ジムノペディ
凍りついた湖畔の真ん中で一人の老人が一羽の白鳥を締め殺した。
白鳥は死に際に甲高い声をあげて鳴いた。
その悲しい響きは天を真っ直ぐに貫いた。
老人は白鳥の死体を肩に担ぎ、とぼとぼと歩き始めた。
やがて老人は湖畔の岸部にある小屋にたどり着いた。
小屋からスコップを持ってきて地面を掘り返しそこに白鳥の死体を埋めた。
老人の妻は昔から冬の湖畔に降り立つ白鳥を遠く眺めるのが好きだった。
遠い白鳥の影を見つめる妻の横顔を見て、
老人はいつかもっと近くで白鳥を見せてやりたいと思っていた。
その願いも叶うことなくふたりは死別してしまった。
悲しみに取り残された老人は妻の墓に白鳥を埋めることで弔う。
妻が本当に好きだったのは白鳥ではなく白鳥の降り立つ冬の情景だったとは知らずに。
ジムノペディ