「美知葉、行ってきます」

 小説の書き方がだいぶわかってきたような気がします。もう少し、山場を作れたらよかったかもしれません。今後の課題です。一連のシリーズ化を検討中です。

「ちょっとお姉ちゃん、早いことやったってよ。困っとるやん」
「そやて、なんとかしやなかんね」
「泣いとるやん、あんた、泣かすん趣味あるんとちゃう」
 ……ちゃう、い、いや、違います。依頼者を泣かすような趣味はありません。ちゅうか、どこの言葉やねん!ああ、もう頭の中がパニック。
 依頼者のおばさんは、すっかり涙目。ごめんなさい、ごめんなさい。頑張っているんですけど、どうも、思わしくないこの雰囲気。

「女よこして、何考えとんのやろうな、この会社」
 誰かがそう言っているのが聞こえた。思わずカチンとくるのを感じた。……今の言葉、絶対に後悔させてやる!

○     ○     

 かかってきた一本の電話。
「……ロードサービスセンターでございます。はい、救援依頼でございますね」
 事務所の受付兼電話案内嬢である由岐(ゆき)さんが対応している。あたしは由岐さんが記入しているメモを横から覗き込んだ。

  場所:○○町××地内。目印、△工場そばの堤防道路。
  車:白のバンタイプ
  状況:脱輪。後進中、道路から右側に外れる。
     時間がないので、至急お願い!

 電話の向こうは中年の女性らしい声。けっこうパニクっているらしく、あわただしい声が漏れ聞こえてくる。要領を得ないのか、由岐さんは何度も聞き直していた。彼女は電話対応のベテランで、あしらいも結構上手なのだけど、それでもこれだけ手こずるというのは、よっぽどの相手だなあ。そんなことを考えながら、あたしは出動の用意を所長に伝えた。

○     ○     ○     

 この地方都市にあるロードサービスセンターは、こぢんまりとした陣容。所長1名、部下3名、受付嬢1人がさっきからの由岐さん。
 あたしは、大立目(おおたちめ) 美知葉(みちよ)。25才、独身。全国規模のロードサービス会社に就職して、この事務所に配属になって3年。仕事に慣れて、おもしろく感じてきているところ。もともと車が好きというのがあるんだけど。いろんな車を見て、直して、また走り出していく姿はとっても好き。やったあって感じになる。この時も、よし、来た!って思ってた。

 その時は、同僚の二人は既に出動していたから、残っていたのはあたしと所長の二人。由岐さんは事務員さんなので、現地に出動するのはよほどの時だけ。この電話であたしと所長が出てしまうとここは実質、空っぽになってしまう。だからあたしは「一人で行ってきます」と所長に伝えた。

「大丈夫かあ?」所長は心配顔。
「たかが脱輪ですよ。レッカーで引っ張ればそれで終わりです。10分もかかりません」
「そうだけど。でも現場は千変万化だからなあ」
「大丈夫ですって。だてにここで経験積んでませんから。信用してください。ちゃんとやってきます。楽なもんですよ」あたしは笑顔で答えた。
「まあ、確かにお前さんは信頼できるけど。わかった、任せたから。何かあったらすぐに連絡入れろよ」
 所長は最後まで心配そうだった。
「何もありませんって。じゃ、行ってきます。由岐さん、クライアントから何かあったら、連絡頂戴ね」
 そう言って、レッカー車に乗り込むべくあたしは事務所を出た。玄関ガラスの向こうで心配顔の所長と対照的に、由岐さんが笑顔で手を振っていた。

○     ○     ○     

 現地はちょっとした田舎。刈り取られた田圃が一面に広がっていて、その中に一本の小さな川。あたりは所々に家や工場があるぐらい。だから遠くからでも一台の白い車が立ち往生しているのが見えた。国道を曲がって、細い道にはいる。六角形の道路標識が立っていて、県道番号を案内している。
(細いけど、これでも県道なのか)
 そう思いながら、レッカー車を橋の側に止めた。橋の袂から下流に向かって川沿いに細い道がある。依頼者の白いバンが田圃に向かってずり落ちそうな感じで止まっていた。その傍にいるのが依頼者の女性だろう。不安げに車を見つめている。さらにその向こうの方で工事のユンボが動いているのが見えた。
 レッカーから降りると、あたしは車止めをかける。その傍には工事中につき通行止めの看板。県道は普通に通っているから、下流のあの工事のことなんだろうなあ。そう思いながら、あたしは依頼者の所へ徒歩で近づいた。この現場に罠が隠れているなんて、まだ全然気が付いていなかった。

○     ○     ○     

 和服に白い割烹着の中年女性。普段はきっと上品な奥さまなのだろう。そんな女性が、あたしを見るなり走り寄ってくると、しゃべり始めた。
「急いで集金に行かないと、うち、倒産しちゃうんですー!」
 ……は、はい?

「いつもこっちの道使うんです。ええ、いつもなんです。国道にはちょっと出にくくて、ここ使えば国道でなくても、相手先のところにすんなり出られるんです。そしたら、前で工事してるもんだから――」
「あ、で、でも、工事の看板出てましたよ。通行止めだって」
 あたしは何とか口を挟んだ。
「そうなんです。工事の所まで行って、そんなの見なかったって言ったら、ちゃんと出してあるんだから見なきゃダメですよって言われて。そんなこと言ったって、見えない物は見えないんだから仕方ないでしょう?」
 い、いえ、それで同意求められてもちょっと……。
「しょうがないから、バックで戻ってきたんですけど、道細いでしょう。左側は川だから怖くて、右寄りで来たんですけど、ちょっと寄り過ぎちゃったみたいで……。なんでもう少し広い道にしないんでしょうか。あたし、そもそもバックはそんなに得意じゃないんです。主人からも注意しろって言われてて……それでケンカしたこともあるんですよ。いえ、夫婦仲はいいほうです。この前も二人で買い物に行って……」

 わかった。なぜ百戦錬磨の由岐さんが手こずっていたのか理解できた。このおばさん、いえ、依頼者は人の話を聞かない、話し出したら止まらない。しかも話題がどんどん脱線していく。こっちの欲しい情報がどんどんズレていく。
 あたしは何とか依頼者の話をまとめると、会員カードを借りた。ハンディ端末に打ち込んで確認する。続いて、状況の入力をした。その間も依頼者はしゃべり続けている。

 長くなるからその話をまとめると、この依頼者、いつもこの堤防道路を使うそうだ。国道に出るより近道。ところがその道が工事中だった。集金で急いでいた依頼者は工事看板に気が付かずに進入。途中で工事車両に気が付いたものの、何とかなると思ってさらに進入。とうとう工事現場で追い返され、Uターンする場所もなくバックで戻ってくる途中で運転操作を誤り田圃側に少し滑り落ちるような形で脱輪。車が傾いている状態でサービスに救援依頼。こんなところだ。
 ……急いでいるのなら、あらかじめ時間に余裕を持って動いておけば何事もなかったんじゃないの? などと心でツッコミ、顔には笑顔を浮かべつつ丁寧に対応した。
 車の状態を確認する。右側の前後のタイヤが斜面の途中で止まっている状態。道路と田圃の高低差は約1m。右に傾いてるせいで左のタイヤもちょっと浮かんでいる。あたしも乗り込んでエンジンを動かしてみたけど、タイヤが空転して動かない。いや、ヘタに動かすとさらに右にずり落ちていきそうだ。この状態でサービスを呼んだのは正解だろうな、そう思った。
 脱輪というよりは、転落一歩手前ってところ。でも、今ならなんとかなりそう、そう思ってた。

 あたしは確認を終えると、依頼者に状況を説明した。
「この場合は、元の方向に引っ張れば戻ると思います。右後ろに滑り落ちている途中だから、左前に引っ張ります」
 依頼者の目が輝いた。コクコクと何回も肯いてる。
(よし、作戦、発動!)
 あたしは心の中でそう叫ぶと、レッカー車を持ち込むべく車へ――。
(あ? あれ?)
 立ち止まると、あたりは周りを見回した。
(どうやって持ち込もう?)

○     ○     ○     

 現場は細い堤防道路。幅は3mちょっとかなあ。左側はブロックの護岸があって、水面まで4mぐらい。つまり、落ちるのは勘弁して欲しい高さがある。
 右側は依頼者のバンが半分ぐらい道をふさいでいた。残る道幅は2mもない。レッカー車を入れる幅としては狭い。ぎりぎりかアウトだ。川に落ちるか、車を傷つけるか、とにかく覚悟しないと前に出ることが出来ない。でもどっちも困る。
 よし、どっか迂回路を通って前に回り込もう。そう考え直して、あたしは周りを見回した。刈り取りが終わった田圃の中。見通しはよい。道は……ない?
 国道から入る道は全部田圃の途中で止まっている。川を渡るような橋もない。唯一の道は前方で工事中だ。おばさ……依頼者の話からして、前から入ってくるのは無理。今もユンボが動いているのが見える。つまりレッカー車を前から持ち込む方法は、ない。
(所長! 作戦第2号、失敗しました!)
 あたしは心の中でそう呟いた。まだ、このころはそれだけの余裕があった。

 レッカー車が前にこられないのなら、ワイヤーで後ろから引っ張る方法にするしかない。もちろん、ただ後ろに引っ張ったんでは、車はさらに滑り落ちるだけ。後ろにいるレッカーで前に引っ張るのだから、どこかでワイヤーの向きを変えなきゃいけない。そのための滑車も当然積んである。
 あたしは滑車と保護シートを取り出すと、車の前方に行った。この滑車を引っかけられそうな所は、道の端にある電信柱かあ。柱に保護シートを巻いて、滑車を引っかける。レッカーのウインチからワイヤーを伸ばしてくると、滑車に巻いて向きを変え、車に引っかけた。
 これで用意完了だけど……不安だ。向きが悪い。道の端にある柱は、車から見て正面やや右より。もっと左にあれば理想的なんだけど、このまま引っ張ると滑り落ちる力に抵抗できないかも知れない。滑り落ちたら、レッカーじゃなくて、ユニックかクレーンの出番になってしまう。レッカーは引っ張るぐらいしか出来なくて、吊り上げるのは無理だからだ。
 依頼者に慎重に動かすようにお願いして、ウインチの操作を丁寧にやってみる。少しずつ車は動こうとするけど……だめだあ!落ちそうだ。
(作戦3号失敗――って、これ、もしかして、ヤバイくない?)

 いつの間にか周りには野次馬が集まっていた。おっちゃんが一人、おばちゃんがたくさん。そのおばちゃんズがいろいろ言い始めていた。
「この人泣いてはるやん、はようしたってやー」
「このサービスマン、女やん。ちゃんとできるんかあ」
「やっぱ男やないとあかんのちゃうか」
「何で女なんか、よこしたんやろなあ」
 頬が熱くなるのを感じて、耳を塞ぎたくなった。

○     ○     ○     ○     

「女のくせに、油まみれになってなにやっとるんや!」
「そんなんじゃ、将来お嫁のもらい手が無いわよ」
 そう言われたのはいつのことだったろう。中学生のころ、既に車が好き、機械いじりが好きだった。それだけのことだったのに、うちの両親は止めろと怒っていた。
 父親は昔気質で、女は早く結婚して子供生んで育てるのが幸せという人だった。母親は父親の機嫌を損ねないように、とにかく父親に従っているだけの人。あたしは大人しく学校と家を往復している日々だった。
(あたしは車が好き! たくさん乗って、たくさん触っていたい!)言いたくても言えなかった言葉。
 でも、中学3年の進路で、とうとうあたしは反乱した。できのいい兄が、自分の好きな進路を当然のように選んだ。ならばあたしも、と親の考えとは違う工業系の高校を選択した。親は激怒。即刻勘当であたしは家を飛び出した。学校に事情を話して、アルバイトで学費と生活費を稼いだ。
 自動車短大にすすんだのも、整備士資格をとったのも自分の思いどおりにやるため。頑張って、サービスマン(ウーマン? レディか)になって3年。そろそろ自信もできてきたってところで、「女だから」という言葉に出会うとは思ってもいなかった。しかも、同性に言われるなんて! 所長に連絡して応援頼もうと思ってけど、こうなったら意地でも自力で解決してやる! サービスレディの意地を見せてやる!

 って携帯しまったけど、解決方法はわからない。ただ一人考えてそうなおっちゃんの言うとおりに滑車の位置を変えてみても、ダメ。やっぱり滑り落ちそう。依頼者は失敗続きのあたしの様子を見て、不安げ。涙ぐんでる。おばちゃんズは相変わらずぎゃあぎゃあとうるさいだけだし。
 川の中をのぞき込んでも、対岸を見渡してみても引っかける場所は見つからない。そりゃもっと遠い電信柱もあるけど、今度はワイヤーが届かない。レッカー車を持ち込む方法を再度考えてみたけどやっぱり駄目そうだ。依頼者に奥の様子を聞いてみても、やっぱりレッカー車が入れるような状態ではないらしい。
(うわあ、八方ふさがりだ)
 ようやくあたしはこの場所の罠に捕らえられてることに気が付いた。

 おっちゃんは手がないとわかってきたのか、さっさとこの場を撤退した。「なんかあったら言ってやー」の一言を残して。おばちゃんズも遠巻きになっている。依頼者はハンカチを握りしめ、時計を気にしながら、あたしを見ている。
 どうする、あたし。もう、野次馬なんかはどうでもいい。それどころじゃない。こうなったら、レッカー車が川に落ちようが、擦って車に傷がつこうが、弁償でも何でもしてやる。それしか無いんだったら、それでいくしかないじゃん!

「あのう、まだ時間かかるんでしょうか……」
 恐る恐る尋ねてきた依頼者を無視して、あたしは車止めを外すと、レッカー車に乗り込んだ。ゆっくりと動かしながら、護岸ぎりぎりに左のタイヤを載せる。右側は車と接触するかどうか。接触するならしろ!
 (接触したらきっと、転落していくんだろうな。そうなったらクレーン出動依頼だな。……もしかするとクビかな)頭のどっかで冷静につぶやくあたしがいた。

 あたしの意図に気づいておばちゃんズが止めに入ってくる。
「あかん、あんた、無茶や!」
 両手を目一杯広げて車の前でとおせんぼ。その向こうでは依頼者の青ざめた顔。
「誰か、止めたってや!」
「誰でもいいから、呼んでや! 誰か、来いや!」
 おばちゃんズの制止でそれ以上進めない。騒ぎを聞きつけて、おじさんや工事現場のおじさんも駆けつけてきた。あたしはブレーキをかけると、ハンドルに突っ伏した。

○     ○     ○     

「ねえちゃんよお、無茶する前にさあ、言ってくれよ」

 レッカー車をバックで元に戻した。それもギリギリでおばちゃんズは悲鳴を上げていたけど、なんとか脱出する。車から降りたあたしに ヘルメット姿のおじさんが話しかけてきた。工事現場から駆けつけてくれたおじさんだ。
「何とかレッカー車が通る方法があるんですか?」
「ねえちゃん。その若さで頭固いね。もうちょっと発想を柔軟にしてもいいんじゃないか」
 おじさんはニヤニヤ笑い。
「助けが欲しいときには誰彼無しに助けを求めれば、いいじゃん。捨てる神あれば拾う神あり。誰が拾う神様かはわかんないだろ。でなんだ、車を引っ張ればいいんだよな。今アレがくるからさ」
 おじさんが指さす方向、ミニユンボがカタカタいいながらやってくる。
「はまったから助けてくれって話は結構あるんだよ。どこでも」
 見た目は怖そうだけど、もしかすると気だてのいい人みたい。依頼者のおばさんは何度もお辞儀をしている。
「いいって、お礼は後な」
 そう言うと、おじさんはミニユンボの人に指示している。車の所に到着すると、おじさんはミニユンボのバケットからワイヤーと牽引道具を取り出した。
(ちゃんと用意してあるんだ。確かに慣れているみたい)
 そう思いながらあたしが見つめていると、おじさんは車とユンボを繋いだ。エンジンをかけた車にあわせてミニユンボが動く。今までのあたしの苦労は何だったんですかっ――! てわめきたくなるくらいに、簡単に車は脱出した。

 依頼者はワイヤーを取り外しているおじさんに何度もお礼を言っている。
「いいって、よくあることなんだ。そうだねえ、お姉ちゃん」
 そう言っておじさんはあたしを指さす。……え? あたし?
「お姉ちゃんのチュウでいいよ。なんてね、冗談だよ、ガハハハハ。じゃあな」
 おじさんは自分勝手な冗談で笑い飛ばすと、ミニユンボでカタカタ帰って行った。依頼者はあたしにもお礼を言う。あたしもぺこりとお辞儀。一応、これで処理済みということで、端末に記録した。一件落着……のはずなんだけど、爽快感がない。この脱力感はなに?……無力感?
 いったい今日、あたしはここで何をしてたんだ?

○     ○     ○     

 事務所に戻って、この件の報告書を所長に提出した。何か言われるかなと思ってたけど、ただ判子が押されて返ってきた。報告書を受け取るあたしの顔を見て、所長が言った。
「なんだ、何かオレに言いたいのか?」
「このこと、どう思いますか?」
「まあ、おまえさんとしてはベストは尽くしたんだろうし、それでもできないことがあってもしょうがないよ。とは言っても、ちょっとはこっちに連絡入れて相談があってもよかったかなあ」

 ……そうですよね。途中で女の意地みたいな部分が出てきちゃって。そんなのは報告書には書けなかったし。熱くなったのは拙かったなと反省してます。
 あたしの説明に所長はわけわからんという顔。由岐さんは笑顔で肯いている。

「あともう一つ。依頼者にはもっと丁寧に説明しろよ。この場合、第三者への依頼は依頼者の責任であって、こっちでは面倒みれないぞ」
 あ、それは言い忘れました。すみません。

「まあたまにはこういうこともあるよ。これからはもっと注意してやっていけばいいさ」
 所長はそう慰めてくれたけど、あたしの気分は晴れなかった。結局は無力だっただけ……あたし、何しに行ったことになるのかなあ。そんな気分がぬぐえない。
 やっぱり女だからダメなんだろうか。筋肉マッチョだったら車を簡単に持ち上げることができたとか、引っ張ることができたとか。そんなことできるはずもないんだけど、ため息ばかりがでてきた。

 その日はそれからは何もなかった。終業時間が近づいて、慣れないお酒でも飲んで寝ちゃうか、みたいな気分で席を立ったときだった。事務所の玄関先に一台の車が着いた。玄関で入ってきたお客さんと由岐さんがしゃべってる。と、笑顔の由岐さんがあたしを呼んだ。
 あら、今日の依頼のおばさんじゃないですか。
「よかった。まだいてくれて。あんたに何のお礼もしなかったから。これ、お礼」
 そう言うとあたしに果物の入った袋を押しつけてくる。
「そんな、頂けませんよ。あたし、今日は何もしませんでした……」
「そんなことないって。あんたが一生懸命にやってくれたから、今日は助かったんだから。そうそう、あの後、集金も間に合ったし、倒産しなくて済んだから。いえね、何も今日中じゃなかったらダメッてこともなかったんだけど。でも、あんたが頑張ってる姿見てたら、あたしもって気持ちになれたのよ。ほんと、今日はありがとうね」
 不覚にも目頭が熱くなって、あたしは俯いた。

「あんな雑音に負けないで、頑張ってよね。そうそう、そんなに頭熱くしちゃダメだからね。まだまだこれからの人なんだから、そう無茶しないで」
 おばさんはそう言うと、忙しい、忙しいと言いながら、車に乗り込んで発進させた。あたしは顔を上げることができなかった。熱い物が頬を伝って止められない。

「頑張ります。頑張ります」
 バカの一つ覚えみたいに呟いていた。いつの間にか所長と由岐さんがあたしの横に来て、由岐さんはあたしの肩を抱いてくれていた。

「頑張ります。あたし、頑張ります。お客様の信頼に答えられるようにしっかりと頑張ります!」
 遠ざかっていく車の赤いテールランプがにじんで見えた。

「美知葉、行ってきます」

 楽しめましたでしょうか。ご批評承ります。辛口大歓迎です。少しでも上達できればと思っています。

「美知葉、行ってきます」

とあるロードサービスレディのお話。 この仕事について3年目、大立目 美知葉(おおたちめ みちよ)は救援の依頼にいつものことと出動したものの、あれ?いつもと勝手が違う・・・・・・?

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-12-28

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted