ホットケーキ

素生月南

ホットケーキ

午後2時30分。
3人の少女達が住宅街をきゃっきゃとはしゃぎながら
目的地の家へ向かっている。
8月17日。
日曜日。
空はよく晴れ、気温もぐんぐん上昇し、
電光掲示板には37度の文字が浮かんでいる。
「ねえねえ、まりこちゃんち、こっちでいいのぉ?」
のんびりした声で堺芽莉美が富沢亜莉沙にそう尋ねる。
「こっちだよ。たぶん。ね?りかちゃん」
そう話しかけられた及川莉華は嬉しそうにこう答える。
「うん。こっち!ぎゅうにゅうやさんの
となりだよ!」
「ぎゅうにゅうやさんって、うしがいるの?」
「うしがいるの?」
そう言って3人はきゃーきゃーはしゃぎながら
坂道を上っていく。
芽莉美の手には母手製のきんちゃく。
中には卵が入っている。
「いーい?絶対に落としたり振り回したりしちゃだめだよ?」
その言いつけを芽莉美はちゃんと守り、
そっとそっとそれをはこんでいる。
亜莉沙の背中にはナップサック。
中にはホットケーキミックスの粉が入っている。
「重いだろうけど、頑張って持っていきなさいね」
「ランドセルのほうがおもいよ」
「ふふっ。そうね」
3人の額には大粒の汗が浮かび、
重い滴になって頬やこめかみに流れていく。
莉華の背中のナップサックの中には
メープルシロップ。
「ちゃんとママ、ぎゅって締めたからね。
磨莉子ちゃんのママかパパに開けてもらいなさいね」
2時50分。
3人はようやく三上磨莉子の家に到着する。
「やっとついたね」
「せなかがきもちわるい」
「めーちゃんおしりもぬれてる」
「ありさも!」
「りかも!」
「せなかがきもちわるい」
「めーも!」
「りかも!」
芽莉美が玄関の引き扉をガラガラと引く。
「まーりこちゃーん!!!!」
3人で声を揃えて磨莉子を呼ぶ。
2階から磨莉子がひょいと顔を出す。
「きたー!ママ!!!きたきたー!」
「そんな大きな声出さなくても聞こえて、
あらあらみんな、いらっしゃい。
まーこんなに汗だくになっちゃって」
「あせだくってなに?」
芽莉美が磨莉子の母親に向かってそう尋ねる。
「汗がいっぱいでてる人のことだよ」
「あせだく!」
「あせだくー!!」
「だくだくー!」
そう言って4人は顔を見合わせて前歯のない顔で
大きな声で笑い合う。



ホットケーキ

ホットケーキ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-10

CC BY-NC-ND
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CC BY-NC-ND