飲みだなら「うん」と小波答えた。
すると母が小波に真剣な表情で「おじいちゃんの、またそのおじいちゃんが昔、雨が止んだあと妹と東の崖へと遊びに、かくれんぼをしたらしいのよ。妹が鳥居の方へと行くところまでは見てて、数を数え切って探しても見つからなかったんだって。」
小波は松坂先生が言ってたことと似てることに気づいた。
小波「そ、それで、妹の方はどうなったの?」
「それでね、真っ暗になっても出てこなかったから警察に頼んだり近所の人に呼びかけて捜査をしてもらったらしいんだけど、傘しか見当たらなくて行方が今だにわからないんだって。まぁ、でも今見つかっても何とも言えないからね。」母は真剣な表情を少し緩め苦笑いした。
小波「もしかして、傘に何か書いてあったとか言ってなかった?!」
母はグイグイ食いついてくる小波に驚いた表情で答える。
「確か、忘れ物にご注意をみたいなことが書いてあったって言ってたような気がするけど。あ!そうそう。」何かを思い出したように母は言った。
「昔、小波ちゃんもその字が書いてある傘を持ってきてね。お姉さんが見つけてくれたんだよー。なんて言って!その時はビックリしちゃったわ!まぁでも、そんなようなこともあったから気をつけて帰ってきてね。」と言い、テレビを見る母。
ドタドタドタ!大きな音をたて階段から降りてきた景介と良守。
景介「おい!東の崖行くぞ!」元気な声で小波に言った。
良守「日が暮れる前に行かないと危ないから、早く行こう。」
小波「うん、行こう」
家から出て、少し歩き3人は東の崖についた。
良守「ね?お姉ちゃん、階段ないでしょ?」
景介「俺も見えねぇ。やっぱり何かの勘違いとかじゃないのか?」
小波にはハッキリ見えているが小波は二人に合わせた。
小波「ほ、ほんとうだ!ここじゃなかったのかな…。勘違いだったみたい。」
景介「よぉーし!腹減った!違かったんだし、帰って飯食おうぜ!」
景介と良守は小波を置いていき走って家の方へと帰って行った。
小波は東の崖の前で階段の上を見つめる。
「夜…また来ればいいか…。私だけにしか見えないんだし…」と少しホットした表情で小波も家の方へと帰って行った。
懐かしい夜空
3人が東の崖を訪れ5時間経った。時計の針は10をさしていた。
景介「おれ明日、試合だからもう寝るわ。おやすみ。」
良守「おれも、寝んべー」と言い2人は2階へと上がって行った。
テレビを見つめる小波に母は「お父さん来週あたりに帰ってくるみたいよ。」と言った。小波は「ふぅーん」と言いテレビを見つめる。
「そろそろ寝るわよ。エアコンとテレビ消してきてね。」母はそういい、エプロンを外し水を一口飲んでリビングから出て行った。
小波はテレビを消し、紙と鉛筆をだし手紙を書き始めた。
「もし、本当に行って戻ってこれなくなったら困るからね。」そういい長文で家族向けに手紙を書いた。
3人が寝たのを確認し、外に出てポストの中に手紙を入れた。
小波「朝になればポストくらいみるでしょ」そういい小波は東の崖へと向った。
耳を済ませれば、他の町内ではもう祭りの準備が始まっており太鼓の音がする。夜空を見て手を後ろに回す。
小波「こんな時間なのに頑張るわね。」
太鼓の音に微笑みながら言う。
東の崖の近くになると風が小波を押す。
小波「誘ってるのね。行くわよ。」
両手を広げゆっくり風に押され東の崖へと向かう。
東の目の前になると風はピタリとやみ崖の上の森からのコオロギと太鼓の音で混じってる中で「来てくれたのね。」と女の声は言った。
小波「あなたが私を誘ったのよね?」
「はい。」女は言った。
小波「夕方、あなたの声と一緒の人が目に映ったの。それも、あなたが見せてもの?」
「そうです。」女は答えた。
小波「名前、教えてください。私の答えは決まってるの。だから、教えて。帰してもらわなくてもいい。だから私が神様だったころの名前を教えて。」
「あなたの名前を聞いたら、本当に帰れなくなりますよ。」さっきとは違う少し低い声で女は言った。
小波「いい、それでもいい。」
「あなたの名は、貴船 和傘。」
小波「きぶね わがさ…?」
女はゆっくり小波に言った。
「き ぶ ね わ が さ 。」
小波「それが私の神様だった頃の名前なの?あなたの名前も教えて。」
「あら和傘、私の名前も忘れてしまったのですか?」女の声は優しくなった。
小波「聞いたことなんて、なかったと思いますけど」
「いいでしょう、もう一度教えましょう。よく聞いてください和傘。私の名前は」
小波「やっぱり、ちょっと待って!」
小波は女に言った。
小波「名前を聞いてしまったもの。約束は破らないわ。どうせなら顔を見てあなたの名前を聞きたいわ。」
小波は片足を階段の一段目に乗せる。
「後ろを見て御覧なさい。」
その言葉につられ小波は後ろを向く。
小波「そ、空?!なんで空?!」
地面だったはずの道が空になり驚く小波。女は少し笑ながら言った。
「そう、ここは空よ。だけどあなたが居た人間の世界の空ではないのよ。」
小波「どういうこと?!」
「ここは神界想鏡の夜空よ。星空が綺麗に見えるでしょ?もう片方の足を一段目に乗せてしまったら、もう降りれないわ。下に落ちて別界に行ってしまうの。ここにも戻れないし、もとの人間の世界にも戻れません。」
小波「嘘でしょ、」
小波は驚きながらも、もう片方の足を一段目に乗せ長い階段を登る。
小波「はぁ…はぁ、しんかいそうきょうってどういう意味なの?」
息切れしながらも、女に尋ねた。
「しんは神、かいは世界の界。神の世界を表すわ。そうは幻想の想、きょうは鏡。幻想を鏡にうつすのよ。」
小波「幻想映して何になんのよ。」
「貴方も鏡にうつされた風から誘われたのよ。」女はまた少し低い声になった。
小波「え?でも、まぁいいわ…、はぁ、はぁ…太もも疲れる」
「ゆっくりでいいんですよ。ゆっくりで。」
小波は疲れ果て、階段の段に座り少し休む。
「あなた何か気づかない?」女が尋ねた。
小波「なにを?」
「髪を見てみなさい。」
小波は言われるがままに髪を見る。
小波「わぁっ!綺麗な色!」
胸のあたりだった髪は伸び切り、腰の方まで伸びていた。
色は青と緑が濁った浅葱色と錆浅葱色のような色をしていた。
「でしょう。貴方は天からでる雨と湖から生まれた神です。深い深い湖の色をしているのです。さぁ、元気はでたかしら?」
小波「ええ!よし、登るわよ!」
「ふふふ、頑張ってちょうだい。」女は嬉しそうに笑った。
長い長い階段を登り終えた小波。息は荒くヘトヘトになっている。
「あと少しよ、木で覆われた道をまっすぐ歩いて。」
小波「はい。」
小波は恐る恐る歩き、夜空を見ながらあるく。」
小波「なんだか、懐かしい空だわ。見たことあるような気がする。それにこの匂いも懐かしい…。」
「記憶が戻ってきたんじゃないかしら、和傘。」
小波「ええ、そうかもしれないわ。」
まっすぐ歩くと小波の目の前に今度は短い階段が現れた。
小波「この先に貴方は居るの?」
「ええ。案内人の落葉が居ると思います。」
小波「らく…ば…?何処かで聞いたことあるわ」
落葉「そりゃあ、そうよね、毎日遊んでたもの。」
落葉の声に昔の頃の記憶が少し過った。
小波「…この声、この声!」
小波は二段ずつ飛ばしながら階段をあがり、笑う。
小波「落葉!」
飛びつくように落葉を抱き、何度も「落葉」と言った。
落葉「和傘!和傘…あなた外もの臭いわよ」落葉は嬉しさのあまりに泣きながら言った。
「さぁ、落葉。後で時間を与えるので案内しなさい。」女の声が鳥居の向こうから聞こえてくる。
落葉「はい。」
落葉はしっかり小波の手を握り、懐かしい夜空を見ながら鳥居をくぐった。
神界想鏡の妖怪
落葉と手をつなぎ、小波は尋ねる。
小波「ねぇ、人間の世界に居たから少し記憶が薄いの。貴方は何の神様だった?」
落葉「私?私は植物の神の樹静様(きしず)「大屋津姫命」と藍樹様(らんき)「枛津姫命」の式神よ。だけど種族は妖怪。」
小波はじっと落葉の横がを見つめる。
小波「…エルフ耳なのね…」
落葉「エルフ耳…?人間の言葉?」
小波「ここでは使わないのね。耳よ、耳のこと。私の耳と違うじゃない。」
落葉「ああ、これ私の種族の特徴的な耳でね生まれつきなの。尖り耳って言うのよ。」
小波「尖り耳…」
落葉「歯だって、ほら!犬歯がすごい尖ってるでしょ?」
小波「ほんとだ…!すごい鋭いのね!」
落葉「そうよ。どうしてか…知りたい?」
小波「ええ、だけど今は言わないで。女の人の名前を聞いたあと、この世界のことまた教えて?」
小波は悲しそうな顔で落葉に言った。
落葉「うん。いいわよ。もうそろそろ着くよ。」
砂利で出来た道をずっと歩いていると大きな神社が見え、そこにはとても長いブロンドの髪の女性が後ろ姿で立っていた。
小波「綺麗…」
小波はブロンドの髪と、西洋のドレスのようだけど和の着物な服に見とれた。
「落葉、ご苦労。上がりなさい、中に菓子があります。ご自由に取ってください。」女は使命を果たした落葉に言った。
落葉「はい。お二人をお待ちしております。」
そういい、神社の中へと入って行った。
小波「…あなた、私の目に映った人…?顔を見せて…」
「はい、そうです。」女はそう言うとゆっくり振り返り小波の方を見る。
小波「そ、そんな…」
小波は女の顔を見ると驚いた。
「あら、失礼ね。口をお閉じ、お魚さんみたいだわ。それより、私の顔…見たことあるでしょう…」
小波「か、か、傘のお姉さん…私の傘のお姉さん…」
小波の足は小さく震える。
女は目を細め小波に言った。
「私の名は…、金色雲 栾亭姫(こがねうん らんていき)だ。」
小波は目を丸くした。
小波「らん…ていき…様…。あなた、栾亭姫様だったのね!」
女の名前を聞いたとたんスゥっと頭に幼い頃の記憶が戻った。
栾亭姫「あら、名前を聞いて少し思い出したみたいね和傘。」
小波「はい。ごめんなさい。」
栾亭姫はそっと小波の肩に手をおいた。
栾亭姫「いいか和傘、よく聞きなさい。あなたが人間だったころの名は私が預かります。これからは貴船 和傘と名乗りなさい。人間だったころの記憶は消しません。種族は神のままです。ですが、人間の世界で生きたことを一生に忘れるな。さぁ、神社へ入りなさい。」
和傘の背中に手を添えながらゆっくりと二人は歩いて行った。
和傘の目の前に狐が現れた。その狐は栾亭姫を見ると姿を変え人間の姿になった。
和傘「わあっ!」和傘はビックリし栾亭姫に抱きつく。その狐は小波を見て笑う。
栾亭姫「和傘、妖狐(ようこ) よ。 ありがとう妖狐。役に立ったわ。ゆっくり休んでください。」
妖狐「はい。っと和傘ご無沙汰だな。気配は感じていました。」
和傘は驚いた顔を隠さず妖狐の尻尾を見つめる。
和傘に見つめられている妖狐は不思議に思い尋ねる。
妖狐「どうした和傘。私が変か?」
和傘「し、し、し、尻尾と猫耳?!?!!!?!」
狐乙女「猫耳ではありません。狐耳と七尾です。よく、遊ばれてやったではないか。」
栾亭姫「とりあえず、二人とも上がりましょう。あと数時間したら夜は開けます。」
そういい、栾亭姫は二人を連れ神社の奥へ奥へ進んだ。
和傘「すみません、栾亭姫様と妖狐様は何の神なんですか…?」
栾亭姫「私は人間界と神界を操る神です。そして、妖狐は私の式神ですが幸運を運ぶ神です。」
和傘「何だか、レベルが違いますね。」
妖狐「レベル…?レベルとは何だ。」
和傘「そうですね、差のことです。差。」
栾亭姫「私もそうだけど、妖狐はとても強いのよ。」
妖狐「ありがとうございます。」
栾亭姫「ここで靴を脱いで妖狐は茶の間へ。和傘あなた私のところへとついてきなさい。」
妖狐「失礼します。では後ほどな和傘。」
和傘「は、はい!」
栾亭姫「さぁこっちよ。」
通路の暗い暗い奥へ歩いていく栾亭姫の裾をギュッと持ち少し怖がる和傘。
栾亭姫「歩きにくいわ和傘。服がシワになってしまいます。」
和傘「ごめんなさい、少し不安になってきて。」
栾亭姫「そう、」
栾亭姫は急に立ち止まり胸ポケットから何かを取り、指にはめてゆく。
栾亭姫「あら、また私の心を読みに来たのかしら。さっきからウロチョロして迷惑だわ。」
栾亭姫は誰かに言った。
和傘「…栾亭姫様、誰に話しかけているのですか?」
小さな声で栾亭姫に尋ねた。
栾亭姫「妖怪よ。私に妬みがあるのか知らないけど心を読みにくるの。」
すると後ろの方からと叫ぶような声でドタドタ音をたて走ってくる音がした。
栾亭姫は振り返り人形を操る手のように構えた。
栾亭姫「下がりなさい、和傘。」
言われるがままに和傘は一歩、二歩、三歩とゆっくり下がって行った。
奥の方から短刀を持った少女が一人走ってきた。その少女の表情は鬼のようだったが目は悲しみの色で澄んでいた。
短刀をもった少女は栾亭姫に襲いかかるが、栾亭姫は手を奇妙な動きをする。
すると栾亭姫の背後から黒い手のようなものが出てきた。
驚いた和傘は腰を抜かしてしまう。
和傘「いった…、で、でも…何で手が…」
栾亭姫「あぁら、手が鈍ってきたわね、覚美…」
和傘「か、か、か、かくびぃぃいい?!」
和傘は不思議な名前に驚く。
覚美「はっ、よくも神樂様(かぐらさま)に病をつけたな!」
栾亭姫「神樂はそんな弱い神だったかしら。そんなに痛めつけた覚えはないわ。」
覚美「貴様よくも神樂様を悪く言ったな。今日はお前を殺すまで帰らないと決めたんだ!」
栾亭姫「妖怪のあなたが私を殺したところで、またここにでも戻ってこれるとでも思ってるの?神を殺す罪は重いわよ。」
覚美「うるさい!私は神樂様の式神だ!」
栾亭姫「式神だから何よ。ああ、そういえば最近松尾のところの巫女は見ないわね。そろそろ堪忍したらどう?私はあなたを殺したくないのよ。」
すると覚美が少し力を弱め和傘を見た。
覚美「そこのお前、確か雨を操る神だったよな。退屈で逃げ出して行ったんじゃないのかよ!」
和傘は覚美を見つめるが何も言わなかった。
栾亭姫「そろそろ苦しいんじゃいかしら。服を妖怪の血で汚したくないわ。」
覚美「苦しくなんかない!だって神樂様の仇を…」
急に意識をなくす覚美、すると通路のおくから女がやって来た。
栾亭姫「遅かったじゃない、神樂。あなたのところの式神、私を殺そうとしたのよ。」
神樂「ごめんなさい。もともとは私が悪いことしたのに、あなたに害を加えたわ。この子は私が持って帰るわ。」
和傘は何が起こって居るのか分からなく混乱し顔を左右に降る。
神樂「あら、お久しぶりね和傘。戻って来ると思ったわ。それにしても、変わった服を着ねいるのね。」
栾亭姫「昔の服をだそうと部屋に行こうとしから、あなたの式神が来たのよ。あなたが意識をなくさせたのよ。はやく戻った方がいいんじゃないかしら。」
神樂「はい。では二人とも、いつか会いましょう。」
そういい神樂は覚美をもち月の方へと消えて行った。
栾亭姫「ほら立って。」
和傘「ご、ごめんなさい。あの、神樂っていう人は何ですか?」
栾亭姫「神樂は松尾大社の神よ。お酒の神様。」
和傘「なんだか強い神様、みんな栾亭姫さんみたいなしっとりしたしゃべり方ですね。」
栾亭姫「そうかしら。さぁ、入って」
栾亭姫は小さな畳の部屋に入り、タンスを開く。
和傘はぐるりと首を回しながら部屋の中を見る。
栾亭姫「はい、これはあなたが着ていた服よ。別にそのままがよかったらそのままで良いけれど、少しだらしがないわ。まぁ好きになさい。」
和傘「とても綺麗だわ…」
栾亭姫「着るのだったら、私は見たいわ。」
和傘「着ます。」
栾亭姫はクスッと笑い、仕切りのある方へ指を指した。
栾亭姫「あそこで着替えなさい。そのあと髪を結ってあげます。」
そういうと和傘は仕切りの方へと入って行った。
和傘「着方がイマイチ分からないわ…」
色々な工夫をしたが人間だったころのせいで少し記憶が消えてしまい着方が分からなくなってしまった。
和傘「栾亭姫様、私に服を来させてくれませんか?」
栾亭姫「あら、着方を忘れたのかしら。いいわ、こっちへ着なさい。」
和傘「ごめんなさい…」
栾亭姫「いいのよ。少し記憶がないんですもの。」
和傘に優しく言った。
栾亭姫「これは、狩衣と言うの。本当は男の子の服だけど遊び用みたいなものだから貴方くらいの幼い顔の子は皆これを着ています。」
和傘「そういえば落葉も…」
栾亭姫「ええ。」
栾亭姫は和傘に一つずつ丁寧に服の順番や名前を教えていった。
栾亭姫「どう?着心地は。」
和傘「少し重い、とても動きやすいわ。」
栾亭姫「そう。来て、髪の毛を結います。」
栾亭姫は優しく和傘の神に触れた。
和傘「栾亭姫様?私が神の世界に居るってことは人間の世界の私はどうなっているの?」
栾亭姫「そうね、本物の人間のあなたが居るはずよ。いままで貴方は人間に化けて居た側なのだから。」
和傘「そうなのか。」
栾亭姫「はい、できたわ。」
栾亭姫は右の手のひらを広げ手に手鏡と書いた。
すると手のひらから手鏡が出てくると、それを和傘に渡した。
和傘「…すごい、綺麗…」
栾亭姫「あなたは癖毛が似合うのね。」
和傘「ありがとうございます。」
栾亭姫「それと…。あなたとあなたのご先祖の妹さんが忘れて行った傘。」
すると栾亭姫は両手を合わせ、広げると傘が出てきた。
和傘「この傘…私がむかしなくした…。あ、私の先祖の妹は何処にいるんですか?」
栾亭姫「神界の中の人故郷(とふるさと)に居るわよ。貴方より3つか4つ下だったでしょう。幻想を見せて人間界に居るように見させてるの。」
和傘「でも、栾亭姫様は境界を操る神なのに、なぜ人間界に帰さなかったのですか?」
栾亭姫「悲しんでいたからよ。」
和傘「そうですか…。」
栾亭姫「さぁ、皆の居るところへと行きましょう。」
静かな空間の中、二人はまた長い通路を通り、茶の間の襖を開け中へ入る。
妖狐「おお、栾亭姫様。いま猫日(びょうか)がお茶を入れに行きました。」
栾亭姫「あなたの子猫ちゃん、よく働くわね。さぁ、和傘座りなさい。」
和傘「はい。」
落葉「和傘、戻って来てくれるって信じてたわよ!」
和傘「うん。でも私、神だったころの記憶があまりなくて。」
落葉「私が色々教えるわよ。それより栾亭姫様、妖狐様、和傘の式神は誰がつくのですか?」
妖狐「ああ、そうだった。色々考えてはみたんだが今は必要がないと思ってな。」
落葉「それはなぜですか?」
栾亭姫「人間の世界から戻ってきたばかりです。まず自分が色々学ばないと式神はつけられませんからね。」
落葉「そうですか。…ねぇ、和傘?」
和傘「なに?」
落葉「その、人間の世界のお母さんに会いたい?」
その言葉に少し和傘は考えたがすぐに言った。
和傘「別に。本当のお母さんって感じしなかったから。だって私は湖と雨の子供。」
妖狐「そうだな。」
猫日「お待たせしました。すみません妖狐様襖をお開けしていただけませんか?」
妖狐「おお、ありがとう。」
そういい妖狐は襖を開けた。
猫日は和傘を見ると妖狐の後ろへ隠れた。
妖狐「平気だ猫日。和傘は神だ。雨のな。」
すると猫日は警戒しながらもお茶をくばった。
猫日は猫の耳をしていて、しっぽが3本生えていて姿は少し幼く猫顔のようなまん丸な目。
栾亭姫「和傘、この猫は妖狐の式神よ。名前は猫日。式神になりたてなの。仲良くしてね。」
和傘「はい。ってことは式神の式神ってことですよね。」
妖狐「まぁ、そういう風になるな。」
落葉「猫日ちゃんに下賜品があるの。」
猫日「本当にゃ…じゃなくて、本当ですか?!」
栾亭姫「よかったわね猫ちゃん。」
猫日「はい!」
和傘「中は何なの?」
落葉「鈴よ。音が鳴る鈴。今のはだいぶ古くなったみたいだし、あげるわ。」
猫日「わぁ…!ありがとうございます!」
妖狐「おいで猫日、つけてあげよう。」
栾亭姫「本当に妖狐は猫日が好きね。」
落葉「そろそろ夜が明けるので、私は戻ります。人間界の植物に元気を与えないといけないので。」
和傘「またね、落葉。」
栾亭姫「頑張ってちょうだよ。ご苦労よ。」
落葉「はい。では猫日ちゃんと妖狐様もまた。」
妖狐「鈴ありがとうな。頑張りなさい。」
そういい落葉は靴を履き神社から出て行った。
妖狐「和傘はどうなさりますかね、栾亭姫様。」
栾亭姫「とりあえず和傘の湖に行きましょう。360年も居なかったんですもの、妖怪が住み着いているわ。」
和傘「よ、よ、妖怪?!」
栾亭姫「もちろん、あなたの力で倒すのよ和傘。」
和傘「で、でも私倒し方なんてわかりません!それに武器だって…」
栾亭姫「ただの妖怪は弱いわ。それに武器なんていらないわよ。あなたは神です。想像し気を感じなさい。あと魔法が宿ってますからね。」
妖狐「大丈夫だ和傘。さぁ、行こう。留守番を頼みます猫日。」
猫日「はい。ご無事で。」
猫日以外は外へでた。
栾亭姫と妖狐は宙に少しずつ浮いてゆく。
和傘「浮いてる?!」
妖狐「目を瞑り、心を沈めろ和傘。」
言われるままに和傘は何も考えず目をつぶった。
すると和傘の体は少しずつ宙へ浮いた。
栾亭姫「さぁ、目を開けて見なさい。」
ゆっくり目を開ける。
和傘「浮いてるわ…!すごい!」
栾亭姫「あとはいきたい方向を思えば曲がると思うわ。さぁいきましょう。」
そういい、森の上を通り三人は湖の方へと向かった。
私の家。
三人は森の上を飛び和傘の居た湖へと向かう。
栾亭姫「ほら、あそこよ。」
妖狐「昔はもっと綺麗な色をしていたんだがな、和傘が居なくなると湖の近くに妖怪が住み着くようになったんだ。」
和傘「…私、倒せるかな…」
栾亭姫「あなたが神だったころは、近くに悪い妖怪をよせつけもしなかったのよ。平気よ、頑張ってちょうだいな。まぁでも、あの妖怪は悪いものではないわ。」
和傘「は、はい…。でも、どうやって…」
栾亭姫「あなたの手には魔法が宿っています。私の手のように。頭で想像したものが手に出てきます。それで倒しなさい。」
和傘は不安そうな顔をしたが湖の方へと少しずつ降りて行った。
栾亭姫「妖狐、近くに行ってあの子を見ていてください。」
妖狐「承知。」
そういうと妖狐も湖の方へと降りていき狐の姿に変わる。
和傘が湖の周りをウロウロしていると笑い声が聞こえた。それは妖怪の笑い声であった。
妖怪「あら、逃げ出した神ではないですか。」
和傘にそういった妖怪は落葉のような歯に耳。
和傘「あなたは誰なの?」
和傘は妖怪に尋ねた。
妖怪「私はシーム・ルグタピアよ。不老不死なの。」
和傘「不老不死…倒せないじゃないのよ…。」
シーム「あら、私を倒しにきたの?自分から逃げといて私を追い出す気?」
するとシームは左の手には青い火の玉、右の手には赤の火の玉を出した。
シーン「すごいでしょう…。」
和傘はすぐに判断ができなく戸惑う。その瞬間シームは和傘に火の玉を飛ばし、和傘はとっさに手のひらで受け止めた。そのとき栾亭姫の言葉が頭に過った。
和傘「私の手には魔法が…。よーし!」
和傘は目をつぶり何かを考える。
シーム「私の玉を跳ね返すとは、やっぱり神様なのね」
和傘は両手を広げ大きな輪を書いた。すると湖の水は宙に浮いた。
和傘「確かあなた火の鳳凰だったわよね…。この水を落とされたくなかったら帰りなさい。」
シーム「なぜ、火の鳳凰と…」
和傘「シームルグは鳳凰のこと、手から火の玉をだす。そんなの見れば分かるわ。でも、よかったわね。生憎私は神だった頃の記憶があまりないのよ。人間界に行かなければ今頃この湖の水を貴方に落としているかもね。さぁ、逃げるか自分の火を消されるのか選びなさい。」
シーム「何を偉そうに。逃げはしないわよ!紅寿(べじぇ)様に言っちゃうもんね!」
シームはそういうと体を炎で覆い鳳凰に変わり夕日の方へと羽ばたいて行った。
それを見て落ち着いた和傘はゆっくりと両手を下げ湖の水を戻した。
妖狐「ご苦労だ。」
栾亭姫「湖の水を浮かせるとわね…。よく思いついたこと。頑張ったわね。」
和傘「怖くて、怖くて…」
和傘は急に足が震えだし泣き崩れる。
妖狐「神の涙は雨となる。和傘、ただでさい雨を操る神のあなたが泣いたら、ここの世界だけではなく、どこの世界も水浸しになってしまいます。」
和傘「ごめんなさい…。でも、自分が怖くて」
栾亭姫「今更戻りたいと言っても遅いことは分かっているはずよ。弱音を吐くのはおやめなさい。」
和傘「すいません。そうですよね。…そういえば、あのシームという鳳凰が言っていた紅寿とは誰なんですか?」
栾亭姫「ああ、紅寿は引きこもり神様だけど鳥を自由に操ることができて、とても強いわ。」
妖狐「栾亭姫様これは和傘に式神をつけるのは遠くはないですね。」
栾亭姫「ええ、もちろん。だが、まずは自分の家(神社)を磨き直してからです。和傘、階段を登ると貴方が祀られている神社があります。そこで昔の自分を思いなさい。あなたの湖には悪い悪魔が住みたがりたくてウロチョロしています。顔が人間ではなく悪魔の顔をしていたら消しても構いません。化ける悪魔もいます。しっかり見分けられるようになりなさい。しばらく猫日と妖狐を置いてゆきます。」
和傘には少し難しい内容でポカンとした顔で話を聞いていた。
すると妖狐がポケットから鈴を取り出し振る。奥からと「ニャー、ニャー」と猫の鳴き声がたくさん聞こえてきた。奥から来たのは猫日、それと猫日(にとって式神)の猫が大勢走ってきた。
妖狐「また猫を連れてきたのか、猫日。しばらく貴船に住み着くことになる。その猫たちに迷惑をかけるなと言っておきなさい。」
猫日「はい!よろしくお願いしにゃ、じゃない、よろしくお願いします和傘様!私、水は苦手ですけど、猫共々よろしくお願いにゃ!」
和傘は猫日の喋り方を不思議に思った。
和傘「は、はい。」
栾亭姫「では、二月(二ヶ月)ほど時間を与えます。この二月で神界に慣れなさい。」
和傘「はい。でも思ったのですが、この世界は妖怪も住んでいるんですね。」
栾亭姫「そうよ、ここには人間のままの巫女だって居るわ。まぁ、機会があったら会うんじゃないかしら。じゃあ、頑張って。頼みましたよ妖狐とその猫。」
妖狐「承知。」
猫日「はい!」
そういって栾亭姫は夕日とは真逆の方へと消えてゆき、和傘、妖狐、猫日とその猫たちは夕日が照らす物の方へと消えて行った…。
崖の上の空想神 雨翔編
分からないところもあったと思いますが、どうだったでしょうか。なるべく話は続ける予定です。最後まで読んでいただいたい方ありがとうございます。