僕と彼女の話
僕と彼女
「昔小説を書いていたんだ」
ぼくは何気なく呟いた。
「なんで?」
彼女が振り返り、そして聞く。風が彼女の髪を乱す。
「そういう時期って誰にでもあるじゃないか、なんかこう、自己主張したくなる時期さ。」
ぼくは少しうつむきながら言った。彼女の顔をみないように。
「ふふ、そういうなんでじゃなくて。」
彼女はしゃがみ、ぼくのうつむく顔を覗き込む。
「なんで、書いていたって過去形なの?」
彼女はぼくの目をまっすぐにみてそういった。
「え、いやだってもうずいぶんと書いていないし。」
予想外の問いかけにぼくはびっくりした。そのまま彼女を上から見下ろす。
「今からだって遅くはないわ。」
彼女はぼくの髪を両手でくしゃくしゃにしながらいう。
彼女は勘違いしている、ぼくは小説を書きたいわけじゃない。けれど、そんなぼくを見透かしたように彼女は立ち上がり、そして
「人生に遅すぎることなんてないのよ、今からだってなんだってできるわ。あなたは少しあきらめがよすぎるの。」
そういってぼくをおいて歩いていく。
「小説、書きたいんじゃないんだよ。」
むきになる。分かっている、ぼくは彼女の言っている事が正しくて、むきになっている。
「それも知ってるわ。」
彼女は振り返らない。
僕と彼女の話