Dry out
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「俺の息子を君の娘が気に入るとはとても思えないんだけど」
昼下がりの静かな喫茶店で橋本祐太朗と仲代悦子は静かに話をしている。
「そんなのひよりと裕太君を会わせてみないとわかんないわよ。
大丈夫、心配しなくていいって」
今年の4月に挙式を控えている2人はそんなことを話している。
お互い連れ子がいるバツイチ同士。
祐太朗には20歳になる息子がいて悦子には今年小学校にあがる
娘がいる。
「それに裕太君、ほとんど家に帰ってこないんでしょ?」
静かに悦子が祐太朗の目を見つめながら言う。
「いや、それがなんか大学やめたらしくってさ。
いきなり「俺、パイロットになるから自衛隊入る」とか言うわけ」
「パイロット?てことは空自だわね」
「そうなんだよ。エリートじゃん。
お前には無理だって言ってるんだけどさ・・・」
「夢を後押ししてやるのも親の務めよ」
「だけど高い学費払って大学にまで行かせてやったのにさぁ・・・」
「それ、前の奥さんと関係があるんじゃないの?」
「なきにしもあらずだな」
そう言って祐太朗は伝票を手に取り立ち上がる。
「え。もう行くの?」
「ううん。その辺デートしようよ」
「ふふっ。親であり男であり・・・大変ね男の人って」
「それは君にしたってそうでしょう?」
悦子がコートを着るのを待ちながら祐太朗が答える。
「ううん。違う」
悦子がコートの袖を通し終わりまっすぐ前を見てそう言う。
「違うって?」
「それはあとから話そ。出よ出よ。あ、今日私奢るよ」
「いいって。こういうのは男に出させといたら」
「ありがとうございます。ごちそうさま」
2人は階段を下りて狭い路地を手をつないで歩く。
「さっきの話・・・違うって、なにが?」
「え、なんの話?」
「女は男とは違うって話」
「ああ。あれはね、女はいつまでたっても女だってこと。
母であり妻であり女っていうのは見せかけで、
女はいつまでたっても女なのよ」
「・・・意味深だね」
「そう?深いようで浅いわよ。
女はいつまでたっても女なの。
だから、自分の娘が美しく成長すると
嬉しくもあるけど、
なんだか負けたっていうか、
嫉妬する心もあるのよね」
「ひよりちゃん、何歳だっけ」
「6歳よ。今度小学校に上がるの」
「ひよりちゃんにまで嫉妬するの?」
ずれた眼鏡を直しながら祐太朗が尋ねる。
「しちゃうわね。親として可愛いっていうのもあるけど、
女からみてもあの子は可愛いわよ。
まぁ成人するまでは親の義務だから
面倒みるけど、それからは知らない。
きっと仲の悪い親子になるわ。私たち」
「そうはさせないよ」
静かに祐太朗がそう言う。
信号の青い点滅が終わり赤になる。
「生活してみたらわかるだろうけど、
あなたも裕太君もひよりにメロメロになるわ。
これは母としての勘というより女としての勘」
「君は考え過ぎなんだよ」
「これが私なの」
そう言って悦子は降りしきる雪をただ黙って見つめる。
完
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