G戦場の彼女

からす

毎朝、シッカリと朝食を摂る。それは人間にとって凄く大事なことである。食事とは人を良くする事!
食事にかけた彼らの青春とは!!

零児の朝

毎朝、シッカリと朝食を摂る。それは人間にとって凄く大事なことである。

で、もちろん俺は毎朝何て言わず昼も晩も、し~っかり食事を摂っている。

「本当に…よく食べるわよね……」

なかば諦めた。そんな声が毎朝っていうか毎食時に聞こえるのは、ちょっと辛いかも知れない。

「あんたは、それだけ食べても太らないしねえ……まったく、羨ましいわ……」

母親、現在43歳。ちょっとしたことでも、お腹周りが気になるお年頃。

「モグ……知らん。太らないのはラッキ-だと思うけど…」

「でしょうよ……あんたは特別なのよ。由布も同じなら良いのにね」

急に話を振られた妹が、いままさに手にした茶碗を遠慮がちにテ-ブルに戻した。

「……お母さん。酷いよ……」

妹、由布(ゆう)現在15歳。やっぱり色々気になるお年頃。

「ごめんね~由布。でも大丈夫よ~今はどんどん身体が成長する時期だからね」

そう言いながら、バストやらヒップやら身体のラインやらを、クイッ!って感じで強調する。

(どんなフォロ-ですか……母さん)

「うん!大きくなると良いな~」

(で……由布。お前もそういう事を、キラキラした眼で言うんじゃない!)

俺は敢えて、そういう突っ込みを全部胸の奥にしまいこみ黙々と丼に盛ったご飯を食べていく。

「ムグ……母さん。おかわり」

「零児。もう、ご飯ないわよ」

「でえ……」

「お兄ちゃん……朝から丼3杯食べたら十分だと思うよ」

「まだ3杯しか食べてないぞ。そもそも、俺は朝もしっかり食べる派なんだからな」

堂々と胸を張ってやる。ちゃんと医学者なんかも言ってる事だ。

だが……

「「しっかり食べすぎなの!」」

そんな、俺の主張は、完全なハモリでもって否定されたのだ……

全く、空腹は全人類の敵だというのに……

「ぐっ……判ったよ……もう少し食べたいトコだけど……無いなら仕方がない……」

「まったく……いよいよ、あんた専用の炊飯器が要りそうね」

「は、はは…すいません……」

軽く溜息を吐く母さんに、少しだけ苦笑いしつつ

「ご馳走様でした」

と手を合わせ、未練残る朝食を済ませるのだった。

正也

「行ってきます」

「行ってきま~す」

「気をつけてきなさいよ。二人とも」

朝は妹と一緒に家を出る。

俺の通う高校と妹の中学が、どういうわけか、えらい近い場所にあるからだ。

正直、毎朝、妹と二人で登校ってのは恥かしいんだが…

『一緒に行こう』

そう言って玄関先で待ってるし……

まぁ大事な妹だし……そうそう邪険になんか出来ないってのもあって……結構俺もシスコンっぽいのかもしれないなんて思う。

「今日も晴れたね~」

嬉しそうに由布が笑う。

「ああ、ちょっと目に痛いくらいだ」

そう言って俺は空を見上げる。

どこまでも広がる青い空……まぶしい太陽……さわやかな朝……初夏を感じさせる風…

そんな絵に描いたような朝の光景を、妹と歩いていく。

本当は妹と、じゃなければ青春なんだろう……なんて思う俺は愚かなのかもしれない。


「もう6月だね~」

なんの前触れもなく、由布が言った。

「ん?何だ?どうした?」

「もう6月だよ。もうちょっとで、夏だな~って」

「そうだなあ…湿気が多くなるなあ…乾燥食品の管理に気をつけなきゃな…」

「…そうだけど……はぁ…」

また食べ物なんだから…そう、言いたそうな眼で由布は軽く溜息をついた。

この時期の乾燥モノの管理は大事なんだぞ。『そうめん』なんかカビが生えたら『お線香』になってしまうじゃないか!

「もうちょっと『感慨』ってのはないの…?」

「…そうだな…じゃあ、『もう入学から2年目か~人生ってのは早いものだな…』ってのでどうだ?」

「…もういいよ…」

思いっきり妹には呆れられたが…実際、思い返してみれば高校入学から早いもので、もう2年だ。

入学当初こそ『上手く馴染めるか?』や『ちゃんとやれるのか?』なんて、殊勝な悩みも持ってはいたが、そんなものは今や遥か遠い過去の話。

今は?って言えば無事に進級もできた。親しい友人も出来た。持ち上がりのお陰でクラスの女子とも、そこそこ話もできる。

ごくごく普通のポジショニングだと思う。

「でも考えてみると確かに早いなぁ」

こんな風に思いをめぐらせる事だって、一年を無事に過ごせた証拠なんだから……

俺はもう一度、空を見上げる。濃い青い空に白い雲。今年の夏はどうなるんだろう?そして来年は……

「あ、お兄ちゃんが感慨に浸ってる……」

「……あのなあ……」

そんな食えもしない『感慨』に珍しく浸っていた時…

「お~い。」

丁度、信号のところで、ヒラヒラと手を振る人物に声をかけられた。

「おう!正也」

「おはようございます。正也さん」

高校生活一番の出来事っていえば、何をおいても、こいつ『赤座 正也(あかざ まさや)』との出会いだっただろう。

「おはよう。由布ちゃん」

ゆったりとした…とでも形容したくなる笑顔。

「おはようございます」

さっきまで溜息ばかりだった、由布が嬉しそうに挨拶をする。

「俺には、挨拶なしか?」

「あはは。ごめん、ごめん。おはよう零児」

「ったく…おはよう。正也…」


この笑顔がすてきな男、『赤座 正也(あかざ まさや)』との出会いは結構、運命的だったかもしれない。

『朝から丼3杯は~』と妹が言っていたように、俺は言ってしまえば『大食い』だったりする。本当なら、朝から丼で5杯いや6杯は食いたい……

当然『こんなに食うのは俺だけだろうな…』なんて、入学当日は思っていた訳で、密かに『昼食の量を減らそうか…』とも考えていた。

あのときの俺は結構、人の目を気にしていたんだと思う。

ところが…そんな考えを打ち砕くように、教室で数十個のパンを食べている正也と遭遇したのは、翌日の昼飯時だったりする。

正直、あの時は驚いた。なんせ1個パンを食べ終わったかと思えば、鞄からまたパンが出てくるのだから…あれはまるで手品を見ているようだった。
で、俺は『(は~世の中には、居るもんだな)』と思いつつも、『よう!俺も一緒に飯食って良いか?』なんて声をかけて、正也の前に俺の『適量弁当箱』を置いた訳だ。

当然、『大食い』って共通点があるのだから声はかけやすかった。

正也も正也で、目の前に置かれた俺の弁当箱を見るなり『僕より凄い人が居たよ~』なんて言いながら笑ってくれた。

で、それ以来すっかり意気投合。

これがまさに『類は友を呼ぶ』ってやつだ。

それ以来、正也は俺の親友であり、共に戦う戦友だ。



……だけど……なんか、そのうち……親友以上になりそうな気もしてる…



その理由が…

「そうだ。由布ちゃん」

「はい?」

「今度、映画に行こう。チケットが貰えたんだよ~」

「わっ!いいんですか?」

「うん。せっかくだし由布ちゃんと行きたいなって」

「嬉しいです…正也さん…」

こういう事だったりするんだな。

「ったく…お前は、目の前に兄貴がいるってのに妹をナンパするつもりか?」

「嫌だな~。そういうつもりはないよ。」

そう言いながら、ニコッと笑う。あ~もうホンと笑顔が素敵ですな!正也さん!!

「本気だもん…ねっ。由布ちゃん」

「ぇ…ぁ……はい……正也さん…」

あ~このやり取りって両思い系?つうか、もう彼氏&彼女な関係?

なんでまた、よりにもよって我が妹と親友さんは、こういう関係になってんだろね……

「俺は、お前に『お義兄さん』って言われる覚悟をしておかねばならんのか?」

ちょっと嫌味臭く正也に言ってやった。


だが……


「あはは。それは、由布ちゃんが高校卒業してからね」

正也は考えることもなくスラッと答えた。

「ぇ……っと……」

由布は由布で、顔を真っ赤にして俯いてるし……

……お前も本気なの?

それから『高校卒業してからね』って、後4年も先だよ。そこまで考えてるんだ?正也君?

……うん。とりあえず前言撤回。


『親友以上になりそうな気が……』じゃなくて『義弟になる気』がします。かなりの高確率で…というか確定事項?


「とりあえず……由布……兄として言っておく」

「な……なに?お兄ちゃん?」

「パンは焼けるようになっておいた方がいいぞ……多分、正也なら1食に1斤は食うだろうから」

「あはっ。由布ちゃんが焼いてくれるなら2斤はいけるかも」

「が……がんばります!」

「今から楽しみだよ~」

「………」

俺は何も言えず、そのまま目を細め空を見上げた。やっぱり、どこまでも広がる青い空……まぶしすぎる空……さわやかな朝……

(なんで高校で来ちゃうかな!『妹を嫁に出す兄貴の気分!』)

……そんな俺の思いは、さわやかな朝と青空には『うなぎと梅干』『てんぷらとスイカ』それ以上に不似合いだった。

今日は10日

「それじゃぁ!正也さん!いってきます~!」

正門の前で元気に手を振る妹に……

「授業頑張ってね~」

にこやかに手を振る正也。

「俺には何もないのかよ?」

「じゃぁ……お兄ちゃんにも、行ってきます」

「イッテラッシャイ……」

正也にだけ、ブンブンと手を振ってから由布は校舎へと走っていく。

そんな由布を二人で見送る。

「それじゃ、僕たちも行こうか?」

「あぁ…そうだな。義弟よ…」

「あはは。まだ早いよ」

正也の柔らかな笑顔。

「なんだかなあ……」

「なに?どうしたのさ?」

「なんでもない……」

「変な零児」

俺たちも学校へと向う。

まぁ、向うって言ってもここからだと5分も歩かない距離。

いつも、のんびり雑談をしながら歩いていく、なんの変哲もない普通の通学路だ…

余談だが俺たちが通う学校の名は、幸市立第一高校。通称イチコウ。とりたてて進学校でもない、どこにでもある普通の高校。

何ゆえ『第一』なのかは知らない。『第二』ナントカって名前の学校は何処にもないのに…『第一』ってのはなんだろうな一体。

「そういえば、今日、転入生が来る日だね」

正也が、そんな話をしだした。

「あ~そういえば、そんな事、言ってたなあ…」

先週だったか…『担任』が言っていたな。

「女の子だって言ってたね。」

そうだ…『あ~来週な。女子が一人転入してくる。仲良くしてやってくれ~』なんて話してたっけ。

男どもは随分、盛り上がったものだが、一方の女子は?と言えば、その盛り上がりに『呆れてものも言えない』ってオ-ラを出してたなあ。

「しかしアレだな。新学期早々、転入してくるなんてのは、正直アニメか漫画だけかと思ってたぞ」

いくら家庭の事情とはいえ、高校2年で転校してくるってのは家族にも本人にも気の毒な話だ。

1年なんとか勉学勤しみ、無事に進級。さあ!これから受験に!って時に転校なんだから…

「ん~~家庭の事情?ってやつがあるしね。その辺は仕方ないんじゃないかな?」

「でもなあ…俺が当事者なら迷惑な話だ」

「それは、そうだけど……3年で転校なんかよりマシじゃない?」

「まあ、そりゃそうだけどよ……」

(その場合、お父さんに『単身赴任』って死亡フラグが立つだけだ)

突っ込みを飲み込んだまま、適当に頷いておく。

結局、現実として、どんなに突っ込みどこが満載でも、どんな理由があっても、今日、転入生が来るってのは事実なのだ。

「でも、僕としては転入生のことよりも…」

「ことよりも?」

「零児……今日は10日だよ……」

正也の目が怪しく光る。

あぁ……そうだ今日は10日だ。そりゃ転入生のことよりもだな。

「……聞かなくても判るだろう?」

俺はニヤリと笑いながら言う。

「まあね。でも、確認。行くんでしょ?」

「当たり前だ。行かねばならん!」

「じゃ、お互いに昼は削減ってことで」

「おう!」

そう、今日は6月10日。俺たちが戦場へと向かう日。そして…

後に思い返してみれば、この日が人生最大級の出会いの日だったのだ。

椎子

「あ~転校生を紹介する」

マノビ…そうあだ名される担任が、のんびりした声で言う。

「お~い。入ってきていいぞ~」

教室の外に呼びかける。

「……はい」

ひと呼吸の沈黙。そして、教室のドアがすっと引かれた。

ヒゲ担任に促されて入ってきたのは、短い髪の少し小柄な女子だった。

その途端、

「うおぉぉおぉぉぉ……!」

某壱式巨人の咆哮のような響きが教室を揺らす。

あ~もうなんだろね。このどよめきは……

「わっ……え?」

想像よりも大きなどよめきだったのか、教室のドアをあけた所で彼女は驚いていた。

まぁ、あんな咆哮を食らえば誰だって戸惑うとは思うんだが……

「あ~後で時間とってやるから。まぁず、落ち着け~」

暴走モ-ドON!になりそうな男子を適度に諌めつつ、入り口で固まっている彼女を手招きして呼び寄せる。

普段はボケてても、こういう時は流石に先生なんだと思う……

「じゃ~まずは自己紹介からな~」

「はいっ!」

そう元気に返事をして彼女は黒板に自分の名前を書いていく。

『天田 椎子』

「はじめまして。天田 椎子(あまだ しいこ)です。えっと……急な時期での転入ですけど宜しくお願いします」

その笑顔に、再び教室の男どもがざわめく。

「……可愛い子だね」

隣の席から、正也が小さく話しかけてくる。

「あぁ……」

(『天田 椎子』か……)

失礼だとは判っているが、改めて彼女を眺めてみる。

短い黒髪(ショ-トってのか?)に少し細めの体型……背はちょっと低め……かな?見た感じ元気一杯、可愛い系……

慣れない教室に、緊張しても良さそうなものだが、挨拶してから終始ニコニコとしているところを見ると、性格も明るそうな感じ……

……正直、俺の好きなタイプだ。

何で?って言われても困るんだが……

なんかこう……『元気一杯!=ご飯もいっぱい!』っていう等式ができてるんだ。俺の頭では……

彼女にするなら、絶対、美味そうに食事をする明るい女性が良いんだな……うん。

(……是非、仲良くなりたいトコだな……)

もしかしたら顔に表れていたかもしれないが、この状況のクラスで俺の顔なんか見てるやつはいないだろ…

「う……?」

「零児~にやけてるよ」

「な……っ!」

否!ここに居た!転校生になんか眼もくれず、俺を見てたヤツが!

「お前はなんで俺をみてるんだ……」

「ん~~僕には、由布ちゃんが居るからね」

また、スッパリ言い切りやがったよ……あ~そうですか……そうなんですか……やっぱ覚悟しとこうな!俺!

「あ~皆、仲良くしてやってくれな~」

「でも……初めて見た気がするよ。零児のそんな顔」

そうやって笑う。全く正也の笑顔ってのは……

「あ~それから、加藤」

「はい?」

いきなり名前を呼ばれた。

(……全然状況が飲み込めていないんだが………)

「あ~予備教室から椅子と机、お前の後ろに持ってきてやってくれな~」

「え?」

俺の後ろ……?

「お前の後ろにしか、空きがないからな~頼んだぞ~」

窓側の教室後方、この特等列だけ確かに机が一つ少ない……とはいえ……これは出来すぎだろうに……

「……はい……」

「よし…んでは~HR終わり。んじゃなぁ……」

もうこれで、全部OK~みたいな雰囲気でマノビは教室を出て行く。

「ね!天田さん!!」

「あ、あのさ……!」


マノビが出て行った後、これ幸いとばかりに教壇の天田のもとに速攻で男子が群がる。


(やれやれ…少しは自重しろよな…)

そんな事を思いつつ、俺は頭を掻きながら予備教室まで机と椅子を取りに出る。

「零児。僕も手伝うよ」

「ありがとな。正也」




ガラッ!!!

律儀に閉められてしまった、ドアを足で乱暴に開ける。

「よっと……」

俺と正也が、机と椅子を抱えて戻ってくると、彼女はまだ囲まれたままだった。

(まったく……)

ガタガタと自分の席を、ほんの少し動かしてからまだ軽い机を最後尾に置いた。

「正也。ちょっと頼むな」

「うん。わかったよ~」



(俺だって、少しは話しがしたいってのに……)

そんなことを考えながら、集まっている人垣に割って入る。

「えっと……天田。席できたぞ」

そう伝えると天田は『助かった~』そんな眼を向けた。

「それから、お前らも席についておいたほうが良いんじゃねえか?」

いまだ天田を囲んでいる奴らに、俺は左腕の時計を指差して見せてやった。

時計はもう直ぐ1時限目の予鈴がなる時刻を指している。

「あ~……残念……また休み時間にでも」

「後で学校案内するからね。天田さん」

「何でも聞いてね」

各々未練を口にして、自分の席へと戻っていく。

……ふん!お前らだけ良い思いしてからに!


「さてと、俺たちも座ろうぜ」

席に戻る、ほんの少しの間……

「えっと……加藤君……だっけ?」



「あぁ…そうだけど……なんで知ってるんだ?」

「さっき先生に呼ばれたからね。『あ~それから、加藤』って」

……自己紹介前に名前覚えられるって……嬉しいような、嬉しくないような……いや、この場合は嬉しいのか。

「ありがとう。机持ってきてくれて」

天田は、そういって俺に笑った。

「あぁ……別に良いさ。とりあえず…ちゃんと自己紹介しとく。俺は加藤零児。よろしくだ」

「僕は、赤座正也。よろしくね」

突然の声に俺は思わず一歩飛びのく

「おおう!正也何時の間に!?」

「ひどいなぁ……僕も手伝ったんだよ」

「改めて、よろしくね。加藤君に赤座君」

そういって笑う天田。初夏の日差しの中で笑う彼女……

だが……

天田 椎子

元気一杯、可愛い系女子

「お……おう」

「よろしくね!」

俺も正也も彼女の笑顔に隠された脅威を知る由もなかった……

昼休み

昼休み…

「じゃあ、行ってくるね」

「ん?俺も行かなくていいのか?」

「任せて!購買得意だから」


まるでカタパルトを使ったように一気に教室を出て行く正也。


「いかん!先を越されるぞ!!」

「赤座を行かせるな!俺たちの食料が無くなる!」

追いかけるように食堂・購買に走りだしていく生徒……



「天田さん。お弁当?」

「うん。今日は……って感じかな?まだ学食とかも判んないし」

「それじゃ、こっちで一緒に食べない?まだ、ゆっくり、お話もできてないしね」

「うんっ!」


ガタッという音と共に、後ろで席を立つ気配……溢れる笑い声といい匂い……

窓からの日差しが心地よい。


(こういうのを平和な日常って言うんだろうな)

意味も無く、そんな風に感じる。本当の平和なんて、その辺に転がってるものなのだ。


俺は購買へと走った正也を待つ。

いつもなら俺も一緒に走るところだが…『任せて』って言われたし…そもそも、今日は一緒に走る必要が無い…

なぜなら、いま正也が確保しにいった食料は、激戦区である購買において比較的容易に手に入るもの…『パン』だからだ。

しかも、種類も問わないとなれば、今日日のカップ麺を作るよりも簡単なことである。

俺たちが戦場に向う時は、パンを1個だけ食べることにしている。

『たくさん食べる前には、胃を空にしておくんだ!』なんて言うヤツもいるが俺たちに言わせると、それは大いなる勘違いってやつだ。

空っぽの胃袋ってのは意外と量が入らない……

それは俺たちの経験でもあり、意外にも医学的にちゃんと意味があったりする…らしい…詳しくは知らないけど


……とはいえ……


腹が減った!!


こういう時に教室ってのは兎角、不利だ。

あっちこっちからいい匂いがする……なんでまた、俺を教室に残こしたかな……というか、俺は残ったんだろう?

(あ~もう早く帰ってこ~い!正也!!)

いくら準備のためとは言え、腹が減ってるんだ!朝も3杯しか食えてないし、俺の腹は既にEMPTY突破だ!

(ちくしょお……)

教室の空気は美味しそうな匂いで溢れかえっている。

もはやそれは、圧倒的な戦力で俺を追い立ててくる暴力でしかない。

(ならん!今は耐えるのだ。生きてこそ得る事の出来る、真の栄光をこの手に掴むその日まで!、)

何か偉大な閣下の声が聞こえる……空腹が故の幻聴?だが今は……今は耐えるしかない!!

「はあ……」

俺は空腹を増長させる『良い匂い』から避難すべく席を立った。

廊下にでも出ないと、そこらの連中から弁当を無意識に奪い取りそうな気がする……


「わ!大きいお弁当~」

「本当……これ全部食べられるの?」

「え?そ……そううかな?そんなに大きいかなあ?」

(ん?)

少し恥ずかしそうに、それでいて困ったような声。

声の主はあの転校生、天田 椎子

俺は思わず足を止めた……というか……

それ以上に、天田が、どんな『お弁当』を食べているのかも気になったしな。


(へえ……)

天田の弁当箱には、から揚げに、エビフライ…美味そうな色とりどりの惣菜。

ご飯は三色のそぼろ……なかなか手が込んでる。

一見しただけでも、冷凍食品はかなり少ない。


「そんなに、大きいかなあ?」

まぁ……男子が持ってそうな弁当箱は、この女子グル-プの中では多い部類に入るだろう。

もっとも、俺の適量半分も行かないってとこだけどな。

「もしかして、天田さんって……結構食べる人なのかな?」

「ん~そんなことはないよ」

困ったような照れたように天田は笑う。

(いいなあ……)

思わず見とれてしまう……可愛いというのはキットこういう顔を言うんだな……

(まあ……恥ずかしがる程でもないけどな)

俺の感覚的にはたいしたことは無い。ちょっと助けてやろうかな?

「そうだな~俺なら、その倍……いや3倍は軽く食べたいトコだな」

俺はヒョイと覗き込むように会話に参加する。

「え?」

「そんなに多く無いぞ?」

「そうだね、加藤君は超人だもんね」

「人を、勝手に人類以上にしないでくれ」

「あははは。でも、本当のことじゃない」

自分の評価……ってのは大体、判ってたんだが、それでも面と向って言われると結構苦い……

「……それよりも、美味そうじゃないか。自分で作ってるのか?」

「今日は……昨日の残り物が結構あったから……」

ちょっと恥かしそうに天田が言う。

「勿体無いないし全部持ってきたら、こんな感じになっちゃったんだよ」

余りもの……とは言うが、これだけしっかり収めて来るのだから、結構な料理の腕を持っているんだと思う。

「本当に美味そうだ……」

「加藤君はお弁当じゃないの?」

「あぁ、母さんに『弁当は作れません』宣言されたからなぁ」

俺が弁当を持っていけたのは、入学直後の3日間だけだった……4日目の『あんたの弁当……毎日つくれないわ……』疲れきった母さんの言葉は軽いトラウマだ。

「え?」

「そのまんまさ。その3倍の弁当を毎日作れないって意味」

俺は悪戯っぽく笑って見せた。

「零児~おまたせ~」

手を振りながら入ってくる正也に、俺も手を振って答える。

「それじゃ邪魔したな」

「何話してたの?」

「ん~弁当の話」

「適当に買ってきたから、あんぱんとジャムパンなんだけど…どっちがいい?」


「んじゃ、俺あんぱん」

暖かな日差しの中、俺はアンパンの甘さをかみ締める。


「あの二人……加藤君と赤座君だっけ?仲いいんだね」

「あの二人は特別だモン」

クスクスと笑う。

「特別?」

「このクラスで大食いっていえば、あの二人なんだよ」

「この学校で……じゃない?」

「え?そうなの?」

「二人とも、いつも物凄い食べるんだよ…見てるこっちが具合悪くなっちゃうくらいにね」

「そうそう……」

「本当?!」

「本当だよ~学食の、おばさんが何度も御代わりして大変だからって、専用で大きな丼を買ったって話もあるんだよ」

女子の声は良く聞こえるもので、そんなつもりがなくても聞こえてくる。


ジャムパンをほおばる正也も苦笑いだ。


(あ~それ、マジな話。『これなら1回で大盛り2杯分だからね!』って誇らしげに出されたんだ…ありがとう、おばちゃん)


「そうなんだ……でも、いっぱい食べる男の人って良いよね~」


(そ……そうなのか?)


「そうかな?ん~ちょっと、私には、わかんないけど……」

「え~っ!美味そうに、豪快に食べる人って格好いいじゃない?」


(……OK。大チャンス到来!)

思わず窓に向って小さくガッツポ-ズ。


「だけど、パン…あんぱんかな?一個だけど…」


怪訝そうにこっちを見る、女子グル-プ。



「あっ……そっか、今日は10日だからだよ」



……俺と正也、Wで苦笑い…『10日=パン1個』は全員に認識されているらしい……


「なんで、10日だとパン1個なの?」

「えっとね……ソロモン……だったかな?カレ-屋さん。そこで特別メニュ-がでるんだよ」

「特別メニュ-?」

「なんだっけ……ちょっとわかんないけど…ただ凄い大盛りだってのは何回か聞いたかな?」

「もし、気になるんだったら聞いてみるといいよ~」

「うん!」

ソロモン

「えっと……加藤君に……赤座君……」

「おう……なんだ?」

会話の内容は殆ど聞こえていたんだが……まあ、そういう事は言わなくてもいい……

「さっき、聞いたんだけど…特別メニュ-って、どんなのなのかな?」

「あぁ……要塞カレ-のことだな」

俺はアンパンを齧りながら答える。

「要塞カレ-?」

「そう。ソロモンの要塞カレ-だね。」

「ねぇ、そのカレ-って、どんなのなの?」

「どんなの…って言われても困るんだが……」

アレをどう形容したらいいんだ……自転車のタイヤか?って皿に、これでもか!ってくらいご飯とカレ-が乗っかってるんだが…

山?いや違うな……山なんて生易しいものじゃない…要塞としか形容のしようが無いんだアレは。

「そうだね。アレは、見なきゃわかんないよね」

正也も困ったように笑っている。アレはやっぱり例えが難しいんだ。

「……そうだな……」

「美味しいの?」

「あぁ、美味さだけは保障できる。ソロモンのカレーは本当に美味いから」

「そうそう…隠れた名店ってのかな?お客さんが少ないのが不思議なくらいだよ」

「ね!私もソレ食べたいんだけど……一緒にいっていい?」


「「はぁっ??」」


『すっとんきょうな声』ってのはこういう声なんだろうな…


「その要塞カレーっての食べてみたい!」

「えっとね。普通のカレーもあるよ?」

「要塞がいいの。それとも一緒だとダメなのかな?」

「い……いやあ。一緒にいくのは良いんだけど……まさか挑戦するの?」

「挑戦?」

「要塞は、チャレンジメニュ-なんだ。失敗すると罰金だぞ?」

俺は、それが通常メニュ-では無いって事を教えてやる。チャレンジ・罰金、その二つを教えてやれば、諦めるだろう…そう思っていたんだが…

「じゃあ、挑戦すればいいんだね」

「まぁ……そうなるなあ……」


……あれ?……ちょっと待て!『挑戦すれば……』ってなんだ?!



俺は事も無げに返された答えに現実感なんて沸かず、のんびり答えてしまっていた。

「え……?天田さん……それ本気……かな?」

正也もどうやら、俺と同じ状況にいたらしい。笑顔ではいるが、微妙に引きつっている。

だが……

「うん!私カレ-大好きだし!」

天田は、思いっきり本気で言っていたらしい。

「挑戦でも、なんでもして食べてみたいよっ!」

満面の笑みってのは、こういうのを言うんだろうな…

なんて事を、しみじみ感じてる場合じゃない!まずは、この無謀少女を止めねばならん!


「まて!それは無謀だ!」

「なんで?」


顔一杯に『?』を出す天田。あ~もう。そういう顔も可愛いな!


「だからだな……俺たちでも結構、失敗してるんだぞ」

完食はできる。ちゃんと食べきれる……でも一応は失敗になるんだ……

「そうだよ……悔しいけどね」

「でも……食べてみたいの!」

お前の、小柄な身体のどこに入るってんだ!

「いいか?!天田!俺は、お前の弁当の3倍は食うんだぞ?正也だって、あの2倍は食えるんだ。」

「僕は、天田さんのお弁当知らないんだけど…」

ええい!そういう事は、思ってても言うんじゃない。

「私、あれが、いつものお弁当じゃないもん!」

「だろう?だから無理だと……」

「だから、食べられるもん!」

「罰金もあるんだよ?」

「お金もあるもん!」

「いや、そういうことで無くてだな!!」

まあ、そんなこんな、俺と正也は何とか天田の無謀な挑戦を止めさせようと努力……はしたのだが……

結局、

『やってみなきゃ。わかんないでしょ?』

そう太陽みたいな笑顔で言われたら、もうなんていうか……

『はぁ、もう仕方ありませんね。お嬢様……』と、どっかの富豪に仕えている執事さんの気分にしかなれず、

「判ったよ……その代わり食いきれなくても知らないからな」

ため息混じりに、そういうしかなくなっていたんだ……

ソロモン突入

「へ~こんな所にあるんだ?」

「隠れた名店だからね」

「とりあえず行くぞ。俺は腹が減った……」


『CURYYハウス・ソロモン』

それは、駅前雑居ビルの2Fにある。目立たない店。

俺と正也が大好きな店、というより愛している店だ。

なぜ、俺たちがこの店を愛しているか……

値段・味その両方が魅力だからってのもあるんだが…なによりも、そのマスターの力一杯加減にある。

なんせ、普通盛(ノ-マル)でも、他店の大盛りに匹敵する力の入れ具合。

もし、それを知らない人間が、うっかり特盛なんて頼のんでしまえばマスタ-の悪意…いや善意に号泣することになるだろう。

『CURYYハウス・ソロモン』は、そんなマスタ-の善意と愛情溢れる店なのだ。


「で……天田。やっぱり挑戦するのか?正直無理だと思うぞ」

俺たちは、戦場へと続く暗い階段を上っていく。

「無理って決め付けるのは良くないよっ!」

「あのね…僕も無理なんじゃないかと思うんだけど…」

「え~?!」


『毎月10日はソロモンの日』

どっかのパチンコ屋の宣伝文句みたいな企画が始まったのは去年の今頃。

月に一度だけ、『要塞カレ-』俺たちがそう呼ぶ『マスタ-の善意の塊』が出現する日、そして俺たちには戦いの日なのである。

『要塞カレ-』その量、恐らく1kg以上(マスターの目見当が多くてな…正確な値はわからない……しかも、具もたっぷり)

…これを40分で落とせば俺達の勝ち。

勝利報酬を貰い、散っていった千友(せんゆう)に花を手向けることが出来る…

だが、負ければ貴重な千力(せんりょく)を減らすことになる…

それでも挑まねばいられない!そこに『要塞』が有る限り!


……と、誇張して見たものの、結局は月に一度の大食いチャレンジの日。


ぶっちゃけ、勝てば賞金5千円+マスタ-の好意。負ければ罰金2千円。残したら更に2千円の罰金。

正直、残さない限り割に合う。40分で失敗しても、その後20分までは猶予時間があるし…

ありがとう。マスタ-!それでも、3千円の出費は痛いんだけどな!!

「さぁ…行くぞ!」

「うん!頑張るよ」

「楽しみ…だよっ!」



チリン…

鈴の音が俺たちの覚悟と裏腹に軽く響く。

香辛料の匂いが充満した店内。何時来てもこの匂いは食欲を誘う。

「いらっしゃい。おや?今月も来たな~~兄ちゃんズ」

頭にバンダナを巻いたマスタ-が満面の笑みで出迎えてくれる。

「なんすか?その兄ちゃんズってのは?」

「あ~なに、お前さんたちがいつも二人だからさ。いいお客さんだからな~愛称つけてみたんだよ」

そりゃそうでしょうよ。俺達はこの企画が始まってから計9回来て、6回は撤退をさせられてるんですからな…マスタ-的には上得意様でしょうよ!

しかし…今日は……落としたい!個人的に、なんとしても!!

それから…兄ちゃんズは止めて欲しい…

「は、はは…今日は勝ちますよ。マスタ-…」

「チャレンジお願いしま~す」

「判ってるよ。で……もしかして、そこの娘も……かい?」

マスターが、明らかに怪訝そうな顔をして天田を見る。

「もちろん!すごく美味しいって聞いてきたんですっ!」

小さく両腕でガッツポ-ズを取ってみせる天田。

その可愛らしいポ-ズにマスタ-は、頬を緩めた。

だろうなあ。俺だって可愛いと思ってるんだ……

そもそも、この店に女の子が来るなんて、何時以来なんだろな?

「おや…うれしいね。よし!嬢ちゃんは特別に残しても罰金は貰わないよ!」

「わ!ありがとうございます。マスター」

(これで、最大の問題は回避された…)

俺は心の中でそう呟く。

「良かったね。天田さん」

「うんっ!」

だが…この時、俺も正也も…そしてマスタ-さえも『天田 椎子』という女子を見誤っていたのだ。

「さっ!用意するから…そうだな…そこのテ-ブルに座ってておくれ!」

「楽しみだよっ!」

今にして思えば、このはちきれんばかりの笑顔に騙されていたのかも知れない……

要塞攻略戦

「はいよ!お待ちどうさま!」

4人掛けのテーブルに座った俺たちの前へ、マスターが両手で抱えながら『要塞』を出現させる。

『ソロモンの要塞カレ-』…先も言ったように、その巨大さは何度見ても凄いと感じてしまう。

だがソレは決して落とせないモノではない!!


(…ソロモンよ…俺は帰ってきた!この要塞を落とすためにな!)


マスタ-が一皿ずつ運んでくる『要塞』の姿に、俺は気合を入れる。

「はいよ!これがウチの10日だけの限定メニュ-『超大盛りハイパ-ラ-ジカレ-』だよ」

……いつも思うけど、そのネ-ミングはどうなんだ?そもそもハイパ-って……


だが……

「わぁ…」

目の前に置かれた『要塞』の威容に怯むことなく

「う~ん…いい匂い…」

天田はそう言って、目の前のカレ-の匂いを嗅いで嬉しそうに微笑み、スプ-ンを握る。



「今日は可愛い女の子もいるんだ!がんばれよ~」

マスタ-が笑いながら俺の肩を叩く。決して悪意は無い……純粋な優しさに、俺は思わず頬を緩める。

「判ってるよ。マスタ-」

それはどうやら正也も同じようだ。やっぱり良いやつなんだよな……由布のことさえなけりゃさ!!

「兄ちゃんも頑張れよ」

「うん。ありがとうマスタ-」

俺と正也も順に置かれたカレ-を前に、戦闘準備を整える。


そして…

「いいかい?三人とも。今から40分だからな」

両手を腰に当てて、マスタ-が高らかに宣言する。

「はいっ!」(美味しそう…)

「はい!」 (久しぶりのカレ-だよ)

「おう!」 (…やってやるさ!)

三者三様の返事と思惑…そして…

3…

2…

1…

針は確実に、作戦開始時刻へと迫っていく…

0!

「それじゃぁ…スタ-ト!」

「「「いただきます!」」」

『ソロモン攻略戦』が今始まる……


「あっ!すごい美味しいよ。このカレー」

そんな、感想を言いながら天田は食べていく。

「やっぱり、美味しいね。」

「あぁ。さすがソロモンって感じだよな。」

「おうおう。嬉しいね~」

俺は、向かいに座る天田を、ちらりと見る。

上品な食べ方…きちんとしたスプ-ンの使い方…幸せそうな顔…

(…やっぱり…こういう子っていいよなぁ…)

ちょっとだけ、甘い思いが浮かぶ。

「はぁ~美味しい…」

天田は俺に見られていることに照れる事もなく嬉々と食べていく。

「これなら食べ切れそうだよ。」

「そうか?でも、やっぱ無理だと思うけどな」



俺はそう言いながらも、結構ウキウキだった。

『いっぱい食べる男の人って良いよね~』

『美味そうに、豪快に食べる人って格好いいじゃない』

この言葉が頭の中で繰り返されていたからだ。

(ここで、俺が『要塞』を落とせれば……少しは好感度が上がる……上げてみせる!)

……俗っぽいとか、低レベルとか言うなよ!誰だって気になる女子の前じゃ、いい格好したいだろう?

そうだよな?!健全な男子諸君!



しかし……俺のちょっと甘い思いは一瞬のうちに消し飛んだ。

(え?!)


「ん?どうしたの?もしかして、ご飯粒とかついてる?」

「いや……なんにも無いぞ……うん……」

(なんだ……このスピ-ドは……)

まさに驚異……そうとしか言えない…光景が目の前にあった。



「……すごい……」

俺は思わず呟く。

「なにが?」

「い……いや……なんでもない……」

要塞はその面積を一気に減らしていた……

さっきも言ったが、天田の食事作法はしっかりしていて、決してがっついているわけではない。むろん一口が尋常ではない量だとかでもない。

にも関わらず、その食事量、スピードとも俺を圧倒しているのだ。


「…魔法?」

正也も、現実として受け止められてないようだ。

何度も眼を擦り、目の前を確認している。




「はぁ~美味しい」

「そ……そうか……」

「天田さん……本当にカレ-好きなんだね……」

「うん!」

俺は焦っていた…

ついさっきまで、『無謀だ』『無理だ』などと言っていたのだが……

「う~ん。美味しいよぉ」

この天田の食べっぷりは全くの想定外だったからだ。

……つうか予想できるはずがなかった。

お前の胃袋は、どこに繋がってるんだ?異次元か?ブラックホ-ルか?どうなってるんだ?

突っ込みたいトコは山ほどあるぞ!

「ねぇ、二人とも食べないの?時間あるんだよ?」

「お、おう!」

「う……うん!食べなきゃね!」



とりあえず、俺はカレ-を口に運ぶ。

兎に角、食べないことには何も進まないのだから!

ソロモンの悪夢


(巻き込まれた……)

そう感じていた。

「あれ?苦しそうだね?ギブアップ?」

「誰がだ!」

(くっ……コンディションは良いのに……)

スプ-ンを運ぶ手が鈍る。


大食いには、リズムというものがある。


「赤座君も大丈夫?」

「……大丈夫だよ……」

「だよね~~」

俺と正也は、基本的に自分のリズムを保ち続けるタイプだ。だからリズムさえ守れれば、この『要塞』の攻略は結構簡単だったりする。

『計9回来て6回は撤退』この戦跡は、あくまで制限時間内の勝敗。『食べきれたか、残したか』でいけば、一度たりとも残したことは無い。

それは自分のリズムを崩さなかった結果なのだ。


だが……今は驚異的な天田のスピ-ドに巻き込まれている。

まるで、うっかりプロのいるトップ集団に混じってしまった市民ランナーの気分だ。


(くっ…もどせない…!?)


もはや、自分のリズムなどというものは無い。

止まってしまえば、一気に崩れ完走は無理になってしまう。こうなれば、ただ、ひたすらに食べ続けるしかない。

「うっ…ん~…ムグ…」

苦しげな声に隣を見れば、正也の顔からいつの間にか微笑みが消えている。

これは、相当に苦しい証拠だ…

(正也も…か…)



天田に引きずられるようにして、俺と正也のリズムは否応なく上げられていく。


「ほらほら~時間なくなっちゃうよ~」

そんな声が聞こえた時……天田の要塞は、すでに半分になっていた。

(俺達でさえ手こずる、あの要塞を女子である天田がココまで潰すとは……)

もしかしたら俺は悪夢でも見ているのかも知れない……ここが『ソロモン』なだけに……


「私、食べ終わっちゃうよ」

苦しさすらない、食べることに……ソロモンのカレ-の味に喜び、純粋な笑顔の天田。

「お……おう」

「うん……」

果たしてこの苦しみはどこまで続くのだろうか?
数分間という極々短いはずの時間が、永遠のようにさえ感じられる。



「ね!」

「なんだ……話しかけないでくれ……」

俺が顔を上げようとした時……

カチャッ。

かるい音と共に

「ごちそうさまでした……う~ん。美味しかったよっ!」

天田の声が聞こえた。

「やっぱり、お弁当少なかったら、丁度だったよ~」

(へ……?いまなんと?)

「今日のお弁当は少なかったんだよ~」


昼の会話を思い出す。


『私、あれが、いつものお弁当じゃないもん!』

…えっと…『いつものお弁当じゃない』…………


『お弁当少なかったから』


『少なかったから……』



………あ~なるほど。

すんません。俺、思いっきり勘違いしてたのな。天田さん!

あの弁当は多いんじゃなくて、少ないほうだった訳な!いつもは、もっと食べてるわけね!

「な~んだ。女の子に負けてるようじゃ、格好悪いぞ~」

しかも余裕綽々かよ!

「全くだ。兄ちゃんズ。女の子に負けてたんじゃ、もうチャレンジさせてやれんなぁ」

「くっ!」

この時、制限時間は残り10分を切っていた…いつもなら、ここで『完全制圧作戦』から『制圧作戦』へと切り替えるところだが…

「ほら~頑張れ~カト-に、アカザくん!」

何故、俺だけ呼び捨てだ!!&何故カタカナだ!!

「ええい!こっちにはこっちの事情があるんだ!」

「ん~~加藤君って、もっと食べるって聞いてたんだけどなぁ……」

な…もしかして、これが減点になるの?!

(ヤバイ……格好悪いぞ俺……)

「ほら!頑張って!」

天田の声に、俺の中で火が付いた。

「ふん!いけるさ…いってみせるさ!勝利の為に!!」

「そうさ!栄光を我らに!」

どうやら正也も、珍しく燃えているようだ。

そして、残りを口に運ぶ。


残り時間4分…

「ほぉ……こりゃ、今日はいかれるな……」



過去、類を見ない追い込みをかける俺と正也

それはもう、もし某ロボットアニメなら、単眼ロボットで群がる敵をなぎ倒し白いアイツを紙一重でかわして

ちょっと暗い主人公に「なにい!」なんて叫ばせるくらいの勢いだったと思う。もちろん俺の妄想。


俺たちは、ひたすら食べ進めていく。


「きつい……なぁ。モグ……ゆっくりなら、この位、楽々なんだけど……」

「言うな……俺も同じ……ムグ……早食いは苦手なんだ……」

「そんなに私早かったかな?」

「「はやい!」」



そして……



「ご……ごちそう……さまでした…」

「うぅ……急いで食べるのって……やっぱり苦しい……」

「やった~!三人ともクリアだねっ!」

「もう……動けない……よ…」

「星の屑になった気分だ……」

残り1分……

俺たちは……ソロモン攻略に成功した……


「あ~~一遍に三人か。こりゃ、まいったなぁ~~」

そう言いながらマスタ-は、パチンと額に手を当てる。

何処となく、その仕草に喜び…みたいなのが入っているのは気のせいだろうか……?

「いや~3人纏めてってのが厳しいが、やっぱり気持ちよく空になると嬉しいもんだ!」

すんません…マスタ-…俺、気持ちよくは食えませんでした…

「成功を記念して、写真撮らせてもらえないかな?一周年記念も兼ねて、そこに飾るからよ」


「はい!わらって~~」

そういってマスタ-が撮った記念写真には…

満面の笑みで皿を掲げる天田。

ぐったりと椅子に座り込みながらも笑顔を作る正也……

そして……色んな恥かしさにそっぽを向きながら、皿を出す俺……

それが……

後に、マスタ-によって『イチコウ食いてえ団』と、ネーミングセンスのかけらも無いチ-ム名をいただくことになる、俺たち三人の初写真となった。

俺たちの宿命

翌日の朝。


「ねぇねぇ!ちょっと、これ行こうよっ!」

朝からエンジン全開!そんな表現がピッタリな勢いでやって来た天田は俺に何やら派手なチラシを突きつけた。

「なんだ?これは?」

「いいから、見て!」

俺は天田から、そのチラシを受け取り中身を確認する。

「ね……なんの広告なの?」

正也も身を乗り出してくる。

「あ~~まてまて……えっとな……『3日間だけの特別企画。ス-パ-ウルトラジャンボピザDX!!2セット、30分で食べ切れたら無料!!』…」

「なんだか、すごそうなピザだね」

「……『当店最大!1枚で10人前!!』……なんだこりゃ?」

(どんだけ、でかい釜で焼いてるんだよ……ってか、これを作れるシェフいるのかよ)

「そうそう!だから行きましょう!」

満面の笑みの天田。そのまえに『だから』ってなんだ?

「でも、これって1人ずつの参加になるのかな?」

「あ~っとな……4人までのチ-ム参加らしいぞ」

「あ、それなら良いね」

「で……なんで、俺たちなんだ?」

「だって美味しそうだし食べたいけど………女子じゃ誘ってもダメそうだしね」

まあ、そうだろうな。こんな企画に参加しようって奇特な女子は天田以外いないだろうな。

そもそも、この一見、元気一杯、可愛い系の天田が七不思議を持ってるなんて誰も思うまい。

「二人の事は判ってるし……それに……私も……しないで済むし…」

そこまで言って、天田は俯いてしまった。

(あ~こりゃ……あれだな……)

何となくだが、俺には天田が俯いてしまった理由が判かった。

「(なあ、前の学校では随分遠慮してたんじゃないか?)」

俺は小さな声で、そっと聞いてみる。

「(え……う、うん……)」

消えそうな声で天田は答える。

「やっぱなぁ……」

俺は盛大にため息をついた。

大食いの宿命っていうのか……俺にも同じような経験がある……

『割り勘な!』なんて時に、自分の『食べたい量』を頼む事などできるはずが無い。

で『遠慮』すると『食べたい……』という欲求が満たされないから食事が美味しくない……

女子の天田なら尚更だっただろう。例えば、ハンバ-ガ-を食べに行ったとしよう。

他の子が『なんとかセット。コ-ラSで』とか言ってる中、『ビックバ-ガ-5個。ポテトとコ-ラはLLで3個!』なんて絶対に言えないだろう…

かなり遠慮をしていたはずだ。

んじゃ、バイキングは?

これも同じ……『ははは!ココなら食い放題だ~』なんて調子に乗って、バンバン食べてると『……なんか、具合悪くなってきた…』とか言われるんだ。

そう言われてしまうと、『わ……悪い……』と摂り合えず謝って遠慮モ-ドで食べるか、そこで切り上げるかのどっちかになる…

何にしろ気を使わなきゃいけない訳で……俺と正也がツルんでるのも、お互い遠慮しなくても良いからって理由があるからだったりする。

「……遠慮しながらじゃ、美味いもんも不味く感じるからな…」

「やっぱりだめ?」

「ダメだなんて言って無いぜ。行こう!ってか、むしろ、行くぞ!『俺たち』なら余裕だろう?」

そう言いながら、俺は、そっと正也に目配せをする。

(理由は、判ってるよな?)

正也はソレを正しく受け取ってくれたのか、軽く頷いて

「そうだね~僕も久しぶりにピザ食べたいし」

そう言ってくれる。こういう時、さすが親友!と感じるな。うんうん。

「え?!本当にいいの?」

「あぁ。もちろんだ。」

俺は、そんな天田を見てちょっとだけ笑ってみせる。

「零児はやさしいからね」

正也の言葉が恥ずかしい。だから俺は……

「うるせぇ!」

そう言って顔を背けるのだった。

俺と正也と椎子

「それから……」

「ん?」

「なに?天田さん」

改めてお願い。そんな雰囲気で天田が言う。

「二人は、零児・正也って呼び合ってるじゃない?私も、そうやって名前で呼んでもいい?」

「僕はいいよ。せっかく仲間が増えたんだしねっ零児」

「そうだな……まぁ、俺も構わないぞ」

下の名前を、女の子に呼ばれるってのは恥かしいが、こんなに嬉しそうにしてる天田を見ていると『ダメ』とは言えない。


それに……天田になら呼ばれたい……し……


「じゃあ、私も椎子って呼んでほしいな」

「なっ?!」

女性を下の名前で呼ぶなんてのは、結構な度胸がいる。ましてや知り合って、まだ一日だぞ!

「いや……まて、それは少し抵抗が……」

「いいじゃない。わたしだけ仲間はずれみたいだし」

ズイッ!って感じで迫ってくる天田。

ちょっと待て!なんで、こんなにテンションあがってる?!

「ちょ……まて……おい。正也。お前からも……」

迫り来る天田のオ-ラにうろたえつつ、俺は援軍を求めるべく親友にSOSを……

「うん。僕はいいよ。椎子さん」


OH!NO!お前はなんで、そうすんなり受け入れる!


「ね!零児も椎子でいいよ」

もう、名前っすか?いや『いいぞ』とは言ったけど……順応早いって!

「だからな……天田……」

「仲間っていったじゃない」

だから……そう迫ってくるな!……嬉しいけど……

「椎子がいいの!」

ひときわ大きな声に、クラス一同の視線が俺に集まる。

……視線が凄いっての……お前もだけど、それ以上に周りのが!

(「加藤め…」「あいつばっか、なんで天田さんと……」)(飯でも食ってろよ!大食い魔人ども」)

くう……若さ故の力か……

「椎子って呼んでほしいんだよっ!」

なんでそんなにこだわってるんだ?

必死の思いで、俺は正也に

(助けてくれ!)

のアイコンタクトを送る。

だが……

「零児、照れてる~」

正也は注目されている方に居るにも関わらず、穏やかな笑みを浮かべて傍観者になってやがった。

あ~もう……味方はなしか……

「ねぇ!ってば!」

さらに視線が俺へと集まってくる……なんか痛いのも混じってるし!

このまま、こんな恥かしい思いをするくらいなら……もう、ここは俺の負けでいい……

「あ~もう判ったよ。椎子…これでいいんだろ?」

俺は、ぶっきらぼうにそう言って、そっぽを向いた。

「わ!やった~!椎子って呼んでくれたよっ!」

(ったく……名前でなんて……いつかはそういう関係にとは思ったけど……)

『椎子』なんて呼んでしまった事を、俺は真っ赤になりながら後悔していた。

「よろしくね!零児!正也!」

そう言って笑った天田……いや、椎子の顔は、もの凄く可愛いかった。

「と……とりあえずは、昼飯は削減……だからな!」

「了解だよ」

「わ~!嬉しいよっ!」


で、俺たちは、放課後そのピザ屋にむかったわけだが……

結果?そんなものは聞かないでも判るだろう?


「来て良かった~」

遠慮ってリミッタ-の外れた椎子……

「お店でピザってやっぱり美味しいね」

「あぁ、本当だな」

昼食の適量を削減して備えた俺と正也。

そんな三人組の前では『ス-パ-ウルトラジャンボピザDX』なんて、ス-パ-もウルトラもジャンボも無い只のピザに成り下がるのだから…

「「「ごちそうさまでした。」」」

制限時間をたっぷりと残し、両手を合わせる俺たち。


ぽかんと口を開ける店員を他所に、俺たちは悠々と店を出るのだった。


「今度は、どこいこっか?」

G戦場の彼女

とりあえず第1話です。自身初の続き物として企画したもののさて……続きは?期待してくれる方がいればうれしいな

G戦場の彼女

毎朝、シッカリと朝食を摂る。それは人間にとって凄く大事なことである。食事とは人を良くする事と…… 大食い男子と転校生いったいどうなる?

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-12

Copyrighted
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  1. 零児の朝
  2. 正也
  3. 今日は10日
  4. 椎子
  5. 昼休み
  6. ソロモン
  7. ソロモン突入
  8. 要塞攻略戦
  9. ソロモンの悪夢
  10. 俺たちの宿命
  11. 俺と正也と椎子