離婚前夜

離婚前夜

時計の針の音だけが僕の頭の中にカチコチカチコチと鳴り響く。
深夜2時。
目の前には、離婚届。
これ、なんかの悪い夢?
「なんなんだよだから」
「だから言ってんじゃん。好きな人が出来た」
「んだよそれ。お前、ふざけてんの?」
「ふざけてないし」
そう言って朝美が飲みかけのビールを一気に飲み干す。
「悪いけど、これ、ふりだから」
「なんだよふりって」
「結婚してるふりだよ」
「ちゃんと式も挙げたし籍も入れたろ!
それに来年には赤ちゃんだって」
「ああ、あれ。おろした」
目の前が真っ暗になる。
冷静にならなければならないのについ拳に力が入る。
「殴ったら警察呼ぶから」
見透かしたように朝美が答える。
「・・・・なんなんだよ、好きな人って」
「いや、なんかね、好きな人が結婚したから
私もまぁいいやって思って適当にしたんだけど、
離婚したんだって。だからそっち行くわ」
「お前、今年で何歳だよ!?なんなんだよその思考回路!」
「24だよ。なに?離婚してくれないの?」
朝美の語気が強くなってくる。
「私みたいないい女と3年も結婚生活送れたからもういいでしょ。
言っておくけど、いつもあんたとやりながら
別の人のこと考えてたし、私」
そう言って朝美はつまみに出していた柿の種を
ぼりぼりとつまみだす。
「結婚式だって、私、あげてみたかっただけだから。
みんなに祝福されて幸せな花嫁さん、
やってみたかっただけなんだよね、
あんたと結婚した理由それだけ」
「子どもだって誰の子かわかんないよ?
出張の時ここに連れ込んで色んな人とやったし。
殴る?殴りたいなら殴ってもいいよ。
でも私は好きな人とるから」
「お前人間のくずだな」
「そう思うならそう思えばいい」
「死ねよほんと」
「だからそう思うならそう思えばいいよ」
そう言って朝美は見えないところで自分の
下腹部をゆっくりとなでる。



離婚前夜

離婚前夜

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-12

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND