まじょとゆうれい
まじょとゆうれい
空がまっさお!
そのひかりのうしろで、たくさんのほしたちが、でばんをまっています。
きょうは、たなばたまつりです。
学校のかえりみち、みいは、なんだかそわそわして、おちつきません。
となりのりょうくんのほうを、ちらちらと見て、いおうかどうしようかまよっています。
りょうくんとは、一年生になってから、一ばんのしんゆうです。
いままで、ひみつをもったことは、ありません。
だけど、こんどのことはどうでしょう。
みいには、りょうくんのしらないともだちがいるのです。
ともちゃんです。
ともちゃんとは、きょ年のたなばたの日に、ともだちになりました。
それから一年、あっていません。
でも、つぎのたなばたにも、きっとあおうねとやくそくしたのです。
それがきょうです。
みいは、ともちゃんはきっとくる、としんじています。
りょうくんにもしょうかいしたいのです。
でも、りょうくんはどうおもうでしょう。
ともちゃんは、ふつうの子じゃないのです。
「どうしたのさ」
みいのようすがおかしいので、りょうくんが、ふしぎそうにはなしかけてきました。
「うん・・・あのね、りょうくん、きょう、ろうそく出せにいく?」
ろうそく出せっていうのは、このちほうの子どもたちが、たなばたの日に、夕ぐれのまちに出て、うたをうたいながら、おかしをもらってあるくぎょうじです。
みんな、この日をたのしみにしています。
「もちろんいくさ、みいもいくんでしょ?」
「いくんだけど・・・ともちゃんがくるかもしれない・・・」
「ともちゃんって? きんじょの子?」
「たぶんね・・・」
「いいじゃん、どうしてこまるの?」
「へいき?」
「きまってるだろ、きんじょの子、みんないっしょなんだよ。おおいほうがいいよ」
みいは、ちょっとあんしんしてわらいました。
ばんごはんのあとで、みいはゆかたをきせてもらいました。
赤とむらさきの、大きなあさがおのもようを見ながら、みいは、きょ年のともちゃんをおもい出しました。
ともちゃんのゆかたは、トンボのもようでした。
雨がふっていて、ゆかたをきているのは、ともちゃんだけでした。
このつぎは、みいもぜったい、ゆかたをきてくるからと、やくそくしてわかれたのです。
みいは、うれしいようなこわいような、気もちになりました。
ともちゃんは、ゆかたをきてくるでしょうか。
そとへ出てみると、もうおおぜいの子どもたちが、あるいていました。
女の子たちはみんな、いろとりどりのゆかたをきています。
みいは、ともちゃんをさがそうとおもったけど、ちょっとかんがえてやめました。
そとがまだ、こんなにあかるいうちは、ともちゃんはこないことに、気がついたからです。
「やあ! みい」
こえがして、ふりむくと、りょうくんがにこにことたっていました。
「りょうくん、どう? きれいでしょ?」
みいは、クルリとまわってみせました。
ゆかたをじまんしたかったのです。
りょうくんはちょっとうなずくと、てれて赤くなりました。
「ともちゃんって子は?」
「まだ・・・」
「どこの子なのさ」
「しらない・・・」
「なん年生?」
「しらない・・・」
「なんだよそれ。ともだちなんだろ?」
「りょうくん、びっくりしないでね。ともちゃんは、あの・・・あのね・・・ゆうれいなの」
「ええっ、ゆうれい? うそだろ、みいはゆうれいと、ともだちなの?」
「みいもいちどしか見てないの。でも、やくそくしたのよ。たなばたの日にまたくるって。りょうくん・・・こわい?」
「う、うん・・・なんていっていいか、わかんない」
りょうくんはこまったかおをしました。
それから、二人はなんとなくだまってあるきました。
五けんくらいまわって、あたりはようやく、くらくなりました。
まちかねたように、空は星でいっぱいになりました。
そして、そのほしにまけないくらい、たくさんの、ちょうちんのあかりが、子どもたちの手にゆらゆらゆれて、ゆめのようにきれいです。
「みい・・・みいってば・・・」
りょうくんが、みいのそでをそっとひっぱりました。
「うしろから、げたの音ががする・・・」
うしろにはだれもいないはずです。
みいは、はっとして、いそいでふりむきました。
小さな女の子がいました。
トンボのゆかたをきています。
「ともちゃんだ!」
みいはさけびました。
ともちゃんは、はずかしそうにうつむいています。
「やっぱりきたのね。うれしい。やくそくどうり、ゆかたをきてきたよ。どう?」
「うん、きれい・・・」
「おかしを入れるふくろ、もってきた?」
「うん・・・」
みいは、じぶんのふくろの中から、おかしをつかみ出して、ともちゃんのふくろに、入れてやりました。
ともちゃんは、花のようにわらって、ふくろをだきしめました。
そのしぐさが、あんまりかわいいので、りょうくんは
「き・・・きみさ・・・ほんとにゆうれいなの?」
と、おもいきって、ききました。こえがすこしふるえています。
ともちゃんは、こくりとうなずきました。
りょうくんは、この子、どっかで見たことあるな・・・とおもって、ふしぎな気がしました。
りょうくんのいえのそばまで来ると、子どもたちがきゅうにしずかになりました。
りょうくんのいえのとなりは、「まじょのいえ」とよばれています。
そこのおばさんは、子どもが大きらいで、いえのまえを、子どもがとおるのさえいやがります。
りょうくんのいえに、ともだちがきて、あそんでいたりすると、かならず、うるさいと、くじょうをいいにきます。
だから、こんないえでは、おかしをくれっこありません。
子どもたちは、だまってとおりすぎていきました。
でも、ともちゃんだけは、「まじょのいえ」をじっと見て、うごきません。
「そのいえはだめよ、ともちゃん。すごくこわいおばさんがいるのよ」
みいがそういうと、、ともちゃんは、なぜかなみだをポロポロながしはじめました。
それを見ていたりょうくんは、とつぜん、とび上がってさけびました。
「ああ! おもい出した! ともちゃんって、ここの子だったんだよ。ね、そうでしょ?」
「ここの子?」
みいにはなんのことかわかりません。
「ずっとまえに、ぼくのママがいってたんだよ。ここのおばさんは、ほんとうはやさしい人だったんだけど、子どもがこうつうじこで、しんでしまってから、すっかりかわってしまったって。その子は、たしかにともちゃんって名まえだったよ」
「ほんとなの?」
みいがきくと、ともちゃんは、くしゃくしゃのかおでうなずきました。
「ママはやさしいもん。まじょなんかじゃないもん・・・」
「ぼくんちのママがいってた。おばさんは、子どもをなくして、さみしくてしかたないんだって。だから、よその子を見ると、じぶんの子どもをおもい出して、よけいにかなしくなるんだって」
そういって、りょうくんは、じっとともちゃんを見つめました。
ほかの子どもたちは、もうすっかり先のほうへいってしまい、三人きりになりました。
「おばさんに、あいにいこう! ともちゃんも、おかあさんにあいたいでしょ?」
そういうと、りょうくんは、先にたって「まじょのいえ」へむかいました。
おそるおそるチャイムをならすと、げんかんのドアがすこしあきました。
中からかおを出したおばさんは、りょうくんをにらんで、いいました。
「となりの子ね。よそへいきなさい。うちにおかしなんてないんだよ」
「まって、おばさん、しめないで! ともちゃんもいっしょなの」
みいのことばに、おばさんはびくっとして、あたりを見まわしました。
それから、ものすごくこわいかおになって、
「おとなをからかって!」
と、ドアをしめようとしたので、りょうくんはあわてていいました。
「ほんとだよ、おばさん! ともちゃんが、おばさんにあいたいって、いっしょにきたんだよ。ほら、ここにいるんだ」
「ともちゃんは、きょ年もきたのよ。トンボのゆかたきて・・・」
「とんぼのゆかた?」
はっとしたおばさんは、ドアを大きくあけて、みいたちを見ました。
「どこにいるの」
「おばさんには、見えないの? ここにいるでしょ」
「ともちゃん、おばさんには見えないみたいだよ。きみ、ゆうれいだろ? なにかふしぎな力をつかって、おばさんにしらせなよ」
さっきからともちゃんは、なきながら、ママ、ママ、とよんでいますが、おばさんにはそのこえもきこえません。
「ほら」
りょうくんが、ともちゃんのせなかを、おばさんのほうへぐいっとおしました。
そのとき、ともちゃんのげたが、カランコロン、となったのです。
「ああ・・・!」
おばさんが、手でかおをおおってさけびました。
ともちゃんのお気に入りの、赤いはなおのげたの音だ、と気がついたのです。
「ともみは・・・トンボのゆかたをきているの?」
「そうよ、おばさんがかってあげたんでしょ?」
「ええ、ええ、でも、見えない・・・見えない…見えないわ・・・どこなの、ともみ!」
おばさんの目から、なみだがどっとあふれて出ました。
かたくにぎりしめてむねにあてた手はガタガタとふるえています。
ともちゃんは、ママ、ママといいながら、せのびして、その手をなでました。
みいもりょうくんも、ふたりがかわいそうでたまりません。
なんとかして、ともちゃんのすがたを、見せてあげられないでしょうか。
みいは、できるだけくわしく、ともちゃんのようすを、はなしましたし、おばさんは、しんけんにきき入っていました。
けれども、とうとう、ともちゃんを見ることは、できなかったのです。
だけど、おばさんはやくそくしました。
らい年のたなばたには、きっとおかしをよういして、まっているからと。
「おばさん、かわいそうだったね」
「やっぱりさみしかったんだね」
しょんぼりしているともちゃんを、つくづくとながめながら、さっきから、くびをかしげていたりょうくんが、
「ぼく、ともちゃんと、あそんだことあるような気がする」
というと、ともちゃんは、やっとあかるいかおになって、うなずきました。
「そうだよ、りょうくんといつもいっしょにあそんだよ」
「だけど、ともちゃんは、ぼくよりずっとおねえちゃんだったでしょ?」
「ゆうれいって、大きくならないんじゃない? きょ年のともちゃんは、みいとおなじくらいだったのに、ことしはわたしのほうが、ずっと大きいもの」
それをきいたともちゃんは、また、さみしそうなかおになりました。
みいは、あわてていいました。
「でも、ともだちだよ。みいがどんなに大きくなっても、わたしたちはともだちだよ。ね、りょうくん」
「あたりまえだよ。ゆうれいとともだちなんて、ちょっとじまんできるじゃん」
そこで、りょうくんは、ちょっとかんがえて、またいいました。
「それに、まじょとも、ともだちなんだぜ!」
いっしゅん、ほしたちもつよくかがやいて、空がわらったようでした。
まじょとゆうれい