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百二十八





 色違いの落ち葉とともに箒を引きずって,庭を横断するのが主の子であると犬が知っている。
 入っては駄目だと主からきつく言われているリビング側のドアはその分だけ開いて,またいつもそこに並んでいる大きさ様々の(だから咥えて隠したくなる主たちの)履物というものが不揃いになっていたし,半分を小屋に収め,半分を庭に出し,お腹から地面に寝そべっていたから引きずる音で起きたことより,先を越されたと思った,その散らかりかたに長い鼻から細い耳までを持ち上げて,犬はすぐに庭を物色した。主の子は主が好んでいると犬が思う色をした,歯応えある硬そうな生地の服というもので肌を覆い,一枚だけ落ち葉をお尻に乗せている。引きずられる箒は主,あるいは主より外で一緒に走ってくれる主のご夫人サイズであるということも,犬はやはり知っていた。声を掛けられ,履物が庭へとお出かけし,犬が飛び越えてみたいと思う塀の根元から遊べる真ん中,犬のその小屋,水が出ると知っているホースがだらんと寝転がる小屋の真向かいへと主,あるいは主のご夫人が寄り道して,最後に木の板で作られた足場とその暗い真下を掃いてから落ち葉を袋に詰め,その口を結び,箒とともにしばらく庭を去ってから戻ってくる主たちは,犬を散歩に連れて行ってくれる。リードに繋がれ,近場であればリードも無しに側に駆け寄って丸まるホースの横を通り過ぎ,主の乗り物のお尻(とても噛めないと思うそのお尻)を見つけ,主のご夫人とともに飛び込む乗り物の出入口はそんなときに開いたりしないと知っているから真っ直ぐ進み,広々として樹があり,他の乗り物が速い足で去ってこちらに来たり,同じような他の犬が別の主たちと歩く通りを,一緒に歩く。まず樹々の地面がそれぞれ気になるし,主たちが親しげに話し込んでいるときの足元も,あるいは犬に話しかけてくる主以外のものの鼻や目も気になった。たまに庭を訪れる小鳥の数羽も見かける。樹にいるか,飛んでいるか,また後ほどと言っても陽が昇った次の日になるのが小鳥の挨拶だと犬は知っている。気になる犬も,別れた兄弟も。散歩の終わりはいつも静かなものになる。主,あるいは主のご夫人も,その側にいる犬も見つけられない夕陽というものに包まれているらしい。主よりも若く,主の子より上手に歩いていた子が一度だけそう言ったことがあった。どうやら口説いているな,と主が主のご夫人に小さく囁き,主のご夫人が頷いていた。犬にはピンとこなかったのが事実だったと,主たちも知っていた。
 主の子が起きる前,主の子が眠った後。
 庭において,自由に動くことが出来た犬が主の子のその背中を追う。色違いの落ち葉も巻き込んで箒が引きずられていくところで,犬は上手じゃない尻尾の動きを絵にしてみたが,まずは追いつくことに決めて,芝を歩くことにした。それから驚かしてはいけないこと。主にそれで,少しだけ,怒られたことも犬にはある。塀に向かってゆっくりと進む,主の子の視界に入るように。犬はしっぽを振っていたことには気付いていた。落ち葉が居なくなる散歩の日がまたそろそろと近いことも。主の子が勢いよくお尻から座り,主の子が主たちと同じような驚きを顔に浮かべ,ただ主たちと違う反応をしようとする。ただ犬が目の前に現れたから,主の子は開いている目をさらに開けたようにして空いている指を伸ばし,犬に向けて音を発したのだ。犬は鼻を寄せて応える。長い長い鼻だ。細い耳は役目を果たしている。それから小鳥が数羽でやって来た。久しぶりになるかもしれないと小鳥も犬も。座ったままの主の子は箒を放り出して立ち上がろうとし,もう一度座って,もう一度立とうと,芝生がその手にくっついていることに犬が気付いている。
 小鳥は歩いて,庭は少しだけ手狭になる。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-18

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