ぼくの青

素生月南

ぼくの青

「人の網膜って退化しててね、小さい子が見ている青空と
大人の見ている青空って違うんだって」
午後4時50分。
助手席に座っている溝口絵流は父親である溝口達平にそう言う。
「それって、学術的なあれはあるの?」
「知らない。Twitterで得た知識なのだ!」
絵流はなぜかえっへんと威張る。
「確かに、お年寄りになると視界がぐっと狭くなるとは
聞いたことがあるね」
「なんか、面白いよね」
「なにが?」
「だってパパが見てる空と私が見てる空は同じなのに
違う色に見えてるってことでしょ?」
「そうなのかな」
「子どもの頃に見た青空って、もっとおっきくて
青かったような気がするな」
「それは絵流が何も知らない小さい子どもだったからだよ」
「そのまんまの意味で?」
「どっちもだね」
ハンドルを右にきりながら達平が答える。
「子どもっていうのは本当に、純粋でおそれることを
知らないからね。目の前にあることにしか興味がいかないし。
だからなんじゃないのかな」
タバコに火を点けながら達平が言う。
「そうだよね。5歳の子がいきなりイラク情勢とか
語り出したら怖いもんね」
「ははっ。そうだね」
それっきり、2人は黙り込んでしまう。
面白いな。ほんとに。
絵流は流れる景色を目で追いながらそう思う。
自分に見えていることが、他の人には違うんだ。
当たり前のことだけど。
だって別の人間だし。
なにもかも同じな人間がいたとしたら、
ちょっと怖い。
ていうか引く。
目の前には鮮やかなブルーの空が広がっている。
この空を、私はこの目で見てこの青だって
思ってるけど、
パパにはパパのブルーがあって、
小さい子には小さい子のブルーがある。
ほんと、面白い。
「ね、音楽かけていい?」
「どうぞ」
「感想聞くからよろしくね?」
「はいはい。言っておくけど僕は55だからね?
その点だけはよろしく」
「はいはい」
そう言って絵流はオーディオの画面をタッチし
自分の一番好きな音楽を選び出す。



ぼくの青

ぼくの青

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-10

CC BY-NC-ND
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